若き料理人仲間たちとの“地元愛”

「食の街・鶴岡を盛り上げる」 庄内ざっこ・齋藤亮一さん

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おいしんぐ!編集部

庄内浜で揚がった新鮮な魚に、庄内の大地で採れた旬の野菜やお肉、蔵元やワイナリーで丁寧に作られたお酒…。山形県・鶴岡市の中心地にある『庄内ざっこ』は、庄内の「海の幸・山の幸」をたっぷりと堪能できる日本料理店だ。先代の齋藤一高さんが平成2年に開店。その後、徳島と東京で修行を積んだ長男の亮一さんが店長として、次男、三男とともに家族総出で店を守っている。

魚や食材について、そして日本酒やワインについての豊富な知識を持つ亮一さんは現在41歳。鶴岡で活躍する同世代の料理人や生産者たちとも仲がよく、たびたび情報交換をしながら「これからの鶴岡」についても考えているという。いま勢いのある若手料理人のひとりとして、鶴岡だからこそ表現できていることは何か。また、鶴岡という地を拠点にこれからやりたいことは何か。庄内グルメの魅力がこれでもかというほどに凝縮された自信作の三品を前に、話を聞かせていただいた。

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内観 おいしんぐ!編集部
カウンター内には大きな水槽が。これによって捌き立ての活魚や新鮮な貝類を楽しむことができる。


水槽 おいしんぐ!編集部

外観 おいしんぐ!編集部
ひと際目を引くモダンな外観。暖簾は、季節に応じて付け替えられる。

 

庄内を離れ、日本料理を学んだ修行時代

おいしんぐ!編集部

——修行時代には、どんな経験を積んできたのでしょうか?

齋藤:実は僕、学生の頃は教師になりたかったんです。大学でも経済の勉強をしていたのですが、大学3年ぐらいで就職を考えるときに、やっぱり自分は料理の仕事をしたいなと。それで、徳島にある平成調理師専門学校に行きました。卒業後は、そこの校長先生の店でもある日本料理の『青柳』さんに入りました。僕が身体を壊して辞めてしまったのですが、回復した後は東京で5年ぐらい修行をしましたね。

——東京ではどんなお店で働いていたのですか?

齋藤:高松に本店がある、日本料理の『來(おいで)』という店で5年間働きました。当時は東京店に勤務していて、六本木や外務省飯倉公館が近くだったので、海外のお客様も多かったですね。日本酒はもちろんワインの注文が思った以上に入るんです。ひとつの料理に対して、どんなワインを合わせればいいのか…日本料理とワインという考え方は、そこで学ばせてもらいましたね。

おいしんぐ!編集部

——いまの『庄内ざっこ』の特徴でもある日本料理×ワインの組み合わせは、そのお店の影響もあるんですね。

齋藤:日本料理とワインは、決して合わないものではない。出し方や合わせ方次第なんだということがわかりましたね。あと、東京で学んだことは「夜は遊べ」ってこと(笑)。飲み歩き、食べ歩きが趣味だったので、週末は必ずいろんなところへ飲み(勉強)に行っていましたね。

——その後、どのような経緯で鶴岡へ?

齋藤:父がちょうどここにお店を移転・改修するということだったので、14年前、僕が27歳のときに戻ってきました。「帰って来い」とは言われなかったけど、自分としてもいいタイミングかなと。活魚を扱えるように大きな水槽を入れたいとか、もっと地酒やワインを充実させたいとか、ここでやりたいこともありましたし。いまは、父もまだまだ現役ですが、アラカルトやおまかせコースの構成などは僕がやらせてもらっています。

——齋藤さんは唎酒師やワインソムリエの資格もお持ちなんですよね。

齋藤:ただの飲んべえですよ(笑)。でも、やっぱり帰って来たときに、こっちのお酒のおいしさをあらためて感じまして、鶴岡に戻ってから唎酒師、ソムリエの資格を取り、J.S.A. SAKE DIPLOMA(※日本ソムリエ協会の日本酒に特化した認定制度)の認定もいただきました。いまこの店にあるお酒は全部、僕の趣味と実益を兼ねたラインナップです。


水槽 おいしんぐ!編集部

外観 おいしんぐ!編集部
日本酒(480円~)は、庄内を中心に山形のものをそろえている。齋藤さんが年に数回酒蔵を訪れて選ぶそう。ワインはボトル3800円~、グラス800円。

——料理を考える時に、お酒との組み合わせを考えてから作ることもありますか?

齋藤:はい。鶴岡も片田舎ではありますが、そういうオーダーも最近は増えてきましたね。おいしい組み合わせを考えながら作るのは、やっぱりおもしろいですよ。

——齋藤さんがお料理を作るときに、大切にしていることはどんなことでしょうか?

