奥越の清流が育む、 心を満たすサーモンを届けたい。 ――25歳の養殖家・村上雄哉さんの挑戦
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おいしんぐ!編集部
福井県・奥越。冷たく清らかな水の流れる山あいで、この夏、新たなサーモン(ニジマス)の養殖が始まった。手掛けるのは、2001年生まれの若き生産者、村上雄哉さんだ。
中学時代はゲームに夢中で、不登校状態だったという村上さん。ある時、学校の先生に誘われて出会ったのが「川釣り」だった。自然が相手で、簡単には釣らせてもらえない難しさがあるからこそ面白い!と、どんどんのめり込んでいく。毎日川へ通いながらめきめきと腕を上げ、気づけば大学生で鮎釣りの全国大会で準優勝にまで上り詰めた。

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淡水魚について学ぼうと進んだ福井県立大学海洋生物資源学部では、在学中にニジマス養殖を主とするベンチャー企業「sa-mo(サーモ)」を設立。養殖用の餌を研究開発するとともに、後継者不足などで存続が危ぶまれていた地元の養殖場の改修・再生に取り組んでいる。2026年夏からは継承し改修した地元の養殖場に約1500匹のニジマスを放流し、独自ブランドのサーモン養殖を本格的に開始。初出荷は11月以降を予定している。
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いま日本の各地で、担い手不足や高齢化による養殖場の存続が課題となっている。そのような中、古い養殖場を再生させ、オリジナルブランドのサーモンを展開していく村上さんには、どんな思いと志があるのだろうか。魚と料理をこよなく愛する若き起業家に、これまでの歩みと未来への展望を聞いた。
鮎釣り三昧の学生時代
おいしんぐ!編集部
――魚に興味を持ったのはいつからですか。
最初から特別に興味を持っていたわけではないんです。保育園ぐらいのときに家族で川へ遊びに行った記憶があるぐらいで。学生時代はとにかくゲームに熱中していて、中学の1~2年の半ばまでは不登校状態でした。でも、2年の時に学校の先生が「釣りにでも行ってみたら?」と誘ってくれたんです。
――心配した学校の先生が、外に連れ出してくれたんですね。
釣りが好きな先生だったんです。学校に来させるような誘いだったら絶対乗らなかったんですけど、釣りだったら行ってみてもいいかなって(笑)。いざやってみたら、最初は全然釣れませんでした。でも、釣り堀に行って練習しながら、少しずつ上達していくのが面白くなって、どんどんハマっていきました。
――難しいゲームを次々とクリアしていくような感覚ですね。
そうかもしれません。とくにハマったのが鮎釣りです。最初は本当に難しかったけど、だんだん他の人より釣れるようになってくると、ますます面白くなって。釣ったときの感触が他の魚と全然違うんです。9mぐらいの長い竿を使うから、感覚的にめちゃくちゃ重く感じるんですよ。楽しいし、食べてもおいしいし。とにかく高校時代は部活にも入らず鮎釣り三昧でした。
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――放課後はずっと釣りを?
はい。高校を選ぶときも、家から一番近い学校にしたんです。すぐに帰宅して、一刻も早く釣りに行きたかったから。毎日ロードバイクに釣り道具を積み込んで、全速力で釣り場に向かっていました。近所では「ヤバい高校生がいる」と噂になっていたみたいです(笑)。
――では、お勉強のほうは……。
もともと不登校だったから遅れていて、中学3年から猛勉強してどうにか高校に入ったんですけど、また勉強しなくなったので成績はガタ落ちでした(笑)。高校3年の夏ぐらいに、両親から「大学に入るなら車を買ってあげる」と言われまして「大学に入れば、車で海に毎日行けるし、4年間釣り三昧で過ごせるぞ」と……。
――すべては釣りのために(笑)。
自分の成績では合格率はほぼゼロぐらいだったんですけど、必死で勉強しました。せっかくだったらと、魚について学べる福井県立大学海洋生物資源学部に行きました。
大学時代にベンチャー企業を設立
おいしんぐ!編集部
――大学時代はどのように過ごしていましたか?
