庄内の伝統野菜の魅力に迫る

“だだちゃ豆の奥深き世界” 石塚農園「治五左エ門」・石塚寛一さん

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おいしんぐ!編集部

東北地方の中でも食のレベルが高いといわれる庄内。その理由のひとつが、庄内平野の恩恵を受けおいしく育つさまざまな農作物だ。そこには、地元農家の並々ならない努力と研究心、そして何より農作物への深い愛がある。

「治五左エ門」の屋号で鶴岡産だだちゃ豆を代々守り続けてきた「石塚農園」もそんな研究熱心な農家のひとつだ。「だだちゃ豆」とは、外来種とかけあわせ品種改良した枝豆と違い、この辺りの地域で昔から収穫されてきた在来種の伝統野菜。甘み、香り、うまみすべてにおいて、通常の枝豆とはひと味もふた味も違う。だからこそ石塚農園では丁寧な自家採種によって良質な遺伝子を受け継いできた。

いま、だだちゃ豆作りの最前線で生産者たちが目指していることとは——。鶴岡市大泉地区におよそ10ヘクタールの畑を持つ、15代目の石塚寛一さんのもとを訪ねた。

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石塚さんのだだちゃ豆畑。山形県鶴岡市は、月山、鳥海山、金峰山に囲まれた平野で古くから米どころとして栄えてきた。だだちゃ豆の種は通常のえだ豆と比べてシワがあるのが特徴。糖度が高く、良質な遺伝子を持っている種を代々選別されてきた反面、種としてはカビやすく、発芽の確立も50%未満と栽培が難しいのだそう。「これがおいしいから、と効率が悪いことをわざわざやってきたんですね」と石塚さん。

 

庄内地方の食卓に欠かせないソウルフード

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——庄内の名産品として知られる「だだちゃ豆」ですが、そもそもどんな枝豆なのでしょうか?

石塚:特徴は何と言っても、香りがよく、甘みが強く、旨みがあることですね。私も日本全国の枝豆をいろいろ食べてきましたが、ここまで特徴のあるものは他にないと思っています。食べごろは7月中旬から9月の中旬まで。民田ナス、藤沢カブなどと並ぶ在来野菜で、昔からこの地域では夏になると必ず食べる野菜です。

少しマニアックな話になりますが、そもそも大豆になる前の若サヤの状態で食べるのが枝豆です。枝豆の時点では緑色なのですが、さらに時間をおいて大豆の状態で見たときに被子が茶色くなるものが茶豆、黒いものが黒豆、青いものが青豆と、大きく分けると3種類あり、だだちゃ豆は茶豆系に分類されます。そして新潟や山形などに在来する茶豆の中で、この地域に残っているのがだだちゃ豆です。


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——在来種ということですが、発祥はいつぐらいなのでしょうか?

石塚:かなり昔から食べられていたと思います。ただ「だだちゃ豆」と呼ばれるようになったのは比較的最近…とはいえ140年くらい前だと言われていますね。「だだちゃ」とは庄内地方の方言でおじさん、おやじ、お父さんという意味があります。その昔、庄内藩主酒井の殿様が「あのだだちゃが作った豆が食べたい」などと言ったことから「だだちゃ豆」と呼ばれるようになったという説が有力です。

もともとこの辺りは米作りの水田で、田んぼと田んぼの間のあぜ道を活用して大豆を植えていました。その大豆は家庭で、味噌などに使っていたそうです。田んぼは男の仕事、畑は女の仕事というのが一般的だったので、豆などの野菜は女性たちが代々作ってきました。美味しい枝豆の種は、村の女性たちが種を交換し合い、この土地に合った良い種が選抜されていった、といわれています。


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——この地域の女性たちによって受け継がれてきたのですね。

石塚:ばばちゃ(おばあちゃん)からががちゃ(お母さん)へ、そしてあねちゃ(若いお嫁さん)へと、それぞれの農家で種の選び方、植え方を伝えてきたといわれています。今でも、枝豆の最盛期となるお盆の時期はどの家庭にも必ずだだちゃ豆がありますし、故郷を離れた娘や息子たちは帰省して家族と食べるのを楽しみにしています。まさに私たちのソウルフードですね。

——だだちゃ豆の中にも、さらに種類があるのですか?

石塚:「小真木だだちゃ」「甘露だだちゃ」「白山だだちゃ」など、この地域では大きく8種類があります。さらに、それぞれの農家さんによって育て方や選別方法が違うので、たとえば同じ「白山だだちゃ」でも、味が農家ごとに違うんです。昔はもっと多くの種類があったようですが、だんだんとおいしい品種のみに淘汰されてきました。

 

20種類を栽培することで得られる、おいしさの最高点

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石塚農園「治五左エ門」15代目の石塚寛一さん。YouTubeで動画を配信するなど、作るだけでなくおいしさを伝えることにも力を入れていきたいと話す。

——では、石塚さんが現在栽培されているのは8種類ですか? 

