元小学校の校庭で育てる「香川県産さぬきひめ」

お客さんの期待を超える、 おいしいいちごを作りたい! がっこうのイチゴ園/株式会社中四国クボタ・竹内直己さん

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お客さんの期待を超える、 おいしいいちごを作りたい! がっこうのイチゴ園/株式会社中四国クボタ・竹内直己さん

おいしんぐ!編集部

香川県三豊市にある、廃校となった小学校のグラウンドを生まれ変わらせた農園「がっこうのイチゴ園」。2016年、香川ブランド「さぬきひめ」のいちご狩り体験が楽しめる観光農園としてスタートして以来、徐々に観光客や地元の人たちが訪れる人気スポットとなりつつある。

小学校のグラウンドをいちご農園に——。このユニークなプロジェクトを推進してきたのが、トラクターや耕耘機などの販売で知られる「クボタ」。当初はスタッフ全員が農業の経験のない素人だったというが、温度や湿度、糖度や収量などさまざまなデータを収集しながら、いちご作りのノウハウを蓄積してきたという。一農家ではなく一企業だからこそできる投資や技術で、よりおいしいいちご作りに取り組んでいる。

お客さんが期待するおいしさを超えるようないちごを作りたい。そう話すのは、「がっこうのイチゴ園」の立ち上げから携わってきた、中四国クボタ新規事業開拓部の竹内直己さんだ。農園ができるまでの経緯から、ここならではの栽培方法、そして香川県が誇る「さぬきひめ」の魅力について、教えていただいた。

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外観 おいしんぐ!編集部

内観 おいしんぐ!編集部

小学校のグラウンド跡地を活かして作られたいちご農園。
40分食べ放題で、一般料金(中学生以上)は1800円、小学生以下と70歳以上は1500円、3歳未満無料。

 

技術の要るいちご作りに、ゼロから挑戦

おいしんぐ!編集部

——トラクターや耕耘機などの会社であるクボタさんが、いちご農園をされているとは驚きでした。「がっこうのイチゴ園」を始めた経緯を教えてください。

竹内:私たちクボタは、全国の農家のみなさんにお世話になっています。農家が極端に減っている今、なにか日本の農業を盛り上げる新規事業はできないだろうかと考えたのが発端ですね。2017年に中国クボタと四国クボタが合併して中四国クボタとなったのですが、その本社が高松にあり、私はその少し前から社長の経営企画室にいたんです。そこで社長が「いちご農園をやるのはどうか?」と。

じゃあどこでやるのか。場所も、あちこち探したんですよ。農地はなかなか売りに出ていませんし、新たに井戸を掘ったり、電気を引いたりするにはコストがかかります。そこで、学校に目をつけたんです。


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——近年は全国的に、少子化で廃校となってしまう学校も多いですものね。

竹内:さっそくいくつか学校を見学しました。最初はなかなか条件が合う学校がなかったのですが、あるとき「三豊市で6校が廃校になり、2校が新設されるらしい」という知らせを聞きまして。すぐ市役所へ連絡し、その日のうちに廃校予定の6校を見に行きました。

この財田上小学校は道の駅もすぐ近くにあり、幹線もしっかりしていて、アクセスがよかったんです。電気や水道もありますし、運動場もフラットで水はけがよさそうだなと。元学校のいちご農園なんてちょっと珍しいから話題になるでしょう(笑)。120年以上の歴史がある小学校だったんですが、卒業生も喜んで来てくれるんですよ。


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——ここは元グラウンドだったところですよね。校舎はどのように使っているのですか?

竹内:校舎では木のおもちゃメーカー「なかよしライブラリー」さんが、木工教室などをしています。私たちがここに入る前、近隣の方々に理解していただき、承認してもらわなければと頻繁にプレゼンをしていたんです。その時に彼らから「校舎だけ使いたいんですけど…」と相談を受けまして。私たちはグラウンドだけ使いたかったので、「じゃあ、一緒に入ろう!」ということで。市役所にもOKいただき、学校もいい具合にシェアができて、運がよかったと思います。

——それはよかったですね。農園はいつオープンしましたか?

竹内:2016年6月です。ただし1年目は技術や知識がほとんどありませんから、テスト的にやっていて、本格的に始めてからは3年目ですね。

おいしんぐ!編集部

——クボタとしては、初めての試みだったのでしょうか?

竹内:スタッフ全員、素人です。私自身、小学校で朝顔を育てたことがあるぐらいで…(笑)。わからないことばかりですから、とにかく最初はいちご農家さんを回りっぱなしでしたね。まずは、何月にどんな作業をする、という流れだけでも知っておかなければと、農家さんのところに聞きに行ったり、スタッフで実習に行かせてもらったり。そうやって徐々にですが、経験しながら知識をためてきました。今はまずまずのところまできているんじゃないでしょうか。

——いちご農園にすることは、最初から決めていたのですか?

