小豆島のオリーブ餌で健康的に育てる!

安心・安全な香川のブランド牛。讃岐オリーブ牛生産者・「多田牧場」多田英博さん、紀子さん

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安心・安全な香川のブランド牛。讃岐オリーブ牛生産者・「多田牧場」多田英博さん、紀子さん

おいしんぐ!編集部

高松空港から車で20分ほどの、森林公園周辺の池と緑に囲まれた立地にある「多田牧場」。この自然豊かで静かな環境で、香川県が誇るブランド牛「讃岐オリーブ牛」が育てられていると聞き、牧場を経営している多田英博さん・紀子さんご夫妻のもとを訪ねた。

香川県の名産品としても知られる、小豆島の温暖な気候を活かして育てられるオリーブ。そのオリーブオイルを作るときに出た、栄養のある搾りカスを讃岐牛に食べさせることで、讃岐オリーブ牛が生産される。牛肉としての風味が高まり、脂があっさりとしていて、重すぎない食べごたえが特徴だ。

多田牧場ではほとんど、母牛に種付をして子牛を産ませ、一から大事に育てあげた讃岐オリーブ牛を出荷している。牛の住環境や餌はできるだけ自然のものを選び、健康体で安全な牛を育てることを特に大切にしているという。

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香川県木田郡三木町にある多田牧場。ここで約70頭の讃岐牛が育てられている。

牧場内を歩きながらのインタビューで印象的だったのは、夫妻ともに牛たちを見る目が終始やさしく穏やかなこと。自分の何倍もの体重がある牛たちを相手にする、体力的にもきつい仕事ながら、それはそれは嬉しそうに世話をし、一頭一頭に声をかける。「みんな家族みたいなものだからね」と英博さんが笑えば、「うちの子たちは懐っこくて、すぐ寄ってくるのよ」と紀子さん。愛情をたっぷりと注ぎ、育てている様子が伝わってきた。

おいしく安全な讃岐オリーブ牛のために、日々どんな工夫をしているのか。そして、これから先の課題とは——。生産者ならではの熱い思いをうかがった。

 

健康で大きく育つ讃岐牛を育てるために

おいしんぐ!編集部

——多田牧場さんでは、何頭の牛を育てているんですか?

英博:母牛、子牛、育成牛、肥育牛を合わせて70頭ぐらいですね。

——みんな目がくりくりとして、かわいい顔をしていますね。

英博:かわいいでしょう。うちの子はおとなしくて、人懐っこいのが多いんです。家畜を育てるのって、手を抜こうと思えば抜けるけど、うちぐらいの規模だと、もう家族みたいなものなんですよね。なるべく丁寧に丁寧に、育てています。

——母牛、子牛、育成牛、肥育牛について、詳しく教えていただけますか?

英博:まず、ここにいるのが育成牛。種付をして母牛になる前のメス牛ですね。この牧場で生まれて、体が大きくて血統的にも優秀なメス牛は母牛として育てるんですよ。だいたい生後12~13カ月ぐらいで種付をします。種付に成功したら10カ月後に子牛が生まれます。ちょうどそこにいる子牛たちは、生後270~300日ぐらいですよ。


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生後200~300日ぐらいの状態の子牛たち。多田牧場の牛は穏やかでおとなしく人懐っこいのだとか。生後27~28ヶ月で肉牛として出荷される。

——多田牧場さんでは、他から子牛を仕入れるのではなく、ここで母牛に生ませているんですよね。

英博:90%以上がそうですね。一番の理由は、自分の好みの牛が作れるからなんですよ。市場で買えば、「生後何日で何キロにまで大きくなった牛ですよ」という大きい子もがいるんですが、そういう牛は肥満で、肝臓が弱っていることがあるんです。育っていくうちに、だんだん餌を食べなくなることもあります。

牛は通常、餌を多く食べるほど大きくなります。たくさん食べないと、霜降り牛にもなれません。だから自分のところで育てる牛は、小さいときから肥満にさせず、肝臓を弱らせないようにしています。ほら、ここにもデブな子はいないでしょう?

——本当ですね。出荷直前まで健康体で、たくさん食べて大きくなり続けられるような牛を育てるんですね。

英博:そうです。うちの子牛には、いくら食べても太らない牧草(粗飼料)を食べさせています。子牛のうちからお腹を大きくして、健康でよく食べる子に育てたいので。だから太らせるための濃厚飼料は使いません。これは言わば栄養のかたまりみたいなもので、本来、自然の牛は食べないものなんです。

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多田さんたちがかわいがっている母牛たち。生後1年ほどで種付が可能となり、以後15歳ぐらいまで1年に1頭ほど出産するという。1頭1頭に名前があり、顔を見れば識別できるそう。

——ところで、この牧場にはこれだけ牛がたくさんいるのに、動物臭さをほとんど感じない気がするのですが…。

英博:徳島から運んできた鋸屑(のこくず)を敷いていて、臭いを吸収させているからかもしれません。なるべく清潔で乾いた状態を保つようにしています。また、母牛にも子牛にも日光浴をさせるために、屋根を開けています。紫外線を吸収することでビタミンが豊富な牛になると言われているんですよ。

——環境にも工夫されているんですね。母牛、子牛、育成牛、肥育牛のほかに、父牛もいるんですか?

