つねに挑戦者でありたい。<香川・観音寺>

地産の食材で、新しい町の楽しみ方を創造する。「あみ屋」「アオハタ鮮魚店」代表・三好良平さん

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地産の食材で、新しい町の楽しみ方を創造する。「あみ屋」「アオハタ鮮魚店」代表・三好良平さん

おいしんぐ!編集部

香川県観音寺市で人気を集める一軒の居酒屋がある。店名は「あみ屋」。瀬戸内海で獲れた新鮮な魚介や地産のオリーブ牛、近くの酒蔵で作られた日本酒など、うまい“地のもの”が味わえるとあって、地元のファンも多い。

ここ「あみ屋」を7年前に開店させたのが、店主の三好良平さんだ。出身は観音寺の港から近い伊吹島の漁師一家で、現在35歳。昨年末には、朝から新鮮な魚介をイートインで楽しめる鮮魚店「アオハタ鮮魚店」をオープンし、早くも話題を呼んでいる。

全国の飲食店はこの一年、非常に厳しい状況にさらされている。そんな中で逆境に屈することなく、「どうしたらもっと人に喜んでもらえるか」を考えながら、アイデアを生み出し、実行に移してきた。現在も早朝から魚市場へ出向き、店先では魚をさばき調理をする一方、新たな宿泊施設作りや観光客誘致の企画などにも積極的に関わり、観音寺の港町エリア周辺をまるごと盛り上げる活動に力を入れている。

「アオハタ鮮魚店」の名は、F1レースで周回遅れのときに振る青旗からきているという。いずれは前を走る先輩たちを追い抜きたい、いつでもチャンピオンに挑む青コーナー側にいたい…そんな思いが込められている。「つねに挑戦者でありたい」という姿勢で前進し続ける三好さんに、これからの観音寺の楽しみ方と、今後の展望を聞かせてもらった。

外観 おいしんぐ!編集部
港の目の前に建つ「アオハタ鮮魚店」。2020年12月にオープンし、早くも地元の人気スポットとなっている。


内観 おいしんぐ!編集部
内観 おいしんぐ!編集部

店内1階では、水槽で泳ぐ魚や地元の野菜、お刺身コーナーやお土産の冷凍食品コーナーまでさまざまな買い物が楽しめる。

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「讃岐のもの」にしばることで生まれた面白さ

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観音寺を盛り上げるべく奮闘する三好良平さん。これからの活躍に期待が高まる。

——三好さんのご出身は、どちらですか?

三好:出身は伊吹島です。両親は漁師で、今も現役なんです。小さい頃から親の手伝いばかりさせられていたので、漁師になりたいとは思わなかったですね(笑)。夏休みも毎日手伝いでしたから…。ちなみに伊吹島の子どもは、漁の手伝いがあるので夏休みの宿題はしなくても怒られないんですよ。ぼくも一切した覚えはありません(笑)。

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——伊吹島というと、いりこの名産地ですよね。三好さんはどんな経緯で「あみ屋」と「アオハタ鮮魚店」を始められたのですか?

三好:仕事はずっと飲食関係なんです。初めは2年ほど、高松にあるピザやパスタの店で修行しました。給料がめちゃくちゃ安くて、生活がきつかったですね。24歳のときに独立してこっちへ戻り、30席ぐらいの居酒屋を始めましたが、その店は途中であまり面白さを感じなくなってきて、7年ほどで閉めました。

もう一軒、独立して3年目のときにオープンしたのが「あみ屋」です。港のすぐそばに、じいちゃんが網仕事をやっていた土地があったんです。漁で破けた網を縫って直す場所だったのですがもう使わないということだったので。それで、店名も「あみ屋」にしたんです。こちらは120席ほどの規模でやっています。


外観 おいしんぐ!編集部
外観 おいしんぐ!編集部

もともと三好さんの祖父が網の修繕のために使っていたという場所を居酒屋に。大きな大漁旗が目印。

内観 おいしんぐ!編集部
壁には手書き文字がいっぱいで、にぎやかな雰囲気のテーブル席。

——「あみ屋」さんには以前、夕食で伺わせていただきましたが、とても賑わっていました。

三好:ありがとうございます。「あみ屋」では面白いことがしたいと思って、食材は讃岐のものだけにしばることにしました。酒は香川県、とくにいまは川鶴酒蔵だけにしています。

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地元・川鶴酒蔵の純米酒、オリーブ酵母酒がそろっている。また「酒米違い純米酒飲み比べ」を頼めば、川鶴純米(酒米=さぬきよいまい)、川鶴特別純米(酒米=オオセト)、川鶴讃美純米(酒米=山田錦)の3種を楽しめる。

——川鶴酒蔵さんだけに限っている理由は?

