究極の地産地消を目指して

「料理で表現する郷土愛」オステリア エノテカ ダ・サスィーノ 笹森通彰さん

インタビュー
青森県
弘前市
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イタリア料理
中央弘前駅
弘南鉄道大鰐線
料理人インタビュー
「料理で表現する郷土愛」オステリア エノテカ ダ・サスィーノ 笹森通彰さん

おいしんぐ!編集部
青森県・弘前市で孤高の挑戦を続けるシェフがいる。地物の食材を用いるだけでなく、自身の手で畑を耕し、種をまき、野菜やハーブを育てて使う。さらには生ハム、チーズに留まらず、ワインまで醸造する料理人。テロワールと向き合う、そのシェフこそ、「オステリア エノテカ ダ・サスィーノ」の笹森通彰さんだ。

思い描いてきたイタリアでみてきた「自給自足のレストラン」


おいしんぐ!編集部
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笹森さんは20歳でイタリア料理の道に入り、仙台で調理技術を身につけ、東京の一流店で経験を積み、イタリアでは生ハムなどを手作りする店で修業し、30歳の時に故郷の弘前へ帰りイタリア料理店「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」をオープンさせた。当初から独立後に頭に思い描いていたお店の形は、イタリアでみてきた「自給自足のレストラン」。

お店を畑ありきで始めるため、実家に隣接する田畑を祖父母から譲り受け、野菜の苗や果物の木を植えた。自家農園で獲れる食材以外は、なるべく近隣の生産者のものを選ぶ。そしてその土地にしかない料理を作ることが笹森さんのスタイルである。
 

孤高の料理人「笹森シェフ」の世界観

笹森さんの案内で自家農園とブドウ畑を訪問し、野菜とワインについて教えてもらった。


おいしんぐ!編集部
笹森さんの自家農園おいしんぐ!編集部


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「店をオープンする前から、イタリアから持ち帰った種で作物を栽培している」と、笹森さん。

樹木は柿に留まらずアーモンドまで育てており、その幅の広さに驚いた。そして、ひとたびいただいてみると、味わいに存在感がある。野菜やハーブも力強い風味を放つのだ。弘前の土に育まれた野趣のある野菜といえる。


天気が良ければ岩木山が見える、笹森さん所有のブドウ畑 おいしんぐ!編集部

ワイン畑は1ヘクタールにも及び、最高収穫量はワインボトルで換算すると4,000本。

もちろん、ここまで広大だと自然の影響が大きくなり、思うようにいかない側面もあるだろう。だが、笹森さんは試行錯誤を繰り返し、理想の味を探求している。都会に流通する一級品の食材を用いたレストランも魅力的だ。しかし、食材作りから徹底している笹森さんのお店には、敢えて現地に赴いていただく魅力がある。

青森で伺うべき価値ある、貴重な一軒である事は間違いない。


ワイン用のブドウ栽培は2006年にスタート おいしんぐ!編集部
「口に入れて、身体が無条件に反応する料理を目指している。食材のストーリーは二の次で、ストーリーありきでは駄目だ」という笹森さんの言葉が印象的だった…。ストーリーに満ちた食材を作っているのに、ストイックに“味”を探求する姿勢の表れだ。

実際料理をいただいてみると、シンプルなのに力強く、「美味しい」という実感とともに、「青森の味」を感じることができる。


おいしんぐ!編集部
 
自家農園の後は、笹森さんがオーナー・シェフを務める、「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」に伺った。
 

「オステリア エノテカ ダ・サスィーノ」での濃密な食体験

今回いただいたコースは、夜の8,000円コースと自家醸造ワインのペアリング。自家製チーズの盛り合わせを追加したものの、ベースのコースだけでも凄い満足度。

自家醸造ワインのペアリング


自家製シードル おいしんぐ!編集部
香りがとても良く、リンゴの甘美な風味と甘みが広がる。それでいて飲み口は力強く完成度の高いシードル。


サスィーノ・ビアンコ2017 おいしんぐ!編集部
土っぽい野趣…そして、キレのある味わい。苦味が走り、軽やかな甘みがこみ上げる。

ヒロサキネッビオーロ2016おいしんぐ!編集部
跳躍するかのようなタンニン、スッキリした赤である。

コース料理

 
おいしんぐ!編集部
鯵ヶ沢ジャージー種のブッラータ、自家菜園のバジル、ナスタチウムブッラータはミルクの味が強い。野菜は実に味わい深く、野菜の味覚と香りでプレートが完成している。


