器の温度まで気を配る“当たり前”のおもてなし

小豆島 島鱧や地元食材で、島を旅する気分に浸ってほしい。「日本料理 島活」料理長・木村清仁さん

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小豆島の土庄港から車を走らせること約10分。広めの道路に面し扇の看板が目印の、犬矢来を設けた建物がある。木戸に手をかけ暖簾をくぐると、すぐ目に飛び込んでくるのは一枚板で作られた立派なカウンター。その後ろには、和風庭園を望む座敷席が広がっている。こちらが創業31年、小豆島で「小豆島 島鱧」が食べられる数少ない料理店、「日本料理 島活」だ。

29歳で店を開き、62歳になったという店主の木村清仁さんは毎朝車を走らせ「四海漁業協同組合」で小豆島 島鱧を仕入れる。数時間前まで泳いでいた鱧を、素早く締めて料理に出す…小豆島でここまで新鮮な小豆島 島鱧を味わえるのは、ここを除いてないだろう。四海漁業の職員・上川貞亮さんが「物腰の柔らかい素敵な大将なんですよ」と評するように、接しているだけでその人柄が伝わってくる料理人だ。

お店が掲げる「季節の素材を活かし、丹精込めてつくった料理でおもてなしいたします」の言葉通り、料理やサービスの随所に感じられるのが、心地良いおもてなしの精神。「できる限りでやっているだけなんですよ」と木村さんは当たり前のように笑顔で言うが、お話を伺えば伺うほど、もてなす相手のことを一番に考えるだけでなく、小豆島の生産者たちのことまでも大切に想っていることがわかった。


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3〜4時間前まで泳いでいた「小豆島 島鱧」が味わえる

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日本料理 島活の木村清仁さん。まっすぐなおもてなしの心に、誰もが笑顔に。

——こちらのお店は、小豆島で「小豆島 島鱧」を食べられる数少ないお店と聞きました。いつから鱧を出すようになったのですか?

木村:四海漁業協同組合さんが小豆島 島鱧を立ち上げてから、うちでも扱うようになりました。四海漁協さんの扱う鱧は300〜450gにサイズを揃えたものなんですよ。うちで使う場合、皮が固いとダメだし、身のほうも極力火を入れたくないので、大きさを完全に揃えてくださる四海漁協さんの鱧は本当にありがたい。5〜11月末まで、鱧のシーズンは毎日仕入れています。

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カウンター席は特等席。鱧の身にV字の切り込みを入れていく、木村さんの職人技も見ることができる。料理人が鱧の骨の処理ができるようになるまで、10年はかかるそう。

——11月半ばになっても、鱧をいただけるんですね。

木村:みなさん、鱧は夏に京都で食べるものというイメージがあると思いますが、11月の鱧こそおいしいんですよ。産卵前に餌をたらふく食べた鱧は、卵を産むと痩せてしまって一旦味が落ちるんですが、それからまた餌を食べて太ってくる。だから今の時期の鱧は、脂を蓄えているんです。ちなみに松茸の季節になると、鱧は終わりを迎えます。これは冬が近づいた証しで、水温が下がれば鱧が捕れなくなるからです。でも今年はまだ暖かいですね。

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小豆島 島鱧の小鍋:鍋のおつゆが沸いてきたら、鱧を先に入れて出汁を取るのがおすすめの食べ方。淡路島で有名な「鱧鍋」は鱧と玉ねぎを入れるのが基本だが、島活ではそのほかにお豆腐や小豆島産の松茸も。懐石料理5,000円+税〜。予約時に要確認。


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——島活さんで鱧料理をお願いしたいときは、どのように注文するとよいでしょう?

木村:鱧のシーズンは鱧を売りにしているので、コースには必ず鱧を入れています。ご予約いただく際に、「鱧を多めにしてください」などとご相談ください。懐石料理は5,000円から準備しておりまして、お値段に応じて一生懸命ご期待に添えるようおもてなしいたします。お肉も食べたいという方や、いろんなものを食べたいといったご要望も日々いただきますのでね。なかには鱧が苦手な方もいらっしゃいますからその場合は外しますけど、近年は「鱧は今がシーズンですか?」とおっしゃるお客様が増えてきました。

