食材の個性を見極め、香りを操る。

新たなおいしさの価値を創造する、ジビエ料理の世界。 サンフォコン・千葉貴大さん

東京
インタビュー
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この料理を食べる為に訪れたい
ジビエ料理
ハンバーガー
フランス料理
代々木上原駅
小田急線
料理人インタビュー
東京メトロ千代田線

おいしんぐ!編集部

クマや野ウサギ、キジやハト、カラスにクジャク…!? 代々木上原駅前にあるフレンチレストラン『Saint FAUCON(サンフォコン)』。店内は一見カジュアルな雰囲気だが、テーブルに出てくるのは、前菜からメインにいたるまでジビエや内臓系の食材を使って作るマニアックな料理の数々だ。

オーナーシェフは、フランスの星付きレストランでの修行経験を持つ千葉貴大(たかひろ)さん。鳥一羽を丸ごと使い、頭や内臓といった部位ごとの味わいを表現することもあれば、クジャクのような珍しい食材に目をつけ、新たなメニューの研究にも力を入れている。この店に集まるファンや食通たちは、鳥を愛し、熱い思いでジビエ料理を掘り下げ続ける千葉さんを、敬意を込めて「変態的」と呼ぶ。

フランス料理においては、昔から貴族たちが楽しんできた伝統料理であり高級料理とされるジビエ。千葉さんがいま挑戦しているのは、ジビエを日本人にももっと親しみやすく提供すること。そして何より、ジビエのおいしさを広めること。臭い、硬いなどのマイナスイメージを持っている人は、まだ本物のジビエを知らないだけかもしれない。この店を訪れ、美しく繊細なひと皿を味わったなら、誰もがそのおいしさに魅了されるだろう。そして同時にこう思うはずだ。ジビエの世界は、こんなにも面白いのか、と。

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内観 おいしんぐ!編集部
カウンター席とテーブル席を合わせて16席ほどの店内。夜な夜なマニアックな客たちが集う。


内観 おいしんぐ!編集部

外観 おいしんぐ!編集部

代々木上原の駅から徒歩2分の場所にある「Saint FAUCON(サンフォコン)」。2012年に渋谷区西原に開店し、2018年に代々木上原へ移転した。

 

野ウサギやハトは、フランスのご馳走

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オーナーシェフの千葉貴大さん。大のL’Arc-en-Cielファンとのことで、コース料理も「ラルク」「アン」「シエル」の3コースがある。今回の取材では「シエル」コース(全8品、9999円)からの3品を撮影。

——千葉さんがフレンチの道に進んだきっかけを教えてください。

千葉:もともとは、ゲームを作る人になりたかったんです。だから工業高校に進んでコンピュータを学んだのですが、やっぱりゲームは作るよりも遊ぶほうが楽しいような気がしたんですよね(笑)。その後、将来は手に職をつけられる美容師か料理人になりたいなと思ったんです。それで、まずは料理をやってみよう、ダメなら美容師になろう、と。

——面白い発想ですね。

千葉:ぼくは青森の八戸出身で港町の生まれなんですが、両親の好みなのか、小さい頃から食卓に出てくるのが肉料理ばかりで(笑)。和食や魚はほとんど食べない家庭で育ったんです。だから料理といっても、和食は選択肢になかったんですね。

青森から東京に出て来て入ったのが、フレンチの店でした。ランチにパスタ料理を出すような店だったので、フレンチもイタリアンも勉強できて一石二鳥だなと。3年ほど続けてから、イタリア料理をやりたくなったので休みをもらってイタリア旅行にも行き、そこから2年ぐらいイタリアンに転向しました。だけどやっぱりフレンチが面白いなと思うようになって…。

——最終的にフレンチに戻ってきた、と。

千葉:はい(笑)。自分のお店を出す前に、一度は現地を見てきたいなと思って、30歳のときにフランスに行くことにしました。最初に入ったのがブルゴーニュ地方ボーヌの「ル・ジャルダン・デ・ランパール」という、ジビエなどの高級料理を出す一ツ星レストランでした。


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クマパイ:粗挽きのジューシーなツキノワグマ肉とフォワグラをパイ生地で包んで焼いた「クマパイ」。付け合わせはジャガイモのピューレ。ソースはクマの骨から取った出汁にカシスやサングリア、黒胡椒などを加えたもの。

——それがジビエ料理との出会いだったのでしょうか。

千葉:そうですね。猟師さんがスーパーのビニール袋に入れた野ウサギを持って店の裏口から入って来たり、キッチンに並んだハトの首をハサミで切るところからやらされたり。毎日当たり前のように動物の皮をはいだり、解体をしていました。「これがフランスか!」と思いましたね。

——抵抗はありませんでしたか?