齋藤:当たり前ではあるのですが、旬のもの、郷土のもの、定番のものをおいしく出すことですね。うちの店では、アラカルトは一人前でもかなりボリューミーに出しています。またコース料理でいえば、味の緩急をつけて起承転結を意識しつつ出すようにしています。

 

漁師や農家とつながりを持つことで届けられるおいしさ

おいしんぐ!編集部
店長の齋藤亮一さん、親方であり父の一高さんと2人の弟さん、奥さんたちと家族で力を合わせ店を切り盛りしている。

——お店の名前『庄内ざっこ』には、どんな思いが込められているのでしょうか?

齋藤:屋号には恵まれたと思っています。『庄内ざっこ』とつけたのは父なんです。ざっこというのは、こっちの方言で雑魚(ザコ)とかお魚みたいな意味で、この辺りでは海の釣りも川の釣りも全部「ざっこ釣り」って言います。この屋号があるからこそ、庄内の魚をメインにやってこれましたし、これからもやっていけるのかなと。だから親のネーミングセンスを讃えたいです(笑)。

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——扱う魚は、庄内浜のものが多いのでしょうか?

齋藤:できるだけ地元のものを使うようにしています。ただ庄内浜は港が小さくい大きな船も少ないので、時化になると魚が入って来ないこともあります。なので、他の港からも仕入れることもありますね。

——いま出していただいたノドグロの塩焼きも立派ですよね。

齋藤:ノドグロは、いいものが獲れていますね。骨もひれも全部おいしいんですよ。ノドグロって新潟が産地としてすごく有名ですけど、同じ日本海でつながっているので秋田や青森あたりまで獲れるんです。この辺りでも昔からよく食べていたんですが、最近はどんどん値段が上がってきちゃいましたね(苦笑)。漁師さんからすると高く売れたほうがいいので、どんどん東京や金沢、富山に流れていってしまって…だから最近は量も減っているようです。

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ノドグロの塩焼き:ふっくらと焼き上げられ、脂ののったノドグロの塩焼き(時価)。季節の寒天が添えられている。


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——ノドグロにも旬の時期はあるのですか?

齋藤:ノドグロは深海魚なので、比較的年間を通して獲れます。産卵後など、やせる時期もあるにはありますが、基本的には漁があれば獲れる魚なんです。サイズにもよるけど、僕は塩焼きにするのが一番おいしいと思っています。

——地元の漁師さんたちとも、つながっていらっしゃるんですよね。

齋藤:漁師さんとのつながりは、特にこの場所に移転して活魚を入れるようになってからますます強くなりました。どうしても生きたまま店に運ばないとならない貝類とか、アジやヤリイカ、ウマヅラなんかは、水槽があるからこそ仕入れられるんです。そういう素材を新鮮に出すことで、お客さんにも喜んでもらえますし。


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食に関して高い志を持ちながらも、お茶目な一面も持つ齋藤亮一さん。

——たしかに、店内の大きな水槽には驚きました。

齋藤:たとえばヤリイカも、呼子に行けば年中あるし、都会で活魚があるのは当たり前なんですけど、この辺りにはなかったんですよ。なので、フレッシュなイカを透明な状態でお出しするというのは、どこの店もしていなかったんですね。それを父もずっと考えてきていましたし、そうした素材をうちで提供できるようになったのは、水槽を入れてからですね。

——農家さんとの接点はいかがでしょうか?

齋藤:お米や野菜も、地元のつながりのある農家さんから仕入れています。あと産直も。僕としては、米と野菜に関しては逆に、あまり手を加えないようにしているんです。焼くだけとか茹でるだけとか、素材自体の味を活かすほうがおいしいですから。

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米の娘豚の角煮:米の娘豚の角煮850円。米の娘豚とは、地元農家が作る飼料米や、乳製品の製造過程から出てくる乳酸菌が含まれるホエー(乳清)を食べさせ育てた山形産の豚。付け合わせの野菜もすべて山形産。


おいしんぐ!編集部

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——こちらのメニューは「米の娘豚」の角煮ですね。

齋藤:大商金山牧場さんの山形県産の豚で、飼料に国産米や乳清(ホエー)を食べさせて育てているんです。脂がとにかくおいしくて、うちでは長い間スタンダードで使わせていただいていますね。魚は日によって善し悪しがあるけど、生産者さんが作る肉は裏切らないので(笑)。付け合わせのモロヘイヤやカボチャは鶴岡のもの、パプリカは遊佐の産のもの。かなり生産量が高く、おいしくて高級といわれているパプリカです。庄内って、本当に何でも採れるんですよね。

——すばらしいですね。そしてこちらが、「弁慶飯」ですね。

齋藤:白いご飯を焼き、味噌を付けて焼き、青菜漬けをまいてさらに焼く…という焼きおにぎりです。僕も小さいころから食べていましたし、家によって味噌の配合が違ったりする、この辺りの郷土料理のひとつです。いま、県外のお客さんが増えているので、〆にこういう郷土のものを出すととても喜んでいただけますね。

