「リ・カーリカ」の新しい挑戦(ワイン編)

“無類の料理好き”と “ワインを愛し過ぎる男”が贈る 渾身のコース料理 <Vol.2>「リ・カーリカ」伊藤和道さん、石黒誉久さん

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“無類の料理好き”と “ワインを愛し過ぎる男”が贈る 渾身のコース料理 <Vol.2>「リ・カーリカ」伊藤和道さん、石黒誉久さん

おいしんぐ!編集部

2013年、学芸大学駅の路地裏にオープンした小さなイタリアンレストラン「リ・カーリカ」。開店時のスタッフは、オーナーシェフの堤亮輔さんを入れてたったの3人だった。

料理人と客との距離が近いライブ感ある空間。イタリアの家庭料理を感じさせながらも独創的なスタイルを楽しめる皿の数々。質の高いナチュラルワインのセレクト。“おいしいもの好き”が集まるこの街にあって、店の噂が広まるまでに時間はかからなかった。

2015年に2号店「カンティーナ カーリカ・リ」、17年に3号店「あつあつ リ・カーリカ」、そして20年には4号店「リ・カーリカ ランド」をオープン。全店を束ねる「タバッキ」グループとして社員の数や事業部も拡大し、いまもますます勢いを増している。

その原点でもある1号店の「リ・カーリカ」が、2021年から新しい挑戦を始めた。シェフと店長が代替わりをし、これまでのアラカルトスタイルを変更、「コース料理1本」に絞ったサービスをする。

中心となるのは、仲間うちからも「無類の料理好き」「とにかく好奇心旺盛で研究熱心」と言われるシェフの伊藤和道さん。そして「ワインを愛し過ぎる男」の異名を持つサービスマンであり店長の石黒誉久さん。これまでも系列店で活躍し多くの客を魅了してきた2人がタッグを組んだことにより、ますます他にはないイタリア料理の数々と、ひと皿ひと皿にぴったりとハマるナチュラルワインが楽しめるようになった。

開店から8年目にしてスタートした新しいチャレンジと、そこに込められた思いとは。2人から語られる言葉には、それぞれ料理への愛、ワインへの愛がたっぷりと満ちていた。

※Vol.1ではシェフの伊藤さんのインタビューを、Vol.2は石黒さんのインタビューとなります。


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東急東横線学芸大学駅から徒歩4分。半地下にある隠れ家のようなイタリアンレストラン。店名の「リ・カーリカ」はイタリア語で充電する、チャージするという意味。

カウンター8席、テーブル16席の店内はつねに活気があふれる。目の前でシェフたちの料理を見られるのも嬉しい。

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料理とワインがぶつかって何かが生まれるペアリングを

おいしんぐ!編集部

——2021年から「リ・カーリカ」の料理スタイルがコースに変わりました。石黒さんは料理に合わせるワインをどのように選んでいるのでしょうか。

石黒:試食会で実際に料理を食べながら、どのワインが合うか、ああでもないこうでもないと話しながら決めていきます。

ペアリングに関しては、どっちの個性も消したくないという思いがあります。ワインを飲むことでまた次の料理が食べたくなるという、整うようなペアリングっていうのがよくあるんですけど、ぼくはワインが好きなので、ワインの魅力もしっかり伝えたいんです。ワインの個性が消えてしまうのではなく、両方がぶつかって新しい何かが生まれるようなペアリングを目指しています。


おいしんぐ!編集部
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——「料理をワインがアシストする」ということではないのですね。

石黒:いろんなお店の考え方があると思いますし、「アッビナメント」といわれるような本国イタリアの合わせ方は、そっちのほうが主流かもしれません。ぼく個人的には、お皿とワインの合わせ方にはもっといろんな可能性があっていいんじゃないかなと思っていて、自由な発想でいろいろ合わせたいですね。

——コース料理に合わせるワインは、まず料理ありきで、それに合うワインを選んでいく感じでしょうか?

石黒:もちろんその時、その瞬間に提供したいという飲み頃のワインというのはあります。ですが、いまのところは基本的に料理を先に決めていて、ワイン側からアプローチすることはやっていないですね。というのも、うちは他の店舗もあるので、そういうワインは他の場所で表現することもできるので。


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——8皿それぞれに合わせるだけでなく、コース全体の流れに合わせるという難しさもありますか?

石黒:それはありますね。そのひと皿とワインのマッチングはいいけれど、8皿の流れの中ではあまりにも全部が強い味になってしまうとか、派手すぎるとか……。そうなるとコースとしてはニュアンスが変わってしまうので、そこも考えて組み立てていますね。

ですので、途中で何かフックになるようなものを入れたりもしています。たとえばサワーエールは、違和感なく流れに入れられるんですよ。一度口の中がさっぱりするというか、コースの途中でソルベが出てくるようなニュアンスを出せます。お客さんを飽きさせず「わ、なんか変わったのが来た!」みたいな面白さもあるかなと。

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——アラカルトからコースへとスタイルが変わって、ワインを出す側としてどのような変化がありましたか?

