飯田将太さん × タベアルキスト 山内康晴

「日本のラーメンを、麺類の世界一に。」飯田商店・飯田将太さん <前編>

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「日本のラーメンを、麺類の世界一に。」飯田商店・飯田将太さん <前編>

おいしんぐ!編集部
年間570食以上ラーメンを食べ続けているタベアルキスト・山内氏。これまで20数年にわたり古今東西のラーメン屋を巡ってきた彼が、往復3時間をかけて毎週のように通うラーメン屋があるという。それが神奈川県・湯河原にある『飯田商店』。

朝7時から配布される整理券を求めて、まだ暗いうちから出発することも多いという山内氏。4種類あるメニューから1杯だけに絞れず、一度に2杯を注文。さらに「また次に来られるのは来週だ」と思うと我慢できず、1日に2度訪れる日もある(つまり、1日に4杯となるのだが…)。

※記事内メニューは2019年5月26日までで現在はメニュー変更されています。

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進化を続ける「飯田商店」のラーメンの魅力

おいしんぐ!編集部

なぜ、これほどまでに通い続けるのか。彼に尋ねると「習慣化してしまっていて、実は自分でもよくわからない」そうだ。だが同時に、こうも語る。ただでさえおいしいのに、訪れる度に味がますます進化していること。そして店主が、ひたすらにラーメンと向き合っている本物の職人であること

『おいしいぐ!』編集部にも経験がある。『飯田商店』のラーメンは、ひと口すすれば、今まで食べたどのラーメンとも違うことがわかる。ラーメンというより、ダシの味わいや食材の旨味を楽しめる日本料理に近いのではないだろうか。その一杯は、東京からの往復3時間も、週末となると200人以上もの行列の待ち時間も、補ってあり余るほどなのだ。

『飯田商店』の店主・飯田将太さん。彼はどんなことを考えて、どのようにラーメンと向き合っているのか。今回、山内氏と編集部による取材が実現した。最後のお客さんが帰った後、大変お疲れのところを、飯田さんは笑顔で快くインタビューを受けてくださった。
 

地元湯河原をラーメンの力で盛り上げている


おいしんぐ!編集部

おいしんぐ!編集部

JR東海道線・湯河原駅から徒歩10分の場所にある『飯田商店』。週末となると200人以上が並ぶ、ラーメン好きでその名を知らない者はいないほどの超人気店だ。この店を目当てに、湯河原観光に来る人も少なくない。

『飯田商店』のラーメンは、小麦と水の配合から麺の打ち方、スープの取り方、チャーシューやネギなど合わせる具材まで、徹底的に考えられている。使用する小麦や塩、地鶏はすべて国産。それも1種類ではなく、全国から自分の足で探し「これだ」と思ったものを集め、それらが最高のかたちで合わさるよう、独自にブレンドしている。(ただし、そのことを飯田さんはことさらに強調しない。おいしさのためにいい素材を探すのは「当たり前のことだから」と。)


おいしんぐ!編集部

おいしんぐ!編集部
お客さんに対しては温かく謙虚に、そしてラーメンに対してはとことん熱く向き合う飯田さんの人柄に惚れて、この店に通うファンも多い。飯田さんが店を出してすぐの頃は、お客さんがまったく来てくれない日も続いたという。初心を忘れないよう、「お客様は来てくださらないもの」という言葉が、厨房には小さく貼ってある。店舗の展開や東京への進出もせず、地元湯河原を、ラーメンの力で盛り上げている。
 

世界一の麺を目指して

おいしんぐ!編集部
山内:いつもおいしいラーメンをありがとうございます。今日は、飯田さんのラーメンへの思いについて、お聞きします。

飯田:毎週来てくださって、本当にありがとうございます。いつもはゆっくり話せないですもんね(笑)。


おいしんぐ!編集部

おいしんぐ!編集部

山内: 通い続けて7年以上になりますが、ずっと聞いてみたかったことがあります。飯田さんが考える、1杯のラーメンのなかで麺が果たす役割とは、何でしょうか?