竹内:社長がいちご好きなので…。社長の頭の中には初めからいちごしかなかったんです(笑)。私は以前に農家さんから「いちごはすごく手間かかる、トマトならラク」と聞いていましたし、クボタもトマトの知識なら持っていたんです。当時トマトもまだ今ほど飽和状態でなかったので、内心「うわぁ、いちごか…」と思いましたけれど。でも今は、トマトこそ飽和状態でなかなか厳しいようですから、いちごにしてよかったなと(笑)。

 

さぬきひめのおいしさを堪能できる農園に

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果肉の上までが真っ赤になり、ヘタが反っているものが甘くて食べごろ。1~2月は特に粒が大きく糖度の高いいちごが楽しめる。

——こちらでは、何種類のいちごを育てていますか?

竹内:私たちの狙いとしては、さぬきひめメインでいきたいんです。品種によって設定温度や肥料も変わってきますし、たくさんの品種を扱うことが必ずしもいいわけではないかな、と。ですからうちでは、さぬきひめのおいしさを強調するために違う種類のいちごを入れて、お客様には比較を楽しんでいただいている感じですね。

今入っているあきひめも十分においしいいちごなのですが、結局みなさん、さぬきひめに落ち着くんですよ。始める前に社長と「やっぱり香川県の品種を入れたいよね」と話しながら、社内でいろんな品種を食べ比べてアンケートを取ったりして、さぬきひめに決めました。これは大正解だったと思います。

——さぬきひめは、どんな特徴をもついちごなのでしょう?

竹内:さぬきひめは、2009年に品種登録された香川県のオリジナルいちごです。酸味と甘味のバランスがとれていて、やわらかくて食感がいいのが特徴ですね。11月中旬から5月ぐらいまでおいしく食べられて、とくに1~2月は粒が大きく甘くなります。寒い時期ですから、いちごが赤くなりはじめてから真っ赤になるまでに時間がかかるんですね。いちごは、赤くなるまでの時間が長いほど糖度が高くなるといわれています。


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炭酸ガス発生装置にて、植物の光合成に書かせない二酸化炭素をハウス内に供給する機械を完備。二酸化炭素が不足気味になり、光合成が活発におこなわれない冬期に使用することで、品質と収量の向上が期待できる。


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糖度を計測できる機械「フルーツセレクター」も自由に使用できる。12度以上のものが特に甘みを感じ、おいしいといわれる。

——がっこうのイチゴ園ならではの工夫は、どんなところにありますか?

竹内:これまでの農家のやり方は、ベテランが一人がいて、その人が全部指示する…という感じだったと思います。それこそ「今日はちょっと湿度が高いぞ」みたいなことを、職人が身体で感じる世界というか…。でも、そんな難しいことが我々に急にできるわけないんですよ(笑)。

私たちはそこを、関連メーカーの機械を入れるなどして、データ化しています。例えば湿度から温度、日照量や二酸化炭素濃度などのデータが、パソコンで管理され、見られるようになっています。湿度が低ければ撒霧シャワーを使ったり、温度を調節したければ、冷暖房機で上げ下げしたり。これで標準レベルまではできるようになっています。

——まさにIT時代の農業ですね。

竹内:ITとはいえ、ごく初歩的なものではありますけれどね。本格的なIT、つまりロボットを使っている農園もあると思うんですけど、ロボット自体が非常に高額ですし、操作が難しくてオペレーターが限られてしまうんですよね。大規模なところでないと、今はなかなか難しいですね。そのうちにAIに頼る時代もやってくるのでしょうけれど。

おいしんぐ!編集部
「がっこうのイチゴ園」では従業員6人が働いている。竹内さんをはじめ、皆が香川の出身。

——これから他の場所でも農園を展開する予定はあるのでしょうか?

竹内:他の県で展開する可能性はあるかもしれませんが、まずはここを盛り上げて、収量を増やすことからですね。まだまだ集客の余地もあると思うので、お客様にもっとPRして、イベントもやっていきたいです。

また、できるだけいちごの特徴をつかんで、収穫が落ち込む谷の期間がないようにしたいですね。花が咲いてミツバチが受粉してから約40日というのが、いちごが実るまでの基本的な日数なのですが、その山谷をできるだけ少なくして、ある程度の収量がいつでも確保できるようにしたいです。

 

では、最後に…。
竹内さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

竹内:いちご狩りって、いちごをちぎる楽しみもあるとは思うんですけど、みなさんおいしいいちごが食べたいって、期待してくるじゃないですか。その期待を超えることが、おいしいなんじゃないですかね。期待値がこの地点だったら、帰るときは少し上の地点にいっている…2つの地点の間が「おいしい」です。それは間違いないです。

ありふれた言葉かもしれませんが、みなさんが「おいしかった!」って言って帰られるのを見る時が一番です。小さい子どもが無邪気に「甘かった! バイバイ!」て言ってくれるのはね、やっぱり最高ですよ。そういういちごを作り、体験してもらうのが、我々の仕事ですから。

 
企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/祭貴義道

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