中澤章さん×タベアルキスト 和久井真行

「鳥さわ」流、 唯一無二の“極レア焼き鳥”の秘密

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「鳥さわ」流、 唯一無二の“極レア焼き鳥”の秘密

おいしんぐ!編集部
日本各地を巡りながら、年間500軒以上を食べ歩いているタベアルキスト和久井真行。日頃から幅広いジャンルを楽しんでいる彼が、いま最も興味をそそられると語るのが「焼き鳥」。「鶏肉をタレ、塩で味付けし、焼く」というシンプルな料理だからこそ、素材や職人の技術により大きく違いが出て、味わう楽しみが無限大に広がるようだ。

そんな和久井が、おいしんぐ!内のコラム「焼鳥道〜理想の焼鳥を求めて〜」でどこよりも先に取り上げるほど惚れ込んでいるのが、亀戸の名店「鳥さわ」。中澤章さんが7年前に開店したカウンター8席のみ(現在はテーブル席もあり全16席)の店で、血肝(レバー)とさび焼き(ささみ+ワサビ)の「極レアの火入れ」に衝撃を受けたという。

「鳥さわ」の焼き鳥は、なぜ肉感がこんなにもみずみずしいのか。また、極レアな火入れは、どのようにして完成されたのか…。今回はそうした疑問を中澤さんへ直球でぶつけさせていただくインタビューが実現。2018年夏にオープンした西麻布にある2号店「鳥さわ22」にて、中澤さんと和久井、編集部によるマニアックな焼き鳥談義が繰り広げられた。

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店構えから感じる「鳥さわ」のオリジナリティ


おいしんぐ!編集部
御影石のカウンターと黒く磨き上げられた壁が、独特の雰囲気を醸し出している。インテリアにも中澤さんのセンスが光る。


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最高級の紀州備長炭を使用している証

おいしんぐ!編集部
目立った看板は出ていない外観

話題の名店が集まる西麻布・日赤通り商店街にある「鳥さわ22」。目立った看板は出ておらず、扉が木製で店内が窺えないため、一見では店であることに気づきにくい。ただし目線を落とした先に、小さな「鳥さわ22」という表札と「紀州備長炭使用」の札が、凛とした佇まいで置かれている。「紹介制・完全予約制」というスタイルの店ならではの粋な演出だ。

扉を開け中に入ると、一転、焼き鳥屋とは思えないようなシックな店内が広がる。全面黒の壁、御影石のテーブル、帯などの和風インテリア、ライトアップされた「22」のロゴ。8席のカウンターには、すべて違う箸置きが置かれ、目を楽しませてくれる。


おいしんぐ!編集部
そして、カウンター内の中央に立つのが、店主の中澤章さんだ。現在、1号店である亀戸店は右腕を担うスタッフに預け、こちらの「鳥さわ22」で腕をふるっている。
 

大山鶏と阿波尾鶏、2種類の素材を使う理由


おいしんぐ!編集部

和久井: 本日はありがとうございます。亀戸の「鳥さわ」さんを初めて訪れたのは、6年ほど前でした。血肝とさび焼きの火入れ具合が絶妙で衝撃を受けまして…。食感といい、噛むごとに感じる甘みといい、一気に心を掴まれてしまいました。それから何度も通わせていただいています。

中澤: ありがとうございます。

和久井: 「鳥よし」さん系の焼き鳥屋さんでよく使われている素材といえば福島県の伊達鶏ですが、「鳥さわ」さんでは大山鶏を使われていますよね。僕は大山鶏のみずみずしい肉感が大好きなのですが、まずは、なぜ大山鶏を選んでいるのか、というところから教えていただけますか?

