温暖な気候のもとで豊かに育つブドウを――

魚料理にも合う、香川のブランドワイン。「さぬきワイナリー」工場長・竹中剛さん

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魚料理にも合う、香川のブランドワイン。「さぬきワイナリー」工場長・竹中剛さん

おいしんぐ!編集部

高松市街から車で約30分。香川県の北東、小田湾に面した大串半島にある「さぬきワイナリー」は、四国で最初に誕生したワイナリーだ。1988年のオープンから、30年以上。現在も近隣の自社農園や農家で数種のブドウを育て、毎年ワインを醸造している。また近年は香川大学農学部とともに、おいしい香川産ワインを作るための新たなブドウも開発した。

工場内ではガラス越しにワイン醸造の見学が可能で、併設のショップではほぼ香川県内でしか出回らないオリジナルのワインを購入することができるとあって、観光スポットとしても人気だ。

なぜこの地にワイナリーが誕生したのか。香川で生産されるブドウやワインの特徴とは。「さぬきワイナリー」工場長を務める竹中剛さんに話を伺った。


外観 おいしんぐ!編集部

外観 おいしんぐ!編集部

温暖な気候に合わせたブドウ作り

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工場長の竹中剛さん。現在、さぬきワイナリーでは7人のスタッフでワイン造りをしている。

——さぬきワイナリーでは、どんな種類のブドウを扱っているのでしょうか?

竹中:現在作っている主なブドウは、白ワイン用はデラウエア、甲州、ナイアガラの3種類。赤ワイン用はマスカットベリーA、ランブルスコ・サラミーノ、それから香川県にしかない「香大農R1」というブドウの3種類ですね。

——カダイノウアールイチ……?

竹中:国立香川大学の農学部が作ったブドウなので「香大農(かだいのう)」。そしてリュウキュウガネブという沖縄の野生のブドウと、マスカット・オブ・アレキサンドリアというブドウとの交配種で作った第1号ということで「R1(アールイチ)」。これが農林水産省に種苗登録している正式名称なんです。


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さぬきワイナリーの自社農園。ブドウの収穫はだいたい8月のお盆あたりから9月まで、糖度や色などの状況を見ながらおこなわれる。

——ブドウの品種から研究されたのですね。

竹中:私たちもいろいろな品種を試したのですが、ご存知のとおり香川県は温暖な気候で夜も暖かく、カベルネ、メルロー、ピノなどの品種では着色不良を起こしてしまうんです。やはり、昼と夜の寒暖差が10度ぐらいあるところでないと、濃い色のブドウにならないんですね。これだとワインには向きません。

——つまりワイン造りにとって、香川は暖かすぎるのでしょうか?

竹中:ええ。夜が暖かいと、ブドウが呼吸してしまいます。呼吸のために糖度が使われ、色がつかないといわれています。それを克服しようということで、香川大学農学部に、香川の気候に合わせたブドウを開発してもらうことになりました。温暖な地域でも豊かな色や味を出せるようにと、リュウキュウガネブという沖縄の品種を使っています。

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——「香大農R1」のブドウには、どういった特徴がありますか?

竹中:ポリフェノールの一種であるアントシアニンを、カベルネより2~3倍ほど多く含んでいるブドウです。色では青みが強く、赤ワインながら紫っぽくなる特徴がありますね。この「香大農R1」で醸造しているワインが「ソヴァジョーヌ・サブルーズ」。フランス語で「芳しき野生の乙女」という意味の名前をつけました。これが香川大学ブランドのワインとして、主に県内で販売されています。


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——「ソヴァジョーヌ・サブルーズ」の味はどのような感じでしょう?

