4種類のハーブ入り飼料で養殖されるさーもんへの想い。

瀬戸内海育ちの新鮮なサーモンを届ける。讃岐さーもん生産者・「信英水産」岡田圭伊太さん

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おいしんぐ!編集部

瀬戸内海の温暖な気候と複雑な潮流、起伏の多い海底地形などに恵まれていることから、生息する水産動植物の種類が多く、漁業が盛んな香川県。サワラやマダコ、ハマチやカキなど、年間を通しておいしい海の幸を楽しめる。中でも近年注目される水産物の一つが、瀬戸内海で養殖される「讃岐さーもん」だ。

讃岐さーもんとは、海面養殖したトラウトサーモン(海面養殖ニジマス)のブランド名。シナモンやジンジャーなどのハーブを配合した専用飼料で育てられ、毎年4~5月に出荷される。ぷりぷりとした身は鮮やかなオレンジ色で、臭みがなく、さっぱりとした味わい。水揚げ後、すぐに活け締めにして出荷されるので、新鮮な状態で食べられるのも魅力だ。

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この讃岐さーもんの誕生には、理由がある。一般的なトラウトサーモン養殖には、卵から稚魚を生産する稚魚生産業者と、稚魚を生け簀で大きく育成させる養殖業者がいるのだが、2011年の東日本大震災により東北沿岸部のトラウトサーモン養殖漁場が打撃を受けてしまった。稚魚の出荷先がなくなった稚魚生産業者が困っていたところ、香川県の生産者や漁業協同組合連合が手を挙げ、被災地支援の意味も込めて稚魚を購入。そこから讃岐さーもんの養殖プロジェクトが始まった。

高松港から45分間フェリーに揺られて直島へ、さらに車と小型船を乗り継ぎ、直島沖の漁場へ——7年前から「讃岐さーもん」の養殖をしている生産者・岡田圭伊太さんを訪ねた。4月の出荷日を約1カ月後に控えた育ち盛りの讃岐さーもん1万匹を見せていただきながら、船の上でのインタビューを行った。

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陸から500メートルほどの海上にある岡田さんの漁場。毎年、12~4月の間だけここで讃岐さーもんを育てている。

 

「餌やりは朝夕の1日2回。手塩にかけて育てています」

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——本日は漁場までご案内いただき、ありがとうございます。岡田さんは、直島のご出身ですか?

そうなんです。島を出て就職していたこともあったのですが、今は戻ってきて、家族や従業員のみんなといっしょに養殖の仕事をしています。

——何の魚を養殖しているんですか?

岡田:メインでやっているのがハマチ、それからタイやカンパチですね。ただ、冬の時期は水温が下がるのでこれらの養殖ができないんです。トラウトサーモンは10度以下の低い水温でも養殖できるので、この時期にやるのにぴったりなんですよ。ただ、5年前までは冬の時期に網の修理をやったり、休みを取ったりしていたのが、讃岐さーもんを始めたおかげで、あまり休めなくなりましたけれど…(笑)


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——ちょうどスキマだった時期を活かせるわけですね。岡田さんが讃岐さーもんの養殖を始めたのはなぜですか?

岡田:そもそもトラウトサーモンの養殖には、川で産卵された卵を孵し、稚魚の状態にする稚魚生産業者と、その稚魚を買って大きく養殖する養殖業者がいるんです。ところが東日本大震災がおきて、それまで行われていた東北の漁場での養殖が難しくなってしまい、行き場を失った稚魚が出てしまったんです。

そこで、香川県の生産者さんや漁業協同組合さんが手を挙げ、その一部を引き受けようということになり、2011年から讃岐さーもんの養殖事業が始まりました。通年でやっているハマチ養殖が休みとなる冬の時期にやってみようと。それがうまくいき、事業拡大をするタイミングでぼくも声をかけていただきました。いまちょうど7年目になりましたね。

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「手塩にかけて育てています」と語る、岡田圭伊太さん。

——讃岐さーもんは、どういった特徴のトラウトサーモンなのでしょうか?

岡田:香川県の生産者がハーブを混ぜた餌(飼料)で育てていること、重さが1kg以上あることが讃岐さーもんの条件です。1kg以上とはいえ、大きいものだと3kg以上あるのもいますよ。

ハーブの餌はナツメグ、ジンジャー、オレガノ、シナモンの4種類のブレンドをしたものです。ハーブの餌を食べさせることで、魚臭さが抑えられるんです。要は、国産ハーブ鶏の技術を魚に転用したと考えていただければわかりやすいかもしれません。

——水温が低い冬の時期に育てやすいとのことでしたが、毎年だいたいどのような流れで養殖していますか?

岡田:ぼくの場合は、群馬や愛知などの稚魚業者さんから川の水が入ったトラックに積み込み、ここまで運んでくるのが12月。海に移し、その後3月までは毎日餌をやって成長させます。いまは2月なので、ここからの1~2カ月で2倍ぐらい大きくなりますよ。とくに3月からが勝負ですね。そして毎年、4月1日(2020年は4月2日)が出荷解禁の日で、5月中頃までが出荷シーズンです。県内の市場やスーパーにもたくさん並びます。
(※取材日は2020年2月)


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島々に囲まれ、風や波が立たず穏やかな環境が、讃岐さーもんの養殖に適している。

——いま、この生け簀に何匹ぐらいがいるのでしょう?

岡田:今年は、1万匹です。初年度は7000匹ぐらいで始めて、一時期は4万匹ぐらい引き受けた時期もあるのですが、厳選した稚魚を導入する為、最近は1万5~6000匹ぐらいに落ち着いています。

——この漁場は讃岐さーもんにとって、どんな環境なのでしょうか?