千葉:ありましたよ。動物園のような臭いもしますし、慣れるまでは大変でした。店の冷蔵庫の中にも豚が丸々1頭吊るしてあって、すべての部位を使ったひと皿を作ったりもしました。でも、初めは衝撃的だったんですけど、ここの店ですっかり感覚が変わりましたね。

——フランスに渡って得た、一番のものは何でしたか?

千葉:食文化の違いですね。「日本では変でも、フランスでは当たり前」なものがあるんだなと。魚屋さんにはカエルが並んでいるし、スーパーや街角のマルシェには毛のついた野ウサギやハトが高級食材として売られています。フランスでは、いいことがあった日なんかに、野ウサギやハトを買って、家庭で皮をはいで食べることもあるんですよ。

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——ご馳走というわけですね。フランスのレストランでは大抵ジビエ料理が出てくるのでしょうか?

千葉:ジビエは昔の貴族が食べていた高級料理なので、ミシュランの星を持つようなレストランでは出てくることが多いです。特に秋から冬は当たり前のようにメニューに入ってきますね。その次に入ったロワール地方サンセールの「ラ・トゥール」という一ツ星レストランでも、ハトやウズラ料理をよく出していました。

——日本に戻ってご自身の店を出すときにも、ジビエ料理をやりたいと思ったのはなぜですか?

千葉:フランスに行く前は、ワイワイみんなで飲めるような、ビストロ系の店にしたいと考えていたんです。でも、そんなこんなですっかり感覚が変わってしまっていたので…。高級食材を扱ってジビエ料理を出すレストランが、まさかこんなにも周りから「変態」と言われるとは思わなかったんです(笑)。


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キジのクネル:熟成させたコウライキジのモモ肉のクネル(フランス・リヨンの郷土料理)に、胸肉のローストとキノコを合わせたひと皿。コウライキジの骨からブイヨンを取って作ったクリームソースが添えられている。

——フランスでは当たり前だったから、千葉さんの中でもジビエはごく普通のものになっていた、と。

千葉:はい。フレンチのレストランですから、季節の料理として普通に出すものだと思っていました。それで、この店をオープンして1年目のクリスマスに、コース料理のメインとしてモリバトを出したんですよ。そうしたら、お客さんにものすごく引かれました(笑)。牛肉ステーキとかが出てくるだろうと想像していたところに、毛つきのハトが出てきたわけですからね。

——それはびっくりしますね。その後、どうされたんですか?

千葉:それでも、ジビエはやりたかったので、やめませんでした(笑)。毎年の秋冬にジビエを出して、その他の季節は内蔵系ばっかり使っていましたね。そうしたら、だんだんお客さんたちもいろんな珍しいものを食べたがってくださるようになって…。ワニが食べたいんだけど、なんてリクエストも来るようになりました。

 

クジャクに魅せられて…

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——ジビエ料理を出すお店は他にあっても、クジャクを食べられるところはほとんどないと思うのですが、千葉さんがクジャクを扱うようになったきっかけは、何だったのですか?

千葉:クジャクは扱い始めてまだ1年ぐらいです。そもそも、食べられると思わないじゃないですか、クジャクを(笑)。

最初はネット上の記事で読んだんです。沖縄でいまクジャクの大量発生が問題になっているらしいと。その対策もあって、あるホテルでクジャクを食肉として食べてみようという企画があったようで…それが意外とおいしかったと書いてあったんです。気になって、さっそく沖縄に電話したんです。「クジャク欲しいんですけど」って。

