自然に、自由に、そして楽しく。

自分自身が好きなものを、心を込めて作る。 「小泉料理店」小泉洋さん

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自分自身が好きなものを、心を込めて作る。 「小泉料理店」小泉洋さん

おいしんぐ!編集部

東京メトロ日比谷線の恵比寿駅から徒歩2分。恵比寿公園の斜め向かいに建つのは、薄いグレーの壁と木のドアが目を引くかわいらしい佇まいの店。2018年にオーナーシェフの小泉洋さんがオープンした「小泉料理店」だ。

15人も入ればいっぱいになるほどの空間に、シェフが料理をする様子を見ながら会話や食事が楽しめるカウンター席と、入り口付近の4人掛けテーブル席、奥の2人掛けテーブル席がある。自然の食材をシンプルに組み合わせ、ジャンルや調理法にはあまりこだわらず、自分らしい料理を作りたい――。シェフの小泉洋さんの思いが、ナチュラルで居心地のいい空間に表れている。

フレンチレストランなどで学んだ後、フランスに渡り修行。帰国後は国内各地で経験を積み4年前に独立をした。料理のスタイルはフレンチをベースにしつつも、鰹出汁などを使った和風の味付けやアジア料理の要素も取り入れながら「自由にやる」のが小泉さん流。食材そのものがもつ旨みや、食材同士の組み合わせをさまざまな方法で楽しませてくれると評判を呼んでいる。

「こだわりがないことが、こだわり」。そう語る小泉さんの自由な発想と料理は、どんな経験と考え方から生まれているのか。そして、将来に向けて考えていることとは――。コースメニューの中から3品を作っていただきながら、話を聞いた。


おいしんぐ!編集部

東京メトロ恵比寿駅から徒歩1分、JR恵比寿駅からは徒歩4分ほど。駅から近距離ながら、落ち着いた雰囲気の佇まい。


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店内はシンプルでナチュラルな雰囲気の、居心地のいい空間。カウンター席でシェフとの会話を楽しむのもおすすめ。

 

ドーバー海峡でスズキを漁獲

おいしんぐ!編集部

1981年生まれの小泉洋さん。「ぼくの好きな料理を出す店、という意味で店名も『小泉料理店』とつけました。お客さんに喜んでいただくことはもちろんですが、ぼく自身が自由に楽しんでやっています」

――まず、これまでの経歴から教えていただけますか?

生まれたのは茨城、育ったのは東京です。小さい頃から母の手伝いで料理するのは好きでした。母が忙しかったので、お弁当を自分で作ったりしていましたね。学生時代はスポーツにあけくれて、勉強も得意じゃなかったし、卒業してからもやりたいことがなくて。自分の好きなものって何かあるかなと考えたときに、料理は好きだなと。それで、20歳を過ぎていましたが料理の道に進みました。

――そこからキャリアをスタートされたんですね。

21~22歳ぐらいでしたね。最初はシェフ一人で、マンションの一室でやっているようなフレンチの店で1~2年。その後、祇園に本店を持つ和食とフレンチをあわせたスタイルの店が銀座に出店するということで、そこで3年ほど働きました。料理のジャンルを問わず、食材をなんでも組み合わせてみるという考え方は、そのときのシェフの影響が強いです。


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――その後はどうされたんでしょうか?

ワーキングホリデーでフランスに1年行きました。レストランに入って働けるようになるまで、最初の頃はノルマンディのオーベルジュで働いて、料理だけじゃなく、チーズやワインを作ったり、豚や野菜を育てたり、家を建てたりと、いろんなことをしていましたね。

――家畜を育てたり、家を建てたりも?

そのオーベルジュでは「すべて自分たちでやる」というスタイルだったんです。お母さんがベッドメイキングをして、お兄さんが石窯でパンを焼いて、弟が食堂を運営して。庭で野菜を育て、電気も自分たちで作って、食堂で出た廃棄物を餌にして豚を育ててそのお肉をいただく……みたいな。

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――電気もですか!?

1日の電力を確保したらそれ以上はないので、夜はまっ暗になっちゃって。お風呂もだいたいぼくが最後なので、入る頃にはお湯が出なくなっちゃうんです。だから自分でドラム缶風呂をつくって、薪で風呂を炊いて入ったりしていました。足りないものは自分で考えてどうにかするんだ、と勉強になりました。

――そういう経験は、いまのお店にも活かされていますか?

そうですね。最初はこの店も居抜きでぼろぼろだったのですが、壁に漆喰を塗ったり床をはいだりと、できるところは自分でやりました。


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――それ以外には、フランスではどんな経験をしましたか?

漁業もやりましたね。ドーバー海峡でスズキを獲ってました。興味があったからというよりは、お金がなかったので……。

――と言いますと?

