ユネスコ食文化創造都市・鶴岡でやるべきこと

「庄内の食レベルをあげていきたい」ポム ド テール・有坂公寿さん

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おいしんぐ!編集部

庄内の食材を使ったフランス料理をベースとしたレストラン「ポム ド テール」。オーナーシェフの有坂公寿さんは、秋田県出身ながら「料理人として育ててもらった山形県庄内に恩返しがしたい」という一心で、鶴岡で活躍している。

今では「ユネスコ食文化創造都市・鶴岡」の代表シェフとしてスペインのバスク地方へ赴いたりと、庄内の食文化を牽引する料理人として注目されている。有坂さんの底知れぬ庄内への想い、そしてこれからの展望や夢について話を聞いた。

※庄内:庄内平野を中心とした山形の日本海沿岸地域で、鶴岡市と酒田市が2大都市とされる

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内観 おいしんぐ!編集部


内観 おいしんぐ!編集部

外観 おいしんぐ!編集部

 

料理人としてのスタート地点・庄内に恩返しがしたい

おいしんぐ!編集部

——有坂さんは、なぜ料理人になろうと思ったのですか?

有坂:両親に連れて行ってもらった洋食店でたまたま厨房をのぞいた時に、初めてコックさんたちの姿を見て、その瞬間から将来の夢はコックさん以外ないって思いました。5、6歳の頃ですかね。ちなみに、その洋食店の名前が「ポム ド テール」っていうんですよ。今のお店をオープンするときに名前をもらったんです。

——料理人としてのスタートは庄内・酒田の老舗フランス料理店「ル・ポットフー」ですね。

有坂:高校を卒業したら調理師学校に通う予定だったのですが、当時アルバイトをしていたフランス料理店のシェフが自身の修業先だった「ル・ポットフー」に食事に連れていってくれたことがきっかけで、わたしも入社することになりました。

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——実践からフランス料理を学ぶ道を選んだのですね。

有坂:はい。「ル・ポットフー」で5年間お世話になった後は、同じく酒田のフランス料理店「西洋割烹花月」の阿部三喜夫シェフのもとで2年働かせてもらいました。阿部シェフは当時、庄内で一番厳しいシェフって言われていて、かなり鍛えられましたね(笑)。ただ今思うと、阿部シェフのもとで働くことで、ひとつ自分の運命が変わったなと感じています。

——その後はどちらに行かれたのでしょうか?

有坂:25歳の時に庄内から一度出て、東京と仙台のレストランで働きました。東京では、フランス大使館の方と出会う機会があって、大使館でのホームパーティにご招待いただいた際にハムやソーセージなどの手作りのシャルキュトリーに出合い、感激して技術のイロハを学びました。また、仙台では初めてシェフの立場で調理場を任される経験も。でも30歳を目前にして「そろそろ庄内に帰りたいな〜。」と思いはじめたんです。

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——地元の秋田ではなく、庄内ですか?

有坂:はい。僕は、18歳までは両親に育ててもらったと思っていますが、18歳以降は庄内に育ててもらったと感じているんです。だから常に、庄内に恩返しがしたいという気持ちがあって、修行を終えたら庄内に帰ると決めていました。料理人を続けているのもそのためだと気付かされたのもあります。

——庄内にもどるきっかけになったのは酒田のフランス料理店「NICO」の太田舟二シェフだったとか。

有坂:18歳の頃から憧れの存在で兄貴分だった太田シェフから電話をもらって「今、2番手がいないから困ってる。一緒に働かないか?」と誘われたんです。憧れの存在から頼りにされたことも嬉しかったですし、太田シェフの仕事を間近で見ることができるチャンスだと思ってお引き受けしました。NICOでの経験はとても大きかったです。

——その後にご自身のお店をオープンされたのでしょうか。

有坂:NICOで働いた後に実はひとつのお店を任されたのですが、会社の方針などもあって自分のやりたい料理ができない日々を過ごしていました。そんな時にわたしの料理のファンでいてくださった常連さんが、今のテナントのオーナーを紹介してくれたんです。テナントを見学したら一目で気に入って、ここでお店をオープンすることに決めました。それが2016年7月ですね。

 

「地産地消」が叶う場所で料理を作る意味

おいしんぐ!編集部

——「ポム ド テール」のコンセプトを教えてください。

有坂:庄内にある食材をふんだんに使った“郷土風フランス料理”です。 地元の食材を使ったその土地に馴染む料理を、西洋料理の技術を用いてつくる。それこそが、地元の人たちのための料理になると考えています。例えば、庄内の食材だけでつくったパテ・ド・カンパーニュが、この地域の郷土料理になってもいいんじゃないかって思うんです。