大学に入った年がちょうどコロナ禍で、オンライン授業がメインになってしまいました。ただ、釣りは人と会わないので、車中泊をしながらいろんな場所へ釣りに出かけて過ごしていました。3年生のときには全国鮎釣り大会に出て、最年少で準優勝して、シマノさんとの契約もつきました。
――釣りのために、時間を有効に使えたわけですね。
3年生の後半になって、所属する研究室を決めることになりまして。いわゆる「花形」と言われる、鮎の研究室に入りたかったのに、僕は成績が悪くて入れなかったんです。結局、一番人気のなかった餌の研究室になってしまいました。餌の研究なんて……と興味がまったくわかず、休学して養殖場の手伝いに行ってみることにしました。

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――養殖場へ? それはなぜですか?
その頃、中学のときに通っていた養殖場の人たちが、どんどん仕事をやめてしまっていたんです。養殖場が廃れていって誰も引き継がないのはもったいないし、それなら僕がやろうかなと、まずは手伝いから始めました。
――学校の勉強だけでなく、実際の現場を知ることは大事ですね。
手伝いをするうちに「他の養殖場と同じような魚を作っても仕方ない。どうせならサーモンみたいな、大きくておいしくて需要があって、売れるものを自分でやりたい!」と思うようになりました。そして、そのためには餌を工夫しないとだめだと気づきました。与えた餌がそのまま魚に反映されるわけだから、やっぱりすごく重要なんです。
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――人間でいえば食事ですものね。
そこで思い出しました、「そういえば僕、大学で餌の研究室にいたんだった!」って(笑)。で、しれっと大学に戻りまして。研究をしながら養殖で使うための餌を作ったり、在学中にベンチャーの会社を立ち上げて、自分が作った餌で養殖も始めたりしました。大学で初めてのベンチャーだったので、学長や大学側も喜んでくれました。餌を作るのに使う機械の電気代も安く設定してくれましたね。
仲間とともに、おいしいサーモン作りを
おいしんぐ!編集部
――立ち上げた会社名が「sa-mo(サーモ)」ですね。由来は何ですか?
「sa-mo(サーモ)」は、英語の「thermo(熱・温かさ)」を想起させる響きと「salmon(サーモン)」をかけ合わせて名付けました。温かみのあるもの、心を満たせるようなものを作っていきたい。餌にはとことんこだわって、大規模生産の養殖とは違うおいしいサーモンを作りたい。そんな思いを込めています。
――現在は大学を卒業し、本格的に養殖の仕事をスタートしていますね。
7月に700gのニジマス1500匹を養殖池に放流したところで、スタートにしては順調かなと思っています。ただ、養殖場は山の中にあって広大なので、寂れかかっているものを復活させるのはなかなか大変な作業でした。僕一人ではなにもできないからまずは仲間を増やそうと、試しにハローワークで人を募集してみたら、1週間で3人の反応があったんです。
――おお、1週間で3人も。
3人とも50~60歳ぐらいの男性でした。最初は引っ込み思案というか、トークが上手いタイプではなかったのですが、話してみると真面目な方ばかりでした。養殖場の仕事で一番大切なのは「誠実さ」なんですよね。いま3人とも仲間になっていただいていますが、全員が本当に働き者です。元自衛官だったり、重機の運転ができる方だったりで、それぞれの経験や得意分野を活かしながら力仕事をどんどんやってくれています。

おいしんぐ!編集部
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――素晴らしい仲間に出会えましたね。
いまは新卒採用もやっています。僕が卒業した学部は水産系で、養殖専門の学科もあるんですよ。そこには毎年6~7倍の倍率をくぐり抜けて、全国から30人ほど入学してきます。その養殖学科で学んだ、サーモン養殖に興味がある学生は積極的に採用したいですね。養殖についての知識が最初からあるので教育コストもかかりませんし、学生たちにとっても、大学で学んだものをすぐに活かせる仕事に就けるというメリットがあると思います。