英博:お父さんにあたるのは種牛(種雄牛)といって、北海道から沖縄まで日本全国の優秀な和牛がいるので、種付の時期には種雄牛センターなどからふさわしい種牛の精液ストローを買います。うちの牧場出身で、種牛としてデビューしている牛もいるんですよ。

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——多田さんご夫婦が牧場を始めたのは、いつですか?

英博:平成2年から始めて、今ちょうど30年です。最初はお母さん(紀子さん)が一人で、牛も4頭だけで始めたんです。

紀子:お父さん(英博さん)は昨年まで運転手の仕事をやっていましたから。息子たちにも手伝ってもらったりしましたけれど、最初は何もわからないから、すべて体で覚えました。

——お母さんがお一人で! 牧場を始めた理由は何だったんですか?

紀子:お父さんが、牛が好きだから(笑)。小さい頃から田んぼ用の黒い農耕牛が家にいて、それが好きでたまらなかったらしいんです。結婚してからも「いずれ牛を飼うぞ」といつも言っていました。「牛を飼いたいから、トラックの運転手をして、お金を貯めるんだ」って。


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英博:ペット感覚というか、もともと牛を育てるのが好きだったんですよ。運転手をして頑張って稼いで、最初に1頭牛を買って。また稼いで、もう1頭…それを繰り返してここまで来ました。昨年運転手の仕事をやめて、じっくり関わるのはこれからです。とはいえ今66歳ですから、そろそろ息子に任せることになるんですけれど(笑)。

紀子:男の趣味には、終わりがないのよ(笑)。

 

小豆島産オリーブの搾りカスが、肉の旨味を引き出す

おいしんぐ!編集部

——ご夫婦で助け合いながら夢を追うなんて、素敵なお話です。牧場を始めて30年とのことですが、「讃岐オリーブ牛」の生産を始めたのはいつからですか?

英博:10年目ぐらいです。ここ5~6年でやっと、讃岐オリーブ牛は知られてきた気がしますね。2年前には、和牛のオリンピックとも言われる「全国和牛能力共進会」という品評会で、香川県の生産者さんが育てたオリーブ牛が日本チャンピオンになりました。脂質がよく、オレイン酸が一番高く、味もいいということで。

——讃岐オリーブ牛は、そもそもどんな牛なんですか?

英博:讃岐オリーブ牛は、出荷2ヶ月前までオリーブ餌を食べさせた讃岐牛です。北海道から来ようが九州から来ようが、20カ月以上香川で育った黒毛和牛の肥育牛が讃岐牛。牛の耳についている黄色いタグに個体識別番号がついていて、これによってどこで生まれたか、育ったか、母や父はどの牛かも調べられます。松阪牛なども同様ですが、要は転売や産地の詐称ができないようになっているんです。

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——オリーブの餌について、詳しく教えてください。

英博:最初に発明したのは小豆島の石井さんという方です。小豆島はオリーブの名産地で、オリーブオイルをたくさん作っていますよね。その、オイルを作るときに出る搾りカスにも、オレイン酸が高く含まれているらしいんです。

——それを廃棄するのではなく、牛の餌として活用できないかと?

英博:ええ、そうです。それから愛媛だったら伊予牛、徳島だったら阿波牛みたいに、日本全国にいろんな牛がいますけど、讃岐牛ならではの特徴や値打ちというのもなかったんですよ。だから、健康にいいし、特徴にもなるしということで、作ったんです。

最初は、餌が硬くてカチカチだったらしいですよ。牛も全然食べなくて。乾かしてみたり、ハンマーで砕いてみたりと石井さんがかなり苦労をされたみたいです。試行錯誤してやっと、このオリーブの搾りかすを乾燥させた餌に辿り着いて。うちではこれを1日100g、最低2ヶ月以上食べさせています。

紀子:この餌は、石井さんがなんとか農家の助けになるものはできないかと考え出してくれたものなんですよ。すごくありがたいなと思っています。


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——讃岐オリーブ牛の味としては、具体的にどんな特徴がありますか?

英博:脂質は、食べたときの口溶けにつながります。いやな粘りや後味に残る感じがなく、さっぱりしているのが特徴ですね。

紀子:自然のオリーブの搾りカスが肉の旨味を引き出して、脂身もさっぱりと仕上がり、おいしさにつながっています。私はこれが、松阪牛や神戸牛との違いだと思っているんです。松阪牛は肉の味も脂の味も濃くてこってりしていますよね。だからすき焼きにはもってこい。それに比べて讃岐オリーブ牛はさっぱりしていて、たくさん食べてももたれにくいんです。

 

生産者と流通業者との「連携プレー」の時代

おいしんぐ!編集部

——讃岐オリーブ牛の生産者として、伝えたいことはありますか?