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——沖縄の方も驚かれたでしょうね。

千葉:2人だけ駆除の免許を持っているハンターさんがいたので繋いでもらったのですが、最初は「誰だ、お前は?」みたいな感じで、あやしまれましたね(笑)。電話では埒が明かなくて、沖縄まで会いに行きました。店で作ったジビエのパテを真空パックして持っていって、「ぼくが作りました。食べてください!」と渡したんです。その日は結局、仕入れの許可をいただけなかったんですが、翌日に「…で、どういう感じで仕入れたいの?」と言ってくださって。

——パテを食べてくださったんですね。それで気持ちが変わって…。

千葉:はい。なんとか、仕入れられることになりました。いまはそのハンターさんからクジャクだけでなく、キジバト、コウライキジ、カルガモも仕入れさせてもらっています。

——クジャクは、どんな状態で届くのですか?

千葉:解体する前の、羽が着いた状態です。空気銃で打っているので弾は入っていません。そのままだとあまりおいしくないので、1ヶ月ほど冷蔵庫内で寝かせます。羽がついたままなら劣化しにくいですし、寝かせることで香りが増します。牛の熟成肉というのがありますが、それと同じです。よかったら、見てみますか?


おいしんぐ!編集部

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——確かに、かすかに香りがありますが、臭みはまったくありませんね。クジャクの味は、どういった特徴があるのですか?

千葉:味でいうと、ツメドリのような感じです。ツメドリというのは、すでに卵を何個も生んできて、年を取って硬くなった鶏です。パサパサとして硬いのでそのまま焼いたりして食べるのには向かないけれど、旨味があって出汁が出るので、ブイヨン用に使われたりするんです。クジャクについては、どうしたらもっとおいしく調理できるかを、いまも研究中です。

——硬い肉をいかにおいしく提供するか、料理人の腕が問われるわけですね。

千葉:そんなに硬いんだったら他の鳥を扱えばいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、ぼくはコース料理の中にクジャクをどうしても入れたいんです。だって、クジャクはカッコいいじゃないですか!

——「カッコいいから」が理由ですか?

千葉:鳳凰みたいでカッコいいところが、大好きなんです。昔から鳥が好きで、多摩動物園にもよく見に行っていたんです。多摩動物園って、動物園の中でも鳥の種類が多くておすすめなんですよ。ちなみに、ポケモンでもファイヤーとかサンダーとか、鳥ポケモンが好きなんですよね(笑)。

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——そ、そうなんですか…。

千葉:見るのも好きなんですけど、料理でもやっぱり鳥が好きですね。鹿と猪のジビエだと部位でしか調理できないけれど、鳥だったら1羽を仕入れれば、モモ肉、胸肉、頭、脳みそ、内蔵まで全部ついているから調理が楽しいし、ひと皿でいろいろな味わい方ができるので。

——見るのも料理するのも好きとは、なかなかの変態…いえ、偏愛ですね。だからこそインターネットで、沖縄のクジャクの記事を見つけられたのだと思います。他にはどんな鳥料理を出しているんですか?

千葉:キジバト、ヒヨドリ、ウズラ、コウライキジ、カルガモ、カラスなどですね。

——カラスも!?

千葉:長野県の森の中で獲れたカラスです。動物の仕入れは規制が厳しいので、業者さんを通してお願いしているのですが、以前、タヌキをお願いしていたら「カラスが獲れたんだけど、どう?」って送ってくださって。なかなかおいしいんですよ。でも、身近にもいる鳥ですし、もちろん苦手だったり、初めてのお客さまにはお出ししませんので、安心してくださいね。

 

ジビエのイメージを変えたい

おいしんぐ!編集部

——千葉さんはお客さんに料理を出す前に、ジビエがどの程度大丈夫かということや、香りについての好みも必ず確認されていますよね。

千葉:レバーも苦手で、ジビエも苦手と言われてしまうと、うちでは出すものがなくなっちゃうので。牛肉といってもハチノスだったり、魚だったら白子とかしかないときもあるんですよ(笑)。

また、ジビエでも臭ければ臭いほどいいという人や、ほどよい香りが好きな人など、香りの好みについては人それぞれなんです。なので、初めてのお客さまにはお聞きしていますね。

——香りというのは、ジビエにおいて重要な要素なのでしょうか?

