口福になる天然鮎の素晴らしさ。高津川で育つ鮎の魅力
著者撮影
国土交通省の水質調査で「清流日本一」に複数回選ばれている高津川は、支流を含めダムが一切ないという大変貴重な川。豊かな自然とその恵みを大切に守りながら暮す人々が織りなす素晴らしい環境が残っている。高津川はまさに食の宝庫で、こちらで獲れる「鮎」は人気が高く周辺地域の名産品となっている。
今回はそんな高津川流域ならではの食文化を知るために、タベアルキストによるフードツーリズムを実施した。
水質日本一とも言われる清流「高津川」
著者撮影
高津川は、島根県を流れる全長81kmの一級河川。広島県境の吉賀町から津和野町日原(にちはら)を経て、益田(ますだ)市の日本海に注いでいる。水源は樹齢1,000年を超す巨樹の根元に湧く泉「大蛇ケ池」。勘の良い人は気付かれたかもしれないが、池の名前は日本神話に由来し、素戔男尊(スサノオノミコト)に討たれた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の魂が宿っていると言う伝承がある。神話の国・島根らしいエピソードだ。
著者撮影
また、高津川は国土交通省の水質調査で「清流日本一」に複数回選ばれており、一級河川でありながらダムの無い、日本では珍しい川だ。水質が良い=水が澄んでいる事の恩恵を受け、高津川で獲れる鮎は日本有数の味わいとされており、全国を食べ歩いている食通からの評価も非常に高い。また、河口で獲れる大型の天然本ハマグリ「鴨島蛤」も格別の味わいを持っている。山や木々の恵みをたたえた清流、それが高津川だ。
香り高き「高津川の鮎」
著者撮影
古くから日本人に愛されてきた魚、鮎。鮎は秋に孵化し、川の流れに乗って海へと旅立ち、プランクトンなどを食べて成長した後、3月から4月頃に川へ戻ってくる。そして、川では岩に生える苔を主食として成長する。苔は川の水質や流れによって状態が大きく変化するため、川の水質を如実に表す苔を主食とする鮎は、川によって味わいを大きく変える「川の環境を映す魚」となる。
鮎の魅力として挙げられる「香り」に加えて、「旨味」や「食感(身質)」も川によって大きく異なる。その中で、高津川の鮎は極めて香り高く、それでいて強い旨味も有していると言われている。
著者撮影
ダムがないため、森林から流れ出る清流が保たれ、良質な苔が育つことが、その一因。通な方の中には、高津川でも本流と支流でその味に違いがあり、本流は旨味が強い点が特徴で、支流の匹見川の方は香りがよりさっぱりしているとの評価をする人も。
高津川で育つ鮎の現状に迫る
著者撮影
高津川漁協は漁師さんから鮎を買い取り、漁師さんの代わりに全国に販売。島根県内のみならず関東とも取引しており、築地(の仲卸)は勿論、東京や神奈川の料理店とも直接取り引きしているとのこと。我々が取材に伺った際にも、朝に獲れた鮎たちが全国に発送しているところだった。
著者撮影
高津川の鮎は6月上旬に解禁され、10月中には禁漁にしているとのこと。子持ちの鮎、いわゆる「落ち鮎」は資源保護の観点によりあまり獲られることがないそうだ。しかし、残念なことに漁獲量は年々下がっており、組合の取扱量として、10年前は15トンあったところ、平成22年頃から7〜8トンに下がり、平成25年の水害のあとは約2~3トンまでに減っているそう。
理由としては、鮪のような乱獲ではなく、自然災害による影響が最も大きいそうで、近年の気候変動は頭が痛いところだ。いただける時には、自然の恩恵と漁師さんへの敬意を十分に持ちたいと感じた。
お土産には「うるか」がおすすめ
著者撮影
高津川漁協では鮎の加工食品も作られている。代表的な製品は鮎の肝を用いた「うるか」。道の駅「シルクウェイにちはら」や萩・石見空港で販売されており、こちらのエリアを巡っていると目に触れる機会が多いはず。
著者撮影
旨さの秘訣は時間と手間。フレッシュな天然ものを大量に用い、カメで3年間熟成して作っているそう。熟成による旨味成分の変化を科学的に調べたところ、3年以降にアミノ酸が増加し、5年程で天井に到達し、3年あたりが良いとのことで製品化している。
「うるか」だけでなく「子うるか」も美味しいので、合わせていただくのがおすすめ。界隈では甘露煮はあまり作らず、むしろ一夜干しや鮎鮓などシンプルな料理で食べることが多いのだとか。お正月の雑煮は鮎出汁だと聞き、これもいただいてみたくなった。高津川漁協謹製の食品は、東京の「にほんばし島根館」でも入手できるので、東京にお住まいの方におすすめしたい。
「高津川」の夏の味覚を名店でいただく~美加登家~
著者撮影
高津川で鮎料理と言えば、真っ先に名前が挙がる名店「美加登家」。鮎は高津川本流で獲れたものに絞り、さらに日原から横田あたりまでのエリアに限定して仕入れているそう。高津川の鮎の中でも、厳選されたものをいただける。元々は料理旅館であったため建物は趣深く、ひとたび腰を下ろすと非日常的な雰囲気に満たされる。
