「未知のおいしさを届けたい。」

中国少数民族の「現地の味」を求めて。 Matsushima・松島由隆さん

東京
インタビュー
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この料理を食べる為に訪れたい
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代々木上原駅南口から徒歩2分。雑居ビルの階段を下り、小さな扉の向こうにあるのが、とことんディープな中華料理を堪能できる『Matsushima』だ。オーナーシェフの松島由隆(ゆたか)さんは毎年2~3度ほど中国を訪れ、雲南省のペー族やナシ族、貴州省のトン族など、中国少数民族の郷土料理を追求している。

「訪れる」と言っても、単に現地のレストランで食べ歩いたり、食材を買い付けたりするだけではない。店の厨房にまで入り込んで作り方を聞き、地元のお母さんたちから自家製の漬け物を分けてもらい、時には一緒にキッチンで料理をしながら、初めて見る食材の知識とその調理法などを体得するという。

日本ではまだあまり知られていない中国郷土料理を、おいしく、美しく、面白く、独自の料理として再構築し表現している松島さん。どのようにして郷土料理の世界に引きつけられたのか。そして今後、郷土料理を通してやりたいこととは——。松島さんの思いとともにその料理をひと度口にすれば、これまでの中華料理のイメージが覆り、さらに深く面白い食の世界への扉が開かれるはずだ。

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内観 おいしんぐ!編集部


内観 おいしんぐ!編集部

外観 おいしんぐ!編集部

カウンター席、テーブル席合わせて11席ほどの店内は、アットホームな雰囲気で居心地のいい空間。

 

食べても「分解できない」料理とは?


オーナーシェフの松島由隆さん。松島さんのマニアックな料理を楽しみに通うファンも多い。 おいしんぐ!編集部

——松島さんはどのようにして、中華料理の道に入られたのでしょうか?

松島:16歳の時、アルバイトでもしようかなと、たまたま学校と家の途中にある中華屋でバイトを始めたのがきっかけなんです。就職先も特に考えていなかったのですが、社員さんが「福臨門酒家(現・家全七幅酒家)」という広東料理の店を紹介してくれまして。18歳でその店に入って、基本を5年半学びました。

その後も人のご縁が重なって、神戸や恵比寿の店などで働かせてもらいました。30歳までの12年間でひと通り、王道・定番の中華ができるようになりましたね。そして30歳で「黒猫夜」に入りました。

——「黒猫夜」というと六本木、赤坂、銀座に店舗を持つ、有名な中国郷土料理のお店ですね。現在の松島さんが作っているような、マニアックな料理との出会いもこの頃ですか?

松島:もともと発酵には興味があって、麻豆腐(緑豆の発酵料理)などは作っていましたが、本格的にのめり込んだのは「黒猫夜」からですね。社長が雲南省や貴州省などのエリアに目をつけていたので、ぼくら社員も勉強のためにそうした地方を訪れるようになったんです。


おいしんぐ!編集部

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——実際に中国の地方を訪れるようになって、どうでしたか?

松島:行き始めてみると、知らないものだらけなんです。ある程度の料理は食べれば調理工程の予測がつくのですが、中華をやってきたぼくらが食べてみても、作り方がわからないし、分解できない。「何だこの料理は?」って…。日本ではまだ中華料理として提案されていない郷土料理の奥深さに、面白みを感じましたね。

——分解できない、と言いますと?

松島:味の構築がイメージできないんです。発酵させるにしても、どうしたらこんな味になるんだ? とか。食材で言うと、ドクダミやミントなどのハーブを多用していたりして。中国料理とハーブの組み合わせも、それまでやってきた料理では、ありそうでなかったんです。おいしいし、面白いし、新しい。自分でももっと掘り下げたくなりました。

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前菜の盛り合わせ:甘海老の紹興酒漬け、真鯖のスモーク、ワカサギの辛炒め、鹿ロース発酵青唐辛子ソース、福岡産つぼみ菜の腐乳天ぷらをひと皿で楽しめる。2人前1800円


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——通い始めて、何年ぐらいになりますか?

松島:雲南省や貴州省には10年ぐらいでしょうか。しっかりと行き始めたのは、独立してからですね。ここ5年ぐらいは年に2~3回ほど通っていますが、相変わらず、いつ行っても面白いですよ。

——現在のお店をオープンしたのはいつですか?