中澤: 大山鶏はやわらかくて、強火で焼くと程よいかたさになる。そこがいいなと思って、ずっと使ってきました。内蔵系はかなりおいしいですよ。ただ最近いろいろと試していて、ももやぼんじり、かしわなどは、もう少し歯ごたえがほしいと感じていて、今は徳島県の阿波尾鶏を使っています。
 

かしわには、徳島の阿波尾鶏を使用


おいしんぐ!編集部
焼き鳥の味付けの肝であるタレは、ネギとダシ醤油と生醤油をブレンドしたもの。


おいしんぐ!編集部
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和久井: 大山鶏と阿波尾鶏の2種類を使われているんですね。

中澤: はい、いいとこ取りをして出している感じですね。阿波尾鶏は皮もすごくおいしいですよ、パリッとして。うちの手羽元は、大山鶏の手羽元を使って、皮目だけ阿波尾鶏を使っています。

和久井: そこまでやっているんですか! ちなみに、鶏肉以外の素材の仕入れは、どのようにされていますか? 「鳥さわ」さんは金針菜や青森産の芋アピオスなど、珍しい野菜が楽しめるところもいいなと思っているのですが。


アピオス おいしんぐ!編集部
なめこ おいしんぐ!編集部


中澤: 基本的には、信頼している野菜屋さんにお任せしていますね。「新しい野菜があるから、これを焼いてみて」って提案していただくこともありますよ。最近、なめこを焼いて出しているんですが、すごく評判がいいんです。
 

ここでしか体験できない、極レアな火入れの妙


おいしんぐ!編集部

和久井: 「鳥さわ」の魅力は何と言っても「極レアな火入れ感」だと感じています。行く度に「火入れがレアになりますが、大丈夫ですか?」と聞いてくれるのも嬉しいです。この火入れの技術はどのように完成されたのでしょうか?

中澤: 何回も焼いて、何回も焼いて、何回も焼いて…その繰り返しですね。僕自身がレアが好きだというのもあるんですが、自分で食べておいしいと思う焼き方を研究しながら、という感じでしょうか。
 

火入れが絶妙な、極レアのさび焼きは大山鶏を使用


おいしんぐ!編集部
塩は、スープにも使う粗めのものを使用。部位によってサラサラの塩と使い分ける。


おいしんぐ!編集部
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和久井: 大山鶏といい、焼き方といい、他のどの店とも似ていない独自のスタイルを確立されているところも好きです。やはり中澤さんご自身の探究心が、おいしさの原点なんですね。

中澤:毎日焼いては食べ、焼いては食べ…とやっていると「これが正解!」というものはわからなくなってくるものなんです(笑)。でも、そういうときは初心に戻ったりしながら、やっています。

編集部: 紀州の備長炭を使われていらっしゃいますが、素材だけでなく炭の選び方でも、きっと差が出るのでしょうね。

中澤: 火力の強さがまったく違いますね。短時間で温度が高くなるから、扱いが難しくもあるのですが。紀州備長炭使用の看板を出していても、他の炭と混ぜて使っているお店もあるようですが、僕はそこをごまかしたくなくて、常に最高級の炭でやらせてもらっています。

和久井: 「鳥さわ」さんの焼き鳥は、鴨ささみとかさえずり(食道)みたいな変わった部位を出してくれたり、串ではなく小皿にのせてネギと一緒に出してくれたり、タレや塩でなくポン酢でさっぱり食べさせてくれたりと、「出し方」まで工夫されているように感じます。リズム感があって、一辺倒じゃないのがおもしろいなあと。

中澤: ありがとうございます。先ほど初心が大切だと思うと言いましたが、同じぐらい遊びも大切だと思っていて。他とは違うことをやりたいなって、いつも考えていますね。
 

「鳥さわ」の今を支える、20代での経験


おいしんぐ!編集部

和久井: そもそも、焼き鳥の道にはどのようにして入られたんですか?

中澤: 実は僕、最初の仕事は鳶職なんです。高校は受かったのですが、行かずに音楽をやっていたりして(笑)。その後、友達に誘われて建築の道に進みました。

和久井: そうなんですか!

中澤: 25歳ぐらいのときに、今度は飲食業で働いてみようと思って、お好み焼き屋さんに入りました。お好み焼きなら調理もあまりしなそうだから、ある程度包丁が使えれば大丈夫なのかな、みたいな軽い気持ちでしたね(笑)。

和久井: 焼き鳥ではなく、お好み焼きがスタートなんですね。
 

しっかりとした歯ごたえを感じるぼんじり。こちらも阿波尾鶏


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中澤: 食べたり、酒を飲んだりするのは昔から好きだったので、いろいろなお店に食べには行っていたんです。そのうち、仕事もどうせやるなら好きなものがいいなと考えるようになって、「そういえば、自分は焼き鳥が好きだな」と。それで、お好み焼き屋をやめて焼き鳥屋さんに勤めました。

和久井: ふつうの街場の焼き鳥屋さんですか?