紀子:うちでは科学的なものは使わず、牧草やオリーブなど、自然のものだけを使っているから、安心で安全です。それをみなさんに知っていただけたらいいなと思っています。

英博:うちの牛は、やわらかくておいしいって自覚しています。牛というのはストレスにものすごく弱くて、生まれ育った環境によっても肉質が左右されるといいますから。こういう静かなところで育っている子と、騒音のある国道の端で育っている子とは味が違うと思います。

いつも怒られながら育っている牛は、今日も叱られるかなって、びくびくしているらしいんですよ。よく、「ここの牛はどうしてこんなにおとなしいの?」と聞かれるんですが、育てている人に似ているのかもしれません(笑)。


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——安心や安全を第一に育てていること、そして牛たちを心からかわいがって育てていることが、見学させていただいてとてもよくわかりました。

英博:ありがとうございます。やっぱり出荷の日は、すごく寂しいんですよ。競りに出ていく子を、買い戻したくなります(笑)。

紀子:そうね。でも、うちが出荷した牛をお肉屋さんが競(せ)ってくれるのも、私たちとしては励みですね。今日も取材があるからと、二川さん(食肉総合卸フタガワフーズ社長)が来てくれていますが、作ったお肉を食べてもらうためには、生産者とお肉屋さんの連携や信頼関係がなければ難しいかなと思っています。

生産者は、お肉屋さんに買ってもらえたらそれでいいんじゃなくて、そこから先にどうやってお肉が流通しているのかを知らなければだめだと思います。二川さんとは、もっとオリーブ牛を食べてもらうためにどうすればいいかを考えたり、お肉屋さんがお客さんのためにしている苦労などを教えてもらったりして、一緒に勉強させてもらっています。

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——生産者は作るだけでなく、届けるところも考えなければならないということですね。

紀子:これまでの農家や生産者は、そこまで足を入れていない時代だったのね。でも、これからは作るだけじゃなくて、連携プレーが必要なんじゃないかって。お互いに、わからないところを教え合わないと。

二川さんの後継者の息子さんたちも、うちの牧場へ子牛のミルクをあげに来てくれたり、お肉がどうやってできるのかを学ぶ研修に来たり、そういうお付き合いを長くさせてもらっているんです。

二川:多田さんご夫妻とはかれこれ27年のお付き合いですね。お仕事ぶりを見ていて、本当に手塩にかけて育てているということがわかります。やっぱりお二人の人間性や愛情が、味にも表れているんだと思います。

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——「郷屋敷」の滝野料理長もこの牧場を見にいらしたようですね。

紀子:ええ、二川さんに紹介していただいて。お店でおいしく調理してくださっている人がいるというのは、本当にありがたいことですね。そんな方が来てくれたことも、これまではなかったですから。

——「郷屋敷」ではオリーブ牛のステーキをいただきました。とてもおいしかったです。

紀子:おいしかったでしょう。やっぱり、作るだけではだめなのね。私たち生産者がいて、お肉屋さんがいて、シェフがいて…そのシェフの料理を私たちも食べて次に活かす。それが大事なことなんですね。

——この先は、どんなことをしていきたいですか?

英博:3~5年ぐらいで、もう少し牧場を拡大して、牛の数も増やしたいなと思っています。家族経営ですから大規模にやるつもりはありませんが、息子もこの春から就農しますし、新しく小さな牧場もかったので、少しずつ大きくしたいですね。


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では、最後に…。
多田牧場さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

紀子:おいしいは、安全につながっているものだと思います。私たち生産者や農家では、農薬を使わずに安心で安全な食べ物を作るために、みんなすごく苦労をしていますから。だからこそ、私たちも気を抜くことなく、これからも安全な肉を届けていきたいな思っています。

今は、それぞれの食材に品種改良が加わって、どんなものにも対してもおいしさが求められている時代ですよね。例えば果物だったらより高い糖度が求められて…。求められたものを作るのが農家だから、いつまでも終わりがない。どの農家も、そうした終わりのない努力を続けていて、なかなか大変な状況だと思います。

——そうですね。何でも「おいしいのが当たり前」になっています。

紀子:昔と比べたら、今はまずいものなんてないですから。でも、そういう今だからこそ、自然に実っている果物をポキっともいで、まるかじりして食べるようなおいしさも、忘れたくないですよね。糖度が高くなくても、すごくキレイじゃなくても、ああ甘かった、酸っぱかった、苦かったっていう自然ならではの味…それがおいしさにつながっていく元(もと)になるんだと思います。たくさんのおいしいものがあふれている中で、私たちも自信をもって「これがおいしい!」と言われるものを作れるように、頑張りたいですね。

おいしんぐ!編集部
多田英博さんと紀子さん、食肉総合卸フタガワフーズの二川さん(左端)と従業員の秋友さん(右端)。生産者と流通業者としてお互いを信頼し合いながら、おいしい肉を届けている。

企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/祭貴義道

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