竹中:果実味が強く、色はかなり濃いのですが、飲み口は軽めです。赤ワインなのに魚でも合わせられるという感じです。香川は瀬戸内の魚がおいしいですから、ぜひ合わせて飲んでいただきたいです。

——魚料理に合わせられる赤なんですね。

竹中:そうですね。また白ワインも瀬戸内の魚に合わせられるように、どちらかというとキリッとした仕上がりにしています。このあたりは牡蠣の養殖が盛んでして、よく生牡蠣にレモンやすだちを絞ったりしますよね。そのレモンやすだちの酸ともとても合うんです。

そういう意味で、うちのワインは赤も白もどちらかというとクセを出すというよりは、すっきりとしていると思います。たとえば同じ甲州ブドウでも、山梨のほうとうちとでは味が全然違うんです。山梨と比べて、こちらのは少し酸が高いですね。

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地元の農家を応援するために

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——1988年の設立当初は四国で唯一のワイン工場だったそうですが、そもそもなぜこの地にワイナリーが作られたのですか?

竹中:さぬき市は5つの町が合体してできた市で、このあたりはもともと志度町という町でした。志度町ではブドウが特産とされていたのですが、だんだんと農家も高齢化し跡継ぎ不足の問題がありました。ブドウの加工場を作れば、生食用とワイン用の両方を扱えるようになり、農家の生産力も上がるということで、町の農業振興のために作られました。

——当初から、これだけのブドウの品種があったのですか?

竹中:いえ、最初は1~2種ぐらいだったと思います。いろいろなブドウを試しては失敗しながら、徐々に品種を増やしてきた感じですね。


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収穫したブドウをつぶすための除梗破砕機(じょこうはさいき)。

——このワイナリーを作るにあたり、参考にしたワイナリーなどはありましたか?

竹中:ワインの製造過程としては、ごくオーソドックスな製法です。とくにどこかを参考にしたということはないですが、前工場長は山梨のワイナリー「ルミエール(元・甲州園)」で修行をしたと聞きました。今も、山梨や広島など他県のワイナリーさんとは交流があり、スタッフが学びに行かせてもらったりしています。

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貯酒用タンク内で熟成させる。ワインごとに微妙に温度を変えている。


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——「さぬきワイナリー」の自社農園もあるのですよね。

竹中:この工場から車で15分ほどのところにあります。たとえば「香大農R1」は6割ぐらいを自社で作っていて、あとは大学と1~2軒の農家さんから仕入れています。ほかのブドウも自社農園のほか、高松やさぬき市内、少し離れた多度津町のほうの農家さんから仕入れます。近い農家さんの畑へは直接行って、こうしてほしい、ああしてくださいなどとやりとりしながら作っていますね。


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ラベル貼りをして出荷となる。


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瓶詰めをし、ものによっては数年熟成するワインもある。

——現在、1年でどのぐらいのワインを生産していますか?

竹中:その年のブドウの出来にもよりますが、ここ最近は4万本ぐらいですね。平成10~11年の赤ワインブームのときは10万本ぐらい作っていたのですが、農家さんもだんだんと減ってきたので……。うちは香川県産のブドウしか使っていないですし、そのくらいの規模でやっていますね。

——希少なワインということになりますね。他県には出回らないのでしょうか?

竹中:4万本程度ですし、ほぼ県内で消費されてしまいますね。2019年秋に「日本ワイン」とのカテゴリー(※果実酒等の製法品質表示基準)ができたのを期に、少しずつですが東京などからも問い合わせが来ることもありますね。

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——最近、また日本ワインが盛り上がっていますね。4万本程度というのも、訪れる人からすると、とても魅力的です。

竹中:そう言っていただけると何よりです。

 

では、最後に…。
竹中さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

竹中:個人的な意見ですが、ワインというものは、その土地の食材と合わせて飲んだときが一番おいしいと感じます。香川で育ったブドウと、魚やお肉……これらが合わさってはじめて、本当の「おいしい」になるのではないかと思っています。

ですので、ぜひ香川へ来て、食材と一緒にワインの味を楽しんでいただきたいですね。2020年は梅雨が長くて心配だったのですが、夏にはほとんど雨が降らず日照時間も十分にあったので、ワインもいい出来になっていると思います!

企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/曽我 美芽

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