石黒:まず、伊藤シェフがとんでもなくいろんな面白いことをやるんです。ぼくもそれに対応してこれをやってみたら楽しいかなとか、こうするといい混ざり方をするかなとか。そういうところが大変であり、楽しいところですね。

あとは「コースの流れ」とぼくの中で作りたい「ワインの流れ」、そこでのせめぎ合いですね。味としてはいいのかもしれないけど、でも流れを考えたらこっちの方がいいのかも……みたいなせめぎ合いは、よくあります。

——新生「リ・カーリカ」でタッグを組む、伊藤シェフに対しての印象を教えてください。

石黒:「好奇心旺盛な子ども」みたいですね。彼は本当にあらゆることを試すし、試さないと気が済まないんです。間近でそれを一緒に体感できるのは、おいしいものが好きな仲間とし
てすごく楽しいんですよ。そして自分の料理にプライドと愛情をもっていますよね。他のスタッフに作りをまかせることもあるのですが、本当に細かく伝えるので。だからこそうちでは、誰が作っても最高の皿ができるんです。とても信頼しています。

おいしんぐ!編集部

 

ワインのサイドストーリーを伝えたい

おいしんぐ!編集部
店内には、石黒さんが厳選したナチュラルワインがそろう。料理とワインによる最高のペアリングを存分に楽しむことができる。

——「リ・カーリカ」といえばイタリアのナチュラルワインですが、魅力はどんなところにあるのでしょうか?

石黒:ぼく自身が「ワインって最高だな」と思うところは、その土地のミネラルを吸い上げ、文字通りブドウの実として結実して、発酵と熟成を経てワインができるというところなんです。つまり土地の味がはっきり出る。そこまで直接的に反映されるお酒は、ほかにありません。

その魅力を突き詰めていくと、よりナチュラルで、たとえば薬などを使わないほうが、よりその土地らしい味になるわけです。ワインのことを知り、より好きになっていく過程で、だんだんと自分が飲みたいと思うものがナチュラルワインになっていきましたね。

——近年、ナチュラルワインを使う店が増えています。そんな中で「リ・カーリカ」の個性はどこにあるとお考えですか?

石黒:キャッチーなナチュラルワインが広まって、みんなが楽しめるようになったのは素晴らしいことです。一方でワインの文化には歴史があり、ブルゴーニュが大好きだという人がいたり、イタリアのバローロに詳しい方がいたりとさまざまです。「いま流行っているから」という理由で扱うのではなく、大きな歴史の中で捉えて魅力的なナチュラルワインをサーブし、ナチュラルワインの文化をしっかり伝えていけたらいいなと思っています。


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——このお店を訪れたお客さんは、ワインのどんな楽しみ方ができるのでしょう?

石黒:ぼくらが自信をもってセレクトしたワインばかりを置いているので、たとえばおまかせにしてもらっても、すごく楽しめると思います。ペアリングでも、そうでなくても。コースになってちょっと堅苦しくなったのかなと思われる方もいるかもしれませんが、全然そんなことはありません。肩肘張らずにリラックスしてもらえたら、楽しませるのは僕らなので。

——心強いお言葉です。

石黒:ぼくが大事にしているのは、お客さんとの会話です。ワインの味をどう表現したらいいかなんてプロでもなかなか簡単ではないのに、お客さんから引き出すって相当じゃないですか。だから「最初はさっぱりと飲みたいですか?」とか「お昼は何を食べたんですか?」っていう話から入っていって、どれをサーブしようかなって決めたりもします。食事ってただ食べて飲むだけじゃなくて、その場の雰囲気だったり、会話を楽しむのも大事だと思うので。

——ワインが大好きで詳しいお客さんがくることも、またワインをまったく知らないお客さんがくることもありますよね。

石黒:ワイン好きの方と相対するときは話がどうしても長くなっちゃうんですけど、ぼくもそれが楽しいので大歓迎ですね。この品種が、土地が、あの味が、ビンテージがとか……そういう話をしながらサービスできるのはやっぱり醍醐味です。

反対に、まったくワインがわからないという方も大歓迎です。ぼくは音楽が好きなので「どんな曲が好みですか」「どんなアーティストが好きですか」とか、ワインと関係ない質問をしておすすめのワインをお持ちすることもありますね。

おいしんぐ!編集部

——石黒さんならではのアプローチですね。

石黒:あとは、いまがこういう状況なので旅に行けないじゃないですか。ぼくもすごく旅行が好きなので、ワインを出すときに「この土地に行ったら寒くて」とか「こういうおじさんが出てきて」とか、お話することもあります。そういうところでちょっと旅気分を味わってもらえたら嬉しいなと。

ワインって、味だけが魅力ではないと思うんです。そこに関わる人、たとえばワインを輸入するインポーターさんなんかもすごい情熱を持っていて、そういう人たちのストーリーも面白いんですよ。土地の風景、風が強かった、行くのにこれだけ苦労したとか。そういうサイドストーリーがあると、より身近に感じられるかなと思っていますね。

 

魅力的な生産者たちとの出会い

おいしんぐ!編集部

——石黒さんが自信をもってサーブできるいいワインとは、どんなワインですか?

