小さな劇場で過ごす−至福の時間−

若きシェフたちの熱き思い。「イル・テアトリーノ・ダ・サローネ」山口智也さん&北野敏庸さん

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おいしんぐ!編集部
南青山の一角。通りに面する階段を降りた先に「イル・テアトリーノ・ダ・サローネ」はある。イタリア語で「テアトリーノ=小さな劇場」という名のとおり、扉を開け一歩中に入れば、そこは非日常の世界。オペラ劇場内のような煌びやかな雰囲気と落ち着いた和のテイストを持ち合わせた、洗練された空間が広がっている。

こちらは横浜、南青山、渋谷、茅場町、日比谷、大阪でイタリアンレストランを展開する「サローネグループ」の一軒。いずれもイタリアの郷土料理をベースにシェフたちの感性で巧みにアレンジしたメニューで楽しませてくれる。料理やワイン、空間やサービスはもちろんのこと、シェフやソムリエ、スタッフの魅力に惹き付けられ、食通たちが足を運ぶ店としても知られている。


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※SALONE 2007(横浜)、IL TEATRINO DA SALONE(南青山)、biodinamico(渋谷)、L’ottocento(茅場町)、SALONE TOKYO(日比谷)、QUINTOCANTO(大阪)

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独創的かつ繊細な料理を生み出す2人のシェフ


山口智也シェフ おいしんぐ!編集部

北野敏庸シェフ おいしんぐ!編集部

「イル・テアトリーノ・ダ・サローネ」のメニューは、昼夜共通の月替わりコースのみ(昼8,500円、夜12,000円/税・サービス料別)。その料理を手がけるのが若きふたりのシェフ、山口智也さんと北野敏庸さんだ。毎月、1カ月前から季節に応じたメニューを考案し、試作を重ねながらコースとして最高のプレゼンテーションを目指していくという。独創的かつ繊細な料理は、どのようにして生まれるのか。10月のコースの中から1品ずつ出していただきながら、話をお聞きした。
 

北イタリアでの体験から生まれた、心温まるスープ

まずは、山口シェフの一品、トルテッリーニ・イン・ブロードから。こちらは、コースメニューの最後(デザートの前)に出てくる〆の一品。月ごとに変わるコースメニューの中でも、これだけは毎月変わらないというまさに定番的存在だ。

おいしんぐ!編集部

ーートルテッリーニ・イン・ブロードとは、どのようなお料理なのでしょうか。

山口: 4種の肉から12時間かけて煮出したスープに、トリュフやリコッタチーズの入ったラヴィオリを浮かべました。お猪口にスープを注いでいただき、直接口をつけてお召し上がりいただきます。顔を器に近づけることにより、トリュフの香りをより深く感じていただけると思います。

ーー器も、まるで日本酒を楽しむような酒器のような形ですね。

山口: はい。実は、この料理のためにオーダーメイドで作っていただいたものなんです。ぼくたちは「イタリアらしさ」を感じていただきたいという思いから、必ず現地の郷土料理をベースにしていますし、日本にしかない食材はほぼ使いません。一方、インテリアやテーブルウエアは日本らしいイメージのものになっているので、イタリアらしい料理と日本的なプレゼンテーションをお楽しみいただきたいなと思っています。


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ーーこのお料理のベースは、どんな郷土料理なのでしょうか?

山口: ぼくが以前働いていた北イタリアのピエモンテに、「ボリート・ミスト」という、おでんのような、ポトフのようなメイン料理があるんです。その肉や野菜を食べ終えたあとに、スープの煮汁にラヴィオリを浮かべて食べたりもするんですね。これは、ボリート・ミストをぼくが初めて食べたときの体験がもとになっているんです。

ーーどのような体験だったのですか?

山口: イタリアで働こうと、初めてピエモンテを訪れたのが25歳の冬でした。寒いし、まだイタリア語もできないし、これから始まる仕事への不安もあって…。そんなときに入ったカジュアルなトラットリアで、「日本から料理の勉強に来たんだ」みたいな話をしていたら、お店の人が最後にその料理を出してくれたんです。「ラヴィオリはサービスだよ。食べなよ!」って。寒さと、新しい生活や仕事のことでどこか緊張していたんですけど、その温かいスープを飲んだときに、気持ちが緩んで、ほっと落ち着いたんですね。

温かい汁ものといえば、日本料理の最後に出てくるものでもありますし、どこか日本的だなとも思いました。コース料理の「メイン」にはなりえませんが、最後にほっとする「〆のひと皿」としてはぴったりだなと。季節や、前に出てくるお肉料理の味に合わせて、お客様が気がつかない程度に微妙な調整はしていますけれど、「年間を通してこれだけはずっと出る」という定番の料理なんです。

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口の中でイタリアを縦断する、楽しさ溢れるリゾット

続いて、もうひとりのシェフ、北野さんが手がける一品。高さのある透明な器に美しく収められた、海の幸ハマグリと山の幸マッシュルームのリゾットだ(※10月のコースメニューより)。 そしてこの料理には、食べ進めるごとに味が変わる仕掛けが…。

おいしんぐ!編集部

ーーこちらは、どのようなお料理なのでしょうか?

