タバッキ11年目の新たな挑戦

創業10年でたどり着いた「タバッコ プロジェクト」は、“循環と活躍の場” ――株式会社タバッキ代表 堤亮輔さん

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創業10年でたどり着いた「タバッコ プロジェクト」は、“循環と活躍の場” ――株式会社タバッキ代表 堤亮輔さん

おいしんぐ!編集部

東京の交通網の玄関口・東京駅――その目の前に、2023年3月「東京ミッドタウン八重洲」がオープンした。まさに日本の中心に聳え立つビルの中には、注目のショップや飲食店のほか、オフィスビル、ハイブランド「ブルガリ」が手掛ける「ブルガリホテル 東京」、さらには小学校までが同居する。

そんな東京ミッドタウン八重洲の2階に広がるのが、「ヤエスパブリック」と名付けられた飲食店街だ。利用客は好きなスペースを確保し、フロア内のさまざまなお店から、そのとき食べたいもの、飲みたいものを思い思いにチョイスして卓上のメニュー表からモバイルオーダー。フードやドリンクを、自分の元まで届けてもらうことができる。スタンディングスペースが多く設けられたフロアは活気に満ちていて、仕事帰りや旅行の前後に軽く1杯引っ掛けるもよし、東京駅を眺めながら腰を据えて美食を堪能するもよし。あらゆる世代がさまざまなシーンで利用できるつくりとなっている。

その一角に、「タバッキ」が商業施設に初出店というかたちで「ta.bacco 八重洲」をオープンした。

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2023年に創業10周年を迎えた「タバッキ」代表・堤亮輔さんは、未曾有のコロナ禍においても「行動と思考を止めない」を信条にアクションを起こし続けた。東京・目黒区の学芸大学と都立大学エリアで人気を誇る「リ・カーリカ」、「カンティーナ・カーリカ・リ」、「あつあつ リ・カーリカ」に加え、2020年には物販とオフィス機能を備えた「リ・カーリカ ランド」、2021年には自社工場「リ・カーリカ ラボ」をオープン。

そして、さらなる挑戦として立ち上げたのが、昨年開店した「ta.bacco 恵比寿」と「ta.bacco 八重洲」の2店舗を展開する「ta.bacco」だ。

「各世代、立場、ワークライフバランスを整えていきたいし、若い人たちにはもっと飲食の楽しさを知ってもらいたい。「ta.bacco プロジェクト」がその役割を担えればと考えています」と堤さんは言う。飲食業界に付いてまわる問題を解決しながら、現代のキーワードである「サステナブル」も叶える――「タバッキ」11年目の新たな挑戦に込められた想いを語ってくれた。

 

とにかく熱く動き続けたコロナ禍


おいしんぐ!編集部

――2013年に1店舗目の「リ・カーリカ」を出店してから10年。今年3月タバッキは、東京ミッドタウン八重洲に「ta.bacco 八重洲」をオープンしました。コロナ禍も経験したなかで、堤さんはこれまでの10年をどう捉えていますか?

大きく前期と後期に分かれると思います。

まず前期に当たるのが、リ・カーリカから2015年開店の「カンティーナ・カーリカ・リ」、そして2017年開店の「あつあつ リ・カーリカ」まで。あの頃は『キングダム』の王齮や麃公のように(笑)、自分が先頭に立って戦場に突っ込んでいき、背中を見せていくスタイルで動いていました。ぼくも日々現場にいて、スタッフともお客さんとも会話をして、お酒も一緒に飲んで、コミュニケーションを直にたくさん取っていましたね。

後期はやはりコロナ禍のことで、これが会社もぼく自身のこともさらに大きく成長させてくれました。新型コロナウイルス蔓延後、スタッフにまず話したのが「行動と思考を止めない」ということ。みんなもこの言葉を受けて、「何かやろう!」と動いてくれたんです。

――自粛要請が出てすぐに、デリバリーを始めていましたよね。

そうですね。ほかにも、あつあつでランチにカレーを出したり。カーリカ・リでは「お昼のカーリカ・リ、パスタでゴー」とキャッチコピーを打ち出して、パスタ屋1号店をオープンしたかの勢いで営業してみたり、それが落ち着いたらステーキ専門店をやってみたり。リ・カーリカではテイクアウトを始めて、お肉もワインもたくさん売りました。ぼく自身もお客様の元へ車やバイクで商品を運びましたし、SNSで「今日はこの街に行きます!」と積極的に発信もしていましたね。

とにかくいろんなことをやってみて、その時できることをひたすら探っていた時期だった気がします。


おいしんぐ!編集部

――当時を振り返って、何か心がけていたことはありますか?