石塚:実は「白山」と一口に言っても、実際にはもっと細かく分かれています。私が就農したときに、うちの農園には10種類ほどあり、そこから派生した種からできるだけおいしいものや、病気に強いものを選別してきました。いま私が栽培しているのは20種類です。 

——20種類も!すごいですね。

石塚:なぜ20種も作るのか…それは、それぞれのだだちゃ豆のおいしさのピークが数日しかないからです。品種によってベストなタイミングが少しずつずれるので、20種類それぞれの「最高点」を探し出して組み合わせ、いつもおいしいだだちゃ豆を提供できるようにしています。

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4~5月に種を植え、6~9月にだだちゃ豆の収穫を行う。10月には翌年のための種を収穫し、手作業で軒先に吊るして乾燥させ、脱穀する。雪の多い冬の期間は種の選別。カビのものや黒ずんだものなど選別基準から外れるものを取り除いていく。


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——そうすることで、おいしいだだちゃ豆を3カ月の間出し続けられると。

石塚:そうです。パックに入ってスーパーに並んでしまえば、お客さんには同じものと思われてしまいますが…(笑)。でも、だからこそ「治五左エ門」のおいしさがキープできるんです。ただし暑い日が続けばピークがずれますし、同時に3種類を収穫しなければならないときもあります。そういう場合は、泣く泣くどれかを加工品用に回すことになります。そうならないように、いかに収穫していくかが腕の見せどころですね。

——思っていた以上に奥深い世界です。

石塚:全国にある通常の枝豆農家は3~4種類を栽培し、それをひと夏の間収穫しているようですが、この地域では8種類を育て分けるのが普通なんです。

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——「おいしい」を求める意識が高いのですね。

石塚:はい、この辺りの農家さんは、種を選別する能力、畑を見る目も含めてレベルが高いです。それを先祖代々、女性たちが守ってきてくれたんですね。そして、選別の詳細や肥料の素材を含め、だだちゃ豆の種は門外不出で、売り買いもしません。同じ品種ばかり育てていると種が絶えてしまう危険性があるため、信頼できる農家同士で交換したり、入れ替えたりしながら種を維持しています。

——だだちゃ豆の種類によって、おいしさは変わるのでしょうか?

石塚:ワインと一緒で、自然相手ですから年によって味が違うんですね。もちろん、すべていい種を選んで、ベストな時期で収穫していますけれど、もっと細かいレベルでの味の違いについては、収穫してみないとわからないのです。2019年は高温の時期が長く続いたせいか、甘みと旨みはあるけれど香りが例年より少し足りない感じがしました。その原因については、まだまだ研究していかなければ、と。

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——庄内地方の地形が、おいしさに与えている影響もありますか?

石塚:大いにあると思いますよ。日本海からの潤いを含んだ風が流れ込むときは、湿度が高くなり、栽培に適した環境になりますね。逆に、乾燥した内陸部からの風はストレスがかかり枝や葉が弱ってしまいます。とくに夏は朝晩の温度差が大きく、湯尻川の方から這うように朝霧が流れてくるんです。葉に霧吹きをかけたようなミスト状態になり、豆も元気になりますね。毎日そうなるといいのですが、ここ数年は熱帯夜も多く、朝露が降りる日が少なくなってきました。豆も乾燥し、疲れてしまう。温暖化の影響なのか、以前とは状況が変わってきているように感じています。

——品種改良が当たり前という現在の農業において、在来野菜を守る難しさはあるのでしょうか?

石塚:ええ。「在来のだだちゃ豆が、未来の環境に耐えられるか?」という点で課題は多いです。環境が変わってくると、味も変わります。もしかしたら、50年前に食べてられていただだちゃ豆は、今とは違う味だったかもしれませんし。一個人の農家だけじゃなく、地域のみんなで一緒に守っていく仕組みを作れたら、と思っています。

 

畑で起きていることはすべて、一年に一度の事件

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——石塚さんは、ずっとだだちゃ豆の道ひと筋ですか?

石塚:実は、大学を出てから3年間は、食品輸入商社で働いていました。ポテトチップスの原料になるポテトパウダーやオイルなどを輸入する仕事です。

——今と真逆の職種ですね!

石塚:小さい頃から家の畑を手伝ってきましたし、将来は農家になろうと思っていました。ただ、日本の農業をやる上で、その驚異となる輸入のことは知っておかなければ、と。高校・大学では英語を専攻し、在学中にアメリカ留学もしましたが、日本食のおいしさ、もっと言うと鶴岡の野菜や魚のおいしさは、鶴岡を出て初めて知りましたね。もっとこの魅力を外へ広げていくべきだと思いました。

——3年間、サラリーマンをされていたのですね。

石塚:はい。私も農家を始めてまだ18年…1年に1回しか経験できないことなので、だだちゃ豆作りもまだ18回目。ぺーぺーですよね(笑)。とにかく、栽培の技術を得るだけでも難しかったです。10年でモノになるかと思いましたが、それ以上にかかってしまいました。


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——どんなところに苦労されましたか?