そのときはレストランで働いている期間だったんですけど、家賃が払えなくなったんです。競馬をやっていたら家賃を使っちゃって……。「おまえみたいな日本人は初めてだ。休みの日も働け」みたいな感じで。家賃の前借りを返すためにほとんど休まず、漁業をやったり、ラグビー選手にケータリング料理を作ったりしていましたね。日本人の印象をかなり悪くして帰りましたけど、逆にいろんな経験ができたからよかったのかなって(笑)。

 

幕末を生きた先人たちに学ぶ

おいしんぐ!編集部

――フランスでの修行時代を経て、日本へ帰国された後は?

フランスでは星付きレストランで働いていたので、日本へ帰ってからもいいところで働けるだろうと思っていたのですが、ちょうどリーマン・ショックで、レストラン業界が厳しくなっていて、一切受け入れられずでした。

どうにか、レストランとパチンコ業を経営する会社に入って料理プロデュースの仕事をしたり、ビストロで働きながらナチュラルワインやクラフトビールの勉強をしたりして。その後、恵比寿のフレンチのお店で5年ほどシェフをやって、2018年に独立しました。

――こんなお店にしたい、というコンセプトは?

ナチュラルワインを出して、それ寄り添うような料理を作れる店ですかね。季節の食材を使って、調理法にはこだわらずおいしく出せるものを作ろう。ぼく自身が好きなものを作ろうと思ってやっています。それが店名にもつながってくる感じですね。ジャンルを問わず、ぼくが楽しく自由に料理をやりたいという意味で「小泉料理店」。なんでもありにしたかったんです。


おいしんぐ!編集部
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――小泉さんの料理には、いろいろなジャンルの食材や調理法がミックスされていますね。

ぼくは食材や調理法にこだわりがないことがこだわり、というような感じなんです(笑)。自分で調べて新しいものや気になるものがあれば何でも取り入れてみますし、誰かに勧められたら使ってみます。それがぼくの料理ですね。修行時代もフレンチがベースではありますが、和食をやったり中華をやったりと、他にもちょいちょいつまんじゃう感じだったので、そういう経験がぐちゃっとまじっていたりします。

――今日作っていただいた料理からも、それが感じられます。

今日の3品も、流れがとぎれとぎれにならないように、鰹出汁の葛餡から、フレンチっぽいチーズの要素を入れてみたり、その次はちょっとアジアっぽいニュアンスを入れたりと、つながりが出るようにしています。中華も少し経験があるので、たまにシュウマイやワンタン、鹿の青椒肉絲を出してみたりと、食材には合うなと思う方法があれば、そうしています。


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――小泉さんのそうした考え方は、どこから来ているのでしょうか?

学生の頃から歴史が、特に幕末~明治時代が好きだったんです。新選組と同じ道を辿って、バックパックで九州から函館の五稜郭まで半年かけてウロウロしていましたし。

その時代の人たちの考え方、失敗例やいい例を、自分の人生の中で活かしたいなっていうのがあるかもしれません。たとえば坂本龍馬だったら自由な発想で新しいことをやった。対する幕府側は固定観念にとらわれ、硬い古い考え方で全然先に進めなかったとか。だから、なんでもやってみようと。

――坂本龍馬ですか……なるほど!

あとはフランスに行ったことで、自分で何かを考えてやるのが当然、というか、やってみたら案外なんでもできるんだなとわかったので。フレンチだけをガチガチにやるのではおもしろくないのかなと。

 

自然と触れ合いながら料理を作る店をやりたい

おいしんぐ!編集部

――オープンから4年ほど経ちましたが、お客さんはどのような方が多いですか?

割合的には女性が多いですが、最近は男性3人ぐらいでカウンターで食事される40~50代のおじさま方が増えました。完全におまかせのコース料理だけにしたので、その影響もあるのかもしれません。

――お客さんにはどんなふうに楽しんでもらいたいとお考えですか?

ワインを飲まれる方にはボトルでもグラスでも、いろいろなナチュラルワインを料理との組み合わせで楽しんでもらえたらいいですね。組み合わせによって味わいが変化して、おもしろいワインが多いので。

もちろんお酒を飲まれない方にも楽しんでいただきたいので、普段はないのですが、お客さんの様子を見ながらご飯ものを出してみたり、パンを焼いたりもしています。気兼ねなく来ていただきたいですね。


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――これからは、どんなお店にしていきたいですか?

実はここであまり長くやるつもりはなくて、いろんなタイプのお店を何件かやりたいなと考えています。最終的には、食材の廃棄をなくせるような活動ができたらなと。

いろんな仲間の話を聞いても、レストランって端材を使ってうまく料理ができるので、正直それほど廃棄が出ないんです。それよりも多いのはスーパーやコンビニの部分なので、そこをどうにかできればなと。たとえば、賞味期限が切れて捨てているものを引き取ってできる食堂みたいなものを各町に作っていきたいなと。いま、企画書をスーパーに持ち込んでいるところです。

――すばらしいお考え、そして行動力ですね。

ぼくの妻もそうなのですが、子供が生まれてからフルタイムでは働きづらくなってしまった人や、逆に母親世代で時間にゆとりがある人たちもいます。そういう人たちと一緒に、楽しく地域を盛り上げられるような食堂をやりたいですね。

