旅人に“涼”を届けて200年――

人と人をつなげる手作りのところてん。「八十八ところてん 清水屋」八代目・筒井雄一郎さん

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おいしんぐ!編集部

香川県坂出市。国道から細い小道へ入り、四国霊場第79番札所・天王寺をはじめとした寺や神社が点在する一角に佇む「八十八ところてん 清水屋」。生い茂る緑に囲まれ、清らかな水を溜めた池があり、赤い和傘や縁台が置かれた風情たっぷりのこの店は、まさに“峠の茶屋”。江戸時代のお遍路さんたちが、長旅の間に立ち寄り、ところてんをすする様子が目に浮かぶようだ。

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創業は明和元年(1764年)。高品質な国産天草ときれいな水を使い、豊かな磯の香りとつるりとしたのどごしを持つ極上のところてんを作り続けてきた。現在も8代目の店主・筒井雄一郎さんが昔から変わらない手作業で、1本1本に思いを込めながら作っている。店頭でにこやかに接客し、ところてんを突いてくれるのは奥様。味だけでなく、居心地のいい空間や、選ぶのが楽しくなるメニューの数々にも、穏やかで優しいふたりの人柄が表れているのを感じる。

200年以上にわたって人々を虜にしてきたおいしさの秘密、8代目を守るプレッシャー、そして今後チャレンジしたいことなどについて、筒井さんに話を聞いた。

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昔ながらの茶屋のような佇まいにほっとする店内。さまざまな種類のところてんや甘味が楽しめる。訪れたお遍路さんやお客さんとの会話から、尾張風、浪速(関西)風などのところてんも生まれた。


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清らかな水と生い茂る緑に囲まれた「清水屋」。この地で200年以上もの間、お遍路さんに安らぎと涼しさを届けてきた。営業は3月中旬から11月で、12~3月中旬は休み。

良質な天草を使い、手作業で作るところてん

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——まずは、この場所でところてん屋が始まった理由から教えてください。

筒井:このあたりは昔、今よりも海岸線が近くにあって、すぐそこまで海が迫っていました。それで、ところてんの材料となる天草(てんぐさ)がよく採れたからだと聞いています。また、すぐ前の道が街道だったので、旅行く人がここで休憩していくのにちょうどよかったんですね。四国八十八ヶ所の札所もすぐそこにあるおかげで、お客さまに口コミで広めていただけたのだと思います。

——天草の産地だったんですね。

筒井:天草は毎年春になると生えてくるので、うちではその年に海女さんが海に潜って手摘みした天草を使っています。よく海岸や浜辺にも打ち上げられた天草があるんですが、それは波に耐えられなかったものなので、ねばりけが弱いんです。昔はすぐ近くの海でも採れたそうですが、今はなかなか難しいので、徳島や伊豆半島の天草をブレンドして使っています。

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——天草には旬があり、それを独自にブレンドするんですね?

筒井:はい。産地によって天草のくせがあるので、組み合わせてブレンドします。ブレンドの方法はどういうところてんを作りたいかによって変わってくるのですが、たとえば徳島のものは固さが出ますし、伊豆のものはすごくねばりがいい。ぼくは固くなりすぎず、つるんというのどごしの良さを目指して、焚きながら調整しています。

——たしかに、こちらのところてんは、のどごしがよく磯の香りも強く感じられ、ふだん我々が食べているものとは違う印象でした。よく見かけるものは、もっと固いというか、切れるというか……。

筒井:芯があるような、あるいはコリコリする感じでしょうか。寒天粉を使って作るとそうなると聞いたことがあります。また、天草によってもグレードがあるので、それによっても変わるかもしれません。


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——原料にどんな天草を使うかでも食感がかなり変わるのですね。作り方はどのような流れになりますか?

筒井:まず天草を鍋に入れて、焚きます。焚いた煮汁をしぼって濾して、型に入れて固めるという流れですね。

——煮汁だけで固まるんですか。改めて、なんともヘルシーな食べ物ですよね。

筒井:ええ。固めるために何かを加えたりはしません。最近は天草を圧力釜のような機械に入れて、ボタンひとつでパッと作れるものもあるんですよ。でも、ある程度はいいんですけど、やっぱりもう一息というところまでしかいかないんです。なのでぼくは、手作業でないとできないですね。


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——添えられていた酢醤油と辛子も、とても味わい深かったです。

筒井:このあたりは昔から醤油屋さんが多かったんです。ですので特に気にせずに地元の醤油を使っていたのですが、県外から来られた方はみなさん「お醤油がおいしい」っておっしゃるんですよ。実はそれが、同じ坂出市にある「鎌田醤油」さんでして。

——だし醤油で有名な鎌田醤油さんですね。

筒井:昔から、ずっとこの醤油です。たまたまですが、よかったなぁという思いです(笑)。辛子も香川県の「山清」さんの「鬼からし」を使っています。これもツーンと辛くて、おいしいんですよ。

