琴平荘と、そして来てくださるお客さんに感謝して。

「お客さんの顔を見て、“ありがとう”を伝えたい」 中華そば 琴の・今野直樹さん

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「お客さんの顔を見て、“ありがとう”を伝えたい」 中華そば 琴の・今野直樹さん

おいしんぐ!編集部

山形県鶴岡市羽黒町にある『中華そば 琴の(こんの)』。たった一杯の中華そばを食べるために全国からラーメン好きたちがやってくるという、庄内エリアの人気ラーメン店だ。同じく鶴岡市の有名店『琴平荘(こんぴらそう)』で修行をし、その味を受け継いだ店主・今野直樹さんが2015年に開店した。からみ合い方といい口当たりといい、ひと言では言い表せない独特の表情を持つ麺。たとえ毎日食べたとしても飽きのこないような、コクがありながらもあっさりと仕上げられたスープ。この町を訪れなければ食べることのできない、おいしい一杯がここにある。

「いらっしゃいませ!」店に足を踏み入れると、今野さんご夫婦やスタッフが笑顔で声をかけてくれる。お客さんとの会話を大切にしたいという思いから、券売機もあえて置いていない。キッチンカウンターに目を向ければ、麺を素早く茹で上げ、美しく盛りつける今野さんの仕事ぶりを間近で見ることができる。ラーメンの味は言うまでもないが、実際に店を訪れて実感するのは、ラーメンを食べる前からすでに「おいしい」が表現されている、ということだ。胃の中はもちろん、心の中も満たしてくれる『琴の』流のおいしさはどこにあるのだろうか。店主の今野さんに、じっくりとお話を伺った。

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内観 おいしんぐ!編集部
以前は食堂として使われていた建物を、なるべくそのまま残して使用。清潔感があり、アットホームで温かな雰囲気。


外観 おいしんぐ!編集部

外観 おいしんぐ!編集部

鶴岡市羽黒町にある『琴の』。鶴岡駅から車で約10分、庄内空港から車で約25分ほど。

 

19年勤めた会社を辞め、ラーメン店主に転身


明るい笑顔で迎えてくれる店主の今野直樹さん。 おいしんぐ!編集部

——今野さんがここを開店した経緯を教えてください。

今野:僕は羽黒町出身で、地元がこの辺りなんです。高校卒業後は電気会社に就職して、19年働いていました。奥さんも僕もラーメンが好きだったので、その頃よく週末に近場のラーメン店を中心に食べ歩きしていたんです。Facebookやブログでラーメンのことを書いていたら、同じようなラーメン好きの方やラーメン屋の店主さんたちと仲良くなってきて…ラーメンのトッピングを持ち寄る会とか、イベントなどで集まったりするようになったんです。

——もともとはラーメン好きのサラリーマンだったのですね?

今野:そうなんですよ。ただ、19年勤めてサラリーマン人生に見切りがついたというか、ある程度先が見えちゃったんですよね…。そんなとき、僕も好きでよく通っていた『琴平荘』の掛神社長とつながりができたんです。

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——『琴平荘』というと、鶴岡でかなり有名なラーメンのお店ですね。

今野:ええ。夏は旅館で、冬はラーメン屋をやっているという変わったお店で、それこそ行列のできるような有名店です。掛神社長の叔母さんがこの場所で長い間食堂を経営していたんですが、それを畳むことにしたと聞いたんです。それで「この場所でラーメン屋をやってみようかな」と。僕としても地元で思い出深い食堂だったので、もしこの場所じゃなかったら、やろうとは考えなかったと思います。

——では、偶然のなりゆき的に…?

今野:そうかもしれません。食堂終了の話が2014年の年末頃にあって、その頃から自分を見つめ直す時間が増え、家族にも相談をしました。春には会社を辞め、すぐに『琴平荘』で本格的に修行させてもらいました。最初の頃からずっと麺上げ(湯切り)をさせてもらいましたが、『琴平荘』の湯切り器具は特注でかなり重いので、相当鍛えられましたね(笑)。もう、毎日全身クタクタで…。その後もたくさんの勉強をさせてもらい、その年の6月末にオープンしました。

おいしんぐ!編集部

——お店の名前も、『琴平荘』からきているのですよね。

今野:修行中からずっと決めていました。僕の名字が今野なので「琴」の字を使わせてくださいとお願いしました。もともとこの場所自体が『琴平荘』とつながっていることもありますし、やっぱり僕自身、『琴平荘』の味がとにかく好きだったんですよね。掛神さんの味作りや経営に対する考え方、プロセスも含めてすべていいなと思っていて。掛神さん自身もラーメンオタクで全国あちこち食べ歩きをしているんですが、都心のラーメン屋さんたちとも繋がっていて顔も広く、開店にあたって本当にいろいろとよくしていただきました。

中華そば おいしんぐ!編集部

中華そば:「あっさり」と鶏豚魚介の香味油が入る「こってり」から選べる看板メニューの中華そば700円。手揉みを加えた中細縮れ多加水麺を使用。豚肩バラ肉のチャーシューは部位が異なる2種類を盛り合わせている。


中華そばとニグメし おいしんぐ!編集部

ニグメし おいしんぐ!編集部

ニグメし:チャーシューのたっぷり乗ったニグメし250円。地元・羽黒町産のはえぬき米を使用している。

——スープの味なども、『琴平荘』から引き継いでいるんですか?

