広島移住と株式会社cica。そして、『We’re the Mori’s HIROSHIMA』へ

「すべて、鹿がつないでくれた」 ――鹿との出会いから始まった、広島と世界をつなぐプロジェクト。おいしんぐ! プロデューサー 金沢大基 <Vol.2>

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「すべて、鹿がつないでくれた」 ――鹿との出会いから始まった、広島と世界をつなぐプロジェクト。おいしんぐ! プロデューサー 金沢大基 <Vol.2>

おいしんぐ!編集部

2017年に立ち上げた、「おいしんぐ!」。その取材で全国各地を飛び回るうちに、想像もしていなかったある出会いを果たす。その出会いとは――深刻な害獣問題にもなっていた野生の「鹿」だった。

インタビューVol.1はこちら↓

2019年から鹿肉のブランド化、東京と広島との2拠点生活をはじめ、24年には家族で移住を決意。移住と同時に新たな株式会社「cica(シカ)」を立ち上げ、「鹿」を起点に食・環境・観光などにおける地域の問題を解決すべく、教育にも力を入れて新しいチャレンジを続けている。

 

広島移住〜株式会社cicaの始動

――鹿との出会いから、「Premium DEER 安芸高田鹿」ブランドが誕生しました。

はい。その後2022年6月に、安芸高田市向原町の築100年を超える古民家をリノベーションして、飲食店・ラボ・オフィスという3つの役割を果たす「DEER LABO安芸高田」をオープンしました。

おいしんぐ!編集部

――そこではどんな事業を?

大きな2つの柱がありまして、1つは「シェフズテーブル」。日頃から僕らの鹿を扱ってくれている東京や山形、鹿児島などからシェフを招き、「Premium DEER 安芸高田鹿」をはじめ、川魚や山菜、キノコなどの地元食材を使ったフルコース料理を提供し、少人数のお客様に向けシェフや生産者さんとの会話も含めて楽しんでいただく特別な食事体験です。


おいしんぐ!編集部
おいしんぐ!編集部


おいしんぐ!編集部
おいしんぐ!編集部

――本格的なコース料理ですね!

これは鹿や山の食材の豊かさや価値を広島の方を中心に知って欲しかったからです。このエリアでは食材はあるのにほとんど食べられていない現状があったので。

もう1つは、小学生を対象にした食育イベント「こどもの森のレストラン」。こどもたちが自ら鹿肉料理を作り、盛り付けをしたり、テーブルや会場の装飾をしたりします。妻でディレクターでもある亜衣が中心となって企画・開催しています。どちらも、イベントとしては毎回盛況で、参加者の方から「楽しかった」「鹿のイメージが変わった」「また参加したい」とうれしいお声をいただいています。

おいしんぐ!編集部

――ご夫婦それぞれの得意なことを活かしていらっしゃるんですね。

彼女はもともと食や自然への興味が強くて、以前はオーストラリアのオーガニックファームでボランティアをしたり、自然農法の農家さんの野菜作りや稲作を手伝ったり、野菜を中心とした料理教室を開催したりしていたんです。食べ物が私たちの体と心をつくることや、食べることは命をいただくことであるということを、こどもたちに伝える仕事をしたい、と考えていて。さらに、山や川や大地、日本人が大事にしてきた文化や四季の豊かさに目を向けてほしい、という思いで活動してくれています。


おいしんぐ!編集部
おいしんぐ!編集部

――こどもたちが小さいうちから食や自然と触れ合い、学べるのはとてもいいですね。

ありがとうございます。そうしてだんだん地元のメディアの方々も僕らの取り組みを取り上げてくださって、少しずつ知ってもらえるようになりました。僕らの仕事自体もますますおもしろくなってきて、2024年6月に、家族で拠点を広島に移しました。同年11月29日に株式会社cicaを新規で立ち上げました。いい肉の日、です。

おいしんぐ!編集部

 

鹿肉のおいしさや地域の問題を、若い世代と考える。

――移住をしてみて、変化はありましたか?

