和と洋が見事にミックスされた空間と料理

日本家屋で堪能する!四国の地産地消フレンチ 「シェ・ナガオ」長尾武洋さん、好美さん

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おいしんぐ!編集部

香川県丸亀市の住宅街に構える、一軒の立派な日本家屋。大きな門を通り、広い玄関から中に入ると、聞こえてくるのは落ち着いたジャズミュージック。障子や梁、床の間などが美しく整えられた和の室内には、背の低いテーブルとモダンな照明がセットされて、まさに、和と洋が見事にミックスされた空間となっている。

「シェ・ナガオ」は、採れたての魚や地元育ちの肉、旬の野菜を使った料理を伝統的なフランス料理のスタイルで届けるレストランだ。厨房で腕を振るうのは南フランスの三ツ星レストランや東京のミシュランレストランでの修行経験を持つ長尾武洋さん。そして、料理に合わせたデザートを作るのは、奥様でもあるパティシエの好美さん。夫婦で力を合わせて、自然の恵みと季節を感じるコース料理を楽しませてくれる。

オープンから約4年。どんな思いで店をスタートし、どんな気持ちで料理を届けているのか。オーナーシェフ長尾武洋さんに話を聞いた。終始にこやかで親切に話してくれる長尾さん夫妻の温かさが、アットホームな店内の雰囲気にも、そしてその料理にも表れているようだった。

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外観 おいしんぐ!編集部
住宅街の一角に建つ「シェ・ナガオ」。洗練された佇まいとアットホームな雰囲気を兼ね備える居心地のいいレストランだ。
(※2020年10月24日〜11月3日まで改装工事で休み)


外観 おいしんぐ!編集部

外観 おいしんぐ!編集部

南仏の三ツ星、東京の有名店を経て香川へ

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厨房で腕を振るうオーナーシェフの長尾武洋さん。

——素敵な建物ですね。

長尾:ここは、ぼくの祖父の生家なんです。香川でお店をやってみようかなと思ったときに親戚に相談したところ、使わせてもらえることになりました。洋室だった部屋に照明をつけたり、ダイニングキッチンだったところを厨房に変えたりと、少し改造しましたが、けっこうそのまま使っています。

内観 おいしんぐ!編集部
庭の景色を楽しめるよう、ローテーブルで統一。襖を閉めれば個室としても使えるのが、日本家屋ならでは。席数に限りがあるので予約がベター。


内観 おいしんぐ!編集部

内観 おいしんぐ!編集部

——お店を開くまでの経歴を教えていただけますか?

長尾:もともとぼくは丸亀出身で、実家もすぐ近くなんです。高校を出てから大阪の辻調理師専門学校へ行き、卒業後は「シェ・ワダ」というレストランで働きました。その後は2011年から1年間、フランスのプロヴァンスへ行きました。

——なぜ料理の道、そしてフレンチの道を選ばれたのでしょうか?

長尾:父と祖父が彫刻家で、香川県の伝統工芸をやっているんです。小さい頃からそれを見て、ものを作るのって面白そうだなと思っていたのはありますね。同時に、父と祖父と同じ道を継ぐ厳しさも感じて……。それで興味のあった料理をやってみたいなと思ったんです。ちなみにフレンチなのは、漬物が食べられないから(笑)。もし食べられたら、和食をやっていたかもしれません。

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——プロヴァンスでは、何というお店にいらっしゃったんですか?

長尾:三ツ星レストランの「ウストー・ド・ボーマニエール」というお店です。パリは日本人ばかりなので、全然知らないところのほうがいいかなと思っていたところ、たまたま紹介をしていただけたんです。南仏は本当に楽しかったですね。昼と夜の仕事の合間に、プールに行ってビールを飲みながらバカンス気分で休憩したりして、ちょっと仕事にならんな、というぐらい(笑)。

——そちらのレストランではどんな料理を?

