庄内の食材で、唯一無二の料理を。

若きシェフが切り拓く「新・酒田フレンチ」 NICO・太田舟二さん

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おいしんぐ!編集部

「酒田フレンチ」——そんな呼称があるほど、フレンチで有名なエリアとして知られている山形県酒田市。日本海、鳥海山、そして庄内平野で採れる豊かな食材を活かした独創的なフレンチの名店が点在している。中でも、いま勢いのあるレストランが『NICO(ニコ)』。若きシェフが作る「新しい」酒田フレンチを楽しみに、地元の常連客はもちろん、県内外の料理人や生産者たち、また都心や各地方からも食通たちが足を運ぶ。

『NICO』のオーナーシェフは、フレンチのシェフだった祖父と父を持つ太田舟二さん、43歳。父の政宏さんは1968年に『レストラン欅』、1973年『ル・ポットフー』、2012年『レストランロアジス』を開店し、この地に地産地消の「フランス風郷土料理」を根付かせた人物だ。父の築いた「酒田フレンチ」を継承し、次代へとつなぐシェフとして、舟二さんへ寄せられる地元の期待も大きい。2009年から『NICO』にて腕を振るい続ける太田さんに、酒田という地でチャレンジしていることやこれからの展望について話を聞いた。

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外観 おいしんぐ!編集部
酒田フレンチを継承する『NICO』。開店から11年目を迎える現在も、進化を続けている。


内観 おいしんぐ!編集部

内観 おいしんぐ!編集部

天井が高く、落ち着いた雰囲気の空間。コースは2700円、4000円、5200円、8400円、12000円の5種類。月山ワイン、高畠ワイナリーをはじめ山形やフランスのワインもそろう。

 

古典フレンチと自由な発想の両方を学んだ修行時代

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——太田さんが酒田で今やろうとしていることはなにか?…そのあたりのテーマをお聞きしたいと思っています。まず、太田さんが料理の道を志した理由から教えてください。

太田:祖父と父はフレンチのシェフで、兄も東京でレストランをやっています。自然と、自分もその道を追いかけるようになりました。こっちは地方ですから、地元の食材を使わないと東京の店に差をつけられません。僕は父が作ってきた「地方×フレンチ」という料理でこそ、おもしろさやオリジナリティが出せると思っています。

——修行期間はどのように経験を積まれたのですか?

太田:18歳から仙台の『ジュアン・レ・パン』で6年修行し、基礎を学ばせてもらいました。その後24歳からフランスに渡って2年働きました。1年目がボルドー近くの小さな村にある2つ星レストラン『ローベル・ガード』、2年目はパリにある、日本人シェフ吉野建さんがオーナーシェフの1つ星『ステラ・マリス』です。

——どちらも名店ですね。フランスでの修行はいかがでしたか?

太田:フランスは、日本と考え方がまったく違っておもしろかったですね。シェフ以外はみんな立場が同じで先輩後輩はないから、自由に好きなことを言い合えるし、自分でやったぶんだけ認められる。そこがいいなと思いました。


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庄内産枝豆のムース おいしんぐ!編集部

庄内産枝豆のムース:旬の枝豆を使った一品で、この日はだだちゃ豆「早稲甘露」と緑茶のエスプーマ(泡)をあわせたもの。枝豆の甘みとお茶の香りが口の中にふわりと広がる。

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——どのようなことを学ばれたのでしょうか?

太田:『ローベル・ガード』では、下っ端で入ってから全部のセクションを経験させてもらいました。ここのシェフは、古典にしばられることなく自由な発想や感覚を大事にする人だったので、自由に作る感覚が身につきましたね。『ステラ・マリス』では反対に、古典的なフランス料理をしっかり勉強しました。白トリュフなど、日本にいたら出会えないような食材を使っていろいろ試せたのもよかったです。

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——帰国後はどうされたのですか?

太田:父の『レストラン欅』に6年間いました。いいお客さんがついている店でしたし、そういう店でやらなければ何も学べないと思ったので。『欅』では「好きにやっていい」と言われて、料理もけっこう任せてもらえたので、楽しみながらやらせてもらいました。

——そして独立されるわけですね。

太田:フランスに行く前から、最終的には酒田に戻ろうと思っていたんです。6年ほど『欅』にいながら、独立後の物件も探していたのですが、たまたま喫茶店だったこの場所が空いていて「ここがいい」と、決めました。店名は、「テーブルに笑顔(=ニコ)がありますように」という思いからつけました。


金華豚のアクアパッツァ おいしんぐ!編集部


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金華豚のアクアパッツァ:コース料理のメイン、金華豚のアクアパッツァ。庄内ブランド「平田牧場」の金華豚を使用。イカ、アサリ、ズッキーニなどの海の幸、山の幸との組み合わせが絶妙。「うまみが強く、しっかりと脂がのっているのが特徴なので、さっぱりと魚介や野菜と合わせることで、よりおいしさが伝わるんです」

 

「酒田フレンチ」の定義を固め、守っていきたい

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——2009年に『NICO』を開店してから今年で10年。太田さんが大切にされていることは、どんなことでしょうか?