これまで以上に広島が好きになりましたね。地元の方々との距離がぐっと縮まりましたし、身内として接していただけるようになったというか。広島の人たちって、すごく温かいんです。「そろそろタケノコが取れるから掘りに行こうよ」とか「うちの柿の木がきれいだったから、飾り用に枝を持ってきたよ」とか。東京に住んでいたときは、なかなかなかったことですね。また、僕らのやっていることを知って応援してくれる新聞社や学校も増えてきたのも嬉しい変化でした。

おいしんぐ!編集部

――学校、ですか?

中学、高校、大学などを訪ねて、鹿肉の高タンパクで低カロリーかつ鉄分が豊富だという栄養素について説明に伺ったんです。とくに思春期の学生さんなど、「太りたくない」という思いから、あまりご飯を食べずに貧血で倒れてしまうケースも聞くじゃないですか。鹿肉が低カロリーで鉄分も多いことを知っていただくことで、地域の害獣問題に取り組めるだけでなく、若い世代の健康・栄養面も改善するかもしれない…と。そんな話をしていくうちに、学校の担当者の方々が理解を示してくださり、試食会などを経て、実際に学食で使っていただけることになったんです。

――学食のメニューになったんですか?

たとえば広島大学の学食では「鹿たまラー油丼」や「鹿たまビビンバ」とか。学生さんからも人気で、出す度に完売になるほどですよ。安田女子中学高等学校の食堂にも鹿肉を提供し「鹿肉カレー」「鹿肉ハンバーグ」などのメニューにしてもらっています。鹿肉をはじめて食べる学生さんも多く、「おいしかった」「牛肉よりあっさりしていて満足感がある」と好評をいただいています。また、地域貢献のためサンフレッチェ広島のスポンサーになっているのですが、サンフレッチェ広島ユースの寮食でも毎月食堂で取り扱ってもらっています。


鹿たまラー油丼 おいしんぐ!編集部
鹿肉ハンバーグ おいしんぐ!編集部

――若い世代に受け入れられるのは嬉しいことですね。

広島女学院中学高等学校では特別外部講師として招いていただき、鹿をテーマとした探究学習授業をおこなっています。ディスカッション形式の授業を通じて、地域の課題や食のあり方について生徒さんに考えてもらうんです。夏合宿では鹿の解体を見学したり、鹿が荒らした山や畑を見たり、町の人、猟師や生産者に話を聞いたり…さまざまな体験をしてもらっています。

――豊かな経験ができますね。

講師の活動を始めて1年ほどになりますが、確かな手応えを感じています。学んだ生徒たちが「こどもの森のレストラン」で、もっと小さなこどもたちに伝えていくボランティアやインターンシップをやってくれるなど、縦のつながりができてきました。さらにいま、複数の学校が一緒に鹿の問題についてディスカッションしたりと交流していて、今後は他地域との横のつながりも作っていくところです。さまざまなかけ合わせをすることで、よりおもしろいプロジェクトになっていくはずです。


おいしんぐ!編集部
おいしんぐ!編集部

――まさに、縦横無尽に。

生徒たちにとって、将来に就きたい職業について考えるいい機会にもなっているようです。大学に入ったら自然環境について勉強したい、人間行動学を学びたいという生徒や、食に関わる仕事がしたい、僕らのようなメディアやデザインの仕事をしたいと話してくれる生徒もいます。

――鹿を入口に、さまざまな活動に広がっていますね。

今は安芸高田市を中心にしていますが、この課題は広島の別地域や日本全国の他のエリアにもあるので、多くの地域と連携をしながら、関わりを持っていきたいと思っています。

僕は今年で47歳になるのですが、これからは「若い世代に伝えていくこと」がとても大事だと思っていて。広島でもどこでも、とくに都心にいると、外で起きているニュースを「自分ごと」として考えにくいと思うんです。自分たちが住む県の、山のほうではどんな問題があるのか。このままいくと未来はどうなるのか。若い人たちが、それを考える機会を作りたいと思っていたので。これからもこうした活動には、力を入れていきたいと思っています。