長尾:そのとき27歳でけっこう年齢もいっていましたし、わりと何でもやらせてもらっていましたね。前菜、魚、肉、ソースなども作って……すごく充実した1年間でした。このままフランスに残るか、日本へ帰ってくるか迷ったんですけど、一生フランスにいるわけじゃないからやっぱり帰ろうかなと。


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瀬戸内海産 地蛸とアボカドのタンバル。地蛸とアボカドを合わせ、シェリービネガーとか酸味をきかせたものにトマトベースのガスパチョソースを合わせ、サラダ仕立てに。蛸とトマトの同系色が調和し、目にも美しい。

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——帰国されてからはどうされたのですか?

長尾:帰国後は東京・恵比寿の「ジョエル・ロブション」に4年半務めました。このときは死ぬほど働きましたね(笑)。その頃ちょうど子どもも生まれまして、香川に帰ってくるかどうしようか、考えていたところこの家が使えることになって。それで、丸亀に帰ってきて、2016年の11月にオープンしました。


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香川で再発見した、肉・魚・野菜の豊富さ

——地元に戻り、香川でお店を出してみていかがですか?

長尾:香川で働いたことがなかったので、新しく発見することのほうが多いですかね。オリーブ牛や魚介類とか、こんな食材もあるのかと。小さい県だから海も山も近いですし、何でもありますね。それこそイノシシも獲れるからジビエ系もありますし、野菜もたくさん作っていますしね。

——「シェ・ナガオ」のデザートは、パティシエである奥さまが作られるんですよね。奥さまとの出会いはいつだったのですか?

長尾:最初に勤めた「シェ・ワダ」です。私は料理を作るほうで、彼女は系列の洋菓子店「なかたに亭」でケーキを作っていました。職人の世界なので、結婚は手に職をつけてからにしようということで、フランスから帰ってきてから結婚しました。

——フランスや東京へも、ご一緒に?

長尾:はい。彼女はフランスでは少し離れたアルザスの「キューブレー」、帰国後は埼玉の「パティスリー・シャンドワゾー」で働いていました。アルザスの「キューブレー」というお店は、巣鴨のお店「ヨシノリアサミ」も出されているパティシエの浅見欣則さんという方がMOFのファイナリストになったときに一緒に働いていたので、お世話になったようです。

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アルザスの名店で修行経験もある、パティシエの好美さん。店内では焼き菓子やマカロン、チョコレートなども販売している。

——ご夫婦で協力しておいしいコース料理を作れるなんて、理想的ですね。

長尾:デザートを完全に任せて、ぼくは料理に集中できるのでとても助かっています。ただ最初のころは、料理のボリュームが多すぎるからデザートをしっかり食べてもらえないじゃないか、みたいなことでバチバチしましたけれど……(笑)。

ぼくも、お腹いっぱいになってほしいからついつい盛りすぎちゃうんですよ。お客さんに「お腹いっぱいにならなかったから、このあとラーメン食べに行こうか」なんて言われてしまったらいやだなと。でも、だんだんとお互いにわかってきたので、いまは大丈夫です(笑)。

彼女はずっとパティスリーで働いてきたので、出してすぐに食べてもらうレストランのデザートとは作り方が違うんですよね。ですので最初はとくに、レストランでしか食べられないメニューを勉強したりしてちょっとずつ配合を変えながら、やってくれていましたね。


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白い山(=フランス語でモンブラン)をイメージし、グラスに盛りつけた「和栗のモンブラン」。和栗クリーム、生クリーム、冷たいバニラアイス、サクサクとしたチュイル(焼き菓子)やヴァシュラン(メレンゲ)など、さまざまな食感が口の中で次々に広がる。

——おふたりで「こんなお店にしたい」といった思いはありましたか?

長尾:自分たちがやってきたことやできることって、コテコテのフランス料理なんです。ただ、日本人ですし、せっかくこうした和の空間もあるので、テーブルクロスを敷いてきっちりしすぎたものにはしたくないなというのはありました。低いテーブルにして目線を下げて、庭の景色が見えるようにして、この日本建築を楽しみながら食べられるお店にできたら、というイメージでしたね。


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——テーブルの高さで、景色が変わりますね。メニューはどのように考えているんですか?