岡田:島々に囲まれているので、冬でも強風によって高波が立つことがほぼありません。ひとことで言うと、穏やかな漁場ですね。

この辺りの水深は20mぐらいあるのですが、讃岐さーもん養殖の場合はだいたい水面から5~6mの深さのところに網を張っています。川で育つような魚なので、深くなくても問題がないんです。ハマチだとこうはいかず、もっと深くて潮流が早く、水回りがいいところの方が育ちやすい環境になります。

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提供:香川県漁業協同組合連合会

提供:香川県漁業協同組合連合会

4月以降、1kg以上に育ったものが讃岐さーもんとして出荷される。水揚げ後すぐに活け締めにし、短い時間で鮮度を保ったまま市場などに届けられる。

——魚の性質によってまったく違うんですね。

岡田:ええ。そのかわり、他の魚は餌やりが1~2日に1回でいいところを、この子たちはなかなか一度で大量に食べてくれない魚なので、給餌機を使って一定の時間で餌をやるのと自分たちの目で見ながら朝夕の1日2回、餌やりに来なければならないんです。だからこそ讃岐さーもんに関しては、魚がというより、ぼくら人間が目で見て仕事をしやすいような穏やかな漁場を選んでいるんです。

——1日2回も船に乗ってここまで来て餌やりをするのは大変そうですね。

岡田:もちろんみんなで交代しながらではありますが、なかなか大変ですね。そのぶん、この子たちを手塩にかけて育てているとも言えるんじゃないですかね(笑)。

 

4種類のハーブが入った特別な餌を使用

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——讃岐さーもんの特徴でもあるハーブの餌について、もう少し詳しく教えていただけますか?

岡田:讃岐さーもんの餌にはナツメグ、ジンジャー、オレガノ、シナモンの4種類のハーブが入った餌を出荷前の1~2か月まえに与えています。これによって魚臭さも消えていくんです。

この讃岐さーもん用の餌は、飼料メーカーさんが特別に作ってくれているものなのですが、魚粉の配合量も高く、オイル入りなのでかなり高カロリー、高タンパクな餌です。他の魚には与えないような、かなり豪華な餌ですよ。

——豪華な餌…それはなぜですか?

岡田:基本的にサーモンは海水温が20度を超えると死んでしまうと言われていて、瀬戸内海では冬の時期にしか育てることができません。そのため5~6カ月という短い期間で大きくしなければならないんです。

餌も魚の成長にあわせて徐々にサイズアップしていきます。初めは少なかったサイズですが、年々、養殖業者の要望によって飼料メーカーさんがサイズを増やしてくれていて、今では4ミリ、5ミリ、6ミリ、8ミリ、10ミリ、そして特注サイズの12ミリと、6サイズがあります。

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——餌のサイズにまで工夫がなされているんですね。

岡田:それから形状も特殊で、薄いでしょう。ディスクタイプといって平べったい形なので、海にまいたときにゆっくり落ちるんです。ハマチなんかは餌にすぐ食いつくのですが、トラウトサーモンはそれほど俊敏に泳ぐ魚ではないので、沈降速度が遅い方が食べやすいんです。ただ、年や産地によって稚魚の状態も違いますし、餌の食べ方も毎年一定ではないので、なかなか苦労しています。

——讃岐さーもんはどのような身の色をした魚ですか?

岡田:自然界のトラウトサーモン(ニジマス)は、川から海へ来たばかりの状態では白いのですが、海でエビなどの甲殻類を餌にするため赤くなっていきます。養殖の場合は、餌にアスタキサンチンという色素が入っているので、市場に出るときにはオレンジ色っぽい赤身になりますね。


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——どのようにして食べるのがおいしいですか?

岡田:個人的には、刺身が一番ですね。カルパッチョもおいしいです。ぜひとも、フレッシュな状態で味わってもらいたいですね。香川では締めた次の日に食べられますから、コリコリ、プリプリな食感を味わってもらいたいです。輸入サーモンの場合は日本へ届くまでに5~6日はかかっているので、食べ比べても鮮度が全然違うのがわかると思います。

——新鮮なまま出荷できるのも讃岐さーもんの強みなんですね。出荷はどのようにしているのですか?

岡田:この船に積み込んで活け締めにし、高松港で漁連を経由して各市場、各スーパーへ卸します。また活魚の状態で活魚車に積み込んで、神戸にある漁連の出荷基地を経由して関西方面へも出荷しています。

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——岡田さんにとって、讃岐さーもん養殖のおもしろさは、どんなところにありますか?

岡田:収穫したときに魚が大きく育っているのを見る瞬間が、やっぱり嬉しいですよね。それ以外は、がんばって餌をやっているのに、思うように大きくなってくれないなぁとか…心配ばかりです(笑)。

——今後、目指していることはありますか?

岡田:今でもかなり手をかけているんですが、もっと手をかけて作りたいという思いがあります。お客さんからの細かなニーズに応えて、希望のサイズのものを作るとか…。まだまだ試行錯誤中ではありますが、将来的にできたらいいなと。

 

では、最後に…。
岡田さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

岡田:「また食べたい」と思うこと、じゃないですかね。ぼくはあまり「脂がのっているからおいしい」とか、理屈で考えるほうではないんです。口に入れて、「ああ、おいしい。もうひと口食べたい!」とか、そういう感じの人間なので(笑)。理屈でなく、身体で感じるおいしさ…そういうものが作れたらなと思います。

企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/祭貴義道

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