松島:2016年3月です。「黒猫夜」には独立支援制度があったので、ぼくがその第1号になりました。

——ご自身の店を出すにあたって、意識したところはありますか?

松島:ベースはきちんと押さえつつ、自分の色を出すことですね。今日お出しする「紫血」というメニューも、2年前に現地で食べて、いつかやろうと思っていた料理なんですよ。今回はフレッシュでいい状態のモツや血が手に入ったので、これを使って昔食べたあの料理ができるなと。今、現地でもあまり見かけなくなってきている料理なんです。

 

「厨房で、一緒に作らせて!」

おいしんぐ!編集部

——現地では、どんなことをされているのですか?

松島:独立してからは、レストランの料理を食べに行くだけでなく、家庭料理の店で厨房に入らせてもらったりしています。昨年10月は料理人仲間と、雲南省のペー族(白族)やナシ族(納西族)のエリアへ行ってきました。

ペー族が経営しているレストランでは、食べておいしかったので、「お母さん、ちょっと調理しているところ見せて!」「一緒に作らせて!」「動画も撮らせて!」…って、その場で交渉しながら、厨房に乗り込みました(笑)。市場で食材を買って来て、調理法を教わりながらニラの根を唐辛子とニンニクで漬けた漬物を作ったり、そのお母さんが作った苦菜の漬物を持ち帰らせてもらったりもしましたね。

——すごい行動力ですね! 言葉はどうしているのでしょう?

松島:言葉はできません(笑)。コーディネーターさんにアポをお願いすることもありますが、個人で田舎町に行く時などはもう身振り手振りですよ。おいしかったらその場で「どうやって作るの? キッチン見せて!」。おもしろい食材があれば「どこで買ったの? え、自家製? じゃあ売って!」って…。

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——ものすごい料理人が来たなと思われるでしょうね(笑)。

松島:「何だ、この外国人?」みたいな感じで、ゲラゲラ笑われましたよ。その時だけはぼく、すごく厚かましいと思います。日本ではまったくそんなキャラじゃないんですけどね(笑)。

——やはり、訪れる度に毎回新しい発見があるのでしょうか?

松島:面白いほどありますね。まず食材を見たことがなければ、作り方も知らないので、そこに行かなければ、見なければ、絶対にできないんですよ。ミントを揚げて料理の上に添えるという発想も、現地に行くまではぼくの中になかったですし。

——松島さんが通っているエリアの郷土料理は、どのような特徴があるのでしょうか?

松島:ぼくが行くのはだいたい山岳地方で、野菜、川魚、肉をシンプルに作って食べるのが基本のスタイルです。それから保存食として発酵したり、塩蔵したり、干したりするものが食文化として盛んです。国が違えど、アジアの保存食文化や表現方法って、ものすごく似ているんですよね。そこが面白いです。

——中国の郷土料理も、時代によって変化しているのでしょうか?

松島:もちろんずっと伝統的な料理をやっているお店もありますが、進化している店もたくさんありますね。今は経済が発展してきているので、地方でもホテルやレストランがどんどんできています。レストランでは家庭料理とは違う、きれいで新しい料理も出しますから、とくに変化していますね。

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おいしんぐ!編集部

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紫血:鹿モツと鹿の血をあえたトン族の郷土料理「紫血」。岐阜から取り寄せたフレッシュな鹿のレバー、タン、ハツ、血を使用している。クセのないやわらかな鹿モツに、パクチーや山椒の爽やかさ、唐辛子やラー油の適度な辛みが絶妙に絡み合う。3月15日までの期間限定メニュー、1600円。

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——現地でびっくりしたことはありますか?

松島:広西チワン族自治区の山の麓にある農家レストランでは、普通に席の周りをニワトリやカモが歩き回っているんです。「このカモが食べたい」と指差すと、その場でしめて、血抜きして、ぶつ切りにして、調理して出してくれるんですよ。ただし注文してから出てくるまで1時間かかるので、店にあった卓球台やビリヤード台で遊んでました(笑)。

——ワイルドですね(笑)。

松島:その店でオオサンショウウオを見たのもびっくりしましたね。敷地内に生け簀のような感じで川が流れているんです。夜の料理で使うみたいで、店の人が川に入ってバシャバシャと、オオサンショウウオを抱きかかえて出てきましたから(笑)。

 

家庭のお母さんの味を届けたい

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——松島さんが料理を作る上で大事にしていることはなんですか?