中澤: そうです。でも、ある人から「一流のところに行かなければ、一流にはなれないよ」と言われて…。それで、当時僕が食べに行って一番おいしいと思ったお店で、修行させてもらったんです。

和久井: そこで修行をされて、独立するわけですね?


おいしんぐ!編集部

中澤: いえ、その後は焼き鳥の卸しの仕事を3年ほどしていたんです。解体とかもおもしろかったし、この仕事のままでもいいかなとも思っていたんですけど、30歳ぐらいで独立もしたいなという思いもあって…。その頃、自分でも焼き鳥を焼き始めてみたんですが、それが、ぜんぜんおいしくない(笑)。結局、なんだかんだで店を出したときには31歳になっていました。

和久井: 卸しの仕事をしていたとは…! 焼き鳥屋さんの中で、卸しを経験されている方って、あまり多くはないですよね。中澤さんが常にいい素材を確実に選ばれている秘密は、そこにあったんですね。

中澤: 醤油とかタレの作り方や、お客さんとの接し方については焼き鳥屋さんで、そして鶏肉のことは卸しで学びましたね。僕にとっては、卸しでの経験があってよかったなと思っています。
 

「人とは違うことがしたい」


おいしんぐ!編集部

和久井: 7年前に出店をされたとき、なぜ亀戸という場所を選んだんですか? 焼き鳥屋というと、都内中心部や場内エリアが多いと思うのですが。

中澤: 僕、実家が亀戸なんです。本当は地元ではやりたくなかったんですが(笑)、家賃の価格帯的にもよかったので、あえて路地裏を選んで目立たないようにやっていました。

和久井: 亀戸店はアットホームで、女性のお客さんも多い印象ですよね。そして今年できたこちらの店が、満を持しての進出というわけですね。

中澤: やっと地元を抜け出せましたね(笑)。これは焼き鳥屋業界全体に言えるのですが、席数が多いとどうしても焼き鳥が出てくるまでに時間がかかるという問題もありまして、ここは8席にしたんです。お客さんとの距離も近く、焼きも見ていただけるような店の造りにしました。

和久井: そして、亀戸店に一度来たお客さんが予約できるという、紹介制のスタイルですよね。

中澤: 紹介制なのでお客さんもみんな知っている方ですし、仲良く楽しく、仕事ができていますね。もちろん、人それぞれ好みも違うので、すべてのお客さまに100%喜んでいただくことは難しいですが、「また来たい」と思っていただけるように、やらせてもらっています。

和久井: 22という店名の由来は?


おいしんぐ!編集部

中澤: 「西麻布2号店」だから「22」です。あと、僕が6月22日生まれでもあるので。焼き鳥屋って、内装もだいたい同じ感じだし「鳥○○」っていう店名も多いじゃないですか。だから、他とは違う店にしたいなと思ってつけました。

和久井: たしかに、内装も同じ雰囲気のところが多いですね。1995年に中目黒の「鳥よし」さんができたとき、きれいな白木のカウンターの「これが焼き鳥屋なのか!?」という衝撃がありましたが、今ではかなりそのスタイルが主流になっていて。

編集部: この石造りのカウンターと石のお皿は、なかなか他では見ないですよね。どのように選んでいるんですか?


おいしんぐ!編集部
おいしんぐ!編集部

中澤: お皿の方は磨き仕上げなのでツルッとしているんですが、どっちも御影石を使っています。僕はわりと建築とか美術とかに興味があって、いろいろなのを見たりしているんですよ。安藤忠雄建築とか、好きなんです。

編集部: さすが、もと建築のお仕事なだけあって、見ているところが違うんですね! ちなみに素人的な見方で失礼ながらお聞きしますが、石のお皿だと焼き鳥を置いたときに温度が下がってしまうということはないのですか?

