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「神経締めで極上の魚の味を実現」北日本神経〆師会 塩谷孝さん

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おいしんぐ!編集部
皆さんは「神経締め」と言う言葉をご存じだろうか? 食好きの方の中では既にご存知な方が多いかもしれない。

「神経締め」という言葉が一般化している状況がある一方で、理屈を把握し何がメリットなのかを即答できる人は限られてくる。「神経締め」とは一言で表すと「魚を美味しくする技術」であり、一般的にはその説明で事足りるが、今回は食好きの方に向けてより掘り下げていく。

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北日本神経〆師会を立ち上げた理由

全国の一流料理人たちがこぞって魚を欲しがる魚屋がある。青森県青森市にある「塩谷魚店」だ。創業85年になる鮮魚の卸・小売店「塩谷魚店」の5代目である塩谷孝さんはお店の経営以外に別の顔を持っている。それが「北日本神経〆師会」の代表だ。

「北日本神経〆師会」は、平成26年6月に塩谷さんが発起人となり、青森県内はもとより全国(北海道、宮城、大阪、愛媛など)から神経〆に取組む漁業者、漁協職員、魚屋、料理人など、さまざまな「魚〆師」の方々が青森県佐井村に集結し、結成された達人の組織である。「〆」には、「職人や技術者」の思いを込めている。

ご自身の技術を高め続けていくだけでなく、「おいしいと感じてもらえる魚を1人でも多くの人に届けていきたい」と、技術を隠すのではなく、むしろ技術の普及と伝播、知識の共有を実践されている。
 
 

「進化型神経締め」をはじめたきっかけとその極意


おいしんぐ!編集部
今回は塩谷さんのお店「塩谷商店」にて進化型神経締めの実演をしていただき、お話を伺った。

塩谷さんが編み出した「進化型神経締め」は、ご自身が感じた逆境から編み出され、今も精度が更に高められ続けている。

「神経締め」を始めたきっかけは、西日本で「青森の魚はまずい」と言われる事が多く、本当は極上の魚がたくさんあるのに、輸送過程での劣化により不当な評価をされることが、「進化型神経締め」を生み出す契機だった。

その「神経締め」とは、端的に述べると「魚の死後硬直を遅らせる」技となる。そして、メリットは「鮮度を維持できる点」だ。

一般的に「野締め」よりも「活締め」の方が死後硬直までの時間を遅らせられるが、「神経締め」は更に上をいくとされる。死後硬直を遅らせることで輸送の過程で味が落ちるリスクを下げ、長距離・長時間輸送も可能にする。


おいしんぐ!編集部

「鮮度」も魚の美味しさを決める要素であるが、もう一つ重要な要素がある。それが「旨味」だ。

魚の旨味はATP(アデノシン三リン酸)が分解され、IMP(イノシン酸)が生成されることで増大していく。ATPの総量は魚のストレスで減少し、一般的に死後硬直の10数時間後までがATPのピークであるされている、ゆえに、「如何に巧く締めて(殺して)」、「如何に死後硬直を遅らせるか」が旨味の量に大きく影響を及ぼす。そこで、「神経締め」が威力を発揮するのだが、「神経締め」は単独では行われず、「脳殺」と「放血」が共に行われる。

1. 脳殺=脳を破壊する
2. 神経締め=脊髄を破壊する
3. 放血=血を抜く

このプロセスが一般的だ。しかし、塩谷さんが凄いのは、魚種やお客さんの要望で「脳殺優先」、「放血優先」と各プロセスを変えて使い分ける点だ。お客さんに届くまでの輸送時間から逆算し、魚の種類、魚体、海水温なども考慮したうえで、「神経締め」を行う。
 