おいしんぐ!編集部
おいしんぐ!編集部

 

『We’re the Mori’s HIROSHIMA』立ち上げに向けて

広島を、海外から注目される都市に。

おいしんぐ!編集部

――2018年に鹿と出会ってから7年ほど経ちました。安芸高田市の鹿の現状はどうなっていますか。

2026年現在、「Premium DEER 安芸高田鹿」を取り扱う飲食店は70店舗を超えました。東京を中心に北は山形、南は宮古島まで、全国の飲食店からその品質が認められています。害獣問題になっていた鹿の個体数を減らしたことで、被害額の減少に貢献もできました。ただ一方で、課題と可能性が見えてきました。

おいしんぐ!編集部

――どんな課題ですか?

近年では逆に注文が多くなり、安芸高田市だけでは数が足りない状況なんです。また腕がよく、社会的意義を感じてくれる猟師さんたちの高齢化問題もあり、若い猟師さんの育成も急がなければなりません。安芸高田市内の連携はもちろん、より広域、つまり県内での連携を強化していきたいなと。いま目指しているのは、広島を「世界から注目されるサステナブルな美食県」にすることです。

――市内での取り組みを、県全体での取り組みに広げていきたい、と?

はい。広島に移住してみて、ここの素晴らしさがよくわかったんです。山があり、海があり、川があり、畑があり……まず、日本の四季を楽しむ自然のポテンシャルは十分です。原爆ドームや平和記念公園、広島城など、人々が関心を持つ歴史的な背景もあります。そして野球、サッカー、バスケをはじめ多くのプロスポーツチームがあり、教育機関も充実しています。

おいしんぐ!編集部

――たしかにそうですね。

「DEER LABO安芸高田」を立ち上げてから、シェフを招いたイベントを企画するために、広島の食材探しを続けてきました。自分のお店で鹿肉を扱ってくださるシェフたちにちゃんと納得してもらえるいい食材を見つけたくて。すると、研究熱心な若い農家さん、腕のある漁師さん、50年も川魚を養殖している生産者さん……素敵な人たちが見つかりました。以前は広島=牡蠣、お好み焼き、レモンみたいなイメージしかなかったんですけど、「広島の食って、なんて豊かなんだ!」って、本当に感動したんですよね。


おいしんぐ!編集部
おいしんぐ!編集部

――素晴らしい生産者さんに出会えたのですね。

もともと旅好きなこともあり、「旅先」としての広島にも可能性を感じはじめました。たとえば、山や川などの自然資源、キャンプ場、狩猟見学や狩猟体験、鹿肉の加工場の見学をしてからBB Qをするのもおもしろそうだし、「DEER LABO安芸高田」や山間エリアの飲食店に来てもらって、美食体験もできます。そうした魅力を発信できれば、県外や海外からのお客さんに、もっと広島県全体をめぐってもらえるかもしれない。でも、原爆ドームや宮島、広島城に来た人たちが気づいていないんですよ。これってすごく、もったいないなと。

――もったいないですね。

人気名所に「しまなみ海道」がありますが、僕は「やまなみ回廊」という観光ポイントを作ったらどうかな、なんて考えていて。広島の山エリアにも来てもらうことで、広島のよさをより知ってもらえたら嬉しいなと。もし広島の中心地に、食べて出会える、訪れて出会える、そんな「ハブ」的な場所があったらな……と思っていたタイミングで、広島城三の丸の施設を運営する方と出会ったんです。

おいしんぐ!編集部

――ということは、広島の中心エリアの方ですね。

「国内外から人が集まる施設にするためには、どうしたら面白いですかね?」と、最初は意見交換だったりディスカッションしていたんですね。僕が感じていた問題点や広島のチャンスについて話していたら、「そうなんですよ! 金沢さん、この施設のプロデュースをやりませんか?」ということになったんです。

※Vol.1では前編、vol.3では後編のインタビューを掲載していますので併せてお読みください。


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