土作りから、愛情を込めて——

香川県産アスパラガス「さぬきのめざめ」の甘さの秘密。「うえむら農園」植村隆昭さん

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香川県産アスパラガス「さぬきのめざめ」の甘さの秘密。「うえむら農園」植村隆昭さん

おいしんぐ!編集部

太く、長く、穂先まで美しい。口に含めばはじけるようにみずみずしく、ほのかに甘い——。瀬戸内海周辺の温暖な気候で育つ香川県産のアスパラガス「さぬきのめざめ」を、愛情をたっぷりと注ぎながら作っている生産者がいる。香川県木田郡三木町にある「うえむら農園」の植村隆昭さんだ。

植村さんが力を入れているのは、健康で甘いアスパラガスが育つための、ふかふかとしたふとんのような土を作ること。そのために、ぬかや油粕、魚粉などを混ぜた発酵肥料を手作りし、土壌の状態のデータ分析まで行うという徹底ぶりだ。県内のレストランはもちろん、東京や広島など各地の料理人が、植村さんのアスパラガスに惚れ込み店で使用しているという。

安全でおいしいアスパラガスを届けるために、実際にどんな場所で、どんな工夫をしながら、どのような思いを持って育てているのか。うえむら農園のアスパラガスをメニューに使っているという高松市の名店「郷屋敷」の滝野料理長とともに、植村さんの畑を訪れた。


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高松市内にあるアスパラガスの畑。ビニールハウス内で、ホワイトアスパラは遮光し、グリーンアスパラは光を当てて育てる。

 

口に入れた瞬間に広がる、みずみずしさと甘さ

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——今回は「郷屋敷」の滝野料理長にご紹介いただき、うえむら農園さんにお邪魔しております。よろしくお願いいたします。

植村:ありがとうございます。滝野料理長とは、数年前に「郷屋敷」の女将さんからお声がけいただいて、私がホワイトアスパラをお店まで持って行ったのが始まりですね。お店と農園がすぐ近所なので、いつも新鮮な状態のものを届けられるのは嬉しいです(笑)。どうぞ、まずは食べてみてください。

——みずみずしくて、甘みがありますね。生でかじってみて、これほどやわらかく、おいしいアスパラは初めてです。

植村:日本には、フランスやドイツなどから来たヨーロッパ産アスパラも出回っていますが、どうしても収穫から1週間ほど時間がかかったものです。また味も濃くてクセがあるんですよね。それに比べると、鮮度も味も違うかと思います。

滝野:普通のアスパラって、独特のえぐみが若干あるんですよ。これだけ甘いものは、なかなかないと思いますよ。


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——植村さんは、アスパラガスを育て始めてどのぐらいですか?

植村:もう20年以上になりますね。それまで務めていた町議会議員を辞めて、農家をやることにしたんです。始めるときに、アスパラかイチゴかを迷ったんですが、一人でやるにはイチゴは難しい、でもアスパラならできるかなあと。だから偶然ですね。

おいしんぐ!編集部
「私の20年をたった1時間で話すのは難しいよ」と笑う植村さん。

——まず、アスパラガスの基本から教えていただきたいのですが、ホワイトアスパラガスとグリーンアスパラガスの大きな違いは何ですか?

植村:ホワイトもグリーンも、品種は同じものです。育てるときに遮光するとホワイト、光を当てるとグリーンになります。ホワイトには、サポニンというアミノ酸が多く含まれ、血液をさらさらにする効果があるそうです。グリーンには、アスパラギン酸というアミノ酸が含まれていて、疲労回復効果にいいと言われています。


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——香川県といえば「さぬきのめざめ」ですが、植村さんは何種類のアスパラを育てているのですか?

植村:私は、ウェルカム、さぬきのめざめ、の2種類を育てています。それぞれ、味に大きな違いがあるというわけではないのですが、ウェルカムは扱いやすく、おそらく日本で最も多く作られている品種ではないかと思います。さぬきのめざめは、香川県の農業試験場が作り出した品種ですね。

——さぬきのめざめには、どういった特徴があるのでしょうか?

植村:普通のアスパラは少し伸びると穂先が開きぎみになります。そうなると市場に出回る際に商品価値が少し落ちるんです。でも、さぬきのめざめは穂先が開きにくいという特徴がありますね。また寒さに強く、早い時季に出荷できるのも売りです。

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みずみずしくて元気な、植村さんの「さぬきのめざめ」。

——アスパラの収穫時期はいつぐらいですか?

植村:私の場合はだいたい3~10月に収穫しています。ハウス内の温度を保てば通年できるのですが、コストがかかるので、うちでは自然の温度でやっていますね。春だったら、頭を出してから1週間ぐらいで収穫できるサイズまで伸びますよ。夏だったら3~4日というところでしょうか。アスパラは多年生の植物なので、一度植えつけをしたら何年でも収穫できるんです。うまく行けば20年、30年と。

——そんなに長く収穫し続けられるのですね。

植村:そうですね。収穫方法には2パターンがあります。春のアスパラは、昨年の秋頃に根へ蓄えた養分を使って出てきたものです。ある程度伸びたらハサミで収穫すると、またそこから伸びてきます。ただ、そのうちに根に蓄えた養分が減ってきてしまいます。やせたり、扁平になったり、穂先も開いたりしてきます。

ですから1ヶ月くらい収穫すると、茎を一度長くのばしてやるんです。茎がのびると、葉っぱが出てきて、葉っぱで光合成をし、養分を作ることができるんですね。その養分が根の方へ送られ、また収穫できるんです。

 

甘さの秘密は、ふかふかのふとんのような土を作ること

おいしんぐ!編集部
植村さんが時間と手間をかけて手作りしている発酵肥料。これを土に混ぜることで、土がふとんのようにふかふかになる。

——アスパラ作りで植村さんが大切にしていることは何ですか?

