夏はシャキシャキ、冬はもっちり――季節で食感が変わる「川端れんこん」

土づくりにこだわり、“健康”なれんこんを育む。「蓮だより」川端崇文さん

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土づくりにこだわり、“健康”なれんこんを育む。「蓮だより」川端崇文さん

おいしんぐ!編集部

石川県金沢市、金沢平野北部に「河北潟」と呼ばれる潟湖がある。海と山に挟まれたこの地域では、古くから農業や漁業が盛んで、人々と自然が密接に関わりあってきた。「蓮だより」の川端崇文さんがこの地でれんこんの栽培を始めたのは2006年のこと。

蓮だよりの畑「どろんこファーム」には、干拓地ならではの肥沃な土壌がある。川端さんは、土地の自然環境を活かして、農薬を使わずに「生物との共生」を大切にしながられんこんを栽培している。根底にあるのは、「れんこんも人間も一緒」という考え。れんこんに健康な身体でいてもらうためには、どうすればいいのか。そのことを常に模索し、れんこんが喜ぶ環境を整えることに専心していると言う。

蓮だよりが手掛けるブランドれんこん「川端れんこん」は、もっちりとした食感が特徴の加賀れんこんの中でも、ねばりの強さが特徴だ。「地元のご年配の方に、こどもの頃に食べた懐かしい味がする、と言ってもらえるのが励みになる」と笑う川端さん。れんこんを大切に思い、土づくりにこだわり続けてきた川端さんの努力は、地域の人々のみならず、県内外の飲食店からも高く評価されている。


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れんこんは、季節の移り変わりとともに食感や味わいが変化する。その年の収穫が始まる夏のれんこんは、みずみずしくシャキシャキとした食感が特徴で、秋から冬にかけて収穫されるれんこんはデンプン質が多く、もっちりと肉厚。

蓮の葉がぐんぐんと育ち、畑一面が眩しいほどの緑で覆われる夏、れんこんの収穫に精を出す金沢市の川端さんの元を訪れた。

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広大な畑で一人、作業をする姿に憧れた

おいしんぐ!編集部

——川端さんが、金沢市でれんこん農家を始めたいきさつを教えてください。

川端:実は、農家になる前は、仕事を9回も変えていたんです。高校卒業後、美容室でお客さんのパーマやカラーを担当したのが最初の仕事です。美容師になったのに、カットができるようになる前に辞めてしまいました(笑)

——今とはまったく違うお仕事だったんですね。

川端:そうですね。仕事は色々やりました。興味本位で新しいことをはじめては、大体わかってくると飽きてしまう、ということを繰り返していたんです。ある程度、器用にこなせてしまうところがあったので。

——そこから、農家さんになろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

川端:農家になる直前は、サラリーマンとして管理職についていたのですが、仕事をしている中で「自然の中で働きたい」という思いが大きくなってきたんですよね。そう思い始めると、仕事にいきたくなくなって、日曜日になる度に頭がいたくなって。

——「サザエさん症候群」ですね……。

川端:私が住んでいる地域には、2代目や3代目として農家を継いでいる知り合いが数人いたので、朝の通勤時に彼らを畑で見かける度に、羨ましいと思っていました。

そんな時に、たまたま入った書店で「28歳は人生の1/3が過ぎたタイミングであり、挑戦ができる最後の歳だ」と書かれた本を見つけたんです。ちょうどその時28歳だったので、本の内容が強く心に刺さりました。それで、「最後なのであれば、本当にやりたいことをやろう。農業をやろう」と決意したんです。


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——その本との出会いが、川端さんの人生を動かしたんですね。農家という仕事に、元々馴染みはあったのでしょうか?

川端:実家が兼業農家で、お米を育てていたんです。幼少期から、私も田植えや稲刈りの手伝いをしていました。自然の中で仕事をしたいと思うようになったのは、そのことも関係しているかもしれません。

——れんこんを育てることに決めた理由はなんですか?

