干物の味を決める重要な要素とは

「安心・安全な無添加干物にこだわる」釜鶴ひもの店主 ・二見一輝瑠さん

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「安心・安全な無添加干物にこだわる」釜鶴ひもの店主 ・二見一輝瑠さん

おいしんぐ!編集部

都心から1時間半程で行くことができ、長年多くの観光客に愛されてきた温泉地「熱海」。伊豆東海岸随一の天然の良港といわれる網代漁港で水揚げされる魚の種類が豊富なうえに、浜風や気温などの気象条件も揃っていて、干物の製造に最適な地域としても知られる。

北大路魯山人が「干ものの美味いのに当ったよろこびは格別である。」と好んだのが、「熱海の干物」でもある。

その熱海で、昔ながらの製法で安心・安全な無添加干物を作っているのが、創業150年以上にもなる『釜鶴ひもの』だ。

※北大路魯山人とは…
北大路魯山人とは20世紀を代表する芸術家。自らの美的欲求の赴くままに、料理、陶工、書、茶を究めんとし、会員制の高級料亭「星岡茶寮」を舞台に、料理をとりまく総合的な美を築き上げた。『美味しんぼ』の海原雄山のモデルとしても有名。

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創業150年以上になる「釜鶴ひもの」


おいしんぐ!編集部
江戸時代から干物屋として営業し、創業150年以上になる老舗干物店『釜鶴ひもの』。現在は5代目の店主・二見一輝瑠さんが毎日市場に足を運び、自ら魚を仕入れ自社工場で干物にしている。

製造工程においても伝統の技を継承した、旨みと風味が溶け込んだ塩汁のみを使い無添加で仕上げている。代々伝わる魚さばきと天日塩による絶妙な塩加減は老舗ならではの技だ。


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無添加にこだわる『釜鶴ひもの』の干物は、どんな経緯で生まれたのか? 創業150年以上になるお店が、昔から大切にしていることとは?そして、5代目としてこれから挑むこととは?5代目の社長である二見一輝瑠さんに、聞かせていただいた。
 

干物の味を決める重要な要素とは


おいしんぐ!編集部

ーーまずは干物の味を決める重要な要素を教えていただけますか?

素材と塩梅(塩加減)です。もちろんもうひとつ加えるなら干し加減です。やっぱり重要なのは、前者の2つになります。今は特注の乾燥機で干してるので、特に素材と塩加減が大事ですね。

ーー素材が重要なんですね。釜鶴さんでは地魚を多く使われているイメージですが、地魚とそれ以外の魚の割合はいかがですか?

店頭で売っているのは65パーセントが地魚です。定番の鯖や秋刀魚、めざしは定期的に注文が入るものなので、地魚が揚がらない時や脂があるものを他から仕入れる際にはそのことをお客様に案内しています。


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ーー毎日市場に行かれてますよね。その理由はなんですか?

毎日市場に行かないと、今日揚がった魚の良し悪しがわからないので。市場に行ってみないと水揚げの状況がわからないですよ。

ーー一般的に、干物屋さんは毎日市場に行かれるんですか?

もちろん仲卸さんに任せている干物屋さんもありますよ。うちにも毎朝5時過ぎにはいろんな市場から連絡がきますので。でも、自分達で地元の漁港(網代漁港)で揚がったものを良いかか悪いかを判断して買ってくるのがいちばんです。また飲食店(※海幸楽膳釜つる・てんぷら鶴吉)の仕入れを一緒にやっているので、大量に仕入れた魚は飲食店に分けたりできるメリットもあります。

ーー仕入れに関していちばん困ることは何でしょうか?

天候が荒れることや夏枯れが辛いですね。台風は1日か2日ですが、夏枯れで2週間枯れちゃう時があるので本当に困ります。その時は、加工物を作ったりします。少ない人数の工場なのでフットワーク軽く対応できるのはメリットです。
 

安心・安全な無添加干物にこだわる理由


おいしんぐ!編集部

ーー釜鶴さんといえば、安心・安全な無添加干物ですが、添加物や防腐剤を使わない理由を教えていただけますか?

昔から食品添加物を一切使っていないので。私の代でも使う必要はないなと…。今更、添加物を使って日持ちさせようという気持ちはないです。

以前の工場長の時代は、塩辛には使っていましたが、私の代でスパッとやめて烏賊と塩だけにしました(笑)

ーー塩辛のみ製造は大きく変わったんですね。干物の製造は変えていますか?

干物は今まで通りの作り方をしています。ただ塩加減はもう少し甘くしていったり、干し加減も少し変えています。フレッシュな地魚は脂がやっぱりないんですよ。

干物は食べるまでに3回水分が抜けるんです。浸透圧でまず魚の細胞から水分が抜けていき、その次に干す際に。最後に焼く時にです。それでもしっとり食べてもらうには脂が重要です。脂は魚の体内に残り続けるので旨味として感じるのは脂です。

フレッシュな地魚を中心に開こうとすると、脂が少ないので昔と同じ干し加減にすると既に水分が抜け過ぎてしまった干物ができてしまうんです。水分はしっとりさの要因になるので、脂と水分を残した状態で仕上げるように作り方も素材もやり方も変えてきました。


 おいしんぐ!編集部

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ーー塩のこだわりはいかがでしょうか?

