大人が通う居酒屋を目指して

「生産者の思いを伝える“最前線”にいる」高太郎 店主・林 高太郎さん

東京
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おいしんぐ!編集部
渋谷駅から徒歩4、5分。駅前の喧騒を抜けた桜丘町の一角にある『高太郎』。各地の酒蔵から厳選した日本酒と、素材選びからプレゼンテーションに至るまでとことん考え抜かれた料理の数々を楽しめるとあって、連日予約客でいっぱいになる人気店だ。

あえてジャンルを当てはめるのなら「居酒屋」になるのかもしれない。が、手の込んだ料理や、細かなところにも気がつくスタッフたちの徹底したサービス、店を一歩入ったときに感じる空間の気持ちよさ…そのどれにも、「一流」という言葉を使いたくなる。

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「高太郎」の料理・日本酒・店作りの考え方に迫る


おいしんぐ!編集部
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店主の林高太郎さんは、現在42歳。大学卒業後、飲食の道に進み経験を積み、34歳で念願だった自分の店を持った。オリジナリティを感じるメニューのアイデア、食材や日本酒の選び方、スタッフとの雰囲気作り、食器や内装に至るまで、この店からは「こんな店にしたい」という林さんの熱い思いを感じずにはいられない。

その熱い思いの正体を探るべく、仕込みを始める前にインタビューの時間をいただいた。「高太郎」の人気定番メニューはメンチカツとポテトサラダ、手打ちの讃岐うどんだが、編集部が注目したのは「刺身」だ。魚や貝類を熟知しているからこその味。この一品には、どんな秘密が隠されているのだろうか。

 

「高太郎」の刺身は、なぜ美味いのか?


お造り 三種盛り:2,950円(2人前) おいしんぐ!編集部

ーー今日は「高太郎」のお刺身がおいしい理由がズバリ何であるのか、お聞きできたらと思っています。まずは、今日のお刺身について教えてください。

九州・天草のアオリイカとマダイ、そして宮城・石巻の銀鮭です。イカは、旨味が身の真ん中にあるので、表と裏の両側から包丁を入れて、口に入れてすぐに旨味がギュッと出るようにしています。タイは寝かせたほうがおいしいので、このマダイは5日ほど寝かせてありますね。銀鮭は塩で水分を抜き、臭みを出してからを昆布締めにすることで、旨味を足しています。


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ーー添えてあるお塩との相性も抜群だと感じました。

刺身は海のものですから、塩が合うんですよ。この塩は、海藻が入った長崎産の藻塩です。ちなみに醤油は、鰹や昆布などの旨味を足すため、自分でブレンドしたもので、わさびは伊豆の農家さん(山口さん)のものです。

ーー以前から感じていましたが、「居酒屋」のレベルではないですよね。どこが違うのでしょうか?

ぼくが思うお刺身のポイントは、いい素材と、きちんとした処理ですね。シンプルな料理だからこそ、それぞれの魚のどこにどんな旨味があるかをわかった上で、それを引き出せるように包丁を入れることが大切です。

それからもうひとつ。刺身って、店に入って比較的はじめの段階で出てくる料理ですよね。前菜も同じですが、もしこれがおいしくなければガッカリするし、テンションも下がるわけで…。いい店かそうでないかを分ける重要な料理だと思うんです。

 

漁師や魚屋・生産者と料理人とは、お互いが選び合う時代


おいしんぐ!編集部
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ーー前菜やお刺身がおいしければ、次の料理もますます楽しみになります。

いい店かどうかというのは「店に入ったときの空気感」と「これから食べるときのわくわく感」、そして「食べたときのおいしさ」で決まると思うんです。そういうことって、店に入ってわりとすぐに、わかりますよね。3つともダメならば、その店はダメですし。反対に全部よければ「勝負あり!」ですよね(笑)。

ーー作る側としても、それだけ気合いが入る一品というわけですね。魚はどのように仕入れていますか。

石巻、北海道、豊洲などの漁師さんや魚屋さんから仕入れています。以前は築地が多かったんですが、1年ほど前に天草の魚屋さん(本田屋の本田さん)との出会いがあって、最近は彼から仕入れることが多いですね。

天草の海は入り組んでいて、ウニ、タコ、サワラ、ブリなどいろんな魚種が獲れるんですけど、何より、値段が安いのに状態がいい。「これはどういうことだ?」と思って、天草まで見に行ってみたんです。天草漁港がすごいのか、それともその人がすごいのか?(笑)

ーー実際に足を運ばれたのですね。そして、その結果は…?