自家製生ハムとハムの盛り合わせおいしんぐ!編集部
自家製ハム、鴨肉の生ハム、ピスタチオ入りモルタデッラ、奥入瀬ガーリックポークのプロシュート、豚ほほ肉のペースト、青森県産メロン。全て完成度が高く、味わい深い。自家製の生ハムは野趣と繊細な口どけが印象的だ。

豚ほほ肉のペーストは肉の繊維質の食感がありつつ、口どけが良く二重奏を奏でる。ハーブの香り、胡椒の効かせ方なども魅力。鴨の生ハムも面白い。旨味が強く、最後に広がる血の味わいに時間差の妙があり、夏でも「鴨らしさ」をしっかりと楽しませてくれた。


穴子の炭火焼き、自家製ハーブとエディブルフラワーを添えて おいしんぐ!編集部
「これだけ三陸産で…」と笹森さん。謙虚かつ真摯なコメント(笑)。穴子の香りは極めて雄々しく、肉厚で旨味が強い。食感はぶるんぶるんで歯応えが嬉しいものの、脂がしっかり。そして、パワフルな穴子にはバルサミコを軽く用い、ハーブを効果的に配してバランスを取られている。


自家製パン おいしんぐ!編集部
胡桃、トマト、フェンネル、無花果と種類豊富。ともに酒肴になるくらいの味わいで、全て製法と塩気が違うのが楽しい。

フォカッチャ、シャモロックのレバームース、ムール貝の泡 おいしんぐ!編集部
濃厚なレバーもさる事ながら、泡に満ちたムール貝の旨味に驚く。


七戸金子ファーム産牛肉のビステッカ おいしんぐ!編集部
部位はサーロイン、自家農園野菜、土に見立てたパウダーを添えて。

肉は脂の旨味と甘みが強いが、赤身の繊維と酸味もあり、噛み締める喜びに満ちている。表面はビステッカらしく、きっちりカリッと爽快な食感。添えられたルッコラは濃厚な香りと苦みが堪らない。ソースは赤ワインを用いているが、スッキリ目に仕上げている。
  

記憶に強く残った2種類のパスタ


ズワイガニと田子産黒ニンニクのスパゲティ おいしんぐ!編集部
これは白眉であり、記憶に強く残るパスタであった。黒ニンニクの“フルーティさ”を活かしきっており、カニの強い旨味と甘み、ドライトマトの酸味が見事に調和している。

カニ味噌も使用している為に濃厚な味わいを楽しめる。提供温度帯は結構低めであり、更に冷製なのに太麺と言う点も面白い。塩分も油分も申し分ない。


嶽きみのピュレのラヴィオリ、イタリアのサマートリュフ、ビーツピュレ おいしんぐ!編集部
嶽きみは岩木山産。とにかく嶽きみの甘みに驚く。ビーツを軽く超え、とうもろこしの風味と共に笑顔がこぼれる。

ビーツのピュレには軽い酸味を付け、バランスを取られている一品。
 

最後まで抜かりがない、おもてなしの心意気


自家製のチーズ盛り合わせ おいしんぐ!編集部
冒頭のブッラータと同じジャージー種のミルクを使用。イタリア産トリュフを用いたカチョカヴァロから、白カビタイプ、ウォッシュタイプなど幅広い種類で、登場時についつい笑顔が…。トリュフが香るアカシア蜂蜜と共にいただく。


烏骨鶏の卵を使用したティラミス おいしんぐ!編集部
濃密なクリームにエスプレッソを鮮やかに感じさせるスポンジ。キウイのチップスが個性的。

ジェラート おいしんぐ!編集部
フランボワーズを使用したジェラートも美味。


自家製ミントティー おいしんぐ!編集部
ミントの風味がストレートにスッキリ!(記事冒頭写真のミントを使用)

ピッコラ・パスティチェリア おいしんぐ!編集部
濃厚な味わいの生ショコラ、ビスコッティ、ビスコッティ・レジーナ(胡麻)、ココナッツ風味のビスコッティ、酸味があるマシュマロ。

「弘前で食のカンパニリズモ(郷土愛)を表現する」オープン時に掲げたビジョンは、15年経った今でも変わらない。

基幹店・『OSTERIA ENOTECA DA SASINO』に始まり、今は他に、『pizzeria DA SASINO』をオープンされている笹森さん。今後の挑戦も、目が離せない。

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

(photo & text :タベアルキスト Yuya Otani)

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