あまり知られていない鱧(ハモ)の旬...実は。

「小豆島 島鱧」の誕生秘話!四海漁協が自ら課した4つの厳しい基準。四海漁業協同組合・上川貞亮さん

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おいしんぐ!編集部

高松港から小豆島の土庄港にフェリーで渡り、車で15分ほど。漁船が並ぶ小さな港を前に、朝早くから賑わう場所がある。平成28年にブランド化された「小豆島 島鱧」を出荷する、「四海漁業協同組合」だ。

兵庫(淡路島)や徳島、大分が有名産地として知られる鱧(ハモ)だが、そこに参入していった小豆島 島鱧。四海漁協が自ら課した4つの厳しい基準をクリアしたものだけが、その名前で呼ばれることを許されている。現在では京都や大阪など関西地方をメインに出荷されており、特に京都市場では年々指名買いが増えるほど、その品質には高い信頼が寄せられている。

実は、小豆島で鱧が多く捕れるようになったのはここ15年程のことだという。海水の温度など変わりゆく海の環境とそれに向き合う人たちの存在。小豆島 島鱧が生まれたのには、そうした小豆島ならではの背景があった。

今回お話を聞かせてくれたのは、小豆島 島鱧の立ち上げから関わる四海漁業協同組合・上川貞亮さん。漁師さんが入れ替わりやってくる活気あふれる漁協で、「始めた当初は、いろいろと大変でしたよ!」と笑顔を見せつつ語ってくれた。

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夏のイメージが強い鱧…実は6月と11月がおいしいんです。

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朝8:30を過ぎた頃、続々と運ばれてくる鱧。漁師さんがやってくるたび、「おはよー!」と誰より大きな声で挨拶する上川さん。伝票を切れば「あいよー!」と漁協の活気を盛り上げる。

——はじめに、鱧(ハモ)のシーズンについて教えてください。

上川:鱧は毎年5〜11月末まで捕れる魚です。みなさん夏が旬というイメージを持たれていると思いますが、実は鱧が一番おいしいのは、6月と11月。夏の終わりの8〜9月頃に産卵を迎えたあと、再び餌をいっぱい食べるので、10月末〜11月になるとまた太り出すんです。


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——鱧=夏というイメージが強いですよね。

上川:需要が高くなるのも6〜7月の夏前で、その時期はピークの値段が3000円/kgくらいになります。でも秋になると需要が減ってしまうので、11月の今は300円/kg程と、1/10まで価格が下がってしまうんです。そのため10月頃からの鱧は、「落ち鱧」と呼ばれます。落ち鱧こそ、すごくおいしいんですけどね。

——味より需要で旬が決まっているなんて、もったいないですね…。11月半ばに入り、今年の鱧はそろそろ終わりを迎える時期でしょうか?

上川:水温が20度を切ってきたので、そろそろ今年は終わりかな。なんて先日まで漁師さんたちと話していたんですが、海の状況が変わったようで、めちゃくちゃ入ってきています。ここ2〜3日は、1日あたり700kgくらいかな。少ない日だと100kgくらいなんですけどね。

——どのような方法で漁をされているのですか?

上川:底曳(そこびき)網漁になります。漁師さんたちはだいたい昼の12時に出港して、夜の0時頃に帰ってくるスケジュールです。だから今日持ち寄られる鱧は、昨日の夜遅くに捕ったものになりますね。鱧は基本、夜行性なんです。ただ日によっては昼間のほうが捕れるときもあります。

(※例年7月〜11月末までは少しでもハモの状態を良くするため、漁師が帰ってくる時間帯(22時~翌2時)に荷受け・選別を行なっている。今年は量が減ったので翌日に持って来てもらっている)。


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——半日も海に出られているということは遠くまで船を出すのでしょうか?

上川:いえ、小豆島周辺だけですね。瀬戸内海では船やエンジンの大きさに制限が設けられているため、遠くまで漁に出ることはありません。ちなみに海が綺麗すぎると、魚から網が見えて逃げられてしまうので、水は濁っているほうがいいです。

——漁師さんはどうやって鱧を卸しにくるのですか?