「その人」がすごかったんです。地元の漁師さんから揚がった魚を、店の水槽で泳がせてストレスをなくしてから神経を抜くなど、相当丁寧な処理をしていました。ぼくと同い年ということもあって、いろいろと話しやすいところもいいんです。ぼくが「さばいたらこんな感じでした」「火を入れたらこうなりました」って情報を送ると、「じゃあ処理の仕方を今度はこうしますね」とか「漁師さんにこう伝えます」って返してくれたりして…。


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ーーいまの時代らしいコミュニケーションですね。

豊洲や漁連を介して魚を仕入れる時代から、地方とお店がダイレクトにつながる時代に変わってきているのを感じます。最近は、船の上の漁師さんからLINEが来ますよ。「いい魚が釣れたよ」って(笑)。

ーー全国の魚屋さんや漁師さんとは、どのようにしてつながりを持たれたのですか?

天草の本田さんは、先輩が紹介してくれましたね。あとは、わさび農家の山口さんがおもしろい肉屋さんを紹介してくれて…みたいに、どんどん人と人とがつながっていくんです。いい生産者やがんばっている料理人のところにみんなが集まってくるんじゃないですかね。

ーー個と個がつながる時代だからこそ、漁師さんも料理人さんも、お互いが選び合っているのですね。

そのとおりだと思います。直接会って顔を見て話して、お互いにフィーリング合うかどうかが大事ですし、ときには「それは違うんじゃないですか」と言い合って、高め合うことも大切だと思っています。
 

酒蔵数を絞ることで、日本酒に深みが生まれる

おいしんぐ!編集部

ーー「高太郎」の看板メニューの1つといえば、讃岐メンチカツですね。
 
ぼくは香川の丸亀出身なのですが、店を出す前から、同級生が地元で飼育している「讃岐バーグ」という豚肉を使ってなにか作りたいなとずっと思っていたんです。

ーー肉汁が溢れ出てくるジューシーな一品で純粋にお肉が美味しいと感じられます。

25%黒豚が入っていることで、肉質が上がりおいしいのが特徴です。お肉自体がおいしいので、シンプルな味つけにして、レモンをしぼって召し上がっていただいています。日本酒にもすごくよく合うメニューだと思います。


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讃岐メンチカツ:800円 おいしんぐ!編集部

ーー日本酒は、蔵を10箇所だけに限定して仕入れていらっしゃいますよね。

はい。「人」で選んでいます。実際にお会いした、志ある酒蔵さんばかりですよ。特にいま、世代交代をして40代前半の若い世代ががんばっています。この10蔵は、10年後には間違いなく第一線にいるはずです。

10蔵だけでもお酒の種類は30~40本あるんですよ。さらに飲み方として常温、冷、燗酒とあるので、全部で120種類ぐらいそろっていることになります。


おいしんぐ!編集部
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ーー10蔵は、年によって変わるのですか?

いえ、ほとんど変えていません。ちょうどこの店が8年目なのですが、店を始めるときに「10年後が楽しみな蔵」を入れたいと思ったんです。そうすることで長く付き合えますよね。長く付き合うことで、「10年前はこうで、いまはこうなっている」ということを、お客様にもお話しできるわけです。どんな日本酒の猛者がお客様としていらっしゃっても、ぼくたちのほうが詳しいですし、いいサービスができるんです。

ーー数を絞って深めているからこそ、できることですね。

自分の店で出すものに、よく知らないものを入れたくないですし、会ったことのない人のものは、お客様にきちんと説明できないから扱えないんです。ぼくらは、生産者の思いをお客様に伝える「最前線」ですから。

おいしんぐ!編集部

ーー「最前線」ですか。

店内の広いスペースをカウンター席にしている理由もそれです。生産者の方々のがんばりや思いを伝えるのが、飲食店の存在意義であり、ぼくらの仕事だと思っています。だから毎年、スタッフ全員で酒蔵を回るんです。どんなところで酒が生まれるのかを見て、その地方の料理を食べ、酒を飲み、スタッフみんなでその体験を共有するようにしています。ぼくが運転して、3泊4日のスケジュールも考えて、しおりまで作りますよ(笑)。

ーーしおりまで…!

