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南アルプスの伏流水で育てる長野県飯田産の天龍鮎 「匠天龍鮎」棚田健治さん

関東・甲信
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おいしんぐ!編集部

中央アルプスと南アルプスに囲まれた自然豊かな地、長野県飯田。ここで、南アルプスから湧き出る良質な地下水だけを使用し、低水温管理でじっくりと丁寧に鮎を育てている人物がいる。24年前から長野県産の活鮎を養殖する「匠天龍鮎」の棚田健治さんだ。

「匠天龍鮎」が育てているのは、闘争本能が強く良質な鮎。河川釣りのための放流鮎として各河川へ放流しているほか、東京の日本料理店をはじめとした全国各地の料理店への出荷もおこなっている。届いたときの状態のよさと、丁寧な選別によるサイズ、そして味。その質の高さから、多くの料理人たちが大きな信頼を寄せている。

東京から飯田まで車で約4時間。「匠天龍鮎」の養殖場を訪れ、ハイシーズンを迎える鮎の出荷現場を見せていただいた。そこには、広い飼育池の中を元気に泳ぎ飛び跳ねる鮎たちと、1匹1匹に対して愛情をたっぷりと注いで育て、強い責任感をもって全国の調理場へ届ける棚田さんの姿があった。


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24年前にスタートした「匠天竜鮎」。「社名は、隣りを流れている天竜川から取りました。天竜ってインパクトがあって、覚えてもらいやすいかなと」と棚田さん。

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研究に研究を重ねた「匠天龍鮎」

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1968年生まれの棚田さん。現在は従業員2名と奥様、ご両親の6人で全国においしい鮎を届けている。

——棚田さんはなぜ、鮎の養殖を始められたのですか?

棚田:そもそもは40年ぐらい前から、親父が観賞用の金魚や鯉の販売をしていたんです。跡を継ごうと思ったんですけど、僕も若かったし、その当時は一緒にはできないなと(笑)

そんな頃に釣りを始めたんですね。とくに鮎釣りとか川魚が好きでした。僕の釣りの師匠は全国でも有名な釣り師の方なのですが、最初は師匠に勧められたのもあって、軽い気持ちで鮎の養殖も始めたんです。最初は5万匹からのスタートでした。


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最初は5万匹からスタートした養殖も、現在は200万匹に拡大。生簀も3面から30面に広がったという。

——趣味の釣りがスタートだったのですね。

棚田:昔から、鮎の放流事業というのがあるんですよ。川に鮎を放流して、それを釣って楽しむというものです。自分で放流すれば、どこでどのぐらい釣れるかわかるじゃないですか。だからやっているうちに楽しくなってきて(笑)。

師匠には「自分で釣った鮎を放流して、よく見ろ」と言われました。鮎がどのぐらい成長するのかは、河川によって違うんです。僕も鮎が本当に好きだったし、いろんな河川を歩きながら自分が放流した鮎がどんなふうに成長するのかを勉強し始めました。


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——鮎は一生が1年間という魚だそうですが、一年を通して、鮎養殖の流れはどのようになっているのでしょうか?

棚田:まず、1月に水産試験場から種苗として15mmの稚魚を仕入れます。ビニールハウスの中で防疫対策もしながらエサをあたえて育てていきます。3月ぐらいになると体長が7cmほどになるので、稚鮎の天ぷら用などに出荷が始まります。

この頃から、3日に1回は鮎のサイズを選別して、飼育池を移動させます。こうすることでストレスを軽減させ、病気を防ぐんです。広い飼育池で十分な運動をしながら育つ鮎は、闘争本能も芽生え強くなります。

5月を過ぎると15cmほどになり、ここから8月にかけて18cm、20cmと大きく育っていきます。各料理店からの希望サイズと量にあわせて、毎日出荷をおこないます。9月~10月は産卵期前の雌鮎を「子持ち鮎」として出荷します。10月半ばにすべてが終わり、翌年1月までは生簀を空にして掃除をします。そんな流れですね。


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エサを撒くとピチピチと飛び跳ねながら泳ぐ鮎たち。粋がよく元気な様子が伝わってくる。

——年間を通してお忙しいですね。棚田さんの鮎は、どんな特徴があるのでしょうか?