上川:バイクやトラック、量が多いときは船で卸しにきます(※夜間受け(7月~11月)の間はほぼ全員船から卸している)。港を挟んで向かいに見える沖之島は漁師さんの多い島ですが、車で渡ることができないので、そこの方たちはみなさん船でやってきますね。ちなみに漁はエビ漁がメインで、ハモが一緒に上がっているイメージです。現在漁師さんは、25〜30人くらいいます。

 

「小豆島 島鱧」と認められるための4つの条件

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——改めて、小豆島 島鱧と認められるための、4つの条件を教えてください。

上川:1つめに、小豆島近海で捕れたもの。2つめに、300g以上、2kg未満の大きさであること。3つめに、底曳網を引く時間が1時間程度あること。他の産地なら2〜3時間のところもありますが、網に入れっぱなしだと網ズレや一緒に捕れるエビなどで魚体が傷ついてしまいます。またそれだけでなく、うちでは網から上げたらすぐ船内の活け間に入れてもらうようにもお願いしています。その活け間の中も、ぎゅうぎゅう詰めにならないよう気をつけてもらって。そして4つめに、一定時間水槽で寝かせてから出荷することです。

——寝かせる、というのは何のためですか?

上川:腹の中に入っているものを吐かせるためと、漁獲直後で興奮状態になっている鱧のストレスを抜くためです。基本1〜3日、少なくても半日は寝かせています。

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——蓄養水槽の中にはどのくらいの鱧が入っているのでしょう?

上川:重さで言うと約200kg、本数なら500〜800本くらいかな? 鱧は穴子なんかと一緒で、砂に潜ったり岩場の間に隠れて生活するため、塩ビのパイプを隠れ家として入れてあげています。水温も今は、海水温と同じ20度くらいに。夏場の水温が上がる時期には、冷水装置を使って20度以下に冷やすことで、快適に過ごしてもらっています。あまり水温が上がると、鱧の活性が上がり興奮してしまうのでね。

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サイズや重さだけでなく、1本1本傷がないかもチェック。腹が膨らんでいないかも、気をつけるべきポイント。餌を吐き切っていない印で、匂いが出てしまう可能性がある。


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——水揚げされた鱧を1本ずつチェックしていますよね。

上川:まずは300g〜1kg、1〜2kgと、サイズごとに選別を行っています。一番多いのは、500g〜1kgかな。300〜400gくらいの小さいサイズは、骨や皮が柔らかく湯びきで食べるのに適しています。「日本料理 島活」さんなどにお買い上げいただくものは、こちらですね。大きいサイズのものは、天ぷらや焼き物といった火を入れる場合に使われることが多いです。なお300g以上、2kg未満の基準に満たないものは、放流しています。

またサイズを選別すると同時に、魚体に傷が付いていないか、元気があるかもチェックします。それをクリアしたものだけが、小豆島 島鱧として水槽で蓄養します。選別から弾かれたものは、ただの「小豆島産の鱧」。これはすぐに首と尻尾を落として血抜きし、隣の加工施設ですり身にします。

——厳しい条件をクリアしたものだけが、「小豆島 島鱧」になっているんですね。

上川:よその産地では恐らく生きていたらそのまま出荷しているかと思いますが、うちは1本ずつ丁寧に見させてもらっています。そのうえ出荷する際、さらにもう一度選別するんです。

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——その際にもチェックするんですね。

上川:水槽に置いたあと、状態が悪くなるものも出てくるので、それを弾くんですよ。水温や鱧の状態チェックも、毎日欠かしません。本当に手間隙がかかりますが、おかげさまで市場からも高い評価をいただいていて、京都さんではうちの小豆島 島鱧がいい!と年々指名買いが増えています。

 

15年前から増えだした鱧。需要の少ない時期を救った「小豆島 島鱧」

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——そもそも小豆島 島鱧はどのように誕生したのでしょう?

上川:もともと小豆島には、鱧を食べる文化がないんですよ。
というのも、鱧が多く捕れるようになったのは、今から15年程前のことで。海水温の上昇等が関係しているのなと思うんですけど。基本ここらの人は「サルエビ」という小さなエビを4〜12月に捕っていて、そこに鱧が一緒に捕れるようになったんです。
昔も捕れないわけではないけれど少量でしたし、香川や岡山ではあまり需要がなかった。そのため鱧はいい魚とされていなくて、食べるにしてもすり身にしてさつま揚げみたいに食べられていました。


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鱧はとにかく時間との勝負! 1秒でも早く処理してやることが、小豆島 島鱧の鮮度とおいしいさに繋がっている。

