イタリア的思考が料理人としての生き方を変えた

「舞台は食の都、山形 庄内へ。」ベッダシチリア・古門浩二さん

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「舞台は食の都、山形 庄内へ。」ベッダシチリア・古門浩二さん

おいしんぐ!編集部

イタリア料理の名店、西麻布「ラ・ベンズィーナ」でキャリアをスタートし、その後イタリアに渡って3年間の修行を経て、渋谷のシチリア料理レストラン「ドンチッチョ」の立ち上げに携わった経歴を持つ古門浩二さん。そんな古門さんが今、店を構えているのは、山形県庄内エリアの鶴岡市。なぜ次の舞台にこの土地を選んだのか。そして今、料理人として大切にしていることは何か。“庄内のシチリア”とも言うべき、古門さんがシェフをつとめるイタリア料理店「ベッダ シチリア」で、その想いを語ってもらった。


内観 おいしんぐ!編集部
大きな窓の外には、豊かな田園風景が広がり雄大な山々の尾根を望む。


内観 おいしんぐ!編集部

内観 おいしんぐ!編集部
壁の大きな黒板には、お店で使っている庄内食材の生産者さんの名前が。

 

順風満帆ではなかった料理人人生のはじまり

おいしんぐ!編集部

——古門さんは、そもそもなぜ料理人を志したのでしょうか。

古門:もともと僕は大学進学率がほぼ100%の神奈川の進学校に通っていて…そろそろ進路を考えなくてはいけない時期に、たまたま小学校の卒業文集を見つけたんです。そこに書いてあったのは「将来は、コックになりたい!」でした。夢を思い出して、料理人になる決断をしました(笑)。

——その後、高校を卒業して入社したのが、当時西麻布にあったシチリア料理をベースとしたイタリア料理店「ラ・ベンズィーナ」ですね。

古門:高校3年生のときにご縁があり「ラ・ベンズィーナ」を訪れたのですが、イタリア語が飛びかい活気のある雰囲気や、今までに食べたことのない料理の数々に度肝を抜かれて、すぐに面接を受けて高校卒業後に入社することが決まったんです。ただ当時、僕は料理をほとんどしたことがなくて……。

——料理未経験からのスタートだったのですね。

古門:家に帰ってからも必死で練習したりと、人一倍努力をしたと思います。はじめて賄いをつくらせてもらったときに「こんな料理食べられるか!」って言われて、シェフや先輩たちが隣の蕎麦屋に行ってしまったこともありましたね。悔しい想いをたくさんしたからこそ、休み返上で料理の研究をしたりと、とにかくがんばれました。

おいしんぐ!編集部

——「ラ・ベンズィーナ」での修行期間はどのくらいだったのですか?

古門:5年間働いて、その間に、前菜やリゾット、メイン、パスタと一通りのことを経験させてもらいました。その後は赤坂のイタリア料理店にスーシェフで迎えられて、福岡の立ち上げを任されたり、フランス料理店でも少し働きましたね。

 

シチリアにイスキア島、念願のイタリア修行

おいしんぐ!編集部

——そしていよいよイタリア修行に。

古門:26歳のときにまずシチリアに行きました。そこで語学学校に通いながらイタリア料理店でアルバイトをする日々を過ごしました。最終的には2軒かけもちしたりして1年ほど働きました。

その後、イスキア島の家族経営のレストランに移りました。目の前が海のお店で、営業するのは3月〜10月だけ。冬は閉じてしまう分、定休日はなしです。そこで僕が一番楽しみにしていたのが、毎週日曜日におばあちゃんが料理を教えてくれること。正直、今でもおばあちゃんのレシピが一番役にたっています。僕のレシピ本※でも「おばあちゃんのラザニア」という料理名で紹介しています。
※『シチリアトラットリア、至福のレシピ』(白夜書房)

——イスキア島の後はどちらへ?

古門:最後の1年はフィレンツェに行きました。ワインの勉強がしたかったので、料理人ではなくサービスマンとして働きました。イタリア暮らしも3年目で言葉にも自信がでてきたので。そこではオーナーが僕のことを息子のようにかわいがってくれて、勉強のために毎日1本ワインを飲ませてくれたんです。1年経って日本に戻る頃には、365本のワインの空き瓶が部屋をぐるりと囲んでいました。

——感慨深いものがありますね。2005年に帰国され再び東京でキャリアをスタートされましたね。

古門:「ラ・ベンズィーナ」の石川シェフが北青山にオープンした「トンマジーノ」に迎え入れてもらい、その後渋谷に移転オープンした「トラットリア・シチリアーナ・ドンチッチョ」の立ち上げにも参加して、そのまま1年半ほど働きました。

おいしんぐ!編集部


キスとフェアリーテールのフリット アグロドルチェ
おいしんぐ!編集部

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キスとフェアリーテールのフリット アグロドルチェ:庄内産のキスと、鶴岡産のフェアリーテール(茄子)のフリットに、アグロドルチェ(赤玉ネギの甘酢漬け)を添えた前菜。アグロドルチェにはレーズンと松の実が入るのがシチリア流。赤玉ネギも庄内羽黒産と、庄内の味を楽しめる一品。フリットは通年提供していて、その時々の旬の野菜と魚介を組み合わせている。

 

庄内の「人」と「食材」に魅せられて、拠点を庄内へ

店内からの景色(8月半ば): おいしんぐ!編集部

——その後、庄内に拠点を移されますが、庄内のどんなところに魅力を感じたのでしょう。

古門:色々なご縁があって庄内に暮らすことになり、この土地や人にすっかり惚れ込んでしまって。移住してきたばかりの頃は、庄内の旬の食材を使って料理教室をやったり、出張料理人をやっていたんです。その時に庄内の生産者さんたちとどんどん繋がっていって、彼らにすっかり魅了されてしまいました。本当は東京に帰ることも考えていたのですが、やっぱり庄内が好きでしたし、みなさんからサポートをいただいたこともあって「ベッダシチリア」を2016年にオープンしました。

外観 おいしんぐ!編集部


入口 おいしんぐ!編集部

内観 おいしんぐ!編集部

——料理人としての、庄内の魅力は?