長尾:最初は香川の食材のみ、あるいはフランスのものだけでできないか? とか考えたりもしたのですが、やはり香川県で商売している以上、自然と仕入れも地産地消になりましたね。近所に有機農家さんもいらっしゃるからおいしいものはそろってくるというか。フォワグラなどフランスの食材も使いますが、いま7割ぐらいは香川県産のものを使っています。坂出漁港にもほぼ毎日仕入れにいきます。食材集めがやっぱり大変ですから、1日の大半は仕入れしているような感じですね。

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オリーブの絞り糟を食べて育った香川県の特産、オリーブ牛のコンフィ。オリーブオイルにブラックオリーブ、ニンニク、タイム、ローリエなどの香辛料を合わせ、低温で1時間ほどじっくりと火を通していく。(ランチ、ディナーコースともに、+950円で肉料理をオリーブ牛に変更可能)

——その日に仕入れたものを、その日に調理する。理想的なスタイルですね。坂出漁港ではどんな魚介が仕入れられるのですか?

長尾:瀬戸内海のものが多いですね。あとは四国のものも集まるので、けっこう豊富に仕入れられます。たとえば今の時期(夏場)の香川はタコ以外には種類が少ないのですが、愛媛からおいしいタイが入ったり、カツオが高知から届いたりしますから。

——お肉系はどうでしょうか?

長尾:お肉はオリーブ牛がいいですよね。香川県もいま力を入れていますし、オリーブ地鶏、讃岐夢豚なども使っています。それからフルーツもけっこう取れますね。今、イチジクやもも、シャインマスカットなどがおいしいです。今日の和栗のモンブランも、四国のものを使っています。ビワ、みかん、プルーン、いちご……香川に帰ってくるまでは知らなかったのですが、意外とあるんですよね(笑)。


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コース料理は日替わり。ランチ2500円~、ディナー7000円~。
(※11月からはランチ3000円~、ディナー7500円~(税抜)に価格改正)

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——香川県産の醤油を使うこともありますか?

長尾:「ジョエル・ロブション」でも醤油は使っていたので、使うときもあります。近所には「綾菊酒造」もあるので、日本酒も置いていますよ。

——それは面白いですね。これからどういうお店にしていきたいですか?

長尾:ちょうどこの10月に改装をして、畳をフローリングに変えるんです。民家で冬は寒いので床暖房にしたいのと、いまの時期は特に衛生面のこともあるので、掃除がしやすいようにと。そういう感じで、これからも改良を重ねて、より居心地のいい店づくりをしていけたらいいなと思っています。
(※10月24日から11月3日まで改装工事で休み)

ジャンルとしてはフランス料理ですが、堅苦しい雰囲気なく、ゆったり食事を楽しんでいただけるのが一番ですね。料理の味も大事ですが、どんな人と一緒に食べてもらえるかとか、どんな空間で楽しめるかとか、環境づくりも大切だなと思っています。日本家屋のいいところとして、全室が個室になるので、お子さまも0歳から来ていただけますし、家族のイベントでも使っていただきたいですね。

 

では、最後に…。
長尾さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

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長尾:お客さんに食べていただくときに、自分自身が「おいしい」と思うものだけを出さないといけないな、とはいつも思っています。そのための味見をいっぱいするので、自分の店をやるようになってから、だいぶ太っちゃいましたね(笑)。だいたい目分量でもこんな味だなという予測はできますが、それでもしっかり味を見て、自分がおいしいと思うものだけ出したいんです。

もちろん、好みや志向は人によって違うとは思いますけれど。お客さんがどう感じるかを気にするときもあるんですけど、まずは自分自身がおいしいかどうか。自分のおいしいを、お客さんにもおいしいと思ってもらえるのが、一番ありがたいですね。

企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/曽我美芽

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