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——お店で出されている鱧の特徴を教えてください。

木村:四海漁協の上川さんたちが、とにかくみなさん真面目な方ばかりでね。100g単位まで測って、卸してくださる。それに神経締めの処理も、丁寧でね。四海漁協さんでは頭からだけじゃなく尻尾からも神経を潰して…、とにかく手をかけてくださっているんです。一番手間がかかっている鱧であることは、間違いありません。うちはそれを使わせてもらって、普通の料理を普通に作っているだけなんです。本当に素晴らしい頑張りですよ。

「小豆島 島鱧」ができるまで鱧は逃すことが多かったけれど、今では私たちもいい鱧を仕入れられ、いい料理が提供できて、みんなが笑顔になっている…ええほうに動いているなと感じます。

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——たしかに漁港が近く、新鮮なお魚をいただけるのは、このお店ならではですね。

木村:水槽で3〜4時間前まで泳いでいた小豆島 島鱧を、小豆島で食べることができるのはこの店だからです。ほかにも8月の夏のマナガツオ、6〜7月の梅雨のママカリ(正式名称:サッパ)は普通、味噌漬けや焼き物で食べると思いますけど、ここではお刺身でお出しします。そうすると「刺身で食べられるんですか!?」と言っていただける、それがまた嬉しいんです。

特に「まま(ご飯)を借りにいくほどおいしい」と言われるママカリは、岡山では酢漬けで食べることで有名な魚ですが、うちではそれを生姜醤油で召し上がっていただくわけです。これは100人が100人、おいしいと言ってくださいました。その代わり時期が短く、釣ってすぐに氷締めしなければいけないため、手間もものすごくかかるんですけどね。でも本当にオススメです。

春と秋は鰆、メバル、夏はママカリ、マナガツオ、冬はヒラメ…言い出したらキリがないくらい、小豆島は季節に合わせ、一年中魚が変わっていくところも面白いと思います。


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鱧にかるく塩を振りバーナーで炙る。炙られた身が反り返っていくのは、鱧が新鮮な証し。

——鱧以外にも、小豆島産の食材を使われているんですね。

木村:はい、うちは地産地消を売りにさせていただいています。例えばお吸い物にのせているのは、今小豆島で売り出し中の「小豆島レモン」。ほかにもお米、麦味噌、海のもの、オリーブ、おそうめん、佃煮、小豆島が日本一の生産量を誇るごま油…など、なるべく地元のものを使うようにしています。そうすると、関連して小豆島のお話をできますでしょ? それにお客様にも、料理を召し上がっていただくことで、小豆島を旅した気分になっていただけますから。

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小豆島 島鱧のお吸い物:柔らかな鱧の身は、口に入れるとほろほろと解けていく。鱧のほかに厚切りの小豆島産松茸が入っていて芳醇な香りが食欲をそそる。懐石料理5,000円+税〜。予約時に要確認。

——島活さんで小豆島を味わい尽くしたい!という気持ちにさせられます。

木村:小豆島 島鱧も、小豆島レモンも、オリーブ牛も…みなさん本当に一生懸命やられているんです。だから私もご取材いただくときには、「小豆島には、レモンもあるんですよ!」とささやかではありますけれど、小豆島の産物を推してあげられればと思っています。それを見て、小豆島に旅行へ来ていただけたら、みんな助かりますしね。

私自身、生産者さんの売りをきちんと知っておくために、観光協会がやっている勉強会にも参加させてもらっています。小豆島まで来てもらうからには、まず褒められるより前に、最低限怒られないようにしなければいけませんから。


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食べる早さも量も好みも、お客様一人ひとり違う

——お店は創業何年になるのでしょう?

木村:私が29歳のときに始めて、今年で31年目になりました。その前は東京で日本体育大学を卒業後、新宿の歌舞伎町にある「光林坊」という店に入り、その後関西に戻って板前修行を積みました。日体大から板前の世界に入ったところは、異色でしょうかね。


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——店名「島活」の由来は?

木村:これは親父の店の名前を引き継いだものです。私が小学生の頃、ここから3分程のところで、うちの親父が「島活」という名前の日本料理店をやっていて。私が板前の道に進んですぐ、亡くなってしまったんですけどね。

このカウンターに使っているヒノキの一枚板は、親父の店で使っていたもの。寿司も出していたから、L字でね。この目の細かさのヒノキは、なかなかないと思いますよ。でも本当はもっと分厚かったんです。子供が遊びで釘を打ったりマジックで落書きしたりしたので、そこを削って今の薄さになってしまいました(笑)。あのままだったらもっと値打ちがあったと思います。


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小豆島 島鱧の湯引き:お湯でさっと湯通ししたものを醤油でいただく。鱧に葛粉を打っているため、つるんとした舌触りとふわっとした食感が楽しめる。器や飾りの紅葉からも、日本らしい季節を感じさせられる。懐石料理5,000円+税〜。予約時に要確認。

——お店のお客さんには、どんな方が多いですか?