千葉:ジビエを一度も食べたことがないまま「臭い」「硬い」っていうイメージだけを持っている人も多いと思うんです。だからこそ、香りを大事にしたいんですね。食材が届いたらまずは香りを確認して、寝かせながら状態を見極めていくことを大切にしています。

それから、香りはできるだけ殺したくないなと思っています。臭み消しもしません。臭み消しをするぐらいだったら、その素材自体を使わないほうがいいと思っています。

——では、もともと動物や鳥がもっている香りをできるだけいい状態で引き出し、それを活かすように味付けをしている、ということでしょうか。

千葉:それができればベストですね。養殖で育った豚肉や鶏肉などと違って、ジビエは個体ごとに状態が違うものなので、毎回ベストの状態で香りが引き出せるかどうかは、かなり難しいんですよ。

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クジャクバーガー:内蔵を練り込んだクジャク肉ハンバーグをチーズリゾットで挟んだクジャクバーガー。千葉さんのクジャク愛があふれる手作りプレートに盛りつけられている。クジャク肉独特の香りを存分に楽しみたい。

——今回食べる肉と次回食べる肉では、味が違うということですね。

千葉:同じ日に同じ場所で獲れた2頭でも違います。「イノシシ肉は硬くて食べられない」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、そもそも、それがどこで育ったイノシシで、何歳ぐらいで、どういう状態で調理された肉を食べたのかによって硬さも味も違うはずなんですよ。ワインと同じですよね。年によって収穫されるブドウの味も違うし、同じブドウでも作り手によってさらに味が変わります。工場の機械で作っているものではないので。

——なるほど、わかりやすいです。

千葉:本当に毎回、味が違う。でも、それが面白いんです。違いを個性ととらえて、もっとジビエを楽しんでもらえればいいなと思っています。

——先日お店にお伺いした際、鹿について千葉さんが面白い表現をされていたのが印象的でした。「血が硬い」「シャキシャキとした歯ごたえがあり、サクッとした食感の肉」と。

千葉:日本だと変わった表現に思われるかもしれませんが、フランスでは普通の会話です。鹿肉とひと言で言っても、個体によってとろける鹿肉や、噛み切れない鹿肉などがあるんです。日本の肉の表現って「やわらかい」や「甘い」しかなくて、結局やわらかい赤身を焼いて食べるのが一番とされています。たしかにそれはそうですが、もっと「やわらかい」以外のおいしさがあってもいいはずなんです。

日本ではトマトやイチゴも「甘さ」を重要視し、生で食べたときに甘いものが素晴らしく、酸っぱいものはダメとされていますよね。フランスは酸っぱいリンゴもありますよ。だからこそ、料理人が加工するんです。


ワインはシャンパーニュ、ブルゴーニュ、ロワール、ローヌなどフランス産を中心にそろえている。 おいしんぐ!編集部

——肉の味わい方ひとつにしても、「やわらかい」以上の深い世界に入っていける…それがジビエの魅力なんですね。

千葉:ジビエのイメージって、一度食べたときの経験だけで決めてしまう人が多いんです。硬かったとか、臭かったとか。だからぼくの店では、できるだけ食べやすくすることで、ジビエの間口を広げたいなと思っています。「ジビエ=おいしい」と思ってもらいたい。そして最終的にはみんなにクジャクを食べてもらいたいです(笑)。

——バーガーというかたちで出すというのも、千葉さんのアイディアですよね。クジャクがハンバーガーになったり、クマがパイになったりすることで、ジビエとの距離を近く感じられる気がします。

千葉:バーガーだったら誰もが食べ慣れていますからね。クジャクの羽も、こうしてガラスの中に入れてあるときれいだなと思ってもらえますし。クマパイも見た目をかわいくすることで、楽しく食べてもらえたらいいなと。そうやって少しでも親近感をもってもらえたらいいですね。

 

では、最後に…。
千葉さんにとって、 「おいしい」とは何でしょうか―—?

千葉:おいしいとは…? 当たり前だからこそ難しいですね(笑)。…やっぱり、おいしいとは、楽しいことであり、幸せになることなんじゃないでしょうか。カウンター越しのお客さんの反応で、それはわかりますね。料理を通してダイレクトにいい反応を感じられたときは嬉しいですから。

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