棚田:放流用に育てたうちの鮎は天然に近く、姿形がいいのと、闘争本能が強いのでよく釣れる、と言っていただいています。いまは長野県内だけでなく、京都や栃木、新潟や山形にもトラックに乗せて放流に行っています。

 

日本料理の名店が最初に声をかけてくれた

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——「匠天龍鮎」の鮎は放流事業だけでなく、日本料理店やレストランへの出荷でも評判が高いと聞いています。

棚田:養殖を始めた当初は仕事がなくて、いろんな仲買人や料理人のところへ行ってはうちの鮎を売り込みました。問い合わせの電話が1本でも来たら、即持っていって「使ってくれ!」と。とにかく行動することを心がけていましたね。

あるとき、長野の養殖組合の営業の人のところへ挨拶に行ったんです。そこは信州サーモンなどを扱っているところで「鮎についてはわからない、ルートがない」と言われました。「誰か鮎がほしい人がいたら紹介してほしい」と伝えて帰ったのですが、1年後に電話がきまして。「東京のあるお店で鮎を使いたいらしい」と。

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——ミシュランガイド東京で10年連続三ツ星として掲載されているお店ですね。

棚田:うちは始めたばかりで料理店とのお付き合いもありませんから、どんな鮎が求められているのかもわかりませんでした。とにかく何度か送ったところ、すごく気に入ってもらえたみたいで、それから毎日注文が来るようになりました。

——最初からトップクラスのお店との出会いがあったのですね。

棚田:当時、おそらく全国各地から鮎を集めて、素材を吟味されていたんじゃないかなと。


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1匹1匹品質とサイズを確認し選別した鮎を、水、酸素とともに袋詰めして発送。北海道から沖縄まで全国各地から入る注文に、息のあったチームワークでスピーディに対応していく。

——その中で棚田さんの鮎を気に入ってくれたというのは、よほど質が高かったのでしょうね。

棚田:詳しいことはわかりませんが……。とにかくそこからは5mm単位のサイズ指定が来ました。もちろん、必ず生きている鮎を届けること。輸送の途中で死んでしまったらもう商品じゃない、と。

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18cmの鮎を選別していく棚田さん。手に持った一瞬で何センチなのか、ほぼ正確なサイズがわかるのだそう。

——同じサイズの新鮮な鮎を毎日届けるというのは、かなり難しいのではないですか?

棚田:1匹1匹を厳しくサイズチェックしないとだめですね。エサをやれば大きくなってしまうので、大きすぎるものはよける。サイズが満たないものも避けて、もう少し大きくなるのを待つ。

もちろん個体差もありますし、生きている状態でサイズを見ながら選別しながら、なかなか大変ですよ。それが5mmでもずれていると、お店の2番弟子の方から電話がくるんです。あまりにも大変なので、3年ぐらい続けたある日、「そんなに言うなら、どんなに大変か一度見にきてくれ!」と……。それで本当に見に来てくれて、こんなに大変なのかと納得してくれました。


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——そんなことがあったのですね。始めた当初から、いまのような規模での成功は想像できていなかったですよね?

棚田:ええ、まったく。偶然が重なったのでしょうし、その時々の運がいいのかもしれません。最初にこのようなお店に仕入れてもらえなかったらここまで拡大していないでしょうし、声がかかったときにいい鮎ができていなかったら、そもそも仕入れてももらえなかったわけですから。

当初は「有名店から注文がきたって、きっと1年ももたないよ」なんて周りから言われたこともあったんです。それに腹が立って「だったらやってやる!」と逆に気合が入りましたね(笑)。絶対に毎年続けて、拡大してやるぞって。

 

低温の地下水で、引き締まった鮎を育てる

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——長野県で鮎の養殖をしているところは多いのでしょうか?