植村:大切なのは、土ですね。堆肥や土壌改良剤を入れて、土が肥料を抱き込むような状態にすることが大事。それも、化学肥料じゃなく有機物を使ったほうがいい。ですから私は、新しく栽培を始めるときには必ず、土を数値化しています。

——土を数値化…とは?

植村:土壌分析室という専門施設に土を送って、土を数値化します。アスパラを育てるにあたり、土に含まれるpH(ペーハー、水素イオン指数)や腐植率、塩基置換容量など各項目における理想値があるんですよ。それをどの程度満たしているかどうか、数字で出してもらいます。
人間の健康診断と同じです。土ができるということは腐植と塩基置換容量が理想値になることです。いろいろと調べたり試行錯誤をしながらも、土作りに行き着いたのがラッキーでしたね。これで、やっと向こうが見え出しました。

おいしんぐ!編集部

——それは、アスパラ作りを始めてから何年目だったのでしょうか?

植村:10年目ぐらいですね。そこから、よくなっていきました。

——だんだんと、畑の規模も拡大してきたのですか?

植村:いいえ。あまり広げても、最終的にはそれがお客さんのもとに行くわけですから、自分が目が届く範囲に抑えていますね。私は「1本あたりがどのぐらい高く売れるか」で勝負していません。大切なのは、畑の面積に対してどれだけいいアスパラが採れるかという「収量」だと思っています。一人でやるのに適正な面積というのがあるのです。立派な施設を作ったり、畑の面積をむやみに広げたりしたところで、収量が上がらなければ経費ばかりがかかってしまいますから。

自分が規模を広げるよりも、私はもっと農家を応援したいなと思っています。今は8人の生産農家で出荷組合を作っているんです。組合員の農家にアスパラの作り方を教えて、育ったものを組合が買い取り、販売するシステムです。


おいしんぐ!編集部

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「アスパラガスは比較的劣化が早い野菜なので、なるべく早めに食べてほしいですね」と植村さん。すぐに食べられない場合は、寝かせずに立てて保管するのがおすすめだそう。

——なるほど。そうすることで、植村農法のおいしいアスパラが行き渡るわけですね。植村さんのアスパラの甘さの秘密は、どこにあるとお考えですか?

植村:私も、自分のアスパラしか食べていないのでわからないのですが…(笑)。以前、アスパラを作っている友人から「どうしてそんなに甘くなるの? うちのはもっと苦いのに」と聞かれたときは、「科学的な根拠があるわけではないけれど、おそらく肥料の違いではないでしょうか」と答えました。

——どのような肥料を使っているんですか?

植村:できるだけ化学肥料を使わず、肥料全体の半分ぐらいは自分で作った発酵肥料を使っています。米ぬか、油粕、魚粉などに微生物資材を入れ、水と一緒に混ぜて、40日ぐらい発酵させるんです。温度が50度以上にならないように、積み替えをして空気を入れたりしています。これによって、ふとんのような土ができ、アスパラも味がまろやかになって、甘さが増してくるというのはあると思いますね。

おいしんぐ!編集部

——アスパラガス作りの楽しさは、どんなところにありますか?

植村:農家はみんないっしょだと思いますが、やっぱり自分が丹誠込めて作ったものがうまくできた、その喜びに尽きますね。

ちなみに、他の野菜と比べて、アスパラそのものには味の主張があまりないんです。料理する人によっていかようにもなる、それがいいところだと思っています。主張がありすぎると、使う選択幅がせばまるような気がするんですよね。

滝野:植村さんのアスパラは、もったいなくて味をつけられませんね。もともとがおいしいから、ソースをちょっとかけるくらいがちょうどいいんです。あとは、おひたしにするのもおいしいですよ。

——植村さんは、食べてくれる人たちにどんな思いを伝えたいですか?

植村:「どうぞおいしく召し上がってください」ということだけですね。あとはもう、料理長の仕事になるわけですから(笑)。滝野料理長もそうですが、お店によっては、コースで出すときにもお客さんに料理や食材の説明をしてくれますよね。私もお店で料理を食べるときは、シェフやサービスの人の説明をちゃんと聞くようにしていますし。そんなふうに、ちゃんとわかってくださる料理人の方々に使っていただけたら、なお嬉しいです。

 

では、最後に…。
植村さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

おいしんぐ!編集部

植村:健康であって、おなかが減っていたら、きっと何を食べてもおいしいんです。でも、お店で食べたときに「また来よう」と思うときと、「二度と行かない」というときがありますよね。その違いは何か。それは、「提供してくれる人の気持ち」なんじゃないでしょうか。サービスや清潔さというか、お客さんのことをちゃんと見て、調理場に伝えているかどうか。その違いがあるんだと思います。だから私は、食べた後には料理長に挨拶に行くようにしています。「おいしかった!」って。

企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/祭貴義道

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