「お客さんのために、オーダーメイドの魚を作る」


おいしんぐ!編集部

塩谷さんの考え方は、「お客さんのために、オーダーメイドの魚を作る」こと。

従来の魚屋さんであれば「オーダーメイドの魚を作る」という考えを聞いて、「お造り」しかイメージできなかっただろう…。また、「神経締め」自体は斬新な技術ではないので、「進化型神経締め」と聞いて否定的に捉える方もいらっしゃるだろう。そこで、我々が体感した塩谷さんの凄さを写真と共に紹介していきたい。
 
今回は「放血優先」、「脳殺優先」での食べ比べをさせていただいた。何れせによ塩谷さんのそのスピードは速く、魚にストレスを与えない事、魚にダメージを与えない事の重要さを体感させられた。


おいしんぐ!編集部
活きた魚を選ぶ塩谷さん


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取り上げられたアイナメ

放血優先


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魚の心臓の力で血を出させる。


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素人がやると暴れられるが、スーッと動きが弱くなり、血を出してゆく。
 

脳殺優先


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こちらが「脳殺優先」。血抜きよりも先に脳を破壊し、神経締めを行う。


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こちらの方が死後硬直が遅くなる。よって、強い食感を残しつつ、旨味も出る。特に西日本で喜ばれる魚味だ。


おいしんぐ!編集部
放血が済んだほうの魚も脳殺、神経締めに。

おいしんぐ!編集部


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魚によって、どこに神経が通っているか瞬時に頭の中に浮かび、

おいしんぐ!編集部
それにより、ワイヤーを刺した時点で「勝手に入っていく」と話してくれた。


おいしんぐ!編集部
ミリ単位での仕事なので、圧巻。
塩谷さんの強みは経験に基づく知識と技術=職人的要素だけでなく、ご自身の仕事を分析して整理・応用される能力=学者的要素も併せ持っておられる点だと感じた。

 

魚にダメージを与えない事の重要さを体感


おいしんぐ!編集部
2種類の神経締めで仕上げられた魚。


おいしんぐ!編集部
ともに眼が澄んでいる事に驚いた。ストレスが掛かっていないこと、仕事の精度の高さを体感するばかりだ。そして、兜割りにすると心臓が動いていてそれにもまた驚きを感じた。

その光景が苦手な人がいると思うので、写真は載せないが…。


おいしんぐ!編集部
眼だけでなく、身も綺麗で、透き通っているかのよう。

おいしんぐ!編集部
サク取りされた身。刺身にしていただいたが、締め方で旨味と食感が異なり、またまた驚いた……。

魚の食感、旨味、香りをどのバランスが好みかは、ハッキリ言って生まれ育った土地や食の嗜好に依拠するだろう。プリプリな食感が好きな人もいれば、寝かせて旨味が乗っているものを好む人もいる。調理法ごとに相性もある。そういった人の好みや料理人の調理法に基づき魚を「オーダーメイドで作る」……。塩谷さんの仕事を、身をもって感じた。

 

「おいしい魚をもっと届けていきたい」という思い


おいしんぐ!編集部

青森の匠・塩谷さんの男の生きざまに触れ、「神経締め」の奥深さと、まだまだ可能性がある事を知り、感銘を覚えた。「神経締め」は、魚が美味しい日本が誇る匠の技。世界レベルで注目されるべき技術である。だが、悲しいことに漁獲量が落ち「漁業大国」とは言い難い日本において、貴重な魚を美味しくいただく技として「神経締め」には夢がある。

また塩谷さんは「凄腕〆師」という以上に、人間的な魅力と優しさに満ちた方だ。まず、好奇心や探究心が強い。それゆえに独自の仕事を編み出されたのだ。

「漁師さんが獲った魚を2番走者としてバトンを受け取り、さらにいい状態で料理人や消費者にバトンを渡したい。結局はその魚を食べた人たちに、おいしいと感じてもらわないと…」と語る塩谷さんは、一人の男として尊敬を覚える。その思いや行動から多くの漁師や料理人から慕われているのだと感じた。

青森が誇る食の賢人であり、食の変態であった。

(photo & text :タベアルキスト Yuya Otani)

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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