常にアンテナを張って、今何が起こっているのかを注視するということです。例えばマスクに関しても、ぼくはけっこう抗っていたほうで。店先で着けずにいたために、お叱りを受けることもありました。でもそういう声をいただいたら、ぼくからちゃんと理由を答えるから教えてと、スタッフには伝えていて。

今振り返ると、当時の自分はめちゃめちゃ熱かったなと思います。アドレナリンがずっと出ている状態でしたね。

――そんなコロナ禍にありながら、2020年にはショップとオフィスを兼ねた「リ・カーリカ ランド」をオープンさせています。

逆にコロナ禍でなければ、店舗の営業が忙しくてやれなかったことだと思います。一度立ち止まるタイミングがあって、スタッフとたくさん話す時間を作ることができた。
おかげで翌2021年にはリ・カーリカ ラボも誕生し、冷凍食品の製造も手掛けるようになりました。当時はみんな大変だったと思いますが、すべてが今に繋がっているなと強く感じます。

 

サステナブルで在るために、チャレンジをし続ける


おいしんぐ!編集部
利用者が店舗を行き来しやすいようにと、店前以外のスペース利用時は、イタリアのワイン用コップでよりカジュアルにナチュラルワインが楽しめる。

 
――そうして思考を止めずに走ってきたことで立ち上がったのが、「ta.bacco プロジェクト」ですね。

そうですね。元々商業施設への出店は断ってきたのですが、「東京 ミッドタウン」に関しては、落ち着いた雰囲気と洗練されたイメージ、セレクトしているものを含め従来の商業施設とは異なる路線で、良い印象をもっていました。

そんななか東京ミッドタウン八重洲のグランドオープンにあわせて、お声掛けいただいたんです。東京駅という場所とミッドタウンという商業施設を掛けあわせることで、日本の新たなランドマークが生まれそうだなと。2年半のポップアップ展開という条件も含め、タバッキで進めている新規事業「ta.bacco プロジェクト」にもマッチしそうで、これはおもしろいぞと出店を決めました。


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カウンター周りのデザインは、こぼれたワインや料理のソースから発想を得たものだ。ビタミンカラーがフロアの活気とマッチしている。

 
何より東京駅は、ぼくが大事にしている生産者の方々の拠点へと繋がる場所です。産地まで足を運んで、生産者さんの声を直接聞くことで、原点に戻れるなというのは常々感じていることで。その声を、スタッフにもお客様にもたくさん伝えていきたい。この10年は、そうやって思想がよりナチュラルになっていった期間でもありました。そうした背景からも、お店で出している「ナチュラルワイン」はやはりぼくらの大きなキーワードです。

――堤さんが今特に大事にしていることは何でしょう?

第一次産業も含め、「サステナブル」という言葉は、ずっと自分の中にありますね。農業や畜産業の現場は本当に大変で、世代交代もなかなかできていなかったりするんですよ。加えて、“ナチュラルなもの”に対する周りからのプレッシャーもある。例えば農薬をまいたほうが楽じゃない?と言われたり、隣の畑で農薬を使われたら意味がなくなってしまったり。

厳しい環境を乗り越えて届いた、サステナブルな食材やワインがあってこそ成り立つぼくらにとって、ぼくら自身もサステナブルでありたいということは大きなテーマです。

それを達成するためには、新しいことにチャレンジするのが絶対必要条件なんです。守りに入ってしまったら、どうしても先細りしてしまう。だからタバッキでは、とにかく新しいことにチャレンジし続けています。


おいしんぐ!編集部
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――今回の出店は、確かに新たなチャレンジである反面、多店舗展開していく。大きな会社になることを目指しているのかな?と思っている人も、なかにはいるかもしれません。

そうですよね。でも実際はそうではなくて、すべてはぼくらのテーマである「土から繋がるストーリー」を持続するための仕掛けなんです。ミッドタウンへの出店はかなり派手に見えると思うけれど、それも新たな雇用や出逢いを生むための手段のひとつ。