石黒:ひと言でいえば「その年にその場所で育てられた味がするワイン」だと思いますね。たとえば雨が多かった年は味にも反映されてしまうと言われることがありますが、そういうときこそ作り手さんがしっかり考えて作っているので。天候が悪かったから自分のワインがだめになるなんて、絶対思われたくないじゃないですか。

一般的にはいいビンテージじゃない年のものでも、作り手によってはものすごくいい味わいになっているワインもあります。あとは、熟成を経たりしても変わってきますし。ぼくは、悪いビンテージってないんじゃないかなと思っています。

——いま注目しているワインはありますか?

石黒:たとえばこの2本のワインは同じワイナリーのものですが、こっちがお父さんが作ったワインで、こっちは息子さんのもの。土地は同じだけど、代替わりをして作る人が変わっているんです。こういうのも面白いなって。

息子のサシャさんは、最初お父さんに連れられてうちの店に来たときはどこか頼りなくて「ちゃんと継げるのかな」なんて心配していたんですが、代替わりしてぼくらがイタリアを訪れたときには、とても頼もしい人に変身していて、しっかりもてなしてくれました。代を受け継いで責任を持つってこういうことか、と安心しましたね。

おいしんぐ!編集部

——店内にはイタリアの生産者たちのサインも飾られていますが、「リ・カーリカ」では従業員のみなさんで現地のワイナリーを訪れたり、逆に現地の方々が遊びに来たりしていて、生産者との距離が近いですよね。そういった作り手の話を聞けるのも嬉しいです。

石黒:じゃあもうひとつ、ワインの話をしてもいいですか? ぼくは石黒という名前なんですが、このワインがたまたまイタリア語で「石」「黒」って書いてあるんですよ。それを知ってから、すごく親近感がわいちゃって(笑)。さらにタイミングよく、生産者のサビオさんが店に来てくれてつながりが持てたんです。最初に飲んだときは正直あまり好きなタイプの味わいではなかったんですが、なんとかして理解したくなって、シチリアのパンテレリア島まで行きました。

——親近感がわいて、シチリアまで!

石黒:実際に畑を訪れて現地で飲んだら、全然違う味に感じたんです。面白かったのは、料理にミントを大量に使っていたこと。ミントにこのワインを合わせると、すごいハマり方をするんです。日本に帰ってきてからさっそく、同じような合わせ方を試してみたりしました。そこまでしてやっと、このワインの魅力に気づいたという感じでしたね。

おいしんぐ!編集部

——素敵なエピソードですね。このお店を訪れたお客さんには、どんな体験をしてほしいですか?

石黒:ぼくが一番嬉しいのは、「来月はまた全然違う料理とワインがくるわけでしょ? 続きが見てみたい!」と思ってもらうことですね。ここにいっぱい並んでいるワインのうち、一度に数杯しか飲めないわけじゃないですか。だから、もっと知りたいと思ってもらえたら嬉しいし、ワインが好きな人がもっと増えたらいいなと。もっと「リ・カーリカ」を体感したいなって思っていただけるのが理想ですね。

——石黒さんにとってのワインとは、どんな存在なのでしょうか?

石黒:え、ワインとは?……そんな質問がくると思っていなかったな(笑)。ぼくはビールも日本酒もウイスキーも飲みますが、ワインが最高に素敵な酒だと思っています。その土地のミネラルがブドウに結実して、発酵と熟成を経てワインになる。「そのまま」っていうのが、とても魅力的だし、世界中に違う個性がたくさんあるっていうことじゃないですか。しかもナチュラルワインであれば人が狙って作った味ではなく、その土地の味なわけで。それを感じられるのがすごく魅力的だと思います。

 

では、最後に…。
石黒さんにとって「おいしい」とは——?

おいしんぐ!編集部
飲食業界に入る前はDJや音楽活動をしていたという異色の経歴を持つサービスマン。「肩肘張らずにリラックスして来てください。楽しませるのは僕らなので!」

石黒:おいしいって、愛とか愛情だと思っています。たとえば緻密に計算して、塩だったり酸だったりのバランスをとれば、おいしさは作れると思うんですよ。ぼくはサービスマンですが、機械やロボットだってサービスをすることはできるかもしれません。でも、はたしてそれをおいしいと感じられるのか?

やっぱり僕が料理やワインをおいしいと感じるのは、いろんな人の愛を経ていま目の前にあるから。生産者さんが作って、いろんな人を介して届き、シェフが調理して、ぼくらサービスマンが説明して、食べていただく。だからおいしいんだと思うんですよ。つまり愛が必要不可欠なんじゃないかなと。

※Vol.1ではシェフの伊藤さんのインタビューを掲載していますので併せてお読みください。

企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/倉橋マキ

 

おいしんぐ!YouTubeチャンネルのインタビュー動画

おいしんぐ!のYouTubeチャンネルでは、伊藤和道さん、石黒誉久さんのインタビュー動画を見ることができます。
お店の雰囲気や料理、伊藤和道さん、石黒誉久さんが気になる方はチェックしてみてください。

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