畑で見つけた話のタネ Vol.1

山形県庄内地方の伝統野菜「民田なす」に迫る

東北
食品・調味料
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伝統野菜
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畑で見つけた話のタネ

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日本中のちょっと珍しいお野菜や果物、個性的な農家さんを紹介させていただく、タベアルキスト 鞠谷紀士によるコラム『畑で見つけた話のタネ』。

お店に行けば、ついつい珍しい野菜や果物を置いていないかと探してしまう野菜ソムリエProの筆者が、店頭で手に取るだけでは分からない、野菜の裏側にあるストーリーをお届けします。「食」は生活の根幹。そんな日本の「食」を生み出す「農」の姿を少しでもお伝えできたらと思います。

1回目は山形県庄内地方に根付く伝統野菜「民田なす」のお話です。

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「伝統野菜ってなんですか?」

本題に入る前に、伝統野菜について少しお話ししましょう。伝統野菜、あるいは在来種と呼ばれるタイプの野菜があります。日本の各地で古くから作られてきた野菜を主にさしますが、その特徴は下記の通りです。

・農家さんが自分のところで種を取る。
・同じ種をまいても、大きさも味もバラつきが出る
・収穫量が少なかったり、病気に弱かったり。今の野菜と比べると弱点がある。

「安定した品質や供給」という視点でみれば、読んでの通りあまり良いところがありません。生産量はどんどん減り、今ではごく一部で作られるのみ。中には姿を消してしまった品種もあります。一方で、その個性的な形や味が地域の食文化と深く根付いていることや、その希少性から最近また注目を浴び始め、地域ブランドとして町興しの武器として見直しが始まっています。

欠点は多いけど、キラリと光る良いところもある、今ではレアになった個性的な野菜たちとお考え下さい。
 

「民田なす」を作る鶴岡共同ファームの五十嵐一雄さん

山形県は野菜以外の物も含めれば150を超える伝統野菜が息づく伝統野菜王国です。その中から今回は、「民田なす」を栽培する、鶴岡共同ファームの五十嵐一雄さんの畑にお伺いしました。


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親子2代で民田なすを手掛け、娘の蘭さんが民田なすの最もポピュラーな食べ方「からし漬」に加工・販売をしています。「民田なすと言えば、五十嵐」と名を馳せるほどの凄腕農家さんです。


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民田なすは、300年ほど前に京都の宮大工が持ち込んだ種が根付いたと言われています。小ぶりのなすで、皮がしっかりとしており、漬物に最適な品種だそうです。元禄2年、出三山を旅した松尾芭蕉が鶴岡で一夜を明かしたときに民田なすを食べ詠んだ一句と伝えられている「めずらしや山を出羽の初なすび」はつとに有名。

取材日(※取材日は6月中旬)収穫の直前でまだ実物はなく、摘果(余分な実を取ること)したものを見せて頂きました。

※民田なすの時期は6月下旬~10月上旬頃


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思い込みとは怖い物で、「伝統野菜を作る人は、きっと歴史を重んじ、守ろうとする志の高い人だろう」と取材前は思っていたですが、五十嵐さんには良い意味で裏切られました。何しろ、民田なすを手掛ける一番のポイントが「商売になるから!」なのです。
 

伝統と商売を共存させる型破り農家


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民田の農家に生まれた五十嵐さんは高校卒業後、農業研修生としてアメリカでの2年間武者修行。そこで「ビジネスマン」としての視点を身に着けました。「自分の作ったものに、自分で値段をつけたい」という想いが、現在の五十嵐さんの農業のスタイルを作っています。

農業も立派なビジネスです。日本はこの視点が弱く、生産者、特にご年配の方はビジネス的な考えに疎く、消費者も農を商売と結びつけることを嫌う風潮があります。しかし、それが生産者の所得を抑え込み、それを起因として後継者不足にあえぐ悪循環に陥っていることをもっと認識しなければなりません。


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だからこそ、人気のだだちゃ豆(枝豆の高級品種)の栽培にもあっさり見切りをつけた五十嵐さん。理由は「労力は一緒なのに、白山(だだちゃ豆一番のブランド産地)の地名表記が有るか無いかだけで値段が負ける」から。端から見たらクレイジーです。売れ筋の商品を放棄するんですから。でも「ビジネスマン」としてマーケティングを考慮すれば十分あり得る面白い視点。

「同じ労力で値段を一番高く売るなら?」ということで、「民田で民田なすを作れば、絶対に負けない産地ブランド品になる」と思い立ち、民田なすの大規模栽培を目指したのがスタート。目標の収穫量は、実に当時の一般的な農家が作っていた量のおよそ15倍。しかし、それも計算づくのこと。「ビジネス」としてやるには、それだけの量が無いと成り立たなかったのです。

 

「民田」で「民田なす」を育てたら上手く育たなかった


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今の栽培量を達成するまでは山あり谷あり。最初の壁は「民田」で「民田なす」を育てたら上手く育たなかったこと。冗談のように聞こえますが、民田の地形にその理由がありました。地形図片手に聴く解説はNHKの某TV番組のよう。地形から歴史を紐解いていくさまは実に痛快です。

地名の通り「民田」は田んぼ。つまり低いところにあり、水がたまりやすく排水性が悪い土地になり茄子には不向きです。その理由に気づいた五十嵐さんは周囲の丘の方に畑を移して無事にこの問題をクリア。今では、現代の土壌改良技術などもあって排水性の問題も解決され、正真正銘、「民田の民田なす」が栽培されています。

伝統を希少価値やブランドに昇華させ、見事にビジネスとして農業を成立させる。五十嵐さんは、さすが「民田なすの五十嵐」と呼ばれるだけのことはあります。


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蘭さん作、民田なすのからし漬けも試食させていだきました。からしとは言うものの、辛さはほとんどなく特有の香りがふんわり香る程度。キュッと締まりのある固めの皮と、それがパツっとはじける食感。民田なすの個性がしっかりと表れています。甘さとしょっぱさが程よいバランスで、1個でご飯お茶碗一杯イケます。

「民田なす」は伝統野菜なので産地以外ではほとんど見ませんが、だからこそ出会えた時の喜びも大。旅先で出会った際は是非手に取ってみてください。

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