ぼくもそうした想いを伝えるために、今回の取材もそうですが、自社サイト『タバッキジャーナル』で、これから何をやりたいのかということを発信するようにしています。
これを持続化するのは一筋縄ではいきませんが、スタッフもお客様も、生産者さん、地域・地方の方々含め、いろんな人といろんな話をすることを日々大切にしています。


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ポップな店の看板は、発酵することでできる“ナチュラルワインの泡”をイメージ


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看板メニューのひとつ「ペポーゾとポレンタ」。赤ワインで煮込んだほろほろの牛肉を、とうもろこしの粉で炊いたポレンタと一緒にいただく。「ピチ アリオーネ」はタバッキでは外せない定番メニュー。コシのある太麺がトマトソースによく絡む。

 
――タバッキを通して、飲食店っておもしろいな、料理人になりたいなというだけでなく、生産者側もカッコいいな!と思う人も出てくるかもしれません。そこもレストランの魅力ですよね。

どうしてもレストランで働くと小さな視野で見てしまいがちですけど、ぼくはスタッフに「キッチンの中で料理を作るだけの料理人にはならないでほしい」と常々願っています。もちろん料理を作ってお客様に喜んでいただけるのは最高なことです。でもそれを毎日繰り返しているだけでは、料理の腕は上がるかもしれないけれど、人としての成長はなかなか得られません。今の時代、それだけではダメな世の中になってきているんですよね。だからうちのスタッフには、もっと社会を、日本全体を、たくさん見てほしいんです。

そういう機会を作るための仕組みとして立ち上げたのが、「ta.bacco プロジェクト」です。

 

モチベーションを上げる仕組み作りが大切


おいしんぐ!編集部

――「ta.bacco プロジェクト」は、昨年開店した「ta.bacco 恵比寿」と今回の「ta.bacco 八重洲」を含む「ta.baccoブランド」の新しい循環の仕組み、とのことですが。

はい。元々ぼくの世代の料理人は、労働時間も一人前になるまでの時間も長くかかる、厳しい飲食業界で育ってきました。もちろんそうした環境も必要な面はありますが、働き方の多様性が求められる昨今、それだけではお店を持続できません。飲食の労働形態が、働き盛りの若い人とミスマッチを起こしているわけです。

もっといろいろな働き方があっていい。そう考えて始めたのが「ta.bacco プロジェクト」になります。鍵となるのは、“循環”です。

――“循環”というと?

スタッフはタバッキの各店舗を異動することで、人材が循環していきます。ゆくゆくはそのなかに、生産者の場所があってもいいと考えています。先ほども話したように、第一次産業の現場は人手不足です。そうはいっても、農業を10年間やれと言われるのはちょっと嫌だな……という人もいるでしょう。でもそれが1年なら、経験してみたいという若い人も実は多いんです。

そうした繋がり、コミュニティ作りにタバッキが挑戦していくことで、何か面白いことができそうだなと。


おいしんぐ!編集部
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――なるほど。少し話が逸れますが、リ・カーリカはじめ既存店の常連さんたちの色が豊かですよね。落ち着いたシニア世代やエネルギッシュな若者が、みんな一緒になってそのお店の雰囲気を作っていることがコミュニティのようでおもしろいなと。

普通だったら店舗ごとに客層って分かれるものですもんね。でもおっしゃるとおり、タバッキは全店舗、お客様が混ざっているんですよ。それもスタッフが異動する=“循環”した結果、意図せずしてそうなった部分があります。常連さんは本当に熱い方が多くて、それぞれ推し店舗や推しスタッフがあるみたいなんです。スタッフのことなら、多分ぼくより詳しいかもしれません(笑)。

――堤さんは創業当初、スタッフの給与や労働環境を考えると、3店舗は作らなければと話していましたよね。

10年飲食をやっていると、いろいろ見えてきますよね。どういうことで人が辞めていってしまうのかなとか、常に自問自答しながらやっていくことが大切だと思います。それにやっぱり会社を経営するなら、一番大事なのはスタッフたちのモチベーションじゃないですか。そこをどう上げていくか……今はその仕組み作りをしているという感じです。

「タバッキに入ってよかった」「これなら自分もやってみたい!」と思わせる仕組みを作る。それが今のぼくの仕事です。そうなってくると、なかなか現場には立てないんですよ。寂しいんですけどね(笑)。

 
インタビュー/金沢大基(iD) 文/鈴木杏(iD) 写真/鈴木愛子

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