松島:あくまでも、家庭料理の延長線上でやりたいと思っています。現地でも基本的には、家庭のお母さんたちが作っている料理や、地元の人たちが普通に食べている料理を必ず見るようにしています。もちろん高級店のほうが繊細できれいだし、整った味はします。でも、家庭料理が土台にある上で、レストランの料理があると思っているので、やはり大事にしたいんです。

また、作る上でのキーワードとしては「食べ飽きない」「飲み飽きない」料理を意識しています。ぼく、食べるのも飲むのも好きなんですけど、飽き症で(笑)。食べ飽きる=脂っこさだと思うので、うちでは広東料理や香港料理をベースにして、脂っこくなりすぎないようにしています。

もうひとつ、ぼく個人の店ではあるけれど、提供するお客さんあってのお店であって、自己満足で終わっちゃいけないと常に思っています。マニアックになりすぎないように、まずはぼくの妻に食べてもらって、おいしいという料理を出すようにしていますね。


おいしんぐ!編集部

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——松島さんのお店で驚くのは、とても繊細でビジュアルも美しい郷土料理がいただけることです。現地で新しく知ったり、閃いたりしたアイディアを、従来の調理法と組み合わせながら作るのでしょうか。

松島:そのやり方が多いですね。何族のこの料理と香港のあの料理をこういうふうに合わせて作ろう、とか。もちろんぼくだけではなく、各料理人が、自分流にアレンジしていると思います。やはり自分のフィルターを通した料理が好きですね。

——食材の仕入れはどのようにされていますか?

松島:野菜や香辛料、調味料など中国の食材は現地から買ってきます。そのほか国内では、つながりのある生産者さんから仕入れています。今回もいい鹿肉が岐阜から届きましたし、最近は野菜でも海鮮でも、国内でだんだんとつながりができてきましたね。ソースや味噌や発酵ものは、基本的に自分で作っています。最近やっと自分自身の技術や知識も増えてきたので、今は日本の食材を使って発酵や加工をするところから、いろいろとチャレンジしています。

——松島さんが中国を訪れ、戻ってくるのを楽しみに待つ常連さんも多いようですね。その度にまた珍しい料理が食べられるので。

松島:「次に行くのはいつですか」って、よく聞かれますよ。あと、発酵好きのお客さんが集まるのもうちの特徴かもしれません。料理をお出しするときに、「何月何日漬けです」と、漬け込んだ日時を言うようにしているんですよ。みなさん知りたがってくださるし、「だからこれだけ酸が落ち着いているんだね」みたいな感想も聞きます。

おいしんぐ!編集部

中国各地の珍しい紹興酒もそろう。料理に合わせたおすすめを出してもらえるのも嬉しい。


おいしんぐ!編集部

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——マニアックな会話ですね(笑)。そして「Matsushima」さんといえば、料理と合わせて種類豊富な紹興酒がそろっているのも魅力ですよね。

松島:紹興酒は「黒猫夜」でも扱っていたものを中心に、いまは12種類ほどそろえていますね。最近ではカイ族自治区産のワインも扱い始めました。紹興酒というと、甕から汲んでいれるとか、角砂糖を入れて飲むとか、どうしてもイメージが固定されていると思うのですが、実は各地域ごとに特徴があって、飲み比べると面白いんですよ。

——今、注目している地域はありますか?

松島:まだまだ中国で行きたい場所があるので、徐々に開拓していきたいです。今年は雲南省に注目しています。

 

では、最後に…。
松島さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

松島:自分の生きてきた土壌が感じられるもの。ぼくが素直においしいと思うのは、そんな料理ですね。やっぱり母が作った料理が、ぼくの思う「おいしい」のルーツなんです。正月に実家で食べると感じますよ、普通のオカンのカレーとかですけどね(笑)。レストランの味とは違うけど、落ち着く味ですね。

——だからこそ、中国でも各地方のお母さんたちが作る料理を大切にされているんですね。

松島:はい、ぼくはそういう料理が好きですね。これからも少しずつ、開拓していきたいと思います。

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