——近年の漁獲状況の変化が背景にあったのですね。

上川:対岸の岡山県が近いことから、この辺りの漁師さんたちは基本的に岡山県側で魚を卸しています。ただそこでも、鱧は7月頃の単価のいい時期は売れますが、それ以外は全然なんです。大量に持っていくと半分持って帰ってと言われたり…。小豆島に卸したところで、過剰供給になってしまって全然はけないんですね。そんな状況が続いていたため、どうにかしようと「小豆島 島鱧」をブランドとして立ち上げ、組合が鱧を丸っと預かって出荷することになりました。


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神経締め(神経抜き)は、身の鮮度を長持ちさせるための大事な作業。神経に細い棒を入れて何度も潰してやると、直前までぐねぐね暴れていた鱧が、ピタリと動かなくなる。これが“締まりきった”状態の証拠だ。

——漁師さんは、鱧は小豆島へ。それ以外の魚は岡山へ卸していると。

上川:そうです。活魚で卸す鱧はトラックに積んで、フェリーで本土へと渡り、京都や大阪など関西方面に出荷しています。そうでないものは隣の加工施設ですぐ加工し、東京などへ出荷されます。この加工場ができたのも、平成29年と最近なんです。うちはもともと販売事業はしていませんでしたが、これもやはり9月以降の鱧の値段が下がってしまうことを鑑みて、組合が市場よりも高い金額で買い取ることで、漁師さんのベースアップを図っています。


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加工場では機械を使って鱧を骨切りし、背びれや腹びれを取り開きにして、それを真空状態に。こうして加工した鱧は、食品メーカーやレストランで利用されている。なお加工場で働いている半数は、漁師さんの奥さんで組合の女性部の方々だ。

——四海漁業の組合員さんはどれくらいいらっしゃるのでしょう?

上川:組合員の漁師さんは、全部で60人程でしょうか。でもそれも年々減ってきていて、50歳以下は10人程度、20代と30代に至っては一人ずつになりますね。

 

小豆島 島鱧を、もっと地元にも広めていきたい

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——上川さんは小豆島のご出身ですか?

上川:はい、生まれも育ちも小豆島になります。実家はここから、車で5分もかからない場所です。東京の大学を卒業後、高松で5年ほどサラリーマン勤めをし、結婚を機に帰ってきました。

——漁業に関わる仕事がやりたくて、帰郷されたのですか?

上川:それが正直なところ、小豆島に帰れるならどんな仕事でもよかったんです(笑)。それだけこの島が好きでしたし、奥さんも小豆島出身で、自分たちの子供をどうしてもここで育てたかったんですよね。幸い知り合いの漁師さんも多く、漁協の職員にひとり空きがあると聞いて、「じゃあ入ります!」と即決しました。それから今年で勤続10年…自分も37歳になります(笑)


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——働いてみていかがですか?

上川:最初は戸惑うこともありました。「組合」ですから、事務方の僕らが出しゃばって引っ張るわけにもいきませんし…難しいけど面白い、独特な社会です。
それにこの10年でも、捕れる魚や量が変わっています。例えば車海老は、最近は全然見なくなりました。30年前と比べると、水揚げ高(漁獲高)も半分くらいになっていると思います。漁師さんの数と、魚の量と…ちょうどいいバランスがどこにあるのか、日々模索しています。

——今後の課題については、どのように考えていますか?

上川:地元への普及を広げること、でしょうか。関西方面には出ているのに対して、小豆島内では鱧を常時食べられるお店がまだまだ少ないんです。最近ではカフェも増えてきましたが、そういうお店ではなかなか鱧は扱わないでしょう? それに単価が約2,000円/kgと、島単価としては高めの仕入れ値の魚ですからね。小豆島だけでなく、高松でもなかなか食べられるところが少ないことが課題です。

 

では、最後に…。
上川さんにとって、「おいしい」とは何でしょうか——?

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上川:幸せになるというか、気持ちが高揚するというか…感情が動くことでしょうか。心から「おいしい!」と感じたときって、自然とそうなるんですよね。だからここでは、手をかけられるだけかけて鱧を出荷するよう努めています。おいしい小豆島 島鱧を、もっとたくさんの人に知っていただけたら嬉しいです。

企画・構成/金沢大基 文/木口すず 写真/曽我美芽

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