どんな塩がいいかを30種類ほど試して干物を作ってみたのですが、最終的にどの塩でもさほど変わらないと思いました。例えば、鯵を開いて20分ぐらい塩につけてミネラルを感じられるほど入るかというと、実は感じないんですよ。さらに表面は流水で流してしまうので。それだけの短い時間で、どんなにこだわった塩を使っても人間が感じることはないんです。それよりも感じるのは素材の力になってくるので、素材を引き出す塩の塩梅の方が大事だと思います。

ーー干物は一般的にそれなりに添加物が入っていますよね?

スーパーなどではコストを下げるために、干し時間を短くして塩につける時間も短くしているんです。塩分濃度を高くして浸透圧で入る速度を早くしています。だから溶けると生に近い状態なものが多いんです。冷凍しているんで綺麗には見えますが溶けてくると色が黒ずんでいたり身がベチャベチャしていたりします。また、裸で売っている干物は空気に直接触れるんで表面が乾燥してくるんです。

ーー塩味を強くしている理由は日持ちさせるためなんですね。

その他に、スーパーなどの干物の材料は旬の時に冷凍した魚を使っているので、脂のある魚を使います。それだと出来上がった干物は腐ってしまうよりも先に脂が酸化して臭くなるのが早いんです。なので、酸化防腐剤で脂を酸化しないようにしているんです。

ーー酸化防腐剤を使う理由が分かりました。冷凍の干物についてはどう思いますか?

冷凍の干物を売っている干物屋さんは大事だと思っています。スーパーで売っている干物も含めて。理由は多くの人が干物を口にする機会をつくってくれているからです。

熱海駅を降りた時に干物屋さんが何軒かあるロケーションをつくってくれることが非常に大事だと思います。「ここの街は干物を食べるんだ、海鮮がやっぱりあるんだ」というイメージを熱海にもってきてくれているは凄く大事なことです。
 

干物を通じた今後の展開


おいしんぐ!編集部

ーー釜鶴さんは海幸楽膳 釡つるやてんぷら鶴吉という飲食店を数軒やられていますね?

和食店の「海幸楽膳 釡つる」は28年やっています。「てんぷら 鶴吉」は10年になります。干物を店頭の価格のままで焼いて食べられるようにしようと4代目が考えてお店を始めました。自分で干物を買って定食にして楽しむことができます。お陰様で両店とも熱海では浸透してします。

干物を作ることにこだわりながら和食を展開して、地元色を強くして売っている干物が飲食店で食べられるということで取材が増えて知名度が上がっていき、その流れが定着して今に至るんです。


 おいしんぐ!編集部

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ーー今はその流れが時代にあってますよね。

干物を自社で作っていることが大事で、ここ何年で魚種も増えました。今までは甘鯛が一番高級でしたが、伊勢海老までやるようになって、のど黒も沼津から仕入れるようになって、高級なところの層を厚くしたりだとか。イカも真イカの他にアオリイカや赤イカも開くようになりました。

工場の人が天使の海老をやりたいと言ったので、海外産だけど一部あってもいいよと言って天使の海老の干物にしたらリピートする方が多くて(笑)

ーー天使の海老の干物は職人さんのアイデアなんですね。

昔は、鮎の干物もやったしなんでもチャレンジしながら干物を作り販売しました。鮎の干物はもう35年ほどやっているんですけど、今では鮎の干物は普通になってきましたね。


おいしんぐ!編集部

ーー最後に、今後の展望を教えてください。

最近のお客様は地域性を重要視されます。その土地にある文化や食べ物をつまみ食いしたり覗き見されたい。うちは和食屋をやっているのでその干物が食べられることは、今後はより大事になってくると思います。

干物単体はこれ以上、販売を伸ばせないと思っています。魚の水揚げも少なくなっていますし。干物だけをメインとして展開していくのは難しいと思っています。

干物はこれ以上、販売は伸ばせないと思っています。魚の水揚げも少なくなっていますし。魚をメインとして展開していくのは難しいと思ってます。

よって今後は、どちらかというと飲食の方により力をいれます。熱海を飲食店側からも盛り上げていこうと思っています。今後の展開に期待してください。


 おいしんぐ!編集部

 

「釜鶴ひもの」系列店

釜鶴ひもの 海岸支店
住所:静岡県熱海市銀座町11-6
アクセス:JR東海道本線 熱海駅徒歩15分
電話番号:0557-81-2263
営業時間:9:00~17:00
定休日:無休

釜鶴ひもの ラスカ熱海店
住所:静岡県熱海市田原本町11-1ラスカ熱海1F
アクセス:JR東海道本線 熱海駅徒歩0分
電話番号:0557-81-1990
営業時間:9:00~20:00
定休日:無休

海幸楽膳 釡つる
住所:静岡県熱海市銀座町10-11
アクセス:JR東海道本線 熱海駅徒歩15分
電話番号:0557-85-1755
営業時間:[昼]11:30~14:30(L.O.14:00) [夜]17:30~21:00(L.O.20:00)
定休日:水曜日・第3木曜日

てんぷら 鶴吉
住所:静岡県熱海市中央町11-1
アクセス:JR東海道本線 来宮駅徒歩17分
電話番号:0557-86-2338
営業時間:[昼]11:30~14:00(L.O) [夜]17:30~20:30(L.O)
定休日:木曜日・第3水曜日

 
※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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