木村:地元の方も観光客の方も、それから外国からの方もいらっしゃていただいています。ですので英語のメニューも置くようになりましてね。観光業界主催の英会話レッスンにも、一年半通いました。というのも、日本語がわからないお子様が、茶碗蒸しの蓋で火傷してしまったりするんです。少しでも私が英語を知っておけば、「Be careful…please」くらいは言ってあげられますから。

あと一番怖いのがアレルギーで、日本語の発音だと通じないんですね。だから最小限のものだけでもと、アホのひとつ覚えでね。事故やトラブルが起こってからでは怖いですから。今は情勢もあって、人数を半分に制限していますが、今後も外国の方にも観光客の方にも地元の方にもぜひ来ていただきたいです。


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——お店として大切にされていることは何ですか?

木村:地元のものをなるべく使う以外ですと、熱いものは熱く、冷やせるものは刺身醤油でも冷やしておく、器も料理に合わせて温かくしておいたり、冷たくしておいたり…。そんな当たり前のことです。それも忙しくなると疎かになってしまいがちですが、なるべくできる範囲で一生懸命お出しできるよう、精一杯やらせていただいております。

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小豆島 島鱧を大葉でくるんだ天ぷらとオリーブ&イカの天ぷら:噛むとサクッと音が鳴る天ぷらは、ふわふわとして柔らかい。小豆島産の塩漬けオリーブの中には小豆島産のイカが。懐石料理5,000円+税〜。予約時に要確認。


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天ぷらに添えられていたのは、粉山椒を混ぜた特製の塩。ほかにもカレー粉や梅を混ぜたり、昆布を焼いて昆布塩を作ったり…季節によって塩も変化させる。

——おもてなしの精神が徹底されているのがわかります。

木村:料理を見て「綺麗!」と言っていただいたり、食べて「柔らかいね、美味しいね」と言っていただいたり、あとは「こんなの、初めて食べました!」と言っていただけるのが、何より嬉しいです。愛想でも褒めていただけたら、作るほうとしても「本当にありがとうございます」という気持ちになりますよね。でも、怒られることだってありますよ。

——どんなことでですか?

木村:「出てくるのが遅いです」とか、懐石料理だったら逆に「早いです」とか。召し上がられる量も人によって違いますから、「次は何が出てくるんですか?」と言われると、足りなかったか…!と一品スッと作って出したり、ご飯の量を調整したり。みなさんお一人お一人違いますからね。全員にご満足いただきたいという気持ちはありますが、正直、全部完璧にはできていないと思います。それでもうちにできる範囲で、一生懸命やれることをやるしかありませんからねぇ。

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——木村さんは、これからお店をどのようにしていきたいと考えていますか?

木村:新型コロナウイルスのこともありますが、今まで通りなるべく丁寧に、もちろん真心を込めることは忘れずに。できるだけいいものを仕入れてお客様に提供する…そんな基本の基本をしていくこと、それだけです。あとはこのお店の広さでやれることを、なんとかやっていきたいですね。

 

では、最後に…。
木村さんにとって、「おいしい」とは何でしょうか——?

木村:なるべくいいものをいい状態で食べてほしい、それでおいしいと感じていただけたら幸せかなと思います。お刺身だったら旨味が出ているときに、いい温度で。せっかくお刺身を冷蔵庫で冷やしていても、お醤油が常温のものだったら意味がないですよね。だからとにかく素材を生かして、一番いい状態で料理をお出ししたい。そして地元の食材で喜んでいただきたい。あとはできれば、お愛想でもいいから、褒めていただきたい(笑)。

一番嬉しいのは、カウンターにいるときに耳に入ってくる、無意識に溢れた「美味しい」の声です。今のは本気だろうなと分かるから、私も嬉しくなるんですよ。「おいしいですか? これは小豆島のこんなものを使っていて…」と会話も弾む。それがまた、嬉しいんです。

企画・構成/金沢大基 文/木口すず 写真/曽我美芽



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