太田:地元食材を使うこと、そして、他の店では食べられないオリジナリティを出すことです。この店に来る価値がなければ、続けていてはダメだと思っています。

——庄内にいるからこそ、出せるオリジナリティがあると。

太田:昔、僕が料理を始めたぐらいのときのフレンチは、みんながフランスの真似をしていました。でも今は全国でメイドインジャパンのフレンチを作っていますし、オリジナリティの高い店がたくさんあります。そのレベルの店に対抗していくには、個性を出さなければなりません。特に東京のフレンチは、自分と同世代のシェフたちが、すごくおもしろいことをやっていますし、それが刺激になっていますね。

——「黒バイ貝のコロッケ ブルゴーニュ風」はまさに、地元食材を使ったオリジナリティあふれるお料理ですね。

太田:父が出していたスペシャリテに「ニシバイ貝のブルゴーニュ風」というものがあるので、自分もその方向でなにかできないか、と考えて作った料理です。黒バイ貝はこの辺りで、5月から11月ぐらいまでの比較的長い期間に安定して獲れるので、素材としていいなと思いました。地元ではよく、甘じょっぱく煮て出す素材ですが、なかなかクセが強くておもしろいんですよ。それをブルゴーニュ風、つまりバターソースでかためて、コロッケにして揚げ、パン粉をのせてこんがりと焼くグラタン風の料理にしました。


黒バイ貝のコロッケ ブルゴーニュ風 おいしんぐ!編集部

ナイフを入れると、バターソースがじゅわっとこぼれだす。こんがりとしたコロッケ生地と、やわらかな黒バイ貝、パセリソースの組み合わせで楽しませてくれる一品。


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——フレンチの古典的なスタイルがベースにありながら、見た目も食べ方も含めて「新しさ」がありますよね。

太田:古典のスタイルがまずあり、それを自分の料理にするために、いかにアレンジするかだと思っています。2~3年ぐらい前に、もしかしたらおもしろくなるんじゃないかな…と、竹炭を使って見た目を「黒」にしてみました。さらに香草パン粉、パセリパウダーをかけて、ソースもパセリソースをあわせています。

——もともとのものから進化させたのですね?

太田:うちの定番料理のひとつではありますが、ずっと同じものを出し続けないようにはしていますね。進化させたいんです。いつまでも同じことをやっているだけでは、下がっていくだけですから。

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——黒バイ貝にあわせている野菜は、地元ファームのものですか?

太田:店で使用しているハーブはすべて鶴岡の生産者「Rinnosuke」さんのハーブを使っています。Rinnosukeさんは年齢も近く、新しい感覚を持っている生産者さんなんです。料理好きでよく食べ歩いている方で、次にどんなものが流行るか、僕たちより少し早い感覚を持っていて、勉強になります。

その他、魚介関係もこれから盛り上げていきたいと思っています。

——生産者さんと一緒に、酒田フレンチを盛り上げていらっしゃるんですね。
これからの酒田フレンチを担う上で、課題はありますか?

太田:いま、料理人になりたい人自体が少ないのが大きな問題ですね。願わくば、他県からも酒田へフレンチを勉強しにきてもらえるくらいになっていたいし、「酒田フレンチ」とは、という定義をしっかり作り、守っていきたいと思っています。

——今後、どんなお店にしていきたいですか?

太田:店としては、もっとわがままな店にしたい。地方のフレンチなので、1000円のランチも1万円のコースも両方やるような店が求められてしまいますが、高くても「ここでしか食べられないから」と来てもらえる店にしていきたいですね。

 

では、最後に…。
太田シェフにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

太田:おいしいとは、楽しいにつながる料理だと思っています。形も、盛り付けの美しさも含めて、誰かを楽しい気分にさせられるのがフレンチの魅力ですから。チャーハンがドン!と出てくるようなものというよりは、家では味わえないような見た目で「どんな味がするんだろう?」とわくわくするようなものだったり、「こんな組み合わせで、こんな味になるんだ!」と驚かれるようなものだったり……。そんな楽しいにつながるおいしさを、日々追求しています。

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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