食卓を楽しくする”器と食の美味しい関係”

「有田焼と食材」を追いかける器旅<前編>

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「有田焼と食材」を追いかける器旅<前編>

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日本でも有数の知名度を誇る磁器の一つ有田焼。透明感のある肌と、多彩な文様、美しい紺色の世界が広がる染付など、今も日本人の心をとらえて離しません。芸術性の高い器や壺も魅力的ですが、もとは人々の生活に根差した器。その一番の活用法は「食器」といえるかもしれません。食器は料理を引き立てる、美食には欠かせないもう一つの主役。

今回は磁器の町「有田」を中心に、器と食の魅力を追いかける旅をしてきました。

好みの器で1杯のコーヒーを。


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有田町中心部に向かう町の入り口にあるギャラリー有田は、旅の最初に訪れたいお店。扉を開けると出迎えてくれるのは、整然と並んだ2000を超えるコーヒーカップ。この中から気に入ったものを選び、コーヒーをいただくことができる。デザインはもちろん、質感も異なるコーヒーカップは、有田焼の幅の広さを一目で教えてくれる。


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この日選んだのは染錦のコーヒーカップ。紅と紺のコントラストが映える、華のあるデザインのもの。金のチェック柄がどことなくヨーロッパを思わせる。この器に注がれる、氷温熟成された豆を使用したコーヒーは、程よい苦みと爽やかな酸味でキレのある1杯。お気に入りのカップとコーヒーでゆったりとした時間が過ぎていく。後ろに映っているのは、一緒にいただくスイーツ、「ごどうふ黒蜜きな粉」の入った器。こちらも、もちろん有田焼。フタを開ける前から期待感が高まる。


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フタを開けると、大振りにカットされた、ごどうふとたっぷりのきな粉。これに黒蜜をまんべんなくかけていただく。 ごどうふは有田の名物の一つで豆乳にくず粉を混ぜて固めた豆腐。


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プリンのように滑らかで、ムッチリとした独特の食感は、普通の豆腐とは全く別物。豆乳の香りはあまり強くなくクセのない味わいは、豆腐好きはもちろん、豆腐スイーツは少し苦手という人でも美味しくいただくことができる。因みにごどうふはスイーツだけでなく、おかずとして食べても美味。生姜を効かせたごまだれで食べるごどうふは、冷ややっことはまた違う美味しさ。

ギャラリー有田

 

シンプルモダンを追求した有田焼


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「アリタポーセリンラボ旗艦店」は、現代的なデザインの有田焼を制作している。古典的な文様に色数を抑えて表現することが特徴的で、現代にマッチする器を提案している。右側がいわゆる古典的な有田焼で、同じ図柄を3色で表現したものが左側になる。色数を抑えることで、全体がスッキリとまとまり、洗練された印象になることがよくわかる。


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同じ文様も、色を変えるだけで多彩な表情を見せる。有田ポーセリンラボでは、春夏秋冬の色をそれぞれ定めており、色の変化で日本ならではの季節感を表現している。色のバリエーションは増えても、文様の型紙は昔のものをそのまま使用。文様はそれぞれに意味があり、各窯元で独自デザインを持っている。そのため、海外で見かけても職人なら自分の窯のものがわかるとか…。


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何重にも描く細い線も有田では手書き。他産地では機械に置き換わってしまい途絶えつつある技も有田ではしっかりと継承されている。機械化が進んだ現代でも、最後の微調整は職人の手で行うこだわり。職人の手による、少量多品種生産だからこそ可能な技術が今でも有田にはある。次へと繋げるため、変えるべきものは変え、残すべきものは残すというスタンスで一本芯が通っている。


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伝統を守るために、新しいことに挑戦し続ける有田ポーセリンラボ。モダンなデザインの中に宿る職人の技は、次の有田100年を感じさせる耐えることのない情熱を感じさせる。

アリタポーセリンラボ旗艦店

 

有田の磁器を活かした料理を提供する「日本料理 保名」


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有田駅から徒歩数分のところになる「日本料理 保名」は創業50年を超える老舗の日本料理店。ギャラリーや茶室も備えられており、風格を感じさせる佇まい。


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ご主人が集めた、アンティークの器も展示されています。いずれもかつて伊万里の港からヨーロッパへと旅立ち、再び日本へ帰ってきたもの。輸出用を、アレンジされた独特のタッチが印象的。