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人気ナンバーワンは、八十八名物ところてん。磯の香りとほどよいコシ、シンプルながら味わい深い酢醤油、爽快に鼻を抜ける辛子がたまらない。小皿250円、大皿470円。

——酢醤油と辛子でさっぱりといただく定番のところてん以外にも、たくさんのメニューがあって選ぶのも楽しいですね。

筒井:もともとは1種類でしたが、いまは8種類ほどあります。お遍路さんやお客さんが「大阪では黒蜜で甘くして食べるんよ」とか「名古屋では三杯酢よ」と教えてくださるので、どんどん増えてきました。ゆず蜜ところてんや、うどんのぶっかけつゆをかけて食べるところてんもあります。中には全種類食べていかれるお客さんもいらっしゃいますよ。

 

200余年続く店を守る“8代目”の使命

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——筒井さんは、8代目になりますよね?

筒井:はい。ぼくはいま42歳で、父から継いだのは2年前です。父の仕事を手伝い出したのは15年ぐらい前になりますね。細々とではありますが、ありがたいことに200年以上続いてきました。やはりこの立地だからこそやってこられたのだなと感じています。

——ここに流れている水にも、伝説があるとお聞きしました。

筒井:このあたりに伝わる悪魚伝説です。日本武尊(やまとたける)の時代に、悪魚が瀬戸内海を暴れまわっていたのだそうです。ストーリーは諸説あるのですが、うちの店内に飾っている絵に描かれているのは、日本武尊の御子である讃留霊王(さるれお)と88人の兵士が悪魚を退治したというシーンです。

彼らは悪魚の毒にやられてぐったりしていたのですが、この水を飲んだところ蘇ったというお話です。88人が蘇生した水の場所ということで、「八十八(やそば)の清水」とか「八十場水」などと呼ばれるようになりました。

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——それだけ新鮮できれいな水ということなんでしょうね。

筒井:このきれいな水があったこと、昔は海岸線も近くて天草がよく採れたこと、ところてんは涼しげな食べ物なので、ちょうど行き交う人々が涼を取るために立ち寄るにはもってこいだったこと。すべてはそのおかげですね。

——200年続くお店の8代目として、プレッシャーはありますか?

筒井:プレッシャーですか……。それは、まあ、ありますね(笑)。

——8代目なんて、普通はなかなか想像ができないものですから。

筒井:そう言われると確かにプレッシャーではありますけれど、でも、そんなに気負ってはいないです。ぼくがすべきなのは、作り方を教わって、それを継承していくことなのかなと。この地の伝説もありますし、ところてんの歴史もありますし、そうした歴史や文化を受け継いで伝えながら、その上でところてんを使ってなにか新しいものができないかなと考えています。

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しあわせあんみつ500円。ところてんの切り方を変え、くずもち風にした抹茶あんみつ。京都の宇治抹茶を練り込んだ豪華な一品。地元で作られる「山清」のあんこ、白玉、生クリーム、そして香川の「おいり」をトッピング。


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ところてんを使った新たな試みもおこなっている清水屋。ところてんを使ったヘルシーな抹茶ゼリー、コーヒーゼリー、紅茶ゼリーなども人気だ。

——そのひとつが、ところてんあんみつでもあるわけですね。

筒井:そうですね。最近はところてんゼリーも始めました。

——ヘルシーなのが嬉しいですね。ところてんの職人さんは何人いらっしゃるんですか?

筒井:作業は3~4人ぐらいですが、基本的にはぼくひとりですね。いわゆる「一子相伝」(※師が奥義や秘法を自分の子ども1人のみに伝え、ほかの者には秘密にすること)のスタイルなんです。

——これを毎日おひとりで、続けているのですね。そしていずれはお子さんに?

筒井:ふたり女の子がいるのですが……どうなるかわかりませんが、絶やさないでくれたらいいなぁ(笑)。

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——ご自身の「8代目」をどういう代にしていきたいとお考えですか?

筒井:ところてんの歴史や文化を受け継ぎつつ、新しいものを生み出していきたいです。また、ところてんを通して季節感を届け、いろんな人の思いを届けながら、人と人をつなげていけたらいいなと思っています。

——素敵なお答えです。ところてん屋店主としてお仕事をしていて喜びを感じるのは、どんな瞬間ですか?

筒井:直接お客さんと会うことが多いので「おいしかった」と声をかけていただいたり、笑顔をいただけるのが一番嬉しく、やっていてよかったなと感じます。あとは、ところてんって身体にいいものなので。たれには少し入っていますが、ところてん自体には添加物もまったく入っていません。そういう点では、この仕事でよかったです。

——人に健康を届けられるというのは、素敵なお仕事ですね。

筒井:それはもう、嬉しいことですよ。また、ところてんは身体を冷やす効果もあるようでして、みなさんに「涼しさ」もお届けできているかなと(笑)。

 

では、最後に…。
筒井さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

筒井:いま「おいしい」と聞いてぱっと思い浮かんだのは、笑顔です。喜びであり、安堵感であり……お客さんが笑顔になった光景が、ぼくにとっての「おいしい」なのかなと思います。

企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/曽我美芽

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