この期間は、普段がんばってくれているスタッフをできる限りおもてなししたいんです。酒蔵さんや農家さんと会ったり、その地で有名なお店や温泉など行くので楽しいですよ。見て、感動したことは、スタッフたちが接客中にお客さんに伝えてくれます。「山があって、蔵があって、ここに水が流れていて…」って。そうするとお客様にも風景が伝わるんですよね。インターネットで見ただけの画像とは、やはり違うんですよね。


本人提供

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本人提供

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ーーそこでの体験が、お客様の楽しみにもつながるのですね。

そうなんです。例えば、能登半島の酒蔵「宗玄」はなぜ米の甘さが感じられるのか、と考えると、やっぱり氷見の寒ブリとか金沢の料理に合うように作られているからなんです。お酒って本来、地元で支持されないと売れないので、地元の食べ物に合うように作られているんですね。その土地の人達と居酒屋さんにいくと、「ああ、普段こういうものを食べているのか。だからこの酒があうんだな」と、わかります。瀬戸内の蔵はこういう傾向、日本海はこういう傾向、みたいなことも見えてきます。

それをスタッフと「この酒と合う料理は何かな」「真牡蠣と岩牡蠣だと合わせるお酒も変わるね」みたいに話し合ったり、まかないで試したりすることで、お客様に提案することが自然とできるんですよね。

 

「いい店」とは何か?ーー「高太郎」流の哲学

おいしんぐ!編集部

ーー先ほどから、「店に入ったときの空気感が大事」というお話や「スタッフと一緒に体験を共有することが大切」というお話がありましたが、林さんがお店づくりにおいて心がけていることは何ですか?

「見えない部分」が重要だと思っています。ぼくらの店の空気作りは、仕込みのときから始まっています。仕込みをしながら4時間、スタッフ4人で「昨日の、あのお客様は、何を召し上がってどんな感想を言っていたかな?」といった話をずっとしていますね。4時間もみっちりミーティングしているわけですから、開店してお客様がいらっしゃったら、スタッフ同士の意思疎通はアイコンタクトだけで済むんです。

うちにはマニュアルはなく、そのお客様によって一番いいサービスをすることを目指しています。信頼関係を大切に、話し方やスピード、会話の入り方などは、お客様によって変えています。ホテルなどでは普通にやっているようなサービスかもしれませんが、うちのような7,000~8,000円カテゴリーの店でも丁寧にやっていくことで、お客様に喜んでいただけるんじゃないかと。


おいしんぐ!編集部
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ーーところで、「高太郎」さんはあえて「居酒屋」という呼び方をされているのでしょうか。

呼ばれ方やカテゴリーについては、まったく気にしていません。なんでもいいと思っています。ただ、ぼくは「大人が通う居酒屋」をやりたかったんです。普段から各地のいいお店でおいしいものをたくさん食べて、いいサービスを受けているような大人が、プライベートでふらっと来られるお店にしたいなと。そして、そこで「一番」になりたいですね。食べログの点数で一番になるのではなく、ふとした瞬間に「一番に頭に浮かぶ店」です。

ぼくらのことを信頼して、予約をして来てくださるわけですから、お客様にはより楽しい時間を過ごしてほしいんです。そのための準備として、料理人なら料理を、サービス担当ならサービスを、試行錯誤しながら深めていくべきだと思っています。やるべきことは、まだまだたくさんありますよ。

では、最後に…。
林さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

「ただお腹を満たすのではなく、心にも栄養を与えられること」でしょうか。そもそも、レストランの「レスト」の語源は「(食べて)体力を回復する、休まる」という意味なんですね。元気になって、次の日をがんばるための活力をもらえる場所…そういう場所をこれからも作っていきたいと思っています。

おいしんぐ!編集部

木のぬくもりを感じるカウンターとテーブル席

おいしんぐ!編集部

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木のぬくもりを感じる広いカウンター席と、奥にはゆったりとくつろげるテーブル席がある。ここでの林さんとスタッフとの会話を楽しみに通う常連客も多い。

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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