川端:農家になると決めて、まずは何を育てるか考えるところから始めました。調べると、根菜類は安定している、ということがわかって。れんこんの産地に住んでいたので、まずは小さな畑で収穫の体験をさせてもらったんです。汗水たらして身体を動かすと、童心に帰れて楽しかったですね。

その後、初めて河北潟に足を踏み入れたんです。そこで目にしたのは、れんこん農家さんが広大な畑の中で、たった一人で作業している姿でした。壮観でしたね。その姿に惹かれて「自分もやってみたい」と思ったのが、れんこんにのめりこんだきっかけです。

 

励みになったのは「懐かしい味がする」という言葉

おいしんぐ!編集部

——川端さんが、れんこんを栽培する時に特にこだわっていることを教えてください。

川端:力を入れているのは「土づくり」です。農家になったばかりの頃は、他の農家さんにならって農薬や化成肥料を使っていました。ですが、使うことで虫やザリガニといった生きものがぱたぱたと死んでいくのを見て、違和感を覚えるようになったんです。そこで、農薬の使用をやめ、「野菜が健康に育つための環境を整えたい」という思いで土づくりをはじめました。

——畑で暮らす生物への影響を考えて、農薬の使用をやめたんですね。栽培は難しくなりませんでしたか?

川端:そもそも、河北潟の畑は鉄分が多いので、ここでれんこんを栽培するのは「適地適作」と言えます。あとは、土の中にいる微生物をもっと増やしてあげればいい。色々勉強をして、土壌改良材などを用いながら土づくりをしました。

結局、私がしたのは、れんこんがよりよい環境で育つように整えてあげることだけです。それが、結果的に土づくりになるんです。

おいしんぐ!編集部

——周りの農家さんでも、農薬を使わずにれんこんを育てている方はいらっしゃるんですか?

川端:最近こそ、同じ志を持って農薬を使わずに栽培する若い子たちが現れてきましたが、元々はこの辺りだと私だけでしたね。農薬を使わないのは悪、ぐらいの風潮もあったように感じています。ですが、自分の信念に従って、やりたい方法で栽培したら、他のれんこんと明らかに違いが出てきたんです。

——どのような違いでしょうか。

川端:ねばりが強かったり、日持ちがよかったりするんです。食べてくれた方が「他のれんこんと違う」とおっしゃってくださるので、自分だけがそう思っているわけではないはずです(笑)

ご年配の方々から、「このれんこんは、こどもの頃に食べた懐かしい味がする」と言っていただいたこともあります。それがうれしく、励みになりました。自分の土づくりは間違っていなかったんだ、と思えましたね。

 

「生きもの」としての、れんこんの健康を考える

おいしんぐ!編集部

——川端さんのれんこんへ向けるまなざしは、まるで我が子へ向けるまなざしのようですね。

川端:自然も、人の身体も一緒なんだと思っています。以前、そう気づくきっかけがあって。

——何があったんですか?

川端:小学校の食育の授業に、講師として呼んでいただいたんです。こどもたちに食べもののことをどう説明したらわかりやすいかを考えている時に、気づきを得ました。

こどもたちに、「サプリメントや栄養ドリンクばかりを飲んでできた身体と、家族が作ってくれたごはんをいっぱい食べてできた身体、どちらが健康だと思う?」って聞いてみると、こどもたちはみんな後者だと言うんです。

——それを、れんこんにも置きかえて考えてみたということですね。

川端:人間の身体と同じ状況が、自然の中でも起きていると思います。生きものとしてのれんこんの立場で考えると、化成肥料ってサプリメントと一緒じゃないですか? だったら、れんこん自身が健康な身体をつくるために、私には何ができるのか、ということをいつも考えています。

——それが土づくりにつながっていくのでしょうか。

川端:まさに、そのとおりです。れんこんが、ほしいものをほしいだけ吸える環境をつくってあげること。私は、それが土づくりだと思っているんです。

 

季節の移り変わりとともに、れんこんも変化する

おいしんぐ!編集部

——れんこんの収穫は、何月から始まるんですか?

川端:その年の収穫は、まさに今の時期、夏から始まります。8月と9月は、午前1時から2時ぐらいに畑に出て収穫を始めていますね。

——そんなに朝早くから収穫するんですね。朝というより夜ですね。

川端:夏のれんこんはデンプン質が少ないので、足が早いんです。とったその日にすぐ出荷しないといけないので、収穫のスタートを早くしています。この時期は、デンプン質が少ないからこその、みずみずしくシャキシャキとした食感が楽しめますよ。

おいしんぐ!編集部

——秋以降はどのように収穫しているんですか?

川端:寒くなると、れんこんはデンプン質を多く蓄えるようになります。日持ちもするようになるので、収穫の時間は朝7時から16時に変わります。

——それでも早いですね。デンプン質が増えると、食感も変わってくるのでしょうか?

川端:はい。秋から冬にかけては、ねばりが強く肉厚で、もっちりとした食感のれんこんがとれるようになります。加賀れんこんならではの特徴を楽しめる時期ですね。

——金沢の冬は寒そうですが、夏と同じように水の中に入って収穫をするんですか?