古門:魅力はいくつかありますが、まずは四季に寄り添いながら今ある食材で料理ができることですね。東京だと物流が整っているので、いつでもあらゆる食材がそろうけど、ここではそうじゃない。だから無理に旬じゃない食材を使う必要はないんです。そもそもイタリアだとそれが普通です。だからストレスなく食材に向き合えますね。

あとは、スピード感。生産者さんとの距離が近いから、何でも早い。例えば、とうもろこしが欲しい場合、9時に電話したら10時に収穫して配達してくれてその日のランチでお客さんに食べてもらえる……といったかんじです。

——食材を一番いい状態のまま提供することができますね。

古門:いい食材が多い地域なので、みなさん美味しいものを当たり前にわかっています。だから食材の魅力を最大限引き出すことが重要。お店ではランチタイムに、庄内の野菜をたくさん使った前菜ビュッフェもやっています。

おいしんぐ!編集部

——生産者さんとお客さんの架け橋役にもなりますね。

古門:はい。いい食材を生産者さんから買い続けてたくさんの人に食べてもらうことは、僕ができる恩返しなんです。お店をオープンするときにたくさんの生産者さんにサポートしてもらったので。なので、ランチビュッフェはこれからも続けていきたいと思っています。


だだちゃ豆と手長エビのオルガネッティ おいしんぐ!編集部


おいしんぐ!編集部

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だだちゃ豆と手長エビのオルガネッティ:庄内名産のだだちゃ豆のペーストとフレッシュトマト、手長エビをシチリア島の楽器「オルガネッティ」を模したパスタ(パスタ名もそのままオルガネッティ)で。だだちゃ豆は鮮度が大切なため生産者さんが近いからこそ使える食材。古門さんは、先祖代々だだちゃ豆をつくる農家・石塚さんから仕入れている。

 

イタリアで学んだ“働き方”を自分の生き方に。

おいしんぐ!編集部

——今、大切にされていることは何でしょうか?

古門:月1回、旅行に出かけるようにしています。一昨年からはじめたのですが、旅にでると想像以上に生産者さんや食材とのいい出合いがあったりして、しかもそこで見つけた食材をすぐに自分の料理で表現できる。それを毎月やっていると自分も飽きないですし、お客さんも喜んでくれる。料理だけじゃなくて旅の思い出をお客さんにお話することもできます。僕がインプットしてきたことを色々なかたちでお店でアウトプットする…。そういうお客様とのコミュニケーションを大切にしていきたいです。

——日本中の生産者さんたちと繋がっていきそうですね。

古門:繋がって行けると思います。50歳までに47都道府県をまわって、60歳までに各地で料理をつくりながらお礼まわりするのがいまの目標です。

おいしんぐ!編集部

——こういう活動をするようになったきっかけは何かあったのですか?

古門:イタリアにいる頃、料理の技術のほかに“働き方”について学びました。イタリアの人たちってオンとオフを大切にしながら、自分の人生を思いきり楽しんでるんですよね。その生き方がいいなと思って。イタリアに行く前はとにかく忙しく働いていたので、帰国後は働き方を変えていこうと決めてて、最近やっと自分のやりたいペースでできるようになりました。素晴らしいスタッフにも恵まれているので、そこはすごく感謝しています。

——スタッフさんとの仲の良さにも驚きました。皆さん、仕事が休みの日にもお店にプライベートで食事に来るとか。

古門:そうですね。普通自分が働いているところに休みの日にはあまり来たくないじゃないですか。でもスタッフの子たちは友達や家族を連れて食べに来てくれます。結婚式をここで挙げてくれたスタッフもいて、その子は子供を産んで、その子供を預けてまたうちで働いてくれています。そういうのって僕の店っぽいなと思って、嬉しいです。


カジキマグロのパレルモ風パン粉焼き おいしんぐ!編集部


おいしんぐ!編集部

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カジキマグロのパレルモ風パン粉焼き:シチリア・ブロンテ産のピスタチオとレモンの皮を混ぜたパン粉でカジキマグロをグリルした一品。カジキマグロは月に一度の旅行で偶然出会った、突きん棒漁師の小野寺さんから仕入れたもの。カジキマグロの下には、パプリカのグリル。庄内・遊佐の高橋さんがつくるパプリカは肉厚でジューシーで30分以上ローストしても形がくずれないのが特徴。

 

では、最後に…。
古門さんにとって、「おいしい」とは何でしょうか——?

おいしんぐ!編集部

古門:すごく単純ですが、人を笑顔にしたり、元気にしたりできること。僕は、その顔が見たいからおいしいものをつくり続けています。お客さんが、お店に来たときよりもいい顔になって「ごちそうさま!おいしかった!」って言ってくれるのが一番嬉しいことですね。僕は人が好きで、人を喜ばせる手段として料理をやっているので。

実は、料理人になって2年目のときに先輩に「おまえは料理人に向いていない」って言われたことがあって、ずっとその言葉が残ってるんです。だから今でも、自分に実力があるのか、料理人に向いているのかわからないけれど、「この人に会いたい。」「この人の料理を食べたい。」って思って欲しくて、それがモチベーションになっています。

おいしんぐ!編集部

※お店の情報は記事投稿日時点のものです。訪れる際には予め営業日時をお店にご確認ください。

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