北野: イタリアでは「モンテ(=山)マーレ(=海)」といって、山の幸と海の幸を合わせる料理がよくあるんですね。なので、今回はそのリゾットを作ってみました。一番上にはマッシュルームやレモン、タイムがのっていて、その下に北イタリアのチーズやバターを使った濃厚なリゾットが、そして真ん中のほうにハマグリが、一番下には青唐辛子やバジルを使ったハリッサソースが入っています。

辛いハリッサソースは、もともとアフリカの方から来たもので、シチリアなど南イタリアでよく食べられているんです。だから、このリゾットは上から下へ向かうほど、北イタリアから南イタリアの味へと徐々に変化していく…そんなイメージで作りました。


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ーーこの一皿で、イタリアを旅する気分になれるのですね。北野シェフは、スパイスやハーブなども、よくお使いになるんですか?

北野: はい、けっこう使いますね。食べる前にまず「香り」がくることで、食べたときにより多くのことを感じられるんじゃないかなと思うんです。深めのお皿や大きいお皿など、溜まり状になっていて香りがより立ちやすい器も、よく使います。

 

「ダブルシェフ」だからこそできること

おいしんぐ!編集部

ーーおふたりが料理を作る上で、大事にしていることを教えてください。

山口: 料理と一緒に「ストーリー」を味わっていただくことを大切にしています。同じ料理でも、「あ、おいしいね」だけで終わるのでなく、「何これ! 食べたことない!」と、いかに心に残るものにできるか…。そのために、一品ずつ、さきほどのスープの話のように、ストーリーもご説明させていただいています。

そうするとお客様からもリアクションをいただけますし、ご質問をいただくこともありますし。たまに話が盛り上がりすぎてしまい、キッチンから「そろそろ戻ってください」と声がかかることもあります(笑)。

北野: お客様から返ってくる反応は、とても大切ですね。うちのお店では、コースの最後に「今日一番よかったお料理は何でしたか?」と、必ずお客様にお聞きし、それを記録しているんです。それによって、それぞれの方の好みもわかりますし、自分が作る次の日の料理や、次の月の料理に活きてくることもあります。

また、人間ですから、その日の体調によって塩分や味付けが微妙に変わったりすることがあります。だからぼくらは毎日、お互いに味見やチェックをしあって、気をつけていますね。だから、ふたりともあまり、まかないは食べないようにしています(笑)。


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ーー「ダブルシェフ」という体制については、どうお考えですか?

山口: サローネグループの「ダブルシェフ」というスタイルは、イベントなどでよくあるような「ふたりのシェフによるコラボレーションメニュー」というかたちとは、少し違うものだと思っています。それぞれのシェフが自分の主張を押し出しながら、料理を並べていくというスタイルは、一夜限りのイベントとしては面白いと思うのですが、毎月、しかもコース料理でとなると、ひとつのコースとしての流れが悪くなり、時間の経過を楽しんでいただくものにはならないんですよね。

幸いにもぼくらは20~30代で経験も少ないので、自分の主張をどうしても通したいということもありません。作った料理にお互い意見をしあって、取り入れあっています。最近は常連のお客さまからも、北野と山口のどっちが作った料理かわからない、と言われることが多いんです。わからないということは、コースとしての統一がとれているということでもありますよね。それに、お互い「自分だったらやらないな」という料理もあるので、それがおもしろいです。

北野: 昨年までは渋谷の店舗でひとりでシェフをやっていたのですが、そのときよりも考える際の幅が広がったと思います。ぼくはイタリアを訪れたことはありますが働いた経験はありませんし、まだまだ自分が知らないこともたくさんあるので、山口さんやまわりの方に話を聞いて、そこから料理を発想したりすることも多いですね。

毎月の新しい料理を考えるときも、意見を言い合って、つねに聞いたり聞かれたりの繰り返しでやっています。バックグラウンドも性格も違いますが、けっこう、お互いすぐに意見を受け入れるほうかもしれません。「こうすれば?」「じゃあそうしよう!」という感じで…(笑)。

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では、最後に…。
おふたりにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

山口: おいしいとは「楽しいこと」。ぼくは「おいしかった」と言っていただくよりも、「楽しかった」と言われるほうが嬉しいんです。お店に来て、食事をして、お帰りになるまでの「時間」をお客様からお預かりしているわけなので、その時間を最大限に楽しんでいただけるようなレストランでありたい、といつも思っています。

北野: ぼくにとっておいしいとは「発見」ですね。料理を作り、お客様と話しながら、日々いろんな発見がありますし、お客様の反応を見ながら自分の料理もどんどん変わっていきます。つねに「発見」をしながら、次の料理の「おいしさ」のために活かしていきたいです。

おいしんぐ!編集部

(左):山口智也さん。1987年生まれ、広島県出身。辻調理師専門学校、辻調理技術研究所を経て、大阪『ポンテベッキオ』にて勤務。25歳で渡伊。帰国後、中目黒『リストランテ カッシーナカナミッラ』を経てサローネグループに入社。2017年より同店シェフに就任した。

(右):北野敏庸さん。1991年生まれ、兵庫県出身。辻調理専門学校を卒業後、京都『リストランテキメラ』を経て、サローネグループに入社。2018年より同店シェフに就任した。

洗練された空間が広がる店内

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2~3時間という食事の時間をより快適に楽しめるよう、カウンター席、テーブル席ともに、背もたれのあるしっかりとした椅子が選ばれている。

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ガラスと木材を組み合わせたテーブルをはじめ、テーブルセットには木や石などの素材が用いられている。真鍮でできた薔薇は、オーダーメイドで作ったもの。

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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