あとは、庭付きの一軒家みたいなところを買って、自分の研究所としてプレゼンテーションをしたり、庭で焼き芋とか、月に1回ぐらい子どもたちをまじえて食育のイベントをしながら、自然と触れ合いながら作る料理のお店をやりたいです。

 

お客さんとの会話が生まれる工夫を

おいしんぐ!編集部

――本日作っていただいた料理について教えてください。

1皿目は、白子となすの前菜です。佐土原なすという宮崎の伝統野菜と、北海道産の白子という、いま旬のものを組み合わせたものです。なすは素揚げしてふわっととろけるような食感にし、鰹出汁の葛餡と合わせました。白子にはとうもろこしを挽いた粉の衣をつけてシンプルに揚げ焼きしています。その上に、ニラで作ったソースと葛餡、フルムダンベールというフランスのやわらかいブルーチーズのソースをかけ、根っこつきのセルフィーユというハーブを添えました。


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白子となすの前菜。素揚げした佐土原なすと揚げ焼きした白子にニラのソースと葛餡、フルムダンベールチーズのソースが混じり合い、ひと皿の中でさまざまな味わいが楽しめる。

――ひと皿の中でさまざまな食感や味の組み合わせが楽しめて、とてもおいしかったです。

2皿目は、太刀魚のソテーです。大きくて状態のいいものが入ったので、さっとソテーしました。添えているのはイタリア・ヴェネト地方の野菜でブロッコリーの一種、ブロッコロ・フィオラーロです。一度柔らかく蒸してから油で焼き目をつけました。


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黒い粒はブルグルというデュラム小麦の原料で、魚の出汁やイカスミ、クミンと一緒に炊きました。さらにライムリーフのクリーム系ソースをかけて香りをつけました。ライムリーフは日本語ではコブミカン、タイ料理ではバイマックルといわれているものですね。最後に、菊の花を彩りとして添えました。

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太刀魚のソテーと、柔らかく蒸してから焼いたヴェネト野菜のブロッコロ・フィオラーロ。タイ料理に使われるライムリーフのソースをつけていただく一品。

――バイマックルといえばタイ料理に欠かせないハーブですよね。イタリア野菜を使っていながらも、アジアの香りを感じられるのもおもしろい組み合わせだと思いました。

3皿目は、蝦夷鹿の炭火焼きです。新鮮であまりクセのない、いい蝦夷鹿が入ったので、シンプルに外をしっかり焼いて、中はレア目に焼きました。あまり火を通しすぎると臭みや独特の香りが出てきてしまうので、炭火を使っています。ソースは王道の赤ワインソースです。


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添えているのは、淡路産の玉ねぎを1~2時間蒸し焼きにしておいたものです。最後に焼き目をつけて香ばしく仕上げました。オリーブのソースを塗り、マッシュルームと生のふきのとうを散らして、春の食材も取り入れました。

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蝦夷鹿の炭火焼き。長時間蒸し焼きにした淡路産の玉ねぎを添え、赤ワインのソースをかけたひと皿。マッシュルームの上に散らされた生のふきのとうに、春の訪れも感じる。

――お皿の中にたくさんの旬がつまっていたり、春の訪れをかすかに感じられたりして楽しいですね。

普段から、自然のものや旬のものを無理なく使いたいなと思っています。季節のものが何より、味も香りもいいので。お客さんとも「春がきましたね」みたいな会話も生まれたりしますしね。

おいしんぐ!編集部

――小泉さんはお店で料理を出すときも、必要以上に説明をなさらないですよね。

メインの食材とソースを言うぐらいが多いですね。食事だけでなく会話を楽しんでほしいので、それをじゃましたくないんですよね。あえて最初からすべてを話さずに、お客さんとの会話が生まれるようにしたいという思いもあります。お客さん側も、ぼくが一人で作っているとなかなかしゃべりかけづらかったりすると思うので、何かワンポイントがあると声をかけやすいのかなと。

 

それでは、最後に、
小泉にとって「おいしい」とは何ですか?

おいしんぐ!編集部

おいしいって、食べもののことではあるんですけど、結局は人の感じ方だと思うんです。心が豊かになれば、正直「ん?」っていう料理でも、おいしく感じることもあると思うんですよ。だからこそ料理の技術だけでなく、そういう部分を大事にできるようなお店にしたいなと思っています。人の心を豊かにできるような料理だったり、多少ぼくの腕が劣ることがあっても、「おいしい」って思ってもらえるような空気感だったり。そういう空間を作ることが、おいしいにつながるのかなと思います。

 
企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/曽我美芽

 

おいしんぐ!YouTubeチャンネルのインタビュー動画

おいしんぐ!のYouTubeチャンネルでは、小泉洋さんのインタビュー動画を見ることができます。
お店の雰囲気や料理、小泉洋さんが気になる方はチェックしてみてください。

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