川端:そうですね。冬も収穫の作業は変わりません。河北潟は海に近いので風が強く、吹雪になることもよくあります。雪が降っても、氷が張っても収穫は続きますね。特に12月はお歳暮やおせち料理の需要が増えて、繁忙期なんです。れんこんは縁起物ですから。年末ぎりぎりまで収穫と出荷の作業をして、年を越します。


おいしんぐ!編集部
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——冷たい水に浸かりながらの収穫作業は、さぞ大変だと思います。春はどのような作業があるんでしょうか?

川端:3月から、次の収穫に向けて土づくりが始まります。種植えが始まるのは4月です。並行して、残ったれんこんの収穫もします。それから7月までは、れんこんを育てる期間ですね。草刈りや追肥をして、また夏を迎えます。

 

新鮮なれんこんは、「血色のいい」れんこん

おいしんぐ!編集部

——石川県金沢市のブランド野菜「加賀野菜」の一つに認定されている「加賀れんこん」ですが、その中でも蓮だよりの「川端れんこん」はどのような特徴があるのでしょうか?

川端:加賀れんこん自体が、もっちりとした食感を特徴にしています。その中でも、私たちがつくる「川端れんこん」は、ねばりの強さが特徴です。

——れんこんは白いイメージでしたが、皮の表面が赤茶色なんですね。

川端:これは、「さび」とも呼ばれていて、れんこんの呼吸によって出された酸素と、土の中の鉄分が結合してついたものなんです。名前のとおり、赤錆みたいですよね。ちなみに、他の地域では、さびがついていない場合もあります。

おいしんぐ!編集部

——他の地域との違いはなぜ生まれるのでしょう。

川端:私たちは、れんこんのデンプン質をできるだけ増やしてもっちりとした食感にするために、収穫の直前まで茎や葉を刈り倒さないようにしているからです。れんこんの表皮が白い地域は、茎や葉を刈り倒してからしばらく置いて収穫し、さらに洗浄をしています。

——収穫方法に違いがあるんですね。

川端:さびのついたれんこんは、見た目で敬遠されてしまうこともあります。もっちりとして新鮮なれんこんをお届けするための収穫方法に依るものだ、ということを知ってもらえたら嬉しいです。皮をむけば、真っ白なれんこんが現れますしね。

ちなみに、れんこんが新鮮かどうか簡単に見わけられる方法があるんですよ。

おいしんぐ!編集部

——どんな方法ですか?

川端:表皮ではなく、断面を見るんです。古いれんこんは、つやがなくて穴の中が黒ずんでいます。新鮮なれんこんは、切り口が穴の中まで真っ白でみずみずしく、ピンクがかっていると思えるほどです。人も、元気だと血色がよくなりますよね。そういう意味でも、れんこんって人間に似ていると思うんです。

 

函館に、金髪のれんこん農家現る

おいしんぐ!編集部

——ちなみに、川端さんって、なぜ金髪なんですか?(笑)

川端:それ、よく聞かれます(笑)

2016年に、函館で「第6回 世界料理学会 in HAKODATE」というシェフの集まるイベントが開催されたんです。そこに参加することになった時に、日本中から集まってくるシェフにどうにかして印象を残せないかと思って、金髪で行ったんですよね。

——目論見は成功しましたか?

川端:はい。ありがたいことに「金髪のれんこん農家」として覚えていただきました。

——今は、錚々たるレストランのシェフのみなさんが、川端さんのれんこんをお店で使ったり、畑を視察で訪れたりしていますよね。

川端:世界料理学会がきっかけで、たくさんの料理人さんとのつながりができたんです。それからは、堂々と金髪にしています。最近は、黒髪に戻すと逆に「どうして?」って聞かれるようにもなりました(笑)

 

それでは、最後に、
川端さんにとって「おいしい」とは何ですか?

おいしんぐ!編集部

川端:食べたら身も心も元気になれるもの、そして、記憶に残るものが「おいしい」ものだと思います。

先ほど話したように、れんこんをつくっていて嬉しかったのは、食べてくださったご年配の方に「懐かしい味がした」って言っていただけたことだったりするんですよね。匂いと同じで、味覚も、いい思い出としてずっと記憶に残るものだと思うんです。

おいしいものを食べると、人って幸せを感じますよね。その結果、記憶に残してもらえるようなれんこんを、私は作り続けていきたいと思っています。

 
企画・構成/金沢大基 文/東樹詩織 写真/曽我美芽

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