三好:蔵別の飲み比べというのはよくありますし、さまざまな酒蔵の酒を取り扱っているお店もけっこうありますから。だから「あみ屋」では、さぬきよいまい、オオセト、山田錦という酒米別の純米酒飲み比べを楽しめるようにしたんです。以前お酒のお話を聞かせていただいたときに、川鶴酒蔵さんが地元密着型でみんなで田んぼ作りからやっているのが面白いなと思ったのが理由ですね。


おいしんぐ!編集部
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——「あみ屋」の料理について、コンセプトや特徴はありますか?

三好:伊吹いりこを使っていること、市場直送の新鮮な魚介を使っていること、ほぼ讃岐のものにしばっていること。そして干物や焼き物はもちろん、ポン酢や煮切り醤油まで手作りをしています。

また、漁師さんに聞いた漁師風の食べ方で出したりもしていますね。たとえば高知の漁師さんって、鰹をマヨネーズで食べるじゃないですか。ぼくらはしないですけど、あれがいわゆる漁師風ですよね。こっちの人だったら、醤油に一味唐辛子をがっつり入れて、一味醤油で食べたりとか。どう調理したらおいしいかというのは、よく漁師さんたちに聞いて研究していますね。

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デビラ、ニシガイ、鯛、ハマチ、マグロ、サーモン、鰹の刺身を盛り合わせた全種盛り。

——漁師さんとのコミュニケーションも大切にされているんですね。

三好:そうですね。直で卸していただいたりもするのでいつも助かっていますし、逆に、余っている魚を「買ってもらえない?」と言われて、仕入れたりすることもよくありますよ。とてもいい関係だと思います。

 

観音寺エリアに朝文化を根付かせたい

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厨房で新鮮な魚をさばく、店主の三好さん。もと料理人ならではの味付けも「アオハタ鮮魚店」の魅力だ。

——「アオハタ鮮魚店」は昨年のオープンだそうですが、こちらはどういった経緯で始められたんですか?

三好:正直、コロナウイルスの影響で夜の営業が厳しくなってきまして、回復もすぐにはしないだろうなと。それで、夜の特別なシチュエーションで外食にいくというよりは、もっと日常的に魚を食べてもらえる場所を作りたいなと考えたんです。

最初は魚を買って帰れるスーパーマーケットのような店も考えました。でも、味つけでは勝負できるかもしれないけど、価格では他のスーパーには勝てない。いっそ、自分で食べたいものを選んだり、自分の好きな味で食べられる店がいいんじゃないかと思ったんです。

たとえばぼくの場合、イクラが嫌いなので…海鮮丼にのっていたりするじゃないですか、あれをよけるのがいやなんですよ(笑)。だから自分で好きな食材だけを食べられるようなスタイルにしようと。


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——そういう理由からだったのですね。「アオハタ鮮魚店」という店名の由来は?

三好:青旗(ブルーフラッグ)は、F1レースで周回遅れのときに振る旗なんです。前を走る先輩を追い抜きたいという思いを込めて、つけました。それに青コーナーは挑戦者の色でもあるんです。常に挑戦者側でいたい、という思いもあるので。

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港を見ながら、ゆったりと朝食が楽しめる2階席。

——素敵なネーミングですね。この場所を選んだのはなぜですか?

三好:ここはぼくが小さいころ、ここは「メロンハウス」というスーパーだったんです。15年ほど前に閉店してしまっていたのですが、昔はよくここでお菓子や漫画を買って、フェリーに乗って島に帰っていたといういい思い出があって。

いま、ここの隣りは「伊吹いりこセンター」という人気のラーメン屋さんですが、以前はうどん屋さんだったんです。漁師のために朝3時から営業していて、昔は家の漁の手伝いをしたときに、あそこでよくうどんを食べていました。この辺りの通りが賑わっていたときのことをぼくは知っているから…。

——思い入れがある場所なんですね。

三好:はい。たまたま縁があってご連絡をしたら、ここを売ってもらえるという話になり、店を構えることができました。いまは、この通りにゲストハウスを作ろうとしています。ここから徒歩5分ぐらいのところで宿泊できて、「アオハタ鮮魚店」で朝ご飯を食べられたり、市場で競りの体験ができたり、サイクリングで町を回れるような場所を作れたらいいなと。