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おすすめのお料理は、お昼限定の陶箱弁当。フタに描かれた文様はすべて「寿」という文字の変形書体。焼く過程で大きさが縮んでしまう陶器は、蓋つきのものを作ることが難しく、特に四角い形は角の部分の処理の難易度が高いそう。保名の陶箱は、2重、3重に重ねられるほど精度が高く、有田の職人技を感じることができる。


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蓋をパカリと開ければ、旬の食材がぎっしりと品よく収まっている。なんと21種類もの料理が入っていまました。その他にもお造りや、椀物、混ぜご飯、ごどうふも付いてお値段は2500円。一品、一品丁寧に作られた料理と、ご主人が毎日買い付けてくる魚介のクオリティも高く、非常に満足度の高いお食事に仕上がっている。

日本料理 保名

 

佐賀の食を語るうえで重要な「佐賀牛」


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西有田地区では昔から畜産が営まれており、佐賀牛の生産拠点の一つとなっている。案内してくださったのは、福野畜産の福野隆繁さん。佐賀牛の肥育農家で、約220頭を飼育している。有田地域で育てられている牛はもともと「葉隠れ牛」と呼ばれていましたが、葉隠れ牛のみでは安定した供給が難しいため、30年ほど前に佐賀牛に一本化され今に至る。

佐賀牛とブランドされる肉は、BMSと呼ばれるサシの入り方の指標が7以上(A5等級もしくはA4の最上級)と厳密に定められており、その品質を担保している。昔は3割ぐらいしか格付けされなかったが、生産者の努力により今では5割ぐらいは佐賀牛として認定されている。


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牛の肥育はとても繊細。暑さに弱い牛のために、こまめな温度管理で寒暖差を少なくし、ストレスのない環境に整えている。牛舎を清潔に保ち、病気を予防することも重要な作業。日々丁寧に牛の世話をしていくと、自然と肉質の状態などもわかってくるそうだ。


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エサは1頭当たり、1日約10kg。専用の配合飼料のほかに、佐賀県産の稲わらも活用している。稲わらを食べて大きく育ち、その過程で出る糞はたい肥となって、田畑で次の作物の糧となるサイクルが出来上がっている。


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和牛の人気は国内だけでなく、海外までも広がり、佐賀牛もアメリカや香港へと輸出されている。高まる人気の一方で、飼料の高騰や、肉の部位の人気が偏ることなど、課題は山積。とくに生産者が減少の一途を辿っていることが目下の大きな悩みだそう。誇りをもってできる面白い仕事だから、新しい後継者を育てたい。それが次の目標と福野さんは語ってくれた。

福野畜産

 

郷土料理「ごどうふ」を作り続ける高島豆腐店


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高島豆腐店では戦前から有田で豆腐をつくり続けている。昭和60年頃までは法要の時ぐらいにしか出てこない精進料理としての位置づけだったが、その後スーパーなどの物流網が整い日常食へとなっていったという。なので郷土料理という設定は後付けだとか。今では、有田エリアのスーパーや飲食店で置いていないお店は無いというほど生活に根付いている。


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ごどうふはすべて手作り。豆乳とくず粉を秘伝の配合で混ぜ合わせ、時間をかけて練り上げる。くず粉が入った豆乳は粘りがあり、混ぜるのは大変な力作業。ごどうふ独特の固さは、お店ごとに個性があり、その硬さの感覚を体で覚えこむのだそう。原料は家庭でも作れるものですが、配合の塩梅や練り上げの作業の大変さから、有田の奥様方もお店で買われることが大半だとか。


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型に流し込んで冷やし固めれば完成。均等に切ってパックに詰めていく。 やわらかく、ぷるんぷるんと逃げるごどうふを型を崩さないよう、水気を切って詰めるのも技術のいる仕事。 一見当たり前の作業にも職人の技が光る。ごどうふ以外に、普通のお豆腐はもちろん、油揚げや厚揚げなども製造している。


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店舗限定商品として、黒蜜ごどうふも。地元の高校生がデザインしたパッケージデザインは有田焼の文様を取り入れた有田らしさあふれるお土産。 ごどうふは美味しく食べられる時間が非常に短く、時間がたつほど固くなってしまう。

賞味期限は、わずかに製造から4日。もっちりぷるるんとした魅惑の食感を味わうには、有田や武雄のお店でいただくのが一番。決して派手で目立つ料理ではないけれど、次の100年もいつも生活の傍らにある名物料理として残していきたい逸品。

高島豆腐店 山内工場

中編に続く。

 

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