著者撮影
女将さん、若女将の接客もきめ細かく、心地良くお料理を楽しめる。鮎シーズンのコース料理は基本的に鮎のみで構成されており、余すところなく鮎を満喫できるのがうれしい。
定番の「鮎の背ごし」や「鮎の塩焼き」は定番の調理であるが故に、高津川の鮎の素晴らしさをダイレクトに伝えてくれる。「鮎の清汁仕立て」や「うるか茄子」など創作的なお料理に鮎の奥深さを再認識し、締めの「鮎めし」では、たっぷりの鮎にお腹も心も満たされた。
鮎づくしのコースを至福のままに食べ終え、わざわざ足を運ぶ価値のある、唯一無二のお店だと感じた。なお、鮎以外のシーズンには天然のスッポンや河豚のコースを供され、ツガニや島根県産の松茸もいただける。
「美加登家」で提供される鮎料理
背ごし
著者撮影
鮎のお造りと言えば、矢張り背ごし。高津川の厳選鮎を用いた背ごしは、高貴とも言える素晴らしい香りを楽しませてくれる。旨味、甘みが幾度となく届き、軽い苦味がキリッと味を引き締める。しかし、余韻から逃れることはできない。一度口に運べば、ひたすら幸福な余韻に包まれる。
塩焼き
著者撮影
鮎の塩焼きは素材の良さのみならず、焼きの技術に味が大きく左右される。料理人の経験とセンスが特にものを言う魚。「美加登家」の塩焼きは完璧とも言える振り塩と焼き方であり、頭から尻尾までリズミカルにいただける。頭はカリッと、皮はパリッと、身はホロホロしっとりに焼き上げている。塩焼きのイメージが変わるはずだ。
鮎めし
著者撮影
極上の鮎をたっぷりと楽しませていただいた後、これでもか!と喜びの追い打ちをかけてくれるのが、こちらの鮎めしだ。米粒は一粒一粒に鮎の旨味をまとっており、コースの最後まで香りを楽しませてくれる秀逸な締めもの。鮎は丁寧に骨が取り除かれており、味付けのみならず調理も繊細。
割烹 美加登家
住所 | 島根県鹿足郡津和野町日原221-2 |
---|---|
アクセス | JR山口線 日原駅より徒歩15分 |
電話番号 | 0856-74-0341 |
営業時間 | [昼]11:30~13:00(最終ご入店時間) /[夜]17:00~19:00(最終ご入店時間) |
定休日 | 毎週月曜日、8月14日~16日 |
URL | http://www.sun-net.jp/~mikado-1/ |
日本海と高津川の夏の味覚を名店でいただく~田吾作~
著者撮影
益田にあって知る人ぞ知る名酒場「田吾作」。居酒屋巡りで著名な太田和彦氏をして「日本一の居酒屋」と言わしめた田吾作では、日本海の極上の素材をいただく事ができる。女将さんは20歳の頃にお店を開き、2017年で開店から50年を迎える。なんとイカ専用のタンクを積んだトラックを走らせ自ら仕入れに行き、店内にはイカたちが泳ぐ大きな生け簀が設置されている。イカ一つとってもここまでの熱量を注いでおられるため、他の素材も抜群の美味しさである事は言うまでもない。
著者撮影
訪問するにあたり、先ずこちらのお店で供されているお酒を造っておられる桑原酒場さんを訪問。 桑原酒場さんは、フルーティな香りや甘みを追求したお酒は造っておられず、昨今の流行とは異なる硬派な酒造りをされており、故に魚を引き立てる。田吾作さんでは店舗専用の酒「田吾作」をいただくことができる。
定番の【真イカの刺身】でスタートし、杯を傾け、その他季節の刺身をいただきつつ、夏には【高津川の鮎の塩焼き】や【鴨島蛤の酒蒸し】など、益田が誇る極上素材に舌鼓を打つ。「居酒屋」の枠を超えた独自の魅力があるお店である。
田吾作で提供される魚介料理
真イカの刺身
著者撮影
イカは鮮度が大切な素材で、鮮度によって味わいと食感を大きく変える。イカ専用タンクを備え付けたトラックで仕入れ、店内の大きな生け簀で管理された田吾作のイカ刺しは他店とは一線を画す。全国で考えてもトップクラスのイカ刺しである。
鴨島蛤の酒蒸し
著者撮影
美味しい鮎が育つ清流、高津川が海と合流する地点、それが鴨島。鴨島の蛤は高津川と益田川に挟まれたわずか1.5kmほどの浜で育ちます。7cm未満は獲る事が出来ず、出漁時間や漁獲量が規制されており、サステイナビリティに考慮したブランド蛤。田吾作では極上の蛤をシンプルに調理。蛤本来の旨味が引き出されている。
鮎の塩焼き
著者撮影
居酒屋で高津川の天然モノの鮎を頂けるとは嬉しい。何よりも香りに富み、旨味もしっかりした鮎は夏の喜びを与えてくれる。思わず飲んでいるお酒のペースを落とし、黙々とかぶりついてしまう。
田吾作
住所 | 島根県益田市赤城町10-3 |
---|---|
アクセス | JR山口線 益田駅より徒歩8分 |
電話番号 | 0856-22-3022 |
営業時間 | 12:00~24:00 |
定休日 | 無休(不定休) |
URL | http://tagosaku1966.jp/ |