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弁慶飯:鶴岡の郷土料理、弁慶飯300円。弁慶が袈裟をかぶる様子に似ているからという説や、弁慶が大食漢でご飯のおこげまで食べるからという説などがあるそう。

 

同世代の仲間と話して、お互いを高め合う

——山形・庄内エリアでさまざまなお店を取材していて感じるのですが、ちょうど齋藤さんの世代、つまり40歳前後で活躍されている料理人さんや生産者さんが多いですよね。

齋藤:そうかもしれません。それこそ鶴岡は、和洋中の垣根もなく、料理人同士の仲がいいですね。同世代の生産者さんと話すことも多いし、みんなでよくご飯も行きますよ。自分たちの世代でいろいろ話しながら、お互いを高め合うっていう感じにはなっているかもしれません。あとは、うちの弟・翔太と『ポム ド テール』の有坂公寿シェフも同学年なんですが、あの世代もけっこう熱いです。

関連記事: 「庄内の食レベルをあげていきたい」ポム ド テール・有坂公寿さん

——それは今後も楽しみですね。2014年に鶴岡市がユネスコ食文化創造都市に認定されましたが、そうした流れからも、庄内の食レベルを引き上げていきたいという思いをみなさんがお持ちなのでしょうか?

齋藤:それもひとつはあるかもしれません。でもそれより…ただ、みんな地元を愛してるんじゃないですかね。たとえば僕らは、都会のレストランのようにミシュランの料理を出しているわけではないんです。それができないというよりは、そのポイントで勝負しているわけではない。まあ、有坂くんや浩ニくん丸ちゃん(『ベッダ・シチリア』の古門浩ニシェフ、『オーボナクイユ』の丸山孝一シェフ)はちょっと違うかもしれないけど(笑)。やっぱり、みんないいものはすごく見てきているし、いい料理を作れる。それを、地元でやりたいと思っているんじゃないでしょうか。

関連記事:
・「舞台は食の都、山形 庄内へ。」ベッダシチリア・古門浩二さん
・個性が際立つフルーツを使って人を笑顔にする洋菓子を。オーボナクイユ・丸山孝一さん


おいしんぐ!編集部

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——みなさんそれぞれ庄内の外で経験を積んでから、あえて庄内を選んで勝負している方々ですね。

齋藤:そうですね。僕は生まれが鶴岡なので、「そんなにいいところじゃないでしょ」なんて思うわけです。もちろん、食べ物やお酒はおいしいですよ。自然も豊かだし。でも、そんなところは全国にいっぱいあるじゃないですか(笑)。だからこそ、僕なりの「鶴岡らしさ」をきちんと持っていなければと思います。まだまだ鶴岡にだって、いろんな伸び代があるはずなので、もっと探していかないと。

——今後、齋藤さんがこの店で目指したいことは何ですか?

齋藤:40代になって、僕自身がどんどん学んでいくのと同時に、次の世代を育てたいですね。僕もたまにセミナーなどで話をすることもあるんですが、最近はお酒を飲む若い人が減ってきているなと感じています。僕の若い頃なんて、給料もらったら大半は飲みに使っていたのに…(笑)。だからこそ、日本酒の蔵本さんとも仲良くしていますし、これから盛り上げていきたいです。

おいしんぐ!編集部

——蔵元さんにも、同世代の方々がいますか?

齋藤:そうですね。日本酒の蔵元も後継者や若い人たちが頑張っているところも多いです。ワイナリーも増えてきて、いまは鶴岡庄内エリアでワイナリーが5社あります。地ワインである月山ワインさんも若い醸造責任者が近代的な設備や、最新のステインタンクなどを導入して、すごく勉強して作っていますし、日本のワインコンクールでも金賞を取ったりしていて、とてもおいしいですよ。そういう地酒や地場のワインとお料理を合わせられるのは、うちとしてもありがたいですね。ぼくも自身も、毎年酒蔵に見学に行ったり、日向ワイナリーさんのワイン造りをお手伝いさてていただいてます。

 

では、最後に…。
齋藤さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

齋藤:おいしいとは、記憶…でしょうか。「すごくおいしい」と感じるときって、自分のなかで「ああ、おいしかった!」という記憶を打ち破る「おいしい」に出会えたときなんですよね。「お母さんの作った味噌汁が一番」とか、よく通っているお寿司屋さんの「あのときに食べた、あのマグロが最高だった」とか…そういう記憶を超えないと、次の新しい「おいしい」が生まれないと思うんです。

だからこそ、記憶に残る「おいしい」を届けられるように、これからも料理を作っていきたいですね。もちろん、例えば10人に同じ料理を作っても、10人全員が「おいしい」と言ってくれることはないと思います。ただ、その中の何人かが自分と同調して「おいしい」と言ってくれるかもしれない。その人たちに、僕の「おいしい」をつなげていけたらいいですね。…なんて言って、自分で自分にプレッシャーをかけちゃったかな(笑)。


※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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