中澤: 僕も最初そう思って、自分で食べながら温度などを調べたんですが、他の皿と変わらなかったんです。

編集部: そうなんですね! お箸や箸置きも、普通の店は統一が当たり前ですけど、ここでは全部違いますよね。

中澤: これは骨董市で買いました。焼き鳥屋さんで、こういうことをやっている店ってそれほどないので、だったらうちがやろうと思って。箸置きが違うことも、とくに女性のお客様は、店に入ってわりとすぐに気づいてくださるので嬉しいですね。
 

作るだけでなく、積極的に他店でも食べ歩く


おいしんぐ!編集部

和久井: 中澤さんが考えるおいしい焼き鳥とは、どういったものでしょうか?

中澤: 僕自身はシンプルな焼き鳥が一番好きです。その理想を目指して焼いていますし、他の店にもよく食べに行きますよ。西麻布の「鳥よし」に行って水野さんという方を指名して、焼いてもらうのが毎週の楽しみなんです。彼はものすごく技術があるんですよ。値段もちょうどよくて、アラカルトで頼めるのも嬉しいですし。もう4年は通っていますね(笑)。

和久井: たしかに、最近は「おまかせ」一辺倒のお店も増えていますが、アラカルトで自分で組み立てられるのは楽しいですよね。お店の方とお話ししながら、メニューに出ていない部位を出していただいたり…。

編集部: 先日、亀戸店の方が「親方に、外でいろいろ食べてくるようにと言われます」とおっしゃっていたのが印象的でした。いろいろな店で食べて勉強してくるように、と。


亀戸店外観 おいしんぐ!編集部

血肝 おいしんぐ!編集部 

中澤: おいしいのもまずいのも、勉強ですから。僕は焼き鳥屋に限らず、寿司屋、和食、イタリアン…といろんなところに食べに行きますよ。とくにお寿司屋さんは、所作の勉強になりますね。お客さんとどんな会話をしているか、どんな接客をしているかを見て学んでいます。

編集部: 今日お話を伺ってみて、中澤さんが「何かおもしろいことをしたい」「他と違うことをしたい」というモチベーションを常にもちながら、焼き鳥の世界だけでなくもっと広い視野からさまざまなことを考えていらっしゃることがよくわかりました。

和久井: 中澤さんにとっての、焼き鳥屋をやっていく上でのおもしろさって、どんなところにありますか?

中澤: 毎日一緒じゃない、ということでしょうか。来てくださる人も毎日違うので、やっぱりおもしろいです。焼き鳥って、最終的にはお客さんとのつながりが一番なんだと思うんです。一人のお客さんが違うお客さんを連れてきてくださったり、初めて来てくださったお客さんがその場で予約をして帰ってくださったり…。だからこそ、僕たちもちゃんと応えなきゃなと。その繰り返しです。

では、最後に…。
中澤さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

味はもちろん、雰囲気も大事だと思います。好きな味は人によって違うけれど、「この店にまた来たい」と思わせるものは、雰囲気もあるような気がしています。ちゃんとやっている店か、そうでないかというのは、ぱっと一見でわかりますよね。たとえごまかしたところで、ごくわずかな差に誰も気がつかないかもしれません。でも、そこはやっぱり、大事に守りたいんですよね。


おいしんぐ!編集部

編集部: 使う炭についてもごまかさずにちゃんとやる、という先ほどのお話も、まさにそこにつながりますね。そうした中澤さんの思いがひとつひとつ、お店の雰囲気として表現されているのだと思いました。

和久井:今日は、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。ますますファンになりました。

中澤: こちらこそ、ありがとうございました。実は来年末ぐらいにもうひとつ、新しい店を出そうと考えているんですよ。ぜひ楽しみにしていてください。
 

中澤さんが最初に開いたお店 「鳥さわ 亀戸店」


おいしんぐ!編集部


合鴨ももさび焼き おいしんぐ!編集部

つくね おいしんぐ!編集部
 

鳥さわ 亀戸店
住所:東京都江東区亀戸2-24-13
アクセス:総武中央線 亀戸駅徒歩5分
電話番号:03-3682-6473
営業時間:[月~金]17:30~23:00(L.O.) [土]17:00~23:00(L.O.)
定休日:日曜日・祝日

 
※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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