飯田:「ラーメン」であるために最も大事なものですね。麺がなければラーメンではない。でも、麺があるだけでラーメンであるとは言えますから。

編集部:飯田商店の4メニューである、醤油らぁ麺、塩らぁ麺、にぼしらぁ麺、つけ麺。そのどれからも、麺への強い思いを感じます。


醤油らぁ麺 おいしんぐ!編集部

塩らぁ麺 おいしんぐ!編集部


つけ麺 おいしんぐ!編集部

にぼしらぁ麺 おいしんぐ!編集部

飯田:食べ手の玄人の人たちだけでなく、身構えず、ノーマークでこの店に来てくれた人が「あれ? ラーメンの麺って、うまいんじゃない?」って、気づいてもらえること。これが第一歩だと思って作っています。そういう人が少しずつ増えて、蕎麦やうどん、パスタとかと比較したときに、「ああ、ラーメンの麺が一番うまいじゃないか!」って言ってもらえること。ここまでが、とりあえずの目標です。

編集部:「とりあえず」ですか?

飯田:そうですね。最終的にはラーメンの麺が「麺料理の中で一番」になることが、ぼくの目標です。そして、それは可能だと思っています。蕎麦はかなり強敵ですけどね(笑)。だから麺を打つにしても、原料の見直しから生産者との話のしかた、挽き方、打ち方…もう挙げだしたらキリがないですが、根本まで考えています。でも、それは細かく説明すべきことでもなくて、お客さんの口の中に入って「おいしい!」になれば、それでいいと思っています。

おいしんぐ!編集部

編集部:目指しているのは、世界一なんですね。

飯田:はい。ぼくが麺を打ち始めたのは、故・佐野実さんの店『支那そばや』で食べた醤油ラーメンがきっかけで、今もあのときの衝動や感動を、ずっと追いかけています。それはぼくが走っても走っても届かない、ずっと先にあるんです。だから「うまい麺とは、こういう特徴がある麺だ」というよりも、ぼくが受けたような、「なんだこの麺は! すげえうまい!」っていう感動をお客さんに感じてもらうことも、目指していますね。

 

北海道小麦「ハルユタカ」を使う理由

醤油らぁ麺:850円 おいしんぐ!編集部

山内:4種類のラーメンそれぞれのこともお聞きしたいです。すべて、使用する小麦の配合や加水率などを変えて、打ち分けていますよね。まず、醤油らぁ麺についてはどういうところを狙っているのでしょうか。個人的には、スープとの組み合わせにおいて、すでに「完成」されている。そこからさらに、訪れるたびにブラッシュアップされているような印象があります。

飯田:まず、醤油の麺に関しては。色の濃い部分をあまり入れずに打っています。ふすま感が強いと、温かいスープに入った瞬間、一気に穀物感や蕎麦に似た雰囲気が出てしまうんです。穀物の強い香りと混ざることで、醤油独自のキレや、華やかな香りが消されてしまう。そこは、狙っていないんです。

山内:ええ。

飯田:ぼくが狙っているのは、醤油と鶏が最高の状態で合わさった、香りとキレとコク。そのつややかなスープに、できるだけ小麦の甘い部分を使って打った麺が入り、最後まで醤油の味、鶏の味がしっかりしている状態ですね。そして、食べ進めるうちに小麦が溶けて甘くなってきて、最後は丸みを帯びておいしく終わる。「ああ、麺うまかったな」と…そういう感じですね。


おいしんぐ!編集部

おいしんぐ!編集部

山内:飯田さんの醤油らぁ麺はまさにそうです! 食べ始めは、麺にスープが絡んでくる感じを楽しめるし、最後の方は溶け出しも含めて、麺とスープが一体となってまろやかな感じがあります。

飯田:小麦すらもダシになるんですよね。小麦の話でいうと、「思い」の部分を入れたくて、昔、支那そばやのラーメンに入っていた北海道のハルユタカという小麦を入れています。佐野さんの麺を目指していたぼくは、自分の麺にどうしてもハルユタカを使いたくて、何回も北海道へ通って…。3年ぐらいかけて許しを得て、使わせてもらえるようになったんです。ハルユタカの父と言われる片岡さんにも、本当にお世話になりました。

編集部:3年もですか!