——食材に恵まれている庄内だからこそできることですね。

有坂:庄内は、意識せずとも「地産地消」が叶う場所だと思っています。海山に恵まれていて、野菜をつくっている農家さんや、豚肉や鴨肉の畜産農家さんもいます。しかもどの食材もクオリティーが高くて、生産者さんとの距離が近いからすぐに手に入るのも魅力です。

あと、庄内は産直がものすごく優秀で救われます。わたしは産直巡りがすごく好きで、産直で気に入った野菜を買ってきて使うことも多いんです。
※農家さんが農作物を自ら持ち込む販売所。

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庄内鴨のパテ・アン・クルート おいしんぐ!編集部

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庄内鴨のパテ・アン・クルート:“郷土風フランス料理”の定番にしていきたい一皿。「キング・オブ・シャルキュトリ(食肉加工品)」の異名をとる難易度が高い伝統的なフランス料理。有坂さんのパテ・アン・クルートは、庄内の三井農場さんの鴨肉をベースに平田牧場の金華豚をつなぎで混ぜたパテをパイ生地で包んで焼き上げたもの。パイ生地をつくるところからはじまり、肉をマリネしたり、フォアグラをコンフィにしたりと工程が多く、完成まで丸4日かかる逸品。庄内産の野菜と、鶴岡出身で現在カンボジア在住の二本木聡子さんがつくった生粒胡椒を添えて。

 

庄内の食レベルを向上させる立役者になりたい

おいしんぐ!編集部

——鶴岡市は日本で初めて「ユネスコ食文化創造都市」に選ばれましたが、その代表の一人として有坂さんも活動されていますね。きっかけは何だったのですか?

有坂:わたしは「ポム ド テール」を地元の人が気軽にフランス料理を楽しめる店にしたくて、「フォアグラ丼」というメニューを出しています。フランス料理の食材であるフォアグラを、醤油で照り焼きにしたものをご飯に乗せたどんぶりです。それを食べた鶴岡市役所の海外戦略室の方が、こういう料理こそ鶴岡と世界が渡り歩く架け橋になれるのでは?と思ってくださったようで、ちょうどスペインのバスク地方からシェフの派遣要請が来ているので参加して欲しい、とお話をいただきました。

——そして世界屈指の美食の街、バスク地方へ行かれたんですね。

有坂:2017年に「ユネスコ食文化創造都市・鶴岡」の代表シェフとして、1週間バスク地方のビルバオ市を訪問しました。バスクの料理人の意識や価値観を学べたことは大きかったですね。わたしは、店名に「ビストロ」とか「リストランテ」とかレストランのカテゴリーをあえてつけていないのですが、バスクの料理人は「フランス料理を出す店でパエリア出しちゃいけないの?」と、カテゴリーに縛られることなく柔軟なんです。彼らの価値観を知ることで、わたしの店も「庄内の食材を使って、西洋料理の調理法を用いてつくった料理を出す店」でいいんだ、って自信になりました。


大越中バイ貝のソテー ソースヴェール おいしんぐ!編集部


ソースヴェール おいしんぐ!編集部

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大越中バイ貝のソテー ソースヴェール:「ユネスコ食文化創造都市・鶴岡」を代表する料理として改良をかさねている、庄内の海と山を感じる一皿。大越中バイ貝は、庄内で夏の時期にとれる高級巻貝。しっかりした歯ごたえと、旨味と甘味が強いのが特徴。ソースには、昆布と鰹をベースに、庄内でよく食べられている小松菜を加えたソースヴェールを。魚介とあわせるとほどよい苦みが口に広がる。庄内味噌の自家製クランブルの香ばしさもいいアクセントに。

おいしんぐ!編集部

——活動の幅はこれからも広がっていきそうですね。

有坂:「ユネスコ食文化創造都市」として鶴岡が注目を集めている以上、わたし自身がその架け橋役になっていきたいと思っています。地元の人たちにも世界を知って欲しいですし、逆に海外から料理人が訪れる際の交流の窓口にもなりたいですね。そうすることで、庄内の食レベルが一段と向上すると思いますし、それもわたしができる庄内への恩返しのひとつです。

——その後の夢について教えていただけますか?

有坂:実は、18歳の頃から終着地点を目指していて、50歳になったら「ル・ポットフー」の総料理長になりたいんです。ただ単に総料理長になるだけではなく、自分がこれまでに得たものを全て注いで、庄内の人たちが誇りに思える日本屈指のフランス料理店にするのが夢です。


おいしんぐ!編集部

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では、最後に…。
有坂さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

有坂:人の心をつくるものだと思います。どんなに機嫌が悪い人でも、おいしい料理を食べればニヤっとなる。それが食だと思うんです。「おいしい」がない人生だと、豊かな心をつくることができない。そう考えると自分のやっていることに誇りを持てますね。

 

フランス産のワインに限らず、世界中のワインを取りそろえている。中には、ウクライナ産、ハンガリー産、タイ産など珍しいワインも。地元・月山でつくられたワインも並ぶ。

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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