大切なのは餌と水、そして環境
おいしんぐ!編集部
――村上さんはご自分のサーモンを育てるにあたって、どんなことを大切にしていますか。
まずは「餌」ですね。おいしい魚粉を多めに使いながら、質の良い餌を作れるよう研究を重ねています。正直、いまは餌にこだわりすぎちゃって、いい餌を与えすぎなくらいですが(笑)。でも、安い餌を与えて中途半端な魚は作りたくないというのが僕の考え方です。そして「水の質」も重要ですね。餌を与えた後は、こぼれ落ちたカスを流して、水を清潔な状態に保つようにしています。魚作りは、餌作りであり、水作りなんです。
――淡水養殖では水源の確保が必要ですから、日本の山を守っていくという環境確保も不可欠になってきますね。
奥越周辺の山奥は、冷たくてきれいな軟水が流れ、魚を育てるには最適な場所なんです。もう少し山の麓まで行くと水温が上がり、生活排水も混じってきてしまうので。日本中でも限られた貴重な場所ですし、そういう資源を使えることがありがたいと感じています。大事に残していきたいですね。
おいしんぐ!編集部
――村上さんのような若い世代の活動が、過疎化していく日本の町に光を当てていくと思います。今後、福井に限らず活動を広げていきたい思いはありますか?
日本全国どこでも、長年続いている養殖場の引き継ぎ手がいなければ、僕たちで引き継いでやっていきたいと思っています。複数の養殖場を組み合わせれば、さらにさまざまな魚の養殖を効率よく進めていけるので。そうやってメイド・イン・ジャパンの養殖ブランドを定着させて、ゆくゆくは日本の水や環境の豊かさを海外にも伝えていきたいですね。
――初出荷は11月以降を予定していますが、どんな人に届けたいですか。
おいしいものが食べたい人、ですね。僕たちのサーモンは飼育環境には徹底しているので、安心して気持ちよく食べていただけると思います。
シェフとの会話が、サーモンのポテンシャルを引き出す
おいしんぐ!編集部
――おいしいものが食べたい人、それはまさに「おいしんぐ!」の読者のみなさんですね。ところで村上さんはお料理することも好きだとか。
食べるのも作るのも好きです。子どもの頃は両親が共働きだったので、自然と料理をしていました。僕が作ると弟が喜んでくれるのが嬉しくて。いまでも、作って人に食べてもらうのが好きですね。最近は週1ぐらいで、釣ってきた魚や知り合いの農家さんが作った野菜を使ってコース料理を作って食べてもらう、という活動もしています。
――生産者が料理をする方だと、シェフとの深い話もできますよね。そこから、さらにおいしい食材、おいしい料理へつながっていくと思います。
気になるお店に食べに行って、シェフの話を聞くのは大好きです。シェフの方々のアイデアを聞くことは、サーモンのポテンシャルを引き出すことにつながると思っています。もし、僕のサーモンが気になったシェフの方がいらっしゃったら、ぜひ僕の養殖場へ見学に来てください。帰りに、うちに泊まっていただいても大丈夫ですので(笑)!
――ぜひシェフのみなさんにおすすめしたいですね。村上さんご自身は、サーモンをどんな料理で食べるのが一番好きですか?
熟成した刺身にして、温かいご飯にのせた丼! 白酢で味付けしたご飯が好きなんです。シンプルだし、ザ・男飯みたいな感じですけど、これが一番なんですよね。自分のサーモンができたら、ほどよい脂と酢飯のバランスを極めた、究極のサーモン丼を作りたいですね。
――最後に、村上さんにとって「おいしい」とは?
「癒し」とか「充足」みたいなものですね。自分が食べて「おいしい」と感じるときはもちろんですけど、料理を作って誰かに「おいしい」と言ってもらえたら、心が満たされるから。これからサーモン作りにおいても、誰かの心を満たせるようなおいしいサーモンを作って、届けていきたいです。
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INFORMATION
| 名称 | 株式会社sa-mo |
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