スープには比内地鶏、名古屋コーチン、山水地鶏を使用。兵庫産、群馬産、和歌山産など6種の生醤油をあわせている。おいしんぐ!編集部

飯田:生産量が少なかったので、最初は断られてしまって…。通常、この小麦は春にまくのですが、片岡農法では冬の、雪が積もる前にまくんです。雪の積もる冬を越えることで、強くなって芽を出す小麦なんですね。片岡さんの畑でハルユタカをかじったときに、ほんとうに甘くてミルキーで、「これがハルユタカなんだ!」って感動しました。あの感じを、ぼくの麺でも出したいなと思いながらやっています。

山内:そうだったんですね。

飯田:技術的な面で言ってしまえば、必ずしもハルユタカをブレンドしなくても、おいしい麺としては成立するんです。でもぼくは、そこをあえて、入れたい。あのときの思いや、出会った人のことを大事にしたいからなんです。
 

理想を求め、日々、試し続ける

塩らぁ麺:900円 おいしんぐ!編集部

山内:塩らぁ麺はどうでしょうか。醤油とは、麺の方向性が逆ですよね?

飯田:本当ならば、麺線26番(※)の細さで出すのも一つの目標です。でも今のぼくの塩には、麺線22番が合っているんです。今はまだそのときじゃない、でもいずれは…という感じですね。塩は、醤油にあるような旨味を持っていないので、味や香りの濃い麺が合うんです。なので、石臼を使ったりして、自分でブレンドして香りを出すようにしています。

(※)製麺の際の切刃のサイズ。番手(番号)が上がるほど細麺となる。


おいしんぐ!編集部

おいしんぐ!編集部

沖縄の「ぬちまーす」新潟の「花塩」など4~5種類の塩をブレンドしている。やわらかなチャーシューも絶品。 おいしんぐ!編集部

山内:食べていて、醤油らぁ麺はスープと麺が混ざりあっている感じですが、塩らぁ麺は鶏スープと小麦とがクリアに分かれているイメージがあります。

飯田:そうですね。食べ終わりは一体感があるけど、最初からひとつになる感じは、塩らぁ麺に関してはいらないかなって思っています。塩らぁ麺の麺はどういうものがベストか、というのは、まだまだ探っているところです。なかなか難しいんですけれどね。

 
山内:にぼしらぁ麺はどうでしょうか?
 
にぼしらぁ麺:800円 おいしんぐ!編集部

飯田:にぼしの麺では、遊んでいますね(笑)。ブレンド具合も、いろいろ試しています。手もみの太麺でわしわし揉んでいたときもあれば、ストレートにしてみたり、最近だと、刃の後ろにシリコンの板がついた縮れ麺用の切り刃で切り出してみたり。今日の麺も、その刃で縮れを入れたものです。


おいしんぐ!編集部

おいしんぐ!編集部

煮干しと豚からとった深い味わいのスープと、飯田さんの気分で(?)変わる麺とのハーモニーを味わいたい。 おいしんぐ!編集部

山内:実はぼくは、手もみのほうが好きなんですが…。

飯田:ははは…そうでしたね。じゃあ今度また、手もみもやりますよ。
 

山内:では、つけ麺は?

つけ麺:1000円 おいしんぐ!編集部

飯田:石臼も使いながら、「さぬきの夢」「きたほなみ」「ハルユタカ」などをブレンドしています。香り、旨味、甘さ、余韻…すべてをバランスよく詰め込んで、最高の状態で出せたらなと思っています。

編集部:先ほどゆでる前の状態を見せていただきましたが、四角く切った麺と平打ち麺の、2種類を混ぜているんですよね。 


おいしんぐ!編集部

おいしんぐ!編集部

飯田:この2種類は役割が違うんです。四角いほうは、ちょっと抵抗があり、噛むとしっかり味がして、鼻から香りも入ってくるようにするもの。平打ちのほうはスープにからんで、一体化したおいしさをプラスするもの。これが合わさって、ひとつの料理として「おいしい」となればいいんです。でもね、今後はもっとすごい麺ができるはずなんです。まだ、これは通過点なんです。


つけダレをつけず、麺のみでも十分においしい。お好みで塩、わさび、のり、湯河原柑橘果汁をつけて楽しむのもいい。 おいしんぐ!編集部

山内:昨年末から石臼を導入していろいろ試されていましたよね。


おいしんぐ!編集部

飯田:いろいろやってみたのですが、すべてを石臼で挽いてしまうと、料理としての完成度は低いんですよ。だから、石臼で挽いた小麦を使う分量やバランスも、大事だということがわかりました。作る側のエゴで「どうだすごいだろう、香るだろう」とやることではなく、やっぱり「おいしい麺をつくること」が基本だと思っています。

後編につづく。

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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