石塚:たとえば、以前はどうしてもおいしさのピークを過ぎて味が落ちる「谷」の時期がありました。いまでこそそれぞれの最高点を把握できるようになりましたが、最初の頃は「谷」を避けられず…。お客さんから電話口で「おいしくないよ。これ、本当にだだちゃ豆なの?」と言われるなど、悔しい経験をしました。そのとき、「もっとおいしさを追求していかなければ!」と強く思いましたね。

——電話で直接、感想を言われるとつらいですね…。

石塚:ええ。でも、お客さんも毎年注文してくれていて、うちのだだちゃ豆に期待してくれているからこそ言ってくださるんですよね。うちのおばあちゃんの世代から孫の世代になっても頼み続けてくれる人もいますし、地域も北海道から沖縄までいらっしゃいます。「今年は香りがよかった」とか「昨年のほうが甘かった」とか、そういうところも含めて、楽しんでくださっています。

——そうやってお客さんにも支えられながら、おいしいだだちゃ豆作りをされているんですね。石塚さんが、お客さんに届ける上で大切にしていることは何ですか?

石塚:枝豆って、袋に入っていると全部同じに見えてしまうけど、畑を見ると農家によってそれぞれ違うんですよね。ぼくは、うちの畑の雰囲気を届けたくて、だだちゃ豆を送るとき、箱にチラシを一緒に入れています。こんな畑で採れたものなんだなと思ってもらえると、食べるときの「おいしい」が変わると思うんです。

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——たしかにそうだと思います。今日こうして石塚さんのお話を聞いているだけで、もう「おいしい」ですから。

石塚:実はYouTube「じござえもんチャンネル」も始めたんです。畑の耕耘や、豆の収穫をしているところを少しでも知っていただければと。私たちにとって、畑で起きていることはすべて、一年に一度の事件なんです。大雨が降ったとか、暑い日が続いたとか‥‥。同じことの繰り返しはないですし、そこはおもしろいですね。

【参考】
https://www.youtube.com/channel/UC0yyJY0lgIqSMNTNeb5GoKQ

——今後やりたいことはありますか?

石塚:農家を始めて18年目にして、やっとコツがつかめてきました。だからこそ、次世代の若手農家の人たちがもっと早くかけ上がれるようにしたいんです。それぞれの農家で、さまざまな経験や試行錯誤をしていますが、それを隠すのではなく、これからは共有していかなければと思います。この地域全体を引っ張れるような農家になりたいですし、10年後にはここにもっと人を呼び込みたいですね。「石塚さんのだだちゃ豆が食べたい」もしくは「この地域のだだちゃ豆が食べたいな」と思えるような、仕組み作りをしたいと思っています。


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——具体的なビジョンは、すでにあるのでしょうか?

石塚:まだ実現は遠いかもしれませんが、この間ふと思いついたことがありまして。畑の中にビアガーデンを作って、それぞれのだだちゃ豆に合うビールを出すお店ができたら、おもしろいかなあと。

——とてもいいアイディアだと思います! ちなみに、だだちゃ豆を食べるときに、おいしい食べ方やゆで方というのがあれば教えてください。

石塚:私も鶴岡のだだちゃ豆のおいしい食べ方をまとめようと思ったときがあったのですが、品種によって、年によって、適切な茹で時間は変わりますし、農家によっても茹でてから氷水で冷やす派とそのまま派と…と、多様すぎてまとめきれませんでした(笑)。茹で時間が15秒違うだけで味が変わりますし、茹ですぎると一気に味が落ちてしまうんですよ。

ひとつ大事なのは、鮮度が高いうちに茹でること。収穫後も豆は呼吸をしています。時間をおくと、豆が自分のうまみや甘みを呼吸のために使ってしまうんです。ですから産直やスーパーで買ったら、井戸端会議などせずに早く帰って、茹でてほしい。鮮魚と同じ扱いをしていただきたいです(笑)。

 

では、最後に…。
石塚さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

石塚:そのものの味ももちろんですが、それが育った景色や背景まで含めて楽しんでもらうこと…それがおいしいにつながると思います。私がだだちゃ豆の箱に入れているチラシもそうですが、裏のストーリーを知ることで、おいしいが倍増するんだろうなと。スーパーに並んでいるものを買っただけでは何とも思わなくても、うちの畑を見てから食べてもらえれば、ぜんぜん違うものになると思ういますし、私たちも嬉しいです。YouTubeもそうですし、今回の「おいしんぐ!」の記事もそうですし…景色まで届けることに、今後も力を入れていきたいですね。

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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