山田裕介さん×タベアルキスト Yuya Otani

「毎日の鍛錬がなければ、ひらめきは生まれない。」鮨處やまだ・山田裕介さん<後編>

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「毎日の鍛錬がなければ、ひらめきは生まれない。」鮨處やまだ・山田裕介さん<後編>

おいしんぐ!編集部
“食”のためなら時間も労力も厭わず、年間540軒を食べ歩くというタベアルキストYuya Otani。特に鮨に関しては北海道から沖縄まで、すでに270軒以上の鮨屋を訪ね、その魚への愛をおいしんぐ内のコラムでもつづっている。鮨愛が高じ、今では全国で食べ歩く際に旬の魚や食材を自ら仕入れ、自宅でさばくどころか握りの練習にまで挑戦しているというツワモノだ。

鮨の魅力は「ひと口で幸せになれる料理であること」、そして食べる際に最も大切にしているのは「職人や料理人への礼節」と語る大谷。そんな究極の鮨通が本記事での対談を熱望したのが、銀座『鮨處やまだ』の店主・山田裕介さんだ。


前編はこちら

後編では、「ずっと残り続ける料理であること」「料理は、その土地の風をまとう」をお届けします。

大切なのは…「ずっと残り続ける料理であること」


おいしんぐ!編集部

大谷:常に新作を出し続けるという、山田さんのイマジネーションの源はどこにあるのでしょうか。

山田:まず前提として、ぼくが新作を出すときに決めているのは「ずっと残り続ける料理であること」です。びっくりするようなおいしい料理を単発で作ることなら、実はけっこう簡単なんですよ。

大谷:この頃ちょくちょく見るトリュフやキャビアを使ったお鮨や和食が、まさにそうですよね。

山田:そう。衝撃力があるし、いわゆるインスタ映えもするわけです。でも、それは永遠に続くおいしいものではないし、毎回食べたいものでもないんですよ。そのときだけおいしくて、あとは飽きてしまうようなお鮨は、ぼくは作りません。

大谷:そこが、山田さんのお鮨が創作鮨になっていないスゴさなんですよね。創作色はあるけれども、ゴテゴテしたものになっていない。その塩梅と見極めが素晴らしいです。

山田:新作が生まれるときのひらめきって、毎日の鍛錬があるからこそ出てくるものなんです。毎日同じことを繰り返しながら、あるときハッと何かに気づく。その気づきが表に出てきて、ひらめきとなる。そのひらめきから、ずっと残る鮨が生まれる……そんな気がしています。だから鍛錬し続けなければ、ひらめきは出てこない。


おいしんぐ!編集部

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大ぶりで、店のアイコン的存在でもあるコハダ。包丁の入れ方ひとつで、歯切れよく香りを分散させている


おいしんぐ!編集部

おいしんぐ!編集部甘エビはタタキにすることで、甘みが瞬間的に舌へ伝わるのだという。豊かな甘みがありながらも、シャリの酸味とのバランスが絶妙
 
編集部:山田さんがあくまでもお鮨を大切にしている理由、おつまみ(お刺身)を出さない理由は、どのようなお考えからでしょうか?

山田:お鮨は、生の魚を最大限おいしくする技術なんです。その技術を使うことで魚の表情をより引き出すことができます。刺身がおいしくないとは言いませんが、せっかくお鮨を食べに来ていただいているのだから、つまみでお腹いっぱいになる必要はないと、ぼくは思っています。

大谷:ぼくもそう思います。山田さんのお鮨はシャリも小さめなので、15貫出てきても最後まで楽しめるのも嬉しいです。


おいしんぐ!編集部

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赤酢を用いながら味わいを優しくまとめ、硬派な硬さのシャリ

山田:15貫で小さなお茶碗1杯分ぐらいになるようにしています。ぼくの考えるシャリの役割はエレキベースでいうアンプみたいなもの。つまり魚のおいしさを増幅させるものなんです。だからこそ、タネによってシャリの大きさは細かく変えながら、親和性を上げています。

編集部:山田さんのされていることすべてに、思いや意図があるのですね。


おいしんぐ!編集部

山田:15貫の中にマグロもウニも穴子も出てきませんしね。鮨界のトップスターを排除してますから(笑)。

大谷:普通のお鮨屋じゃありえませんね(笑)。

山田:当たり前を当たり前にしない、というのがぼくの考え方です。

 

料理は、その土地の風をまとう


味、香り、温度、食感すべてを絶妙にコントロールした熟成鮨も『鮨處やまだ』の魅力。こちらは20日ねかせたマカジキ。脂のうまみと酸味が混じり合い、マカジキらしい爽やかさが生み出されている おいしんぐ!編集部

大谷:本来であればマグロが弱い2月〜5月頃に山田さんがマカジキを出していらっしゃるのは、江戸前古来の発想ですよね。また江戸前のタネでなくとも、地方ならではの魚に江戸前仕事を施されたり。そういうところもいいなと思っています。

山田:料理は、その土地の風をまとうんです。たとえばソーキそばやお好み焼きを東京で食べてもおいしくないじゃないですか。あれは、お料理がその土地その土地の風をまとっているからなんです。

編集部:「風をまとう」とは、素敵な表現ですね。そしてとてもイメージしやすいです。


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手渡しで出される温かな煮牡蠣。グラスで沿えられた牡蠣の煮汁を飲むことでシャリが煮汁を吸い、牡蠣の香りが口の中で増幅される

山田:お鮨は、東京の風に合っている食べ物です。だからその風を感じていただくことは、すごく大事だと思うんです。

大谷:ぼくも地方で食べるお鮨は、使用する魚種に郷土性がある鮨だけにしています。地方で食べる完全な江戸前鮨(全てのタネが東京と同じ鮨)は、どうも……

山田:それは、風をまとっていないからです。郷土性のある鮨は風をまとっているから、おいしい。

大谷:非常におもしろいです。お鮨をいただきながら、こうした山田さんの名言を聞けるというのも、ここへ通う楽しみなんです(笑)。常に自分の好きなことを突き詰めながら進んでいらっしゃる山田さんですが、今後はどのような方向を目指していきたいとお考えですか?

山田:お鮨がおいしいものだということを、いろんな世代の人に知ってほしいと思っています。ぼくの店では値上げはしません。なぜなら若い人や回転寿司しか知らない人たちに食べに来ていただいからです。少しずつでも、鮨の裾野を広げる活動ができたらと思っています。


おいしんぐ!編集部

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大谷:素晴らしいことだと思います。3万円以上するお店もある中、おいしいお鮨が15貫で1万円ですから、大学生のデートなどでも奮発すれば来られますしね。

山田:だからこそぼくのお鮨は、やっていることはマニアックだけれど、食べ味は大衆的な感じから外れないようにしています。

大谷:まさにそのとおりだと、ぼくも思います。山田さんのお鮨はひとことでいうと「誰でもおいしいと感じる鮨」なんです。


おいしんぐ!編集部

では、最後に…。
山田さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

「おいしい」は、相手を笑顔にするもの。おいしいことによって、心がほぐれる。心がほぐれて、笑顔になる。その笑顔を見て、ぼくは「この方はおいしく召し上がったんだな」と思う……それがぼくの考える「おいしい」ですね。


「全国にあるおいしい魚をたくさんの人に知ってほしい」と語る山田さん おいしんぐ!編集部

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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