今野:スープや味付けももちろん見ていただきましたね。ただ、調理環境によって味は違ってきますし、オープンしてからの試行錯誤で火加減や炊く時間を変えたりしてきているので、『琴平荘』と『琴の』は完全に同じではないです。ベースに丸鶏と煮干しを入れていますが、最近は当初より煮干しを少し控えめにしてみたりと日々調整をしています。

 

「何だこの麺は!?」と驚かれるようなラーメンを

おいしんぐ!編集部

——麺についてはいかがですか? 『琴の』の中華そばで使っているのは「手揉みを加えた中細縮れ多加水麺」ということですが。

今野:この物件の造りがオープンキッチンで、麺を打つ場所がとれないので、麺については最初から仕入れる方向で考えました。そして仕入れるならば、掛神さんの薦めもあり京都の製麺屋『棣鄂(ていがく)』さんのものしかないなと。『琴平荘』の麺は多加水麺で加水が50%以上入っているものなんですが、そういう麺を使いたいと思っても、このあたりの製麺所ではなかなか手に入らないんですよ。『棣鄂』さんは麺のレベル的に見ても、非常に高いものを作られているんです。

——こちらの麺、かなり特徴的ですよね。

今野:「何だこの麺は!?」とインパクトのあるびっくりしてもらえるような麺を使いたかったんです。少しザラザラしている麺肌の独特な食感と、麺のからみ方が特徴的だと思いますね。多加水麺なので、茹で時間はきっかり40秒で上げています。
『棣鄂』さんは京都にあるので、博多ラーメンなどの需要から低加水麺が主流だったんですが、工場長がうちのために初めて多加水麺の開発に挑戦してくれました。

おいしんぐ!編集部

今野:多加水だと粉も水も多く使うので、扱いは大変だったみたいです。でも、「山形でそういう麺が求められているなら挑戦してみたい」と。うちがオープンする前から『琴平荘』のラーメンを何回も食べて、だいたいのイメージもつけてくれていました。だから、1回目の試作でだいぶいい麺を作ってくれたんです。

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——製麺屋さんのほうで『琴平荘』のスープをイメージしながら作ってくれたというのはすばらしいですね。もうひとつの定番メニュー「太麺中華そば」では、違う麺を使っていますよね?

今野:『棣鄂』さんのオリジナル麺で「ウィング麺」という麺があります。麺の断面がY字になっていて、ストレート麺なんですが茹でるとうねりがついて、縮れ麺とはまた違った面白さがあるんです。これはスープにもからみやすい麺なんですね。

僕もちょうど、麺の種類を増やしたいと考えていたので、開店した翌年に夏休みをとって『棣鄂』の工場見学に行ったんですね。工場長にいろいろな種類の麺を見せていただきながら「あえて細麺生地を使って作る多加水のウィング麺があったら、麺にうねりやハネがついて面白いんじゃないか?」と思いまして。オーダーメイドでこの太麺を作っていただくことにしました。

——今野さんが、今後挑戦したいことはありますか?

今野:今後はやっぱり、調理スペースの問題を解決して、自家製麺をやってみたいですね。それから塩味など、新しいスープの味にも挑戦したいです。いま、平日限定メニューになりますが、やまがた地鶏らーめんや鶏白湯そば、KUROINO(山伏ブラックラーメン)など、いろんな種類のメニューを提供していますが、ゆくゆくはそうしたメニューも定番に加えられたらいいなと思っています。

おいしんぐ!編集部

——SNSでも限定メニューのお知らせなどをされていますね。

今野:お店の定休日や限定メニューの紹介ぐらいですけど、最低限のことは自分から発信しないと、と思っています。自分自身がラーメンを食べ歩いてブログを書いていた時期があって、そこからいろんなラーメン屋さんとつながってこられたので。SNSで得たつながりは、これからも大事にしたいですね。

——地元の方はもちろん、県外からも噂を聞きつけたラーメンファンがいらっしゃるのではないですか?

今野:いつも来てくださる常連さんや、こんな僻地まで来ていただけるお客さまには、本当に感謝しています。夜は仕込みをやっているので、営業時間は11時~15時の昼だけにさせてもらっているのですが、だからこそ、せめて営業時間中はスープや麺が売り切れないようにしていますね。わざわざここまで来てもらったお客さんにはガッカリされないようにと思って、がんばっています。

 

では、最後に…。
今野さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか——?

おいしんぐ!編集部

今野:おいしいものを自分が食べているときは楽しいし、誰かが食べて「おいしい」と言ってくれると、自分が楽しい。だから「おいしい」は「楽しいにつながるもの」だと思います。

うちの店はオープンキッチンです。券売機もないので、お客さんが店に入って席に座るところから、注文して食べてもらって、お店を出て行くところまで、顔を見たり会話したりすることができるんです。僕、だから券売機は苦手なんですよね(笑)。メニューを選んだり、食べているお客さんの楽しそうな様子を見られるのが嬉しいし、「ありがとうございました!」と直接顔を見て言えるのは、やっぱりいいですよね。



※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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