買い続けたいこの逸品「匹見の沢ワサビ」

匹見の「沢ワサビ」が幻のワサビと呼ばれる理由

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匹見の「沢ワサビ」が幻のワサビと呼ばれる理由

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和食が世界無形文化遺産に登録され、日本産のワサビが昨今注目されはじめている。なかでもおいしんぐ!編集部とタベアルキストが自信をもっておすすめしたいのが、幻のワサビと言われる「匹見の沢ワサビ」だ。

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東の静岡、西の匹見

皆さんは「匹見の沢ワサビ」をご存知だろうか。知っていたとすればかなりの食材通と言えるでしょう。

ワサビの生産地といえば静岡県や長野県のイメージが強いかもしれないが、かつては「東の静岡、西の匹見」と称されるほど島根県益田市匹見町はワサビの産地栽培が盛んな地域だった。最盛期は「青いダイヤ」と呼ばれ県内産の90%を占める年間約300トンの生産量があったと言われている。

ところが、生産者の高齢化や練りワサビの開発による価格の下落などから生産量は激減し、ワサビ田は次第に放棄され荒廃が目立つようになり、いつしか幻のワサビと呼ばれるようになった。

しかし、近年はこの地域特性を活かし、匹見ワサビの復活を目指している生産者がいる。例えば、広高山(ひろこうやま)の山麓1100mの高地にワサビ田が造成され、新規参入も含めたワサビ栽培農家が集まり、高品質のワサビを育てる試みが始まっている。


裏匹見峡 著者撮影

表匹見峡 著者撮影
匹見町は島根県益田市の西南部に位置する地域で、森林が97%も占める秘境である。この地域には日本屈指の清流と言われる高津川の支流のひとつである匹見川が流れており、最上流には中国山地の広葉樹が生い茂り、まさにワサビ作りには最適な地域なのだ。

観光地として有名な裏匹見峡、表匹見峡、奥匹見峡、などの美しい景観が多く見ることができるため、1年を通して自然を愛する人が訪れる地域でもある。
 

匹見ワサビ特有の栽培方法「渓流式ワサビ田」


著者撮影
民家がある地域から20分ほど生い茂る木々を分け入って急斜面の山道を登って行くと、きれいで豊かな水が流れる渓流の心地良い音が聞こえてくる。マイナスイオンを感じることができるその場所に、目指していたワサビ田はある。


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匹見川の最上流、標高500m以上の源流域に緑の葉を広げた美しいワサビ田が広がる。緑の中に佇む渓谷の形をそのまま活かしたワサビ田は圧巻の光景だ。木々の間から射す光の演出もあり、その様相は静寂の森の中にある幻想的な植物に写る。

ワサビの花期は3月から4月で旬は11月から2月と言われている。栽培方法は水の中で育てる水ワサビ(沢ワサビ)と、畑で育てる畑ワサビ(陸ワサビ)がある。


著者撮影

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匹見特有の栽培方法は、急斜面に石を積んだ「渓流式ワサビ田」と呼ばれる。栽培方法は昔ながらで、自然に近い、最大斜度40度の岩を配しその隙間にワサビの苗を植えている。少量の湧き水を存分に活用できる反面、水害の影響を直接的に受けてしまうのが難点でもある。

ちなみに静岡県や長野県をはじめ多くのワサビ田の栽培方法は、豊富な水を利用して栽培する「畳石式」で、フラットな砂利地に苗を植えていくため揃ったサイズのワサビをコンスタントに収穫することができる。
 

匹見ワサビの特徴


著者撮影

匹見ワサビは、収穫できるまで2年ほどの時間を有する。夏は非常に冷涼で谷からの湧き水が渇水し、冬は2m以上もの積雪があるため水温が一定ではなく季節によって変わるため、ワサビの成長が止まるという過酷な自然環境でゆっくりじっくり成長する。そのため小ぶりなサイズの100グラム以下のものが多いようだ。

また一般的な地下水を使ったワサビとは異なり、年輪に似た模様がでるのも匹見ワサビの特徴だ。


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品種は、沢ワサビ、畑ワサビとともに、「島根3号」系が多く栽培されている。島根3号は、ワサビ栽培に致命的な被害を与える腐敗病に対して発見された唯一の耐病性優良品種で、島根県ワサビ産業の危機を救ったといわれている品種として有名だ。

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こちらで採れたワサビは粘りがあり辛みがマイルド、そして時間差で穏やかな甘みが広がる。採りたてのワサビをその場で摺ってみると、自然薯のような強い粘りが出る。粘りが強いワサビほど上物と言われる。

 

ワサビが欠かせない香り高き料理「うずめ飯」


うずめ飯著者撮影

うずめ飯は、島根県石見地方の山間部で食べられている郷土料理。ワサビを気兼ねなく振舞うためのもてなし料理と言われており、古くは酒宴の後に必ず出されたといわれる縁起料理として伝えられている。

ちなみに、質素倹約を強いられた江戸時代に、たっぷりのワサビをご飯の下にうずめて食べたのが始まりとの説、肉を口にしない時代に肉を口にするためにご飯で隠したという説など料理名の由来については諸説あるようだ。

具材は地域によってさまざまだが、匹見町にある「匹見峡レストパーク」ではご飯の上に刻み焼きのりと葉ワサビの煮びたしがのる。ご飯の下にはカツオ節と昆布のダシ、醤油、味醂で煮た鶏肉、シイタケ、ニンジン、ゴボウ、里芋が入っており、ダシの量は少なめ。


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持参した匹見ワサビを鮫皮のおろし器でゆっくりの字を書くように円を描いてゆるゆる摺っていくと、徐々にワサビは空気をたっぷり含んでいく。粘りが強くふわっと完成した摺りたてのワサビは、きめ細やかでクリーミーな仕上がりに。

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摺りたてのワサビをたっぷりのせたご飯と具材をかき混ぜていただけば、やや甘めなダシとワサビの辛味が見事に混ざり合い素朴な郷土料理の味わいがワンランクアップする。

※許可を得て、匹見ワサビを持参させていただきました。

島根県益田市匹見町を訪れる際には、「匹見ワサビ」をぜひ味わっていただきたい。

(photo & text : タベアルキスト 和久井真行)

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