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刺身(サーモン、鯛、ブリ)920円、貝の刺身(タイラガイ、トリガイ、アカガイ)620円、ごはん並165円を合わせて特製丼に。さまざまな魚のあら汁165円も味わい深い。

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——とても楽しみです。朝7~9時はご飯と汁物が無料でつくというのも、お得で嬉しい朝文化だなと思いました。

三好:観音寺には高屋神社や銭形砂絵「寛永通宝」などの名所はあるのに、観光で訪れる人が泊まれる場所が少ないんです。だからこそ、ぼくらが観音寺で朝を楽しむ文化を作ることで、高松や丸亀ではなく観音寺に泊まってもらって、朝から夜まで楽しんでもらいたいなと思うんです。

今年の夏にもちょっと面白いことができないかなと考えています。海沿いに足場を組んで、足をぶらぶらさせながら海鮮やラーメンを食べられる店をやろうかなと。ちょうど最近、市と県から許可が降りたので、実現すると思います。

——三好さんの行動力と判断力、本当に素晴らしいと思います。大変なことも多いと思うのですが、なぜそこまで行動ができるんでしょうか?

三好:なぜなんですかね(笑)。でも、やっぱり楽しいからかな。いい人もたくさんいるので協力もしていただいていますし。ぼくも一度は大阪に出ている人間なのですが、最近のバイトの子たちもみんな、卒業したら県外に出てしまうんですよね。だからこそ、地元でも楽しい働き口があり、魅力もたくさんあるんだというのを伝えてあげないと。そうしないと、どんどん田舎がダメになっていくと思うんです。


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目指せ、アオハタ100期生!

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——今後はどんな展開を考えていますか?

三好:いまの時期はなかなか言いづらいところもありますが、本当はもっと、外からお客さんに来てほしいですよね。いま、瀬戸内国際芸術祭については一緒に動いていまして、島に行ってアートを楽しむだけじゃなくて、こっち側の港にアートをもってこれないかとか、いろいろ話をしています。

そして、うちだけで盛り上がりを作るんじゃなくて、通り全体でやっていきたいなと思っています。空き家もたくさんあるので、うまく利用しながら盛り上げていきたいです。

——行きたい場所がこのエリアに固まっていると、観光で訪れる人にとっては嬉しいですよね。

三好:この「アオハタ鮮魚店」でも、いまは2階のスペースの一部を「チャレンジショップ」としてテナントに貸しているんです。家賃1~2万でお貸しして、最長は1年契約です。つまり空き家を使って好きな期間、好きなようにお店を構えてもらって、1年経ったら独立してくださいということです。

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——これからお店をやりたい人や、いろいろ試してみたい人にとってはとてもいい機会ですね。

三好:ここでチャレンジしたお店が「アオハタ卒業生」の1期生、2期生…となっていって、100期生までいけば、それだけ周りに店が増えるということにもなります。やっぱり、店がたくさんあるのって強いんですよ。外から来てくださる人も自然と増えていくでしょうし。

——100期生…! 素晴らしい計画ですね。「アオハタ鮮魚店」のお客さんは、地元の方が多いのでしょうか?

三好:そうですね。地元の方も多いですし、もちろん観光の方もいらっしゃいます。港が見えるこの2階席で、たくさんの人に朝ご飯を楽しんでほしいですね。


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——1階のお刺身コーナーでトマトソース付き鯛のカルパッチョが売られていたり、2階のイートインコーナーに海鮮丼用醤油があるなど、素材の新鮮さはもちろんですが、用意されている味付けのバリエーションにも惹かれました。

三好:ぼくらは料理人なので、ただのスーパーマーケットではなく、料理人だからこそできることもいろいろあるかなと。

おいしんぐ!編集部

——「あみ屋」ではあえて漁師風スタイルで提供し、「アオハタ鮮魚店」では魚を料理人なりのアレンジで提供する、というわけですね。

三好:ええ。それから「アオハタ」にいらっしゃるお客さんの年齢層が高いので、身体にいいものという点にもとくに気を遣っていますね。ご飯を炊いたり、お出汁を取るのもすべて、水素水を取り入れています。中でも、火入れしても効果が残る水素水を使っています。食べ比べたらわかるのですが、これによって味の出方も全然違うんですよ。

 

では、最後に…。
三好さんにとって「おいしい」とは——?

おいしんぐ!編集部

三好:「誰かを思ってやること」じゃないですかね。ぼく一人だけだったらご飯は何でもいいんです。でも、やっぱり家族なりお客さんなり、誰か相手がいるからこそ、おいしいものを届けたいなって思います。

企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/曽我 美芽

アオハタ鮮魚店

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