棚田:少ないですよ。3~4軒だと思います。飯田市ではうちだけです。愛知や琵琶湖など、西に行くと水温が高くなるから育てやすいんですが、この辺りは水温が冷たいんですよ。うちは雪解けのアルプスの伏流水を地下水として組み上げて使っています。


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——鮎の養殖というと、もっと山奥の上流のほうで育てているのかなと思ったのですが、街の中でこんなふうにやっていたとは、意外でした。

棚田:よく言われます。渓流だと山の中というイメージですよね。ここは親父が金魚や鯉の事業をやっていた場所なんです。そこを埋めて鮎の生簀にしました。最初はどうしても失敗しますから、これまでずいぶん授業料を払ってきましたよ(苦笑)。

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——すぐそばに天竜川がありますが、その川の水を使わずに地下水を使っているのはなぜですか?

棚田:川の水では病気にかかりやすかったり、汚染された水が流れてくる可能性もあるので、その対策ですね。たまたまきれいな地下水があったというのも大きいです。

——最初はその地下水が鮎の養殖に合うかどうかは……?

棚田:わかりませんでしたね。たまたまというか、賭けですね。でも、やってみたらよかった。他県の養殖場と比べると水温が2~3度低いですし、そのぶん育てにくさはあります。でも、メタボにならず引き締まった、丈夫な鮎に育つんです。うちではさらに水車を回したりして、運動させています。

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——養殖の仕事をする上での難しさはどんなところにありますか?

棚田:生き物なので、目に見えない、どこから入るかわからない病気が怖いですね。空気感染みたいなものもあるし、原因がつかめないときもあります。最初の頃は設備が整っていなく、生簀に雷が落ちて水車が止まり、全滅してしまったこともありました。

——今後はどんな展開をお考えですか?

棚田:鮎のつかみ取りや、鮎専門の料理屋さんをやってみたいなという夢があるんですよ。自分でつかみ取りした鮎をすぐ隣りの店へ持っていって調理してもらう。そんなことができたらいいなと。それから、徐々に話も進めているんですが、醤油も作ってみたいですね。鮎の醤油は絶対におもしろいと思うので。それからまだまだ考えていることはありますよ。


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養殖場の敷地内には、棚田さんの弟さんが営む料理店「遊月」が。ここで天龍鮎の刺し身や塩焼きなどをいただくことができる。

 

では、最後に…。
棚田さんにとって「おいしい」とは——?

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棚田:「おいしい」と聞いて想像するのは、みんなでわいわい集まって食べている楽しいイメージですね。

それから、今までで一番おいしい鮎を見たと思ったのは先程お話したお店で焼かれた鮎でした。口が開いて、野性味があって、いかつい感じの姿形……その躍動感ある見た目が完璧に「おいしい」でしたね。鮎ってこんなきれいな形で焼けるのかと感動しました。もちろん味も申し分なく素晴らしかったです。

——「おいしい」を見た目という観点で語ってくださる方は珍しいかもしれません。

棚田:あれはぜひ一度見ていただきたいですね。だいたい僕は、生きた鮎を焼いたのか、死んだ鮎を焼いたのかは、見てわかります。焼き上がりが違うんですよ。この間うちの鮎を見に来てくれた料理人さんが話してくれたんですが、鮎をおいしく焼くには1時間かかるのだそうです。炭の前で1時間もずっと立ちっぱなしで焼いていくのは、すごく暑くて大変なんですと言っていました。

あるお店では鮎に塩水を飲ませてから焼くとか、酒を飲ませてから焼くとも聞いたことがあります。つまり、鮎を内臓から変えて調理するんですよね。料理人さんたちの発想はいつもおもしろいなと思っています。僕もいろんなお店に食べにいきたいんですけど、鮎料理がおいしい夏の時期は、こっちも忙しいから休めないんですよ(笑)。

企画・構成/金沢大基 文/古俣千尋 写真/曽我 美芽